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流星のコッペリア ~チート嫌いの私と人形使いのご主人様~  作者: 白鰻
第五章 カップラーメン戦争勃発!
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97 ☆闇が街を引き裂きます☆


 目に見えない闇が、街を覆っていくのが見えました。

 大切なもの、守り続けたもの、それが少しずつ壊れだしていると気付いてしまったのです。


 知……


 それは人を惑わす美酒。

 最初の人間、アダムとイヴは知恵の果実を食べたことで楽園を追放されたと聞きます。

 果実は善悪の知識を与え、人類に必ず死ぬという呪いをかけました。また、男性は働く義務を、女性は出産の痛みを与えられたとも記されていますね。


 もし、知恵の実を口にしなければ、人類は争いなく生き続けていたのでしょうか……?

 善もなく、悪もなく、働く苦悩も痛みもなく、永遠の幸せを感じ続けていたのでしょうか……?


 永久の平和。

 衝突のないまっ白な世界。



 ああ、それはなんてディストピアなんでしょうか……










 状況は最悪、そう言わざる負えません。

 キトロンの街、その中央にてジルさんのデモンストレーションが始まります。彼は右手を大きく振り払い、戦闘機たちに指示を送りました。

 魔石の力でしょうか、操縦者もリモコンもなしで機体は空を駆け巡ります。まさに、小指一本で動かせるというわけですか。完全にジルさんの支配下という感じです。


「さあ、どうだ! これが怪人ハイドの力だ!」

「すげえ……すげえぜハイドォォォ!」


 彼に対して好意的だった街の若者たち。ハイドさん本人が現れたことにより、その心は一瞬にして奪われてしまいます。

 そりゃそうですよね……数週間前からずっと発明品を街に流していたんですから。あれらの開発者というんですから、心酔しない方がおかしいぐらいです。

 一方、私たちは突如現れた馬の骨。前準備の段階で完全に劣っています。これは演説で説き伏せるのは難しそうですね。


「モーノさんこの状況は非常にまず……」

「見つけたぞ……! ハイドォ!」


 私の言葉を掻き消す雄叫び。同時に、地面を踏みしめる甲冑の音が耳に入ります。

 本当に、悪い事というのは連鎖するものですね。私たちの前に現れたのは聖国最強の騎士団、聖剣隊。彼らは一斉に武器を構え、瞬く間にジルさんを取り囲みます。

 そうでした。彼らはハイドさんの確保を行うため、この街に滞在していたんでしたね。

 シットです! このタイミングで表に出てしまったのは失敗でした。これでは交戦状態に発展するのは確実。下手にこちらも手が出せなくなります。


 街の空気はさらに緊迫します。人々は距離を取り、ジルさんは流し目で騎士団たちを見ました。

 銀色の甲冑に身を包む兵士の中、前に出たのは真っ赤な甲冑のおっさん。彼は自慢の髭をピンと弾き、自らが戦うべき敵に剣を向けます。


「我々はカルポス聖国が聖剣隊! そして、私は隊長のカリュオン・ロッセルだ! 怪人ハイド、貴様を悪魔信仰者と見なし、これより王都へと連行する!」

「自己紹介どうも。悪いが付き合ってられねえなあ……」


 睨みあうジルさんとロッセルさん。これは所謂、敵vs敵ってやつですか……

 いえいえ、違いますよ! これは味方vs味方です! どっちが負けても楽しめない! 結局、私にとってはバッドエンドです!

 ですが、こちらからは手を出せません。モーノさんならどっちもボッコに出来ると思いますが、それをやったら余計に拗れます。だって、どっちも負けたら困るもの!


 そして、この戦いの勝敗は容易に分かります。

 モーノさんが警戒するほどの戦闘機を操作するハイドさん。何でも作れる生産チートです。そんな彼に現地人が勝てるとは思いませんでした。

 それでも、ロッセルさんは退きません。当然です。自分たちこそが聖国最強だと思っているのですから……


「全員、かかれ! 抵抗するようなら殺しても構わん!」

「おおおォォォ……!」


 一斉に走り出す騎士たち。同時に、全身の血の気が引きます。

 ダメだ……止めないと不味い!

