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流星のコッペリア ~チート嫌いの私と人形使いのご主人様~  作者: 白鰻
第五章 カップラーメン戦争勃発!
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100 真っ黒い何かがようやく見えました


 カリュオン・ロッセルさん。

 カルポス聖国最強の騎士団、聖剣隊のリーダーを務めるおっさんです。


 仕事をきっちり熟し、自分にも他人にも厳しい頑固者。聖国の思想が絶対正義と疑わず、王の命令は命を懸けて遂行する。ど真面目な石頭さんでした。

 戦闘面でも超優秀。先ほど、戦闘機が放った攻撃に対し、彼は前衛に出て仲間の盾となっています。判断力が高く、装甲もくっそ硬いんですから驚きですよ。

 当然、戦場でも功績を立てています。まるで機械仕掛けのように敵を叩き潰していくその様。

 嫌悪、尊敬、相反する二つの意味を込めて彼はこう呼ばれます。


 くるみ割り人形と……


「我らが聖国の姫君、その護衛であるモーノ・バストニ! 深淵のダンジョンからハイドを引きずり出しただけではなく、地上での戦いでも勝利を収めるとは見事となり! その素晴らしい働きに敬意を払おう!」


 自分より遥かに若いモーノさんに対し、ロッセルさんは深々と頭を下げました。

 典型的など真面目人間の反応です。声もでかいですし、これはどんどん話しが拗れていきそうですね……

 地に伏せるジルさんを聖剣際の皆さんが取り囲み、やがてその確保に成功します。止めるとなれば、私たちも聖国の外敵と判断されるでしょう。

 現状、私たちは聖国側。少なくとも、ロッセルさんはそう認識しているようです。


「貴殿の働きは王と姫君に報告いたす! 両方ともお喜びになるはずだ!」

「あ……ありがとうございます……」


 渋々返答するモーノさん。やめて! 話しを大きくしないで!

 ロッセルさん、明らかに善意でやろうとしてるのが性質が悪いです。今のモーノさんに名誉なんて必要ないんですって! それよりジルさんをこっちに渡してください!

 これは私が動くしかありませんね。モーノさんの回復魔法で痛みは消えましたし、積極的に突っ込んでいきましょう。


「お待ちくださいロッセルさま! 私は王女の宮廷道化師を務めさせて頂いたテトラ・ゾケルと申します。怪人ハイドの連行について、物言いがございます!」


 両腕を広げ、この場を去ろうとする聖剣隊の皆さんに立ち塞がります。

 なにも、悪い事をするわけではありません。あくまでも論理的に、穏便に物事を解決させるだけです。理屈さえ通っていれば、首をはねられることはありません!

 さって、とっさの出まかせですが使っていきますか。矛盾を指摘されないように用心しましょう。


「怪人ハイド、彼は悪魔信仰者ではありません……悪魔に執りつかれていた被害者です!」

「なんだと……!?」


 オカルトにはオカルトに対抗です。

 ただの大嘘ではありませんよ。きっちり筋は通しているつもりです。


「私はモーノさまに同行し、怪人ハイドの調査を進めてまいりました。結果、彼は教会で務めるジル・カロルという者に執りついた悪魔だと結論付けたのです」

「聞こう! なぜその結論に達した!」

「ジルさまはミリヤ国の生き残り故。魔王ペンタクルと接触した際に、悪魔を宿らされたのだと推察できます。証拠として、悪魔払いに成功した現在のジルさまは一切の力を失っておられます」


 我ながら、よくこれだけの大嘘をひねり出したものですよ。

 魔王を巨悪とする聖国民に、全ての原因が魔王と吹き込めば高確率で信じます。加えて、ジルさんは二重人格。彼の豹変を知る街の人からすれば、悪魔に執りつかれているという発言は信用できるものでしょう。

 また、こちらにはモーノさんが活躍したという事実があります。彼の同意はロッセルさんを納得させるに十分な力を持っていました。


「そうですよねモーノさま」

「あ……ああ……」


 冷や汗を流すモーノさん。「俺に振るなよ!」という彼の心境がよく分かる反応です。

 こういう嘘偽り、屁理屈に巻き込まれたくないんですね。まったく、真っ直ぐで純粋すぎるから世渡りが上手くいかないんですよ。

 私は違います。こちらにとって都合の良い展開へと動かす話術。それを利用すれば、この危機を回避できるはずです!


