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流星のコッペリア ~チート嫌いの私と人形使いのご主人様~  作者: 白鰻
第五章 カップラーメン戦争勃発!
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96 ♢ vsⅡ(ジ)の異世界転生者!♢


 ハイドさん……いえ、ジルさんはずっと話していました。

 知ってほしかったら、分かってほしかったから語り続けていたのです。


 それは、彼からの救難信号。同調した今の私には手に取るように分かります。

 真っ黒い何かが、ジルさんの心を覆っていました。その正体はいったい何なのか……実態を掴むのが勝利へのカギと言えるでしょう。

 魔王や自らへの怒り……? まあ、あるでしょうね。ですが、それだけでは説明がつきません。

 彼の根本には技術力によって世界を統治するという思想があります。この思想こそが暴走の源と私は予測しました。


 原因は『怒』じゃない。

 私は魂の兄妹として、ジルさんの本質を信じたいんです!


「ジルさん、本当の自分を恐れちゃダメです! ハイドお兄さまは悪人ではありません! 私たち別人格は歪みの原因じゃないんですよ!」

「何を言ってるのか知らねえが、この俺ハイドは世界の支配者になりえる存在だ! てめえらにとっちゃ、間違いなく悪だろうよ!」


 違う! ハイドさんがミリヤ国を守ろうとした事実は絶対ですし、私は流星のコッペリアと仲良くやっています。

 それに、一番気になるのは彼の覚醒が片目だけということ。なんで半端なんでしょう? まさか、別の何かによって強制的に歪まされている……?

 私はここに来て何者かの介入を疑います。赤いレーザービームを踊るように回避しつつ、とりあえずジルさんの懐へと入っちゃいましょうか。


「もっともっと、お話しましょう! 私の目をちゃんと見てください!」

「ここまで来て話し合いか……この偽善者が!」


 彼のレーザーガンを蹴り上げ、その手から吹っ飛ばします。こうやって、全ての武器を戦闘機上から落としてしまえば私の勝利! 簡単簡単です!

 ですが、相手はアイテムボックスを駆使する錬金術師。いったいどれだけの武器があるのか、全く予測不能ですね。

 ジルさんすぐに下がり、今度は大きなバズーカー砲を取り出します。そして、こちらに狙いを定め、それを勢いよくぶっ放しました。


「鑑定スキルで分かってんだよ! てめえは誰一人殺さず、一匹もモンスターを倒さない不殺女だってな! この世界でレベル1なんざガキにもいねえ! どこまで行ってもナメプだろうが!」

「ノットナメプです! 絶対に傷つけないって思いが私の原動力! 今の私だから貴方と渡り合えるんですよ!」


 まるで跳び箱のように、砲弾をぴょんと飛び越えます。こんな芸当ができるのは、ここまでレベル1を貫いたという自信があるからでしょう。

 それが折れたら、私は大きく弱体化します。心の異世界転生者とはそういうものでした。

 二発目、三発目、容赦なく放たれていく砲撃。滑りやすい戦闘機の上を駆け、それらを紙一重で回避していきます。まったく、激しいものですよ!


 あくまでもこちらから仕掛けない私。それに対し、ジルさんの怒りはさらに大きくなります。


「そうやって殺すべき奴を生かし、罪のない奴が殺される。無責任の極みだな! どこまでも不殺の精神ってのは偽善なんだよ!」

「好きでやってるのに偽善も糞もありますか! それとも、貴方は顔も知らない誰かのために涙を流せるのですか? 私は良い子ちゃんじゃない! 知らない誰かの命より、自分の信念を大事にしているだけです!」


 道化は自由、そこに正義も悪もありません。

 私をクズと思うならそれで良い。誰かに認められるための行動なんてまっぴら御免です!

