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流星のコッペリア ~チート嫌いの私と人形使いのご主人様~  作者: 白鰻
第五章 カップラーメン戦争勃発!
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94 ☆ 最終章:俺 ☆


 騙されるというのは新鮮な気分でした。

 私は自分が騙す側の人間だと思っています。だからこそ、嘘偽りには過敏なはずなんですけどね……

 前々から、ジルさんが怪しいとは思っていました。ですが、どうにも納得できません。彼女……いいえ、彼からは人を騙す素振りを感じなかったからです。


「なんで……騙してたんですか。ずっと私たちを嘲笑ってたんですか!」


 その質問に対し、ジルさんは口を閉ざします。そして、ばつの悪い表情をしながらどこか遠くへと視線を移しました。

 分かりやすい……彼は都合が悪いからはぐらかしたんです。それを見抜けないはずがありません。


「答えろよ……目逸してんじゃねえよ!」


 自らのキャラも忘れ、私は叫びました。豹変したこちらに対し、ジルさんの動揺はさらに大きなものとなります。

 彼の変わりようはいったい何なんでしょうか。敵を騙していたのなら、普通は「ざまあみろ!」ってなるでしょう。この反応の仕方は明らかにおかしいですよ!

 先ほどのイキりが嘘かのように、怪人は身体を振るわせます。そして、まるで言い訳をするかのように言葉を返しました。


「どこかに……お前と仲良くなった教会のシスターがいるかもしれない。だが、それは俺じゃねえ。だから……関係ない……」


 この期に及んで何を言ってるんですか……前に会ったときは真っ暗で顔がはっきりと見えませんでした。ですが、今は明かりがしっかり灯っていますし、邪魔なシルクハットもかぶっていません。

 流石に分かりますよ。表情が随分男らしくなってますが、あの顔は完全にジルさんです。

 戯言以外の何物でもありませんね。ですが、続く彼の言葉によって状況は変わっていきます。


「孤児院で子供の世話をしたあいつは俺じゃねえ。ツァンカリス爺さんの死に対し、物思いふけっていたあいつは俺じゃねえ。街の変化に心躍らせ、明るい未来を願ったのは俺じゃねえ……」


 右手で頭を抱え、息苦しそうに呼吸をするジルさん。彼の言葉は責任転換をしているようでした。


「別世界の商品を作り、利益を貪ったのは僕じゃない。革命を考え、この世界を戦乱に巻き込もうとしているのは僕じゃない。テトラ、キミを裏切って悲しませてしまったのは僕じゃない……」