 そう思った私は一歩前へと足を踏み出します。ですが、モーノさんがそんな私の肩を掴みました。

 もし、彼に止められなかったらどうなっていたのか……


 恐らく、騎士団たちと同じ目に合っていたでしょう。


 街に響く巨大な銃撃音。五機の戦闘機から放たれる雨のような弾丸。

 とても、戦闘機に行えるとは思えない停止飛行から、地上に向かって機関銃をぶっ放していったのです。

 一瞬にして、街は鮮血に染まりました。私は道化衣装を赤く染めながら、呆然と立ち尽くします。

 また、人が死んだ……? ジルさんが殺した……?


 なんで……

 なんでなんでなんでなんでなんで……


 この人たち悪くないのに……

 国のために戦っただけなのに……!



「ハイドォォォ……!」

「だから言っただろ。不殺が死を生むんだよ……」


 モーノさんに抑えられながら、私は叫びます。

 不殺が死を生む……? 違う……! 死を生んだのはお前だ……! お前が悪いんだ……!

 私は好きに生かしただけ……関係ない! 私のせいにするな……!


「な……何だあのモンスターは……誰か! 早く治癒魔法を……!」

「すげえ……最高だぜハイドォォォ!」


 攻撃を防いだ手練れの騎士、偶然攻撃を回避した騎士たちが負傷者の治癒に入ります。

 まだ、救える! 命を落としたのは一人か二人。ここで追撃がなければ、これ以上の悲劇は起きないんだ!

 耳障りなハイドへの歓声。それを振り払いながら、私はジルさんへと飛び込みました。

 止めるモーノさんなんて無視です。これ以上……これ以上、死なせないし殺させない! 綺麗ごとでも何でもいい! みんなが幸せになってほしいから!


「酷い……酷い酷い酷い! 絶対に許さない……!」

「は! 俺を殺すか?」

「殺さない……! でも許さない!」


 涙目になりながら、私はジルさんをはっ倒します。そして、馬乗りになって彼の裾を掴みました。


「ミテラさんに言いつけてやる! トマスさんにも、ジェイさんにも、アステリさんにも、孤児院のみんなに言いつけてやる! 皆さん哀しみます! 貴方が悪いんですよ!」

「勝手にしろ……もう良い……シスターごっこは終わったんだ……!」


 ハイドさんはマントから小銃を取りだし、私の右腕を打ち抜きます。そして、そのまま私を振り倒しつつ、身体を起こしました。

 心が乱れたからでしょうか、撃たれた腕が痛くて悶えます。左手で傷口を抑えつつ、転がる私をジルさんは容赦なく踏みつけました。

 当然、踏みつけた場所は傷口です。


「くっ……あああ……」

「さっき、顔も知らない誰かのために涙を流せるか聞いたよなあ……? てめえは名前も知らないモブ雑魚野郎のために泣いてんじゃねえか! 本当に口だけのペテン師が!」


 モブ……貴方にとってはモブかもしれない……

 だけど、その人にとっては全てなんです……! その人の周りにとっては大事な存在なんです……! モブなんてこの世のどこにもいない! みんな生きているんですよ!

 そうです……私は口だけですよ。口だけで! 捻くれて! そのくせ理想論者です!


 だから、戦う!

 せめて、目に見えている人のために!


