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流星のコッペリア ~チート嫌いの私と人形使いのご主人様~  作者: 白鰻
第五章 カップラーメン戦争勃発!
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99 ♤ チートで無双な兄弟喧嘩! ♤


 五機の戦闘機から、五色のカラースモークが吹き上げられます。

 今、キトロンの街に虹がかかりました。


 さっきまで誰かの死を嘆いていたのに、今は楽しい気持ちが抑えられなくなっています。あははー、でもいいや。もう、深く考えるのは面倒ですから。

 私は星のベールを纏い、踊るように戦闘機を動かしていきます。さあ、フィニッシュですよ! こいつを宇宙空間まで急上昇! そのまま落下させて大気圏で塵に変えます!

 この世界を歪める駆け足の発明! そんな物は証拠隠滅しちゃいましょう!

 私の狙いに気づいたジルさんは焦る焦る! こっちに向かってバズーカーをぶっぱしてきます。


「まだだ……まだだまだだまだだァ! このハイドは終わらねえェェェ!」


 やべえです! 戦闘機の操作に集中しているので構っていられません!

 なーんて、こっちは転生者二人です。私が無防備でも、モーノさんがサポートするに決まってるじゃないですか!

 ニカッと笑う転生者の長兄。彼は地属性魔法によって地面を突出し、私に迫る砲弾を防ぎます。さっきまでの怒りが嘘のように、今の彼は上機嫌でした。

 邪魔が入ったことにより、ジルさんのイライラはピークに達します。もう、彼に打つ手は残されていないでしょう。


「また……! いい加減、ぐだぐだやってんじゃねえよ! 殺すってのなら、さっさと殺しに来いやァ!」

「殺さないよ……お前を殺せばテトラの努力が無駄になる」


 ジルさんのアイテムボックスから小型ミサイルが掃射されます。それは二発、三発と増えていき、完全にモーノさんをロックオンしてしまいました。

 ですが、我らがお兄さまは最強の転生者。涼しい顔をしながら雷魔法を発動し、全てのミサイルをバチバチっと撃墜しちゃいます。

 まあ、ジルさんは予測してたみたいですけどね。彼は魔石によって作られた手榴弾を取り出し、それをモーノさんに向かって投げつけました。


「妹の顔を立てるってわけか。優しいお兄ちゃんだなおい!」

「違う。兄妹だとか関係ない。俺はただ、誰かの努力や信念を踏みにじるような真似はしたくない。それだけだ」


 左手を向け、風魔法を発動するモーノさん。その効果により、手榴弾は天高くへと吹き飛ばされ、私たちの頭上で大爆発を起こしました。

 まさに魔法vs科学ですね。うう……弁論と精神で戦う私には肩身が狭いところ。ま、こっちはこっちの役割を熟すだけですけどー。

 既に戦闘機は宇宙空間へと舞い上がっています。さあ、ここから急降下で一気に燃やす! 塵も残さず燃やす!

 こっちは完全にクライマックス。ですが、ジルさんは全く気に留めていませんでした。


「おいおい、お兄さまよォ! てめえは力を行使することに喜ぶ鬼神だろうが! 良い子ちゃん気取ってんじゃねえよ! 他人の心なんざてめえにとっちゃ糞だろうがよォ!」


 違う……モーノさんはそんな人じゃない!

 彼は王都で自殺した少女に対して気を病みました。虐殺した盗賊の生き残りに気を配りました。そして、私の我ままを聞いてジルさんの断罪を待ちました。

 心無い人がそんなことをしますか! モーノさんは精神面でも成長しているんです!