 変わる一人称、消えては現れる瞳のダイヤ。

 まるで別人になったかのように、ジルさんは弱々しく呟きます。


「だから……僕は傷つかない……」


 ぞっとしました。明らかに異常です。

 散々好き放題やって、それらは全て自分がやったのではないという矛盾。ジルさんが異世界転生の存在を知らず、私たちを騙していたわけでないという事実。

 普通に考えればありえません。嘘偽りで塗り固められているように聞こえるでしょう。

 ですが、これらの歯車が噛み合う一つの仮説があります。モーノさんもそれに気づいたのか、動揺した様子で言葉をこぼしました。


二重人格ジキルとハイドか……」


 ハイドさんから感じた違和感の正体。それは、既に正気ではない暴走状態だっからと見ていいでしょう。

 私は彼の内なる優しさに期待していましたが違いました。

 ミリヤの国を救ったのはジルさん。孤児院に支援を贈ったのも当然ジルさん。初めから、善と思える彼の行動は別人格によるものだったのです。

 加えて、ジルさん側はペンタクルさんとの戦闘で記憶を失いました。転生者というワードに対して、何も知らない様子だったので間違いないでしょう。


 記憶を失ったジル・カロルという二番の転生者。

 記憶を引き継いだ『宝玉のハイド』という別人格。

 その二つが入れ替わり、男らしさ女らしさを交えて私たちをかき乱したのです。


「なぜなんじゃ……なぜこんなことに……」

「心当たりならある。たぶん、俺たちも無関係じゃない……」


 どうすることも出来ない女神さま。自らの存在を考え、顔色を変えるモーノさん。

 時々、気持ちがハイになって自分が自分じゃなくなる感覚を受けます。それは、ジルさんと同じ二重人格と言えるではないでしょうか。

 『流星のコッペリア』と『宝玉のハイド』、心の中に眠る理想の自分。これは、まず間違いありませんね……

 モーノさんは狂うジルさんを警戒しつつ、私に向かって言います。


「テトラ、約束してくれ。もう『流星のコッペリア』は使うな……」


 はいとは言えませんでした。まるで自分の本心を押し殺すようで嫌な気分だかったからです。

 ですが、モーノさんは私の中に眠る彼女を信じていません。王都では確かに心と心を繋げましたが、それでも彼にとっては得体の知れない存在だったからです。


「あのハイドと分かりあう必要はない。狂ったあいつと同調すれば、お前の様子もおかしくなる。前回もさっきもそうだった。自分を見失うな」

「そうじゃそうじゃ! あいつも五番もおかしくなってしまったんじゃ!」


 バアルさまうっぜ……管理できなかったお前のせいでしょうが!

 分かりあう必要はないですか……心の異世界転生者である私が……? 今まで散々綺麗ごとを吐いて、いざ自身に危機が訪れたら和解を諦めろと?

 怖いから先に倒せばいいって? 信用出来ないから避けるべきと?


 それって、どこがチートなんですか?


「あー、良かった。つまりジルさんは私を裏切っていないってことですね! まったく、勘違いしちゃいましたよー。疑ってすいませんでした!」

「……は?」


 両手をポンと合わせ、私はジルさんと向き合います。

 とにかく、まずは自分が落ち着きましょう。そのあとジルさんを落ち着かせてゆっくり話をすればいいんです!

 言葉と動きで自分のペースに持っていくのは私の十八番。例えモーノさんに否定されても、こっちにはこっちの拘りがあります。


「テトラ、何を考えている。今までの善行は全てジルが行ったことだ。あいつの別人格、ハイドは正気じゃない。和解なんて出来ないと分かっただろ」

「逆ですよ。私は確信を得たんです。ハイドさん……いいえ、ジルさんと分かりえる確信を!」


 私がそうだったから分かります。ジルさんとハイドさんは完全な別人格ではありません。

 相手と同じステップを刻み、楽しい舞台を演出する『流星のコッペリア』。それが私にとって理想の自分であったように、ジルさんにとっての『宝玉のハイド』も理想の姿なんです。

 今まで、ただ口を開けて彼の話を聞いていたわけじゃありません。ことの全貌を理解し、ジルさんがなぜ別人格に頼ったかも分かってきたつもりです。


「ジルさんは生真面目で我慢強い性格です。だけど、彼はミリヤ国で大切な人たちを奪われて、初めて怒りの感情を表に出したいと願った。それが、ジルさんにとっての覚醒だったんですよ!」

「つまり、その時ハイドが生まれたわけだから、奴の根本には正義感があると? 机上の空論だろうが、魔王への怒りで暴走したとも取れる」


 ジルさんの性格上、怒ることは絶対にしません。だからこそ、怒りを面に出すことが彼にとって理想の自分なんだと思います。

 ですが、それだけで和解可能かの説明にはなりません。モーノさんの言うように、怒りに正直になって暴れることがジルさんの理想という可能性もあります。

 しかしですよ。それは絶対にありえないんです!


「モーノさん、答えは会話の中ですよ。ハイドさんは足手まといの住民のせいで負けたと言いました。勝敗が決まるギリギリまで、彼はミリヤ国の皆さんを守ったんです。この時の彼はジルさんではなくハイドさんだったはず。ただ怒りに身を任せる人がそんなことをしますか!」

「得意の屁理屈かよ。あー、分かった分かった。お前と口喧嘩はしたくない」


 速攻折れるモーノさん。完全に私との言い争いを避けましたねー。

 ま、納得してくれたのなら良いです。私はジルさんと会話を続けます! 敵が不安定な今こそ喋りまくれますよ!


