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流星のコッペリア ~チート嫌いの私と人形使いのご主人様~  作者: 白鰻
第五章 カップラーメン戦争勃発!
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98 ☆シャーウッドの森の声☆


 どこかも分からない大広間。

 ステンドグラスに囲まれた神々しい空間。


 東西南北それぞれに大きな扉があり、そこに続く道にはステンドグラスの天使さまが描かれています。

 神秘的かつ、幻想的な空間。中央には三角形をした目玉の造形物が置かれ、私のことをずっと見つめていました。


「また……来れた……」


 以前、私はここに来たことがあります。

 初めて『流星のコッペリア』になったとき、ここでピーター先生から『火』について勉強しました。

 彼は全てを知る人、きっと力になってくれる。それを期待して、私は迷わず時計塔の間へと走ります。

 ここまで来たなら大丈夫。ピーター先生に会えば……彼に協力してもらえば街は救える!


 ですが、それはあまりにも浅はかな思考。

 時計塔の間へと続く扉は固く閉ざされていたのです。


「そんな……ピーター先生! キトロンの街が大変なんです! 中に入れてください! ピーター先生!」


 バンバンと扉を叩きますがピクリとも動きません。

 私は愕然とし、肩を落とします。私がダメダメだから、ピーター先生にも見捨てられてしまったのでしょうか……?

 じゃあ、なんでここに呼んだんですか……何が足りないというんですか……!

 希望を失い、絶望に染まる心。ですが、その時でした。


 どこからか、小鳥のさえずりが聞こえてきます。

 同時に風が森の香りを運び、私の心を落ち着かせました。


 ふと、後ろに振り返ると、別の扉が開いていることに気づきます。

 南、時計塔の間とは別の場所。どうやら、風はここから流れているようですね。


 東、森聖域の間。

 これはもう、行くしかありません。








 一面に広がる広葉樹の木々。天空から差し込む木漏れ日。

 小鳥は歌うようにさえずり、リスがドングリを運んでいます。まさに大自然。ここは平和を形にしたような場所でした。

 私を誘い入れた森の香り、それは土と落ち葉の香りです。

 どこか懐かしいですね。そうそう、小学生のときに行ったキャンプでこの匂いを嗅ぎました。


 少ししんみりしながら森を進む私。やがて光輝く、ひときわ開けた場所にたどり着きます。

 苔に覆われた噴水、ウッドデッキによって作られたテラス。

 人工物ですが自然に溶け込んでいます。まるで、森の中にあるヨーロピアンガーデンのようでした。


「綺麗な場所……」


 さっきまで戦闘機に襲われていたのが嘘のようです。人間の進化を嘲笑うかのように、自然が全てを支配する空間……

 やっぱり、ピーターさんがここに呼んだのでしょうか。私は誘われるように、森の庭を歩いていきます。

 本当に人が入って良いのでしょうか? 少し申し訳なく思いつつも、ウッドデッキへと上がっちゃいました。

 キシキシと音を立てる木の板。ですが、何かがおかしいですね。


 板がきしむ音が後ろからも聞こえているのです。

 私は恐る恐る振り返り、その存在と目を合わせました。


「びい……」

「し……鹿だー……!」


 鹿だ! 鹿に後ろを付けられていた!

 まだ角の生えてない小鹿ちゃん。私は恐れつつも、その頭をゆっくりと撫でます。


「ぴいー」

「あはは……いい子……」


 良かった大人しい。よっぽど平和なのか、まったく私を恐れていませんでした。

 はあ……ここに私を呼んだのは貴方ですか? って、絶対違いますよねー。せめてご主人様を呼んでほしいものですよ。

 小鹿と二人、途方に暮れる私。そんな時でした。

 突然、背後から何者かが手を回してきます。そして、その両手によって私の両目を覆い隠しました。


「だーれだ?」

「ひゃひい……!」


 か……開幕セクハラ! 誰ですかマジで!

 問いかけに答えるより先に飛びのく私。そして、そのまま一回転して後ろへと振り返りました。

 ウッドデッキの上、立っていたのは緑のマントを羽織った青年。物腰柔らかく、優しくねっとりとした表情でこちらを見つめてきます。

 こんなにエロくて気持ち悪い感じがする人は他にいません。そして、忘れるはずもありません!