 ですが、それを知らないジルさんには関係ありません。彼はマシンガンを取りだし、それを乱射しつつ暴言を続けます。


「所詮、俺たちは免れざる客だ! 女神によって世界を歪めるために作られた人形! 与えられたチートがなけりゃ何も出来ねえ! 借り物の力でマウントを取る糞どもの集まりなんだよォ!」

「それは、自分も含めてるんだよな……」


 水魔法を足元に発動し、まるで波乗りをするかのように敵に迫るモーノさん。マシンガンは全て回避、そのまま一気にジルさんの懐に入ります。

 そして、一閃。剣を振るい、敵のマシンガンを真っ二つに切断します。魔法による強化によって、その切れ味は格段に上がっていました。

 ですが、ジルさんも退きません。すぐにマシンガンを手放し、アイテムボックスからショットガンを取り出します。


「何を持ってるかじゃなく、何をするかだァ!? んなもん綺麗ごとなんだよォ! チートってのは不正行為って意味だ! ずるをしてるって事だ! それに頼らきゃ何も出来ねえカスが! 偉そうに正義の味方を気取ってんじゃねえよ!」」


 ショットガンとは散弾銃、撃ち出された弾丸は広範囲へと広がります。

 ですが、モーノさんは笑顔のままでした。彼は剣に風を纏わせ、それによって銃弾全てを薙ぎ払います。

 攻撃を防いだだけではありません。近距離なので、ジルさんの持っているショットガンも真っ二つ。風の刃がそこまで届いたようです。


 出す武器、出す武器を破壊されるジルさん。切り札も奪われ、完全に八方ふさがりですね。

 そんな彼に対し、モーノさんは武器を収めます。いえ、それどころか、彼は装備していた剣を粗末に放り捨ててしまいました。

 どうやら、先ほど言われたことを気にしているようですね。


「そうか……分かった。チートは使わない。剣もいらない。生身の身体でお前を倒す」

「……は?」


 ワッツ……? えーっと、彼は何を言っているのでしょう……

 いつの間にやら隣に立っているご主人様が滅茶苦茶嬉しそうです。完全に「これは面白いものが見れそうだぞ」って顔をしていますね。

 って、やべーですって! 危険ですって! でも、確かに面白そうだー!

 このエンターテイーメントに対し、一番驚いたのはジルさんです。


「き……気でも狂ったか!? こっちは銃があるんだぜ!」

「お前はもうテトラに負けている。心で屈服したのなら、これ以上の暴挙には出ない」


 いえ、私のこと買いかぶりすぎですよ! でも、確かに私はジルさんと心を繋げました。後は彼の心にかかる暗雲さえ取り除けば……

 でもでも、それは私の予測。正しいって確証はありません! やっぱ危険だー!

 ですが、モーノさんは曲げません。自分にステータス低下魔法をかけ、さらに魔法も使わない気満々。何も持たないまま、彼はジルさんに向かって歩いていきます。


「今からお前をぶんなぐる。右ストレートでぶん殴る。それでスッキリ終了だ!」

「バカが! 良い的じゃねえか! 死ねやァァァ!」


 怪人は小銃を取りだし、モーノさんに向かって発砲しました。銃弾は彼の右肩にヒット。肉と骨を貫き、そこから赤黒い血が滲みます。

 ですが、死んでいません。モーノさんは足を止めず、歩き続けています!