 私は身体を起こし、ジルさんの脚に向かって思いっきり噛みつきます。そして、ご主人様の操作によってその場から勢いよく転がりました。

 この行動と同時に、モーノさんが一気に敵との距離を縮めます。そして、痛みにひるむジルさんに思いっきり剣を振り落としました。

 瞬時に反応する怪人。彼は奥歯を噛みしめつつ、持っている小銃で攻撃を受け止めます。


「くっ……」

「ハイド……お前、酷い目にあわされたいか……?」


 周囲に散らばる黒いスペードと青いダイヤのエフェクト。モーノさんは切れる一歩手前で、私の説得を待ってくれる雰囲気ではありません。

 剣を押し付ける彼に対し、ジルさんは必死で抵抗します。ですが、モーノさんは炎魔法を剣に灯し、敵をじりじりと燻りつけていきました。


「お前、俺が怖いんだろ……さっきから、俺が動きづらいように戦闘機を動かしてたよな……」

「怖い……俺が……? うるせえええよ……!」


 少しずつ追い詰められるジルさん。ですが、彼にはまだ切り札がありました。

 右手の小銃で剣をふさぎつつ、ジルさんは左手をアイテムボックスに突っ込みます。そして、そこから一つの魔石を取り出しました。

 これは、強化された魔石ですか。彼はそれを発動し、自分の周りに透明なバリアーを張りました。

 まさかの防御……? モーノさんは目の前にいます。攻撃を加えなければ、さらに追撃を受けてバリアーは破壊されてしまうでしょう。


 では、なぜ防御動作に動いたのか。

 気づいた瞬間、私は再び戦慄します。


「モーノさん! 上です! 戦闘機から攻撃が来ます……!」

「ああ、分かってる! ネビロス、しっかりテトラを操作しろ!」


 ジルさんから離れ、魔法を瞬時に詠唱するモーノさん。やがて、その効果によって自らと私にドーム状のバリアーが張られました。

 こちらに標準を定めるのは一機の戦闘機。その翼からロケットのような何かが切り離されます。

 ああ、これは冗談ではありませんね。もう引き返せない。そんなジルさんの覚悟が伝わる攻撃……


 あいつ、ミサイルぶっ放しやがった。


 対地ミサイル、それがモーノさんのバリアーに触れ、周囲を巻き込む大爆発を起こします。

 熱い……こんな攻撃……街の人たちも巻き込んでしまいますよ……! 大切な孤児院のみんなを傷つけたらどうするつもりですか!

 爆発は以外にも小規模でした。ですが、威力は絶大。バリアーの張られた部分以外は大きくえぐれ、まっ白い煙を噴き上げています。

 この攻撃に一番驚いたのは聖剣隊のロッセルさん。彼は震える右手を抑えつつ、的確な指示を出しました。


「ハイドの確保はいい……全員! 街の者を避難させろ! あれは一部隊で対処できるレベルではない……! 繰り返す! 民衆の安全を最優先せよ!」

「お……おおおォォォ!」


 ジルさんに向けていた剣を収め、野次馬たちを避難させる聖剣隊の皆さん。あの戦闘機と戦うには、国家レベルの戦力が必要だと判断したのでしょう。

 煙が晴れ、モーノさんはバリアーを解除します。同じく、ジルさんもバリアーを解除し、再び戦闘機の操作へと動き出しました。

 まるで、街を恐怖で支配するかのように、鉄の鳥は低空飛行で飛び回ります。その風圧により、家屋は切り裂かれ、採掘トロッコは宙を舞いました。


「テトラ……お前は休んでろ……!」


 再びジルさんへの攻撃に走るモーノさん。そんな彼とは対照的に、私は完全にへたり込んでしまいます。

 ジルさん……何でこんなことに……

 呆然としながら、私は街の様子を見ます。すると、あるものが目に入りました。


「お花……皆で植えた……」 


 逃げ惑う人々、圧倒的に力に歓喜する若者たち。その中に風に引き裂かれた一厘の花が見えます。

 孤児院の皆で植えた……ツァンカリス卿に頼んで植えさせてもらった……大切な花……

 花壇ごと、滅茶苦茶に荒らされてしまっています。それに気づかず、モーノさんとの戦いに集中するジルさん。どうにも出来ないほど、涙が溢れて仕方がありません…… 


「街が……私たちが植えたお花が……」


 風が全てを引き裂きます。

 街も……人も……心も……みんな滅茶苦茶に荒らされてしまいました。


 悲しいけど、心が熱くなります。


 やっぱりダメだ……こんなのじゃダメだ……!

 和解するって心に決めたじゃないですか……! 綺麗ごとだって自分でも分かってるじゃないですか……!

 私の異世界無双を魅せるんでしょう? 全部都合よく上手くやるのが正真正銘のチートでしょう?


 楽しまないとダメです。心に流星を輝かせるんです! 


 私は立ち上がります。そして、憎くて憎くて仕方ない鉄の鳥をキッと睨みました。

 止めてやる……止めてやる……止めてやるっ……!

 この街を守るんだ……! 誰にも奪わせない……! ここはみんなの街なんだァァァ!


 低空を飛ぶ一機の戦闘機。私は走りだし、その前に両腕を広げて立ち塞がりました。

 驚くモーノさん、唖然とするジルさん、目を閉じるご主人様……

 


 心を輝かせる……

 あの時と同じ感覚を……!



意図してないけどリョナ要素多いな……

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