「ろ……ロバートさん!?」

「テトラ、相変わらずステキだね。またキミに会えて嬉しいよ」


 冒険者のロバート・アニクシィさん。嬉しいですけど、真面に登場してほしかったです。

 彼は自らを天使と自称し、主の導きによって私をサポートしてくれました。ですが、この場所で突然現れるのには驚きです。


「何でこんなところにいるんですか!?」

「こんなところとは酷いなー。ここはイギリス、シャーウッドの森だよ。どう? 自然がステキだと思わないかな?」

「いえ、まあいい場所ですけど……」


 はぐらかされたー。まあ、貴方はそういう人ですよね。はい。

 森の管理人が現れた事により、小鹿さんはその場から離れていきます。本当にロバートさんがここを管理しているんでしょうか。それは、天使としてのお仕事?

 やっぱり、ピーターさんと関係ありますよね。じゃあ、ピーターさんも天使……?

 疑問が疑問を呼びます。ですが、そんな思考を掻き消すように、ロバートさんは爽やかに語り始めました。


「ようこそ、森聖域の間へ! ここは神様のガーデン、バルコニーでピーターくんに会ったんだよね? じゃあ、今度はボクの番だ」


 相変わらずマイペースですね……ですが、こっちもそれどころではないんですよ。

 今はキトロンの街が大変なんです。ここでお喋りをしている時間はありません! 


「あの、ロバートさん。今は街が風で引き裂かれて……」

「そう! 風! 風だよテトラ! 聞いてよ! 風の声を!」


 いや、お前が話し聞けよ! 結局、ピーターさんと同じだー!

 ロバートさんが両手を広げると、シャーウッドの森に優しい風が吹き込みます。

 気持ちいい……森の香りを運び、心が穏やかになるのを感じました。さっきまでは大切なものを切り裂いていたのに……


「風ってのはね。気圧の変化で起きる空気の流れなんだ。ほら、太陽の当たり方とか場所で地球の温度ってバラバラでしょ? その違いが高気圧と低気圧を生み、空気の流れは高気圧から低気圧に流れていくんだ」


 ロバートさんによって語られる風の知識。うーん、やっぱり難しい……

 おバカな私とは違い、歴史の上ではその研究が進んでいるようです。


「錬金術や自然学では、風は大気と同一視されてるね。自然学者のアナクシメネス、彼は万物の起源は大気と考えていたんだ。生命は呼吸をする。だから、命を作る大気は世界すら創ったんじゃないかってね」


 ほへー、大気が……風が世界を作ったですか。飛躍しすぎてわけわかめですねー。

 ですが、それも言い過ぎではないようです。なぜなら、風は人間の進化に欠かせないもの。ロバートさんは右腕を振り払い、周囲の景色を変化させました。


「でも、本当に人の進化って風が作ったのかもね。ほら、見てよテトラ!」


 森の風景は消え、目に映ったのは大海原。今、ロバートさんと私は港に立っています。

 沢山の人たちに見送られ、出向するのは巨大なガレオン船。大きな帆は風を受け、ゆっくりと沖の方へと突き進んでいきます。

 そう、これは大航海時代のワンシーン。あの船は新天地を目指し、これから長い長い旅路が始まるのでしょう。


「こうやって船に帆を張って、人々は大海原に出たんだ! 風を味方に付けて、風の力で世界を知ろうと足を踏み出したんだよ! だけどね……」


 私の手を握るロバートさん。すると、周囲の光景に再び変化が訪れます。

 先ほどの青天とは打って変わり、大嵐によって荒れ果てる海。空の上、私は彼と一緒に先ほどの船を見ました。

 風は牙をむき、船を滅ぼそうと襲い掛かります。このままじゃ……このままじゃ……!


「テトラ、時に自然は残酷なんだ。少し機嫌を損ねれば、人の命なんて一瞬で奪われてしまう」

「そんな……」


 たくさんの夢を……たくさんの人々を乗せた船……

 それは風に押し倒され、波に飲まれ、水中へと沈んでいきました。

 大海原への冒険……新しい大地への夢……その全てが無残にも水泡に帰します。そうか……成功した人は偉人になり、失敗した人は命を失う。

 それが冒険のリスク。風って残酷なんだ……


 ロバートさんは私を抱き寄せ、さらに風景を変えます。

 私が肌に感じたのは、ピリピリとする乾いた風。そして、目の前には巨大な化物が蹂躙していました。

 何ですかあれは……風が渦を巻き、木々も家屋も何もかもを巻き込んでいきます。こんな風景、現実に存在するんですか……!