 偶然急所を外した。そう思ったのか、ジルさんは余裕を崩さないまま発砲を続けます。脇腹、右腕、左太股にヒット。ぽっかり穴が開き、そこから血が溢れました。

 それでも、モーノさんは生きています。いくら発砲しても、弾丸が急所に当たることはありません。流石のジルさんも真っ青です。


「ひ……ひい……」

「お前、真面目だけど臆病だろ。だから、ダンジョンの奥で引き籠ってたんだろ? だから、強い言葉でイキりまくってんだろ!」


 怪人の手は震えています。これでは標準が定まらないでしょう。

 彼はただひたすらに発砲を続けます。ですが、状況はさらに悪化し、モーノさんの体にすら当たらなくなってしまいました。

 もう、心で負けていました。度重なる異常事態がその信念をポッキリ折ってしまったのです。

 やがて、モーノさんは敵の目前で足を止めます。そして、右手を強く握りしめ、それを大きく振りかぶりました。


「お前は二つの世界にある技術を組み合わせ、時代の先を行っていると錯覚しているだけだ! 『何でも作れる』をもう少し考えてみろ。その時、もう一度相手してやる!」

「何でも……作れる……」


 ハッと何かに気づくジルさん。そんな彼に向かって、モーノさんは容赦なく右ストレート放ちます。


「行くぞジル! 男なら歯を食いしばれ!」


 ジルさんの目から紋章が消えます。同時に、彼は眉毛を釣り上げ、力強くうなずきました。


 少年の顔面に叩きつけられる右拳。

 お兄さんから弟へ、長い戦いを終わらせる決めの一撃です。


 ステータスが下がり、生身の人間となってもパンチの威力は高かった。ジルさんは殴り飛ばされ、背中から地面にダイブしてしまいました。

 威力を殺せず、背中を石畳で滅茶苦茶擦りむきます。うっわ……ダブルで痛そうだなあ……


 そして、こちらのショーも終了みたいです。

 急降下した戦闘機は大気圏に突入し、そのまま空気圧で押し潰されているでしょう。後は圧縮熱によって大炎上して終了!

 塵も残らず異文化は消滅です!


「これにてショーダウン!」


 倒れるジルさん。真昼の空に流れる五つの流星。

 長い長い戦いは終わり、キトロンの街に安息が戻りました。


 戦闘が終わったので、流星のコッペリアを解除。そして、すぐにモーノさんへと駆け寄ります。

 やった、勝ちました! 私は嬉しくなり、彼の両手を掴んでぶんぶんと上下させます。

 最後は暴力でしたけど、なんかジルさんも納得してるので良しとしましょう。ちゃーんと、心と心を繋げたみたいですしね!


「やりました! やりましたよモーノさん!」

「あ……ああ……」


 まったく、モーノさんは元気ありませんね! 私たちの完全勝利なんですよ! 素直に喜ばないと!

 興奮するこちらに対し、彼はとんでもない行動に移ります。なんと、私の胸に顔をうずめてきたのです。思わず、そんな彼を両腕で受け止めました。

 な……何てエッチな! いくら勝利に興奮しているからってそれは……

 あれ? なんか、両手が温かい……見たら、その手が真っ赤に染まっています。もしかしなくても、これって血ですよね……


「テトラ……今は治癒中だ……動かさないでくれ……」

「す……すいません! っていうか、私も腕を撃たれたんでした! くっそ痛い……!」


 転生者二人、ジルさんに続いてぶっ倒れます。モーノさんが回復魔法を使っていますが、完全な治癒には時間がかかるでしょう。

 特に、彼の怪我は重傷です。そりゃそうですよね。何発も銃弾をぶち込まれたんですから。

 チートを使えば無傷で勝てたのに……なぜこんな無茶をしたんでしょうか。


「モーノさん、無茶のしすぎです。ジルさんを止めるためとはいえ、リスクが大きすぎますよ!」

「俺はピンチになったことがないからな。たまには命賭けさせろよ」

「命はたまにでも賭けるものではありません!」

「お前だけには言われたくない」


 あ、私も命賭けまくってました。人のこと言えませんねー。

 と……とにかくこれで解決です! さっさとジルさんを回収して、とっとと安全な場所に移動しないといけません。すぐ近くに聖剣隊が来ているのですから。

 彼らの隊長であるロッセルさんは、近くで戦いを監視していました。これは急がないと不味いですね。聖国にジルさんを奪われたら、今までの努力が水の泡です。


「モーノさん、すぐにジルさんを回収します。私が走……って……あれ?」

「テトラよ。残念ながらタイムオーバーだ。どうやら、お前は秘めた力を使いすぎたようだ」

 

 立ち上がろうとすると頭がくらくらしますね……そんな私をご主人様が優しく介保します。

 あ……これ不味い奴だ……状況は改善されていないどころか、むしろ悪化してますよね。動けなくなったのは不味いってレベルじゃねーです!

 すぐに、モーノさんが無理をしながら立ち上がりました。ご主人様がそんな彼を支えますが、とてもジルさんを運べる状態ではありません。


 なにより、ロッセルさんに今回の戦いを見られています。

 これはどうしましょうかね……


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