「ジルさん、まずは落ち着きましょう。私たちは話し合いに来たんです。何か困りごとがあるのなら、私も貴方の助けになります! だから……」

「助ける……? だったら何で……何で……」


 人の心に踏み込む。その覚悟は出来てるのか? ハイドさんにそう問われたんでしたね。

 相手の過去や悩み、夢や恋心、それらはとてもデリケートな部分です。

 時には触れられたくないものもあるでしょう。慎重に踏み込まなければ、いたずらに相手を傷つけたり怒らせたりすることもあります。

 まあ、とどのつまり……


 地雷、踏んじゃいました。



「何であの時……! 僕を助けてくれなかった……!」



 ひえ……滅茶苦茶怒らせちゃいました……

 片目に青いダイヤの紋章を光らせ、ジルさんとハイドさんは同時に怒りを表します。

 誰にも助けられず、一人で魔王の軍隊に立ち向かったジルさん。そんな彼の気持ちを理解するなんて、私にはとても出来ませんでした。


「最終章:俺えええェェェ!」


 彼はコートの中に手を突っ込み、そこにあるアイテムボックスから物騒な武器を取り出します。

 それは私たちの世界にあるマシンガン。錬金術によって改造され、魔石を原動力とする新しい武器でした。

 ジルさんは銃口をこちらに向け、そこから魔石の弾丸を一気に掃射していきます。

 くっそ速い! たぶん威力も物凄い! 何より現代知識がある分、ああいう武器が一番怖い! 当然、ご主人様の糸によって一気に走り出します。


「蜂の巣だ……! 蜂の巣だ……! 蜂の巣だァァァ!」

「全然神秘的じゃない最終章やだー!」


 今までギリギリファンタジーでしたけど、これはもう完全にギャング映画ですよ!

 掃射される魔石は単純に威力特化。現実の鉛玉のように、地面にめり込んでいきます。一発でも受ければ肉体なんて易々貫通でしょう。

 私はモーノさんと共に、坑道のさらに奥へと走っていきます。女神のバアルさまを守るためでしょうか、モーノさんも積極的に動こうとはしません。


「あいつ、滅茶苦茶撃ちやがって!」

「バアルさま邪魔です! 神なんだから何とかしてください!」

「無理じゃ! わしにそんな力は残っとらん!」


 今現在、バアルさまはモーノさんが抱っこで回収しています。これでは彼のチートが発揮できません。ほんと、邪魔しかしませんねこの三流女神!

 ですが、それでもモーノさんの魔法はチート。先ほどから、彼は走りながらも風魔法で弾丸の軌道を変えています。これなら、私も避けやすいですね。

 まあ、敵のジルさんもチートなんですけどー。もう随分と走って逃げていますが、彼のマシンガンは一向に弾切れになりません。たぶん、弾切れなんて無いんでしょうね。


「さあ、逃げろ逃げろォ! そこから先は俺の発明倉庫だ! ヤバいもん見せてやるよ!」

「もっとヤバイものがあるみたいじゃ! もう嫌なのじゃー!」


 完全に誘導されていますか。やっぱり、ただ怒りに身を任せているだけではありません。

 女神さまが滅茶苦茶暴れています。これにはモーノさんもうんざりですね。

 彼は大きなため息をつきつつ、先ほどの話を蒸し返します。たぶん、私の考えを理解できないのでしょう。


「テトラ、お前はその甘さで戦えるのか? 俺は心配でたまらないんだ」

「私、のっそいですし、敵の考えとか気にしちゃいますし、弱点だらけの貧弱異世界転生者です。でも、刺さったらめっちゃ強いんですよ!」


 自信はあります。実績だってあります!

 それを知ってか、モーノさんは喜びの表情を浮かべました。


「知ってる」


 さあ、これにて最終章の始まりです。

 戦いの舞台はジルさんの誘導する発明倉庫。彼の言うヤバいもの、この目で拝ませてもらいましょう!


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