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流星のコッペリア ~チート嫌いの私と人形使いのご主人様~  作者: 白鰻
第五章 カップラーメン戦争勃発!
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101 メラメラ燃えてきました!


 神様のガーデン、森聖域の間。

 再びそこに呼ばれた私は、ロバートさんと反省会を行いました。

 いえ、途中までは順調だったんですよ。ちゃーんとジルさんと分かり合えたと思いますし……

 そこから先を考えていなかったのが原因です。それに、ベリアル卿が現れてしまったのも痛かったですね。

 ロバートさんは親身な態度で接し、悔しそうな顔をします。


「残念、惜しかったんだけどな……ちょっと相手が悪かったね」


 そう、相手が悪かったんです。何なんですかあの人は!

 完っ全な黒ですよ! あえて世界を掻き回すように動いているとしか思えません!


「ベリアル卿……この国を戦乱に陥れているのはベリアル卿なんですか!? あれは聖国のことを思っての行動なんかじゃありません! 悪意です……人々を陥れるという明確な悪意を感じました! それは気のせいなんでしょうか!?」

「……テトラ、来るところまで来たね。悪いけど、ボクの口からは言えないよ」


 貴方の口から聞かずとも、この胸騒ぎは本物です。

 ぞわぞわとする恐怖の感情……初めて会っときから、ベリアル卿からは正体不明の悪意を感じました。

 彼は私と同類です。人を愛し、世界を愛し、そして混沌を愛しています。ですが、それによって齎されるものが崩壊や悲しみであっても気に留めません。

 そこが、私とベリアル卿の明確な違い。そう、判断しました。


「何か、分かるんですよ……彼をどうにかしなければ私の望むものは手に入らない……ですが、私の異世界無双は遅くて! 立ち止まってばかりで! これじゃとても……」


 もし、街の混沌が意図的に引き起こされたものなら、私は彼に完全敗北したことになります。

 ま……まあ、準備の段階でフェアじゃありませんでしたし、真意もいまいち掴めていませんでした。それにしても、立場や場数を考えればとても太刀打ちできる相手ではありません。

 ですが、ロバートさんの笑顔は眩しいままです。この人は呆れるほどに純粋で、不の感情なんて持ち合わせていないのでしょう。


「良いじゃないか遅くても。たぶん、キミは立ち止まる天才なんだ。迷わず全力で突き進む、迷って本質を見定める。どっちも違って、どっちもステキだとボクは思うな」


 うーん、気持ち悪い。でも、元気が出てきます。

 そうですよね。遅いなら遅いなりのやり方で進めばいいんです。事実、私はこのスタイルで異世界の闇に気づきました。

 迷わず全力で突き進むような人は、ベリアル卿にたどり着けなかったでしょう。そりゃそうですよね。そういう人は目前の悪人、欲望持つ人を敵視し、さらに裏を知ろうとはしません。

 私は違う……陰謀を疑います! 相手の事情を考えます! だから、たどり着いた!


 だから、救える人がいる!


「ロバートさん、前に問われた難題。今なら答えることが出来ます」


 私は決めポーズのように人差し指を立て、自分なりの答えを語りました。


「蝶々は助けます。お腹が空いてる蜘蛛も助けます。蜘蛛がまた蝶々を襲ったら蝶々を助けます。蜘蛛のお腹が空いたらまた蜘蛛を助けます! その内に、全てを解決する答えが見つかりますよ!」

「アハハ! それって凄く非効率だよね。キミが疲れちゃうよ?」

「私が疲れて何とかなるなら、安いものです!」


 非効率で結構! まあ、肝心な答えは先送りですけどね。後にも先にも問題には直面するんだから同じですよ!

