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流星のコッペリア ~チート嫌いの私と人形使いのご主人様~  作者: 白鰻
第五章 カップラーメン戦争勃発!
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93 ☆真実はいつも一つです!☆


 巨大なクリスタル、それに広がっていくひび割れ。

 瞬間、女神さまを守っていた心の壁が砕け散りました。


 カシムさんのナイフはへし曲り、その仕事を終えます。

 たぶん、この時のために託された物だったのでしょう。女神バアルさまの心に踏み込むための鍵。必要になるって分かっていたのでしょうか……?

 何にしても、これで状況は動きます。ハイドさんは女神の意思を盾にし、自らの怒りを晴らそうとしていました。本人の目覚めは必ず意味を持つことでしょう。

 

「ああ、そうだ。お前はそうやって最適な答えを導き出す」


 片手でゴーレムをあしらいつつ、モーノさんがこちらを見ます。苦戦をしているという様子ではありません。あちらも大丈夫みたいですね。

 砕けたクリスタルは周囲に拡散し、映る光は銀色に乱反射します。私は破片を身に浴びつつ、呆然とするバアルさまに飛びつきました。

 瞳孔を開き、口をぽかんとあける少女。そんな彼女に対し、こちらは容赦なく抱擁しちゃいます!


「な……! なにを……」

「やっと、捕まえました! 絶対に離しませんからね!」


 心