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流星のコッペリア ~チート嫌いの私と人形使いのご主人様~  作者: 白鰻
第五章 カップラーメン戦争勃発!
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106 天使と悪魔を信仰します


 丑三つ時、これより夜の部がスタートします。

 私はローブを羽織り、お馴染みの星と涙の模様が入った仮面をかぶりました。

 一緒に行動する子供は三人。女神バアルさまとホムンクルスのハンスさんとマルガさんです。

 さてさて、戦いはあまり好きではありませんが、被害を減らすためにも頑張っちゃいますか。まずは、ハイド信者さんたちからの信頼を得なくちゃいけません。


 ツァンカリス卿の屋敷、その屋根に上って街を見渡します。

 かれこれ数時間はこうやって待っていましたが、その甲斐はありました。予測通り、街の一角でゲリラ組織と聖剣隊の戦いが始まり、夜の街を魔法で照らし始めます。

 まったく、近所迷惑なものですよ! 無関係な人が巻き込まれる前に、両陣営の死傷者を減らすために突撃です!


「ハンスさん、マルガさん、行きますよ! 殺しちゃダメですからね!」

「おけおけー!」

「ちょー速りかーい!」


 本当に大丈夫でしょうかね……? ま、いっか。

 それじゃ、さっさと始めますよ!


 屋根から飛び降り、三人の子供を従えてキトロンの街を走ります。

 目的は信者さんたちの救出。私の予測が正しければ、彼らは聖剣隊に対して手も足も出ません。

 そんな彼らをかっこよく救出ってわけです。勿論、それでこの街全ての争いが止まるとは思っていません。あくまでも、これは解決への糸口でした。


「私が囮になります。では、散っ!」

「それ、言いたかっただけじゃろ……」 


 ド派手なローブを翻し、私は信者さんと聖剣隊の戦いに割って入ります。そして、まさに炎魔法の直撃を受けようとしている信者さんを抱きかかえ、華麗に攻撃を回避しました。

 この間は数秒、両方は何が起こったのか分からず口をぽかんとあけます。これでは囮にならないので、無駄な動きで注目を集めましょう。


「じゃじゃーん! 突然の登場です!」

「貴様……姫をさらった流星のコッペリアだな! まさか、悪魔ハイドとグルだったか!」

「私も有名人ですねー。あ、ハイドさんは私のお兄さんですよー」


 くるりと回る私に対し、三人の聖剣隊が剣を構えます。

 はい、これで晴れてゲリラ組織の仲間入りですね。信者の皆さんは私のことを知らず、なぜ助けられたのか分からないという表情でした。

 ではでは、行動で説明しちゃいますか。聖剣隊が私に気を取られてる間、彼らの周りに赤と白の何かが取り囲みます。やがて、それはスライムのように動きだし、騎士たちを纏めて縛り上げました。


「何だこれは……! スライムか!?」

「スライム、ノーノー。あまーいキャンディーイエス」


 マルガさんが飴を操って敵の拘束に成功します。相変わらず、ファンシーな魔法の割にえぐいですね。

 ですが、一人。手練れの騎士が炎魔法を発動し、飴を溶かして抜け出します。彼はこちらに狙いを定め、鋭い刃を振り落としました。

 私の前に立ち、攻撃を受け止めたのはハンスさん。彼は敵の剣を弾くと、チョコレートをハンマーに変えます。そして、それを騎士さんの脳天に叩きつけました。


「がふん……!」

「むー、キルキルしないのも大変ー」


 こうして、幼児二人によって三人の屈強な騎士が敗れます。彼らも弱くはないはずですが、こちらは数時間前から準備し、不意打ちってこともあるので仕方ありません。

 まあ、ともかくダークヒーロー参上です!