 口喧嘩じゃ私は負けない! こちらの答えに対し、ジルさんは驚いた様子で攻撃を止めます。


「てめえに正義はねえのか! なら、何のための不殺だ!」

「倫理的なもの、あるいは自分が自分であるためですね。生憎と、人一人殺してニヤニヤ笑いながら生きれる度胸は持ち合わせていません。一線を越えたらもう楽しめない。だったら越えなければいい。実に理に叶った思想だと思いますけどねー」


 所詮人間、生かすも殺すもクズですよ。

 だったら私は殺さない道を選ぶ! エンターテイナーは笑顔を与えるお仕事。終わりを与えるのは私の主義じゃありません!

 それに、私は自分さえ楽しければそれで良いって危険思想がありますから。一度でも殺しを受け入れてしまえば、歯止めが効かなくなりそうなんですよ。

 こちらの意思を分かってくれたのか、ハイドさんは会話を続けます。 


「正直に言うぜ。テトラ、俺はてめえのことは嫌いじゃねえよ。だが、悪いな。これでタイムオーバーだ」


 ガション! という音と共に、再び足場が激しく揺れました。

 どうやら、上昇を続けていたエレベーターが停止したようですね。ここはダンジョンの最上層。今、鋼鉄の戦闘機たちが飛び立つため、発明倉庫の天井が真っ二つに開いていきます。

 夜は明け、眩い朝日が私の目に入りました。あの太陽に、彼らを飛び立させちゃダメです! 本当に世界が変わってしまいますよ!

 時間がありません。ですが、心を繋げる私の攻撃は確実に意味を成していました。


「俺はてめえらと戦いたくねえ。妹は心が痛む、兄貴には勝てる気がしない。だから、このまま無視して目的を遂行させてもらうぜ……」

「お兄さまは真面目すぎます! ミリヤ国を守れなかったのは貴方のせいじゃない。魔王を倒す責任なんてどこにもないんですよ!」


 そう、責任です。自分が魔王を倒さなければならないという責任。ジルさんを支配していたのは怒りだけではありません。むしろ、こちらが本命だと言えるでしょう。

 彼の怒りはとっくに晴れています。だからこそ、私と繋がっても止まりません。そこに強い意志がある限り、和解なんて絶対不可能でした。


 今、怪人が持つ二つの人格が重なります。

 私の積み重ねた言葉の数々が、ジルさんの心を揺さぶったのでしょうか。瞳のダイヤは完全に消え、幼い少女のような少年が私の目を見て話します。


「真面目……か……そうかもしれない。僕は頭が固くて融通が利かない。だからこそ、ありもしない責任に縛られているんだろうね……」

「もう大丈夫です! お兄さまが魔王と戦ったとき、私たちはそれを助けられなかった……だけど、今度は絶対に助けます! 私たちが力を合わせれば怖いものなしですよ!」


 宝玉のハイドが引っ込み、ジルさんは記憶を取り戻しつつあります。

 や……やりました。ようやく認められたんです! 私の心が勝ったんだ!

 今の彼にはもう武器を構える気力はありません。戦いは終わり、話し合いで全てを解決できたんですよ!

 私はゆっくりとジルさんに近づきます。このまま熱く抱擁して終わりっ! そう思っていましたが、彼は拒むように私から離れます。


「無理だよ……もう遅いんだ……全部思い出した。自分がやってきたことも……」

「ジルさん、気にしちゃダメです! あれは全部ハイドさんが……」


 全てはハイドさんのせい。その嘘をジルさんは容易く見破ります。

 そして、静かに怒りながら、近づく私を戦闘機上から突き飛ばしました。


「違うよテトラ。ハイドは僕自身で悪人じゃない。君が言ったんだ……」


 覚醒は解除され、瞳から消える星の紋章。

 油断した……最悪だ……息を吐くようについた嘘は、ジルさんの心を悪戯に傷つけました。


 落下する私。エンジンをふかせる五機の戦闘機。

 背を向ける少年に向かって、私はムカつきながら叫びます。



「ジルさんの……ジルさんの分からず屋あああ!」



 頭……硬すぎだろっ! 記憶も戻ったのに! もう私と仲良しなのに!

 怒りも晴れたのに! 責任なんてないのに! 悲しい結果になるって分かってるのに!