 物だけじゃない……人も……動物も……みんな巻き込まれて……空へと打ち上げられて……

 その悲惨な光景から目を逸らす私。それでもロバートさんは優しくも強く語り続けました。


「アメリカで発生した竜巻、トライステート。死者は700人を超え、合衆国史上最大の被害を出した竜巻だよ」


 私は風の怖さに震えます。神様がいるのなら何で……何でこんな酷いものを作ったんですか……!

 何もかもを壊す災害なんていらないじゃないですか! 風も自然も神様も、みんな嫌いになってしまいますよ……

 気持ちが沈む中、再び風景が変えられます。目に映るのは一面の砂漠、そこには二人の男性が向き合っていました。


「彼らはエジプトの神だよ。左が太陽神ホルス。右が嵐の神セト。ホルスにとって、セトは父親であるオシリスの敵。今、その最後の戦いが始まろうとしているんだ」


 ジャッカルの姿をしたセト神さま、彼は砂嵐となって宿敵の身体を傷つけていきます。一方、ハヤブサの姿をしたホルス神さまは、その猛攻に耐えるばかりでした。

 黒い砂嵐。まさに邪悪その物に見えます。一目にして、この戦いの悪者がセト神さまだと判断できるほどでした。


「セトは卑劣な手段でオシリスを殺した。そして、今度は彼の息子を殺そうとしている。古代のエジプト人にとって、砂嵐とは害悪な存在。その化身であるセトは、一貫して邪神だったんだ」


 やっぱり、昔の人にとっても風は悪だったんですね。

 人を殺す風……物を壊す風……


 風は何もかもを奪い去る巨悪……


『ふぅん、貴様の目は節穴か?』


 また、風が吹きました。それは、セト神さまがもたらす豊穣の風。

 砂漠は消え、緑豊かな花畑の上で彼は不敵に笑います。その姿はとても巨悪とは思えませんでした。

 そう、これが神さまの二面性。ロバートさんは私の隣に立ち、ポンと肩に手を乗せます。


「嵐は全てを奪い、その地に豊かな土を残す。セトは恐ろしい破壊神であり、豊穣をもたらす神でもあるんだ。どんなに酷いことをしようと、信仰は決して失われない。それが神さまなんだよ」


 宿敵を根絶しようと、争いを続ける破壊神。ですが、その争いによって土地は豊かになります。

 人は競う、人は戦う。闘争は文化を発展させ、人類は更なる高みへと昇華する。


 ロバートさんの力により、また世界の光景が変わります。

 そこはどこかの競技場。長いレーン上、スタート地点で構えるのは屈強な陸上選手たち。

 今、ここに新たな闘争が始まろうとしています。合図と共に、選手たちは一斉に走り出しました。


「追い風、向かい風! 風は気まぐれ、コンマ一秒を争う世界は彼によって振り回される。さあ、機嫌を損ねず捕まえられるかな!」


 ロバートさんの声を受け、私は手を伸ばします。

 風は気まぐれで困った奴。でも、私となんか似てます。


 ほんの少し、風の事が好きになりました。

 よーし、風を捕まえて仲良くなってやる!


 私の異世界無双で……!










 こちらへと突っ込む一機の戦闘機。

 私はそのコントロールを奪い、天空へと急上昇させます。


 この戦闘機……風の魔石を使ってる……

 だから見える……右手を伸ばして、じっくり見極めて……


 今だ!



 風、捕まえちゃいました!




「本日二度目の登場! 流星の~! コッペリア~!」




 五機の戦闘機。全ての主導権を握り、キトロン上空でアクロバットを披露させます。

 この感覚……風を捕まえるこの感覚ですよ!

 急旋回、急回転! 戦隊を乱さず、鉄の鳥たちはカッコよく宙を舞います。


 やがて、その後方に五色の煙を吹かせ、空に大きな虹をかけました。

 どうですか! このエンターテイーメントは!


「俺の……最高傑作が……」

「花火大会の次は航空ショーかよ。やってくれるな」


 完全に放心してしまうジルさん。上機嫌で笑うモーノさん。

 そして、突然のショーに恐怖しながらも興奮する街の人たち……


 また私、何かやっちゃいました?

 なんちってー!



バルコニーは人の進化を見張る

ガーデンは自然との調和

チャペルは神への信仰

ダンジョンは罪人への制裁


残り二人はすでに登場しています

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