 ロバートさんはそんな私に対して拍手します。いえ、拍手されるような事はしていませんけどね。ただ、これからも偽善全開で行こうってだけですから。

 どうやら、私は彼にとっての正解を選んだようです。ではでは、天使さまの祝福をありがたく受け入れましょうか。


「うん、キミは上手くできてるよ。大丈夫! 大丈夫! 自分を信じてレッツゴーだよ! テトラ!」

「ありがとうございます!」


 パチーン! とハイタッチ! 二人で両掌を打ち付けます。

 結局、この人がどういう人なのかは分かりませんでしたが、さらに絆が強まったように感じました。

 さーて、そろそろ元の世界に戻りましょう。こんな精神世界でぐずぐずしてはいられません!


 街は守る! ジルさんも守る! ベリアル卿の真意を探る!

 全部頑張らなきゃいけないのが転生者の辛いところ。


 さあ、更なる戦いが幕を開けますよ!










 目覚めて最初に見えたのは、どこかで見た事のある天井。宿屋よりも豪華な作りで、おしゃれな模様なんかも施されています。

 ああ、ここはツァンカリス卿の屋敷ですね。客室の天井ですよ。はい。

 うーん、よく寝ました。やっぱりベッド上は落ち着きます。久々にものすごーく寝たような気がしますよー。


 って……あれ……?


「え……? はい……?」

「おはようテトラちゃん。前よりお眠の時間が減ったみたいね」


 付き添っていたのは狼少女のメイジーさん。彼女は呆れた様子で、お水と簡単な食事を用意します。

 前にもこんなこと、ありましたよね……とりあえず冷静になり、確認を取ります。


「えーっと……私、またぶっ倒れました……?」

「倒れたわ」

「どれぐらい眠っていましたか……?」

「二日よ」


 全部終わってるー! そうでした! 『流星のコッペリア』を使ったんでした二回も!

 それに加え、ベリアル卿の悪意を感じて気が動転してしまって……ああー! そこでぶっ倒れたんですか! だから、再び精神世界に……

 しかも、筋肉痛は治ってない! 体が痛くて動かせません。これじゃろくな行動が出来ませんよ……

 いえいえ、それは良しとしましょう。二日ですよ二日! その二日でどうなってしまったのでしょうか。


「じ……ジルさんは!」

「大丈夫よ。モーノさまが回収してきっちり匿っている。ただ……ね……」


 とりあえず、一つ目の問題は解決済み。あの後、聖剣隊とハイド信者の交戦が始まり、どさくさに紛れてジルさんを拉致したみたいです。

 ですが、まだまだ問題だらけでした。信者たちはゲリラ組織と化し、街のどこかに潜伏中。粛清されるどころか、その規模はどんどん大きくなっているらしいです。


 つまり、キトロンの街は内戦の真っただ中。いつ、火の手が上がってもおかしくはありません。

 それらに加え、ジルさんの方にも問題が残っていました。









 教会の一室、ジルさんとミテラさんの部屋。

 白を基調としたシンプルな内装で、至る所に聖剣コールブラントのレプリカが飾られています。また、ジルさんが使っていた錬金道具や制作物が散乱していました。

 どうやら、かなり荒れていた様子。モーノさんは床に伏せる少女のような少年を見つめます。彼は私が入っていたことにも気づかず、不のオーラを放出し続けました。


「僕のせいだ……僕のせいで街が……僕のせいでみんなが……僕はチートがなくてはなにも出来ないんだ……転生者は不正をしなければ何も出来ないんだ……だけどモーノくんはチートを捨てた……それでもハイドに勝てた……分からない……理解できないよ……この定理はおかしいんだ……」

「ジルに期待してたのなら残念だったな。この通り、まったくもって使い物にならない。頭の良い奴ってのは面倒なものだな……」


 完全にジルさんは病んでました。まあ、元々病んでましたけどね……

 うん、そっとしておこう。なんか、怖いですし……かける言葉も見つかりません。

 これはまあ、彼らしいと言えばらしいです。瞳からダイヤの紋章も消えていて、一応は正気に戻ったのだと分かりますね。

 ジルさんも転生者ですし、自身が向き合うべき問題なのかもしれません。後で励ますとしても、これは一応の解決という事で良いでしょう。


 さてさて、ベリアル卿の調査は先送りで良いとして、次は街の混乱ですか。

 ここが街外れという事もありますが、今のところ外は静かです。筋肉痛も収まってきましたし、ちょっと出歩いてみましょうかね。

 そう思って動き出した時、モーノさんに止められてしまいます。


「外には出ない方が良い。ハイドの狂信者がゲリラ部隊となって街に潜伏している。どうやら、奴らは本気で悪魔ハイドが別にいると思っているらしい。お前の嘘が本当になったんだよ」

「う……私のせいですか……」

「いや、惜しかったよ。ベリアルの奴が邪魔をしなければな……」


 それはロバートさんに言われましたって……分かっていますよ。私がベリアル卿に負けたせいでしょー。

 本気で勝ちに行くというのなら、まだまだこちらの影響力が足りません。なにせ、相手は聖国の大臣様、おまけに頭脳明晰と来ているんですから。

 こればっかりは、モーノさんの力ではどうしようもありませんよね。相手は正当な方法で場を動かし、混乱に陥れたという証拠も残していません。以前として、ベリアル卿は善人のままです。

 まあ、尻尾は出しませんよね……いまだに真実も分かりませんし……


「はあ……礼拝堂に行きます。子供たちと戯れて現実逃避です」

「そうしてくれ、筋肉痛のお前じゃネビロスも操作できないしな」


 う……そうですね。当分は派手な行動が出来ません。

 あ、そういえばご主人様がいませんね。そうそう、確保したバアルさまもいませんよ。まったく、神や悪魔は自由奔放で困ります!

 まあ、今は構ってられねーですよ。これでも、早く街を平和にしたいって焦っていますから。








 礼拝堂、いつもは子供たちが戯れていますが今日はとても静かです。それもそのはず、彼らは教会の外から警戒した様子で見つめていたのですから。

 トマスさん、ジェイさん、アステリさん、彼らの視界の先には一人の青年がいます。彼は礼拝堂を占拠し、聖剣コールブラントに向かって祈りを捧げていました。

 マスケット帽子を外し、微動だにしない彼。それは、あまりにも意外な人物でした。


「シャルルさん……なぜ貴方がここに……」

「ここは教会だろう? 祈ってはいけないのかな?」

「いえいえ!」


 聖剣隊のイケメンエース、シャルル・ヘモナスさん。そんな彼に正論を返されてしまいます。

 この人、うるさい子供たちを追い出したのか……滅茶苦茶するなあ……

 どうやら、熱心な聖アウトリウス教徒のようです。女顔ですが、まるで天使のような美貌を持っていますね。ベリアル卿にも負けていません。

 ですが、性格は辛辣。彼は威圧するような態度でこちらと接します。


「祈りなよ。なにをしに来たんだい」

「は……はい……!」


 怒られてしまったので、隣に座って祈りましょう。ふう……色々あったのでこれはこれで落ち着きますね。

 シャルルさんは片目を開き、横目で私を見ます。そして、不機嫌な様子でぶつぶつと小言を言い始めました。


「詰めが甘いね。全体を見ていないからこうなる。少なくとも、ベリアル卿は君以上に見据えていたよ」

「うう……耳が痛い……」

「まあ、相手が悪かったね。あれは僕から見ても化物だ」


 席を外す彼。再びマスケット帽子をかぶり、腰のサーベルに手を付けます。

 そして帰り際、振り向くことなく私に言いました。


「一応期待はしておく。精々頑張りなよ」


 なんだこいつ……なんだこの上から目線……

 なーんにも知らないくせに、好き放題言ってくれるじゃないですか! これは火が付いちゃいましたよ!

 うん、元気出ました! メラメラ燃えてきました!

 聖剣隊のシャルルさん。どうやら、彼は私にとっての着火剤だったようです。


歳上のお兄ちゃんキャラが好き。

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