 それなのになんで分からないの! 分からない! 分からないのが分からない!


 男の子って分からない!


「卑怯者! ジルさんの卑怯者! 逃げてばかり……ずっと、ずっと逃げてばかり!」

「おい、落ち着けテトラ」


 放り落とされた地上で、モーノさんが私をキャッチします。彼はやれやれといった態度を取り、動き出す戦闘機を睨みつけました。

 ひとたび起動すれば、その速度はマッハを軽く超える機体。頑丈さも西洋の鎧なんかとは桁違い。加えて、全ての能力は魔石によって超強化されています。

 流石のモーノさんも剣を収めました。どの道、強行策に出たジルさんを止めるすべはありません。なら、一度冷静になって対抗手段を練るのが上等でしょう。


「あれはさっきのゴーレムとは桁違いの完成度だ。一機、二機破壊できても、どうせ残りには逃げられる。奴もすぐにクレアス国への攻撃に出ない。体勢を立て直すぞ」

「モーノさん……冷たいですね……」

「ああ、冷たいさ。お前も頭冷やせ」


 大きく深呼吸をします。冷静になりましょう。

 私はジルさんと心を繋げました。ですが、それは目的の脱線。心を繋げたところで彼は止まらない。完全に見誤りました。


 ジェットを吹かせた五機の戦闘機は、そのまま滑走路もなしに空中へと飛び上がります。

 あれはドラゴンよりも速いですね。恐らく、あの中の一機にジルさんが乗っているのでしょう。

 高度は低い。モーノさんの予測通り、彼はすぐに魔族への攻撃に出ない様子。一度キトロンの街に降り立ち、その技術力を街の人たちに示すつもりだと思います。


「ジルさんの計画にはこの街の魔石が必要不可欠。街の懐柔は何よりも優先すべき行為でしょう」

「ああ、まだ終わりじゃない。この街で止めれば最悪の事態は回避できる」


 エレベーターで地上に出ましたし、街までは遠くありません。ダンジョン最下層に置いてきてしまったメイジーさんとアリシアさんが気がかりですが、待っている余裕はないでしょう。

 早くジルさんを追わないと……モーノさんは仲間との合流のため、バアルさまを残します。


「女神さん、お前はここで待ってろ。俺の仲間が来たら事情を説明するんだ」

「う……うむ……」


 まあ、待たせたところで、私たちも移動手段がありませんけどー。

 やべーですね。何か手段はありませんか。そう思ったとき、何者かが私の腰を掴みます。

 せ……セクハラですか! という冗談はさておいて、モーノさんも一緒に捕まれているようです。少年は偉そうに腕を組みながら、私たちを掴む男性に目を向けました。


「ネビロスか。状況は分かっているよな?」

「ふむ……テトラの操作を通して大方は理解しているつもりだ。さて、このまま飛んで移動するのが好ましいと思うのだが、どうだろうか?」

「御託は良い。早く行ってくれ……」


 いきなりのご主人様登場。本当にフリーダムですね。

 許可を貰った彼は、真っ黒いコウモリのような翼を広げます。そして、右手に私、左手にモーノさんを抱えたまま大空へと飛び上がりました。

 ゆっくりと滑空する悪魔。悲しいですけど、戦闘機よりも遅いんですね……まあ、マッハを超える速度で移動されても困るんですけども。

 空の上、目に見えるのは街の上空を回る戦闘機。その全てを見ても、ジルさんの存在を感じません。


「ジルさん……乗ってない? コックピットだと思ったんですけど……」

「まあ、乗り込んだところで行動は出来ないわな。となればだ……」


 私たち三人は同時に下界へと目をやります。

 街の懐柔が目的なら、本人が赴くのが効率的。怪人ハイド自身で戦闘機という存在を説明し、人々の理解を求めるのが当然でしょう。

 まあ、つまりのところ戦闘機のデモンストレーションです。まったく、これ以上この世界の人々を誑かすのはやめてもらいたいですね……


 さあ、地上に降りますよ!

 あんな物騒な兵器、さっさと没収です!



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