 助けたハイド信者さんは二人。その内の一人は双子ちゃんと知り合いらしく、恐れることなくこちらに近づいてきます。


「この子たちは……ハイドさまの手下だったハンスとマルガじゃないか!」

「道具屋のおじちゃん。こんばんわー」

「こんばんはー」


 そうです。この反応です! こうなる事を期待して、ハンスさんとマルガさんを連れてきたんですよ。

 ジルさんはホムンクルスの彼らに取引を任せていました。街の人々が怪人ハイドと繋がる唯一の手段、それがハンスさんとマルガさんだったのです。

 存在するかどうかも分からない悪魔ハイド。それに確信を持たせる証拠がここにあります。さあ、私の言葉で一気に流れを変えますよ!


「信者の皆さん、ハイドさまのためによく戦ってくれました。私は彼を信仰する守り人。ハイドさまは今、ここに居られる少女に宿られています」

「なっ……わしはバア……むぐっ!」


 シャラップ、三流女神! すぐにハンスさんが彼女の口をふさぎます。

 余計なこと言わないでくださいって! こっちは貴方を立てることで、信者さんたちを支配しようとしているんですから!

 ですが、私たちを信用できないのか、もう一人の信者さんが叫びます。


「こんなガキに悪魔が宿ってるだと? そんな事を信じられるか!」

「従属であるホムンクルスの双子がその証拠。ですが、信じられないのならば悪魔の力をお見せします」


 さあ、バアルさまやっちゃってください。神の力を見せる時が来ましたよー。

 褐色の幼女は大きなため息をつき、右手に青い光を集めます。するとそこから雲のようなものが発生し、天へと一気に昇っていきました。

 雲は天空で巨大化し、月を覆い隠してしまいます。今ある光は信者さんたちのランプだけ、そんな暗闇の中にポツポツと雫が降り注ぎました。

 さあ、これにはびっくりですよね。力を失った女神さまでも、これぐらいなら出来ます。


「これは雨だ……」

「まさか……天候を変えるなど魔法でも不可能だぞ……!」

「ご理解いただけましたか? これが、悪魔ハイドさまの力です……」


 実際は豊穣の女神による力なんですけどねー。ま、神も悪魔も似たようなものですよ。

 このデモンストレーションが認められ、私たちはハイド信仰者のアジトへと招待されます。完全に計画通り、順調に事は運んでいました。

 嘘と立ち回りは私の得意分野です。一つ気がかりなのはベリアル卿の動向ですが……今は考えないようにしましょう。

 彼も大臣の身、あちらも積極的に動けないはず。なら、こちらは行動し続けるのみでした。









 祭儀に使っていた街の集会場。そこに信者の皆さんは集まっていました。

 私は新興宗教の教組を真似て、彼らに向かって語り続けます。時間を稼ぐため、問題を先送りするよう誘導しなくてはいけません。

 相手が疑いを持ったら、ご主人間の操作や女神さまの力で特異性を見せつけました。私たちの存在が異常だと分かれば、悪魔が宿られているという話しも現実味を帯びてきますから。

 加えて、こちらは本物のハイドさんが味方に付いています。だからこそ、旧炭鉱に保管されている発明品の在庫が使えました。


「さあ、これこそがハイド様のもたらした発明。カップラーメンです!」

「おお! 悪魔が作りし奇跡の食物。カップラーメン!」

「ありがたや……カップラーメン! カップラーメン!」


 運んできたカップラーメンの在庫を渡すと、一部の信者たちが祈り出します。

 ダメだ。笑っちゃダメだ……

 あの人たちも真剣なんです。純粋な信仰なんです! 絶対に笑っちゃダメ! 怒られるってレベルじゃありませんから!



 まあ、何だかんだで信用を勝ち取ります。ハンスさんとマルガさんが同じ発明品を作り、ハイドの力がここにあると示したのは大きいですね。

 ですが、それによって後戻りも出来なくなりました。ジルさんの発明が失敗したらアウト……いえ、私は彼を信じているので、余計なことは考えちゃダメですね。

 さて、明日も予定があるので睡眠を取りたいところ。私はどさくさに紛れて抜け出すことにしました。


「では、バアルさま。ここは頼みましたよ」

「わ……わしは無力なんじゃぞ! こんなところにおいていく気か!」

「ハンスさんとマルガさんもいますから大丈夫ですって」


 信者の皆さんを纏めるのは神様の得意分野でしょう? ハンスさんとマルガさんは寝てしまいましたし、私もさっさとここを抜け出したいのです。

 どの道、こちらはもう一つやりたいことがあるので、この場にずっといることは出来ません。ご主人様の操作を利用し、信者さんたちの隙を見て走り出します。


「では、悪魔を宿して頑張ってください!」

「むー! 覚えておるのじゃー!」


 超満面の笑みでバアルさまを放置しました。

 だって、元はと言えば彼女のせいだもの。役に立たない成りに責任を取るのは当然ですよねー。

 たぶん、私を生んでしまった母に意地悪をしたかったんだと思います。これで、少ししたモヤモヤも晴れたような気がしました。















 夜が明け、これより朝の部を始めます。

 こちらはトマスさん、ジェイさん、アステリさんに加えてシスターのミテラさんという孤児院メンバー。アステリさんが作った祭服を身に纏い、今度は聖剣隊の足止めに向かいます。


 実はこっちが本命ですね。聖剣隊の皆さんは街の広間にテントを張っていますが、ベリアル卿も共にいる可能性が高いです。

 隊長であるロッセルさんを言いくるめようとも、高確率でその邪魔をしてくるでしょう。屁理屈であちらに分があるのが痛いところですね……

 なので、こっちは卑怯な手で彼を足止めしちゃいます。そう、子供を使うのです!


「トマスさん、相手は聖国の大臣です。世間体を大事にする人なので、子供を蔑にするような真似はしないはずです。みなさんで協力して、彼の参入を止めれませんか?」

「おう、やれるだけの事はやる。必ず成功させてやるぜ!」


 まったく、心強いものですよ。彼とつなげた絆が、強大な存在を止めるキーとなります。

 人気のない街を歩き、中央広場へと到着しました。危険なハイド信者と対するより、よっぽど心臓がバクバクして仕方ねーです。

 ベリアル卿はこの街を救う上でのラスボス。絶対に超えなくてはならない最後の敵でしょう。

 よし、覚悟を決めました。ミテラさんはテントの前に立ち、聖剣隊の皆さんを呼びます。


「シスターのミテラ・トラゴスと申します。悪魔ハイドをはらうため、お祈りに訪れました」

「ん? 教会の者か……ロッセル隊長! 如何なされますか!」


 まあ、絶対に追い返すことはないでしょう。聖職者を蔑にすれば、聖剣隊の品位に関わりますから。

 やがて、生真面目なロッセルさんは自ら姿を見せます。彼は大きな図体をかがめ、窮屈そうにテントから体を出しました。

 近くで見るとやっぱりでかいですね。妥協がなく、テント待機の時もフル装備でした。

 隊長は自慢の髭をピンと弾き、大きな口ではきはきと喋り始めます。図体と同じように、声も物凄くでけーですね……


「テント内は男だけで雑魚寝している故! 子供や女性を入れるわけにはいかない! 申し訳ないが、祈りならば外部にて行ってもらう!」

「分かりました。騎士団の皆さんに加護あれ……」


 やっぱり、ロッセル隊長は頭が固いだけで、こちらが理を持って接すれば応えてくれます。あくまでも、彼にとって重要なのは王からの命令であり、それに触れなければ大事な国民なんですから。

 そして、何より大きいのはベリアル卿が不在ということ! これは上手いこと言いくるめられそうですね。

 私の目的は聖剣隊の本拠地を教会に移すこと。これにより、彼らを監視しつつ悪魔狩りを遅らせることが出来ます。

 計画は現実的に……


「おや、テトラさんではありませんか。今回は道化師ではなく、シスター姿なのですね」


 ほら、ね。来るんですよベリアル卿は……

 はあー! これにはくそでかため息です。


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