「ジルさまを連行しところで、我らが聖国の求める技術は手に入りません。悪魔は彼を利用するだけ利用し、既にこの場から姿を消しているのですから」

「だが、それが事実としても、ハイドであったジルを見逃すわけには……」

「では、私たちも同行します。牢獄に捉え、時が過ぎても変化が見られなければ白という証明。私は高確率で、何も出ないと考えております」


 出るわけないです。ジルさんは異世界転生者。能力の全ては同じ転生者でも見抜けないほどに隠されています。

 加えて、今までの暴走は『宝玉のハイド』がもたらしたもの。ジルさんが正気である限り、力が露見されることはない。散々かき乱された二重人格を今度は私たちが利用させてもらいます!

 さあ、ロッセルさん。これを断る意味はないでしょう。その理由を彼自身が口にします。


「我々の任務は怪人ハイドの確保……それより先は管轄外であり、口を挟むものではない。良いだろう! 共に王都へと戻る事とする!」

「ご理解、感謝いたします」


 よし! これでジルさんを解放できます!

 確かに一度は牢獄に囚われてしまうでしょう。ですが、ジルさんが自ら動かない限り、悪魔による暴走だったと判断されるはずです。

 問題があるとすれば、彼が拷問にかけられてしまうという可能性。ですが、それは絶対にさせません。

 ジルさんにはミリヤ国の民を守ったという実績があります。確かに転生者の力を隠しつつ、それを証明するのは難しいでしょう。ですが、出来ないわけじゃない!


 流石に救世主を拷問にはかけません。

 いける……ここは切り抜けられる!



「お待ちくださいロッセル隊長……」


 私が勝利への方程式を完成させたとき、この場に『あの』美声が響きます。

 赤い髪を持つ白いローブの男性。天使のような美貌を持つ、才色兼備の聖国大臣。

 げえっ! ベリアル卿!

 ぜ……絶対に不味い! このタイミングでこの人は不味い! 私の予感通り、彼は場を掻き回すような一言をロッセル隊長に吹き込みます。


「テトラさんの憶測は信用できるものでしょう。ですが、これらが事実の場合、私たちの目的は達成されていない事となります。なぜなら、白であるジルさんを確保したところで骨折り損。原因である悪魔を確保しなければ、ハイドさんを確保したとは言えません」

「うむ……確かにそうだ……」


 うぜえ! ど正論で拗れさせてきましたか!

 まあ、聖国大臣として問題の解決に努めるのは当然ですよね。ジルさんが悪魔に執りつかれていた場合、結局聖剣隊はなにも出来なかったという事になりますから。

 ですが、こっちとしては問題ありませんねー。ジルさんの救出が私の目的。原因である悪魔なんて存在しませんし、その足掻きは無駄というものですよ!

 意味があるというのなら、聞かせてもらいましょう。さあ、どう出ますか! 


「一つの可能性を提示します。悪魔がジルさんに執りついたというのならば、まだ近くに潜んでいるとは思いませんか? 例えば、この街に住む別の誰かに執りついたとか……」

「まさか……何という事だ……」


 な……何を言っているんですか……ジルさんに掛けられた疑惑を街全体に広げやがった!

 この街で魔女狩りでもするつもりですか! 事態の収拾どころか、さらに悪い方向へと動かしていますよ!

 ベリアル卿は私やジルさんなど気にも止めず、視線を野次馬たちへと向けました。

 戦闘が終わり、街の人たちが戻ってきましたか。皆さん怯え、聖剣隊や大臣に対して警戒しています。嫌な空気ですね……


「まさか……ハイドが悪魔だっただと……?」

「発明品は悪魔の知識だったのか……あのカップラーメンも!」

「ええ、そうです。ですがご安心ください。この街から悪魔を根絶し、キトロンの街は元の採掘街へと戻ります。そのために、知っていることは話してもらいたいのです」


 ベリアル卿、それは悪手では……

 いたずらに人々の不安を煽り、街の分裂を引き起こすダメダメな一手。それをあの優秀な彼が選んだというのですか……?

 彼ら聖国の目的はハイド兼、悪魔の確保。確かに情報が欲しいのはあるでしょうが、街がピリピリしてるこのタイミングでそれを聞きますか……? 

 嫌な予感がしました。やがて、街に住む一人の男性が、その予感を的中させます。


「こ……こいつが悪魔じゃないか! カップラーメンばかり食ってたのは、聖アウトリウスさまに対する反抗だろ! あれは悪魔の食べものだったんだ!」

「ふ……ふざけるな! お前こそ自転車に乗っていただろ! 他の奴らより操縦が上手いのは、悪魔と繋がっていたからだ!」


 二人の男性が口論し、やがて殴り合いへと発展します。それがトリガーとなり、いたるところで口論が始まりました。


「お前、ハイドの発明が世界を変えるとか言ってたよな! 初めから悪魔の仲間だったんじゃないのか!」

「だ……だったらどうした! 聖アウトリウスが俺たちを助けたか!? 主が俺たちを助けたか!? 時代は変わるんだ! ハイドさまの発明こそがこの国を幸福にするんだよ!」


 そして、この状況になってもハイドさんを信じる者が数名。彼らの存在がさらに事態を悪化させます。

 ハイドが悪魔だという私の嘘。それが真実として広まり、街の人々を悪魔信仰者へと変えました。こうなれば、もう収拾を付けるなど不可能でしょう。

 いたるところで乱闘が起き、聖剣隊の皆さんが動き出します。剣をかざして人々を脅し、暴力を振るう者は強制的に拘束しました。


 私のせいで……いえ、違います。これはベリアル卿が……

 やがて、これらの歪みが最悪な結果を引き起こします。


 銃声が響きました。

 それは、ジルさんの発明した小銃の音。


「ぐ……貴様……」

「はは……すげえ……これがハイドの武器だ! 悪魔の発明だァァァ!」


 ハイド信者の若者。彼が倒れるジルさんから銃を奪い、聖剣隊の一人に発砲したのです。

 何の力も持たない一般人が、最強の聖剣隊に一撃を与えました。もう、それだけで十分。たったこれだけで、信者たちの心に火をつけてしまいました。

 わき上がる歓声。悪魔の力に対する渇望。全てが増幅し、街の全てを巻き込んでいきます。


「悪魔ハイド……俺たちにはあいつの力が必用なんだ! 分かる奴だけついてこい!」

「ハイドォォォ……!」


 悪魔ハイドなんてどこにもいません……そんな人は存在しません……

 だけど、止まらない……このままじゃ取り返しのつかない事になります……!

 ベリアル卿! 貴方の望みは聖国の拡大! 不穏分子となる組織の誕生はデメリットになるはずです!

 だから、この事態を収拾させるべきでしょう! 貴方にとってこの事態は想定外で……望まない展開で……


 そう、望まない展開のはず。

 それなのに……それなのに……



 彼は笑っていました……

 まるで、こうなる事を望んでいたかのように……




 悪意……


 悪意悪意悪意悪意悪意悪意悪意悪意悪意悪意悪意……

 悪意悪意悪意悪意悪意悪意悪意悪意悪意悪意悪意……

 悪意悪意悪意悪意悪意悪意悪意悪意悪意悪意悪意……

 悪意悪意悪意悪意悪意悪意悪意悪意悪意悪意悪意……

 悪意悪意悪意悪意悪意悪意悪意悪意悪意悪意悪意……




 なぜ、優秀な彼が聖国にとって不利になる発言をしたのか……

 なぜ、こうも都合の悪い場面で出会ってしまうのか……

 なぜ、彼の現れるところに問題が発生するのか……


 真っ黒でした。

 どこをどう見ても黒、黒、黒……


 黒……



100話が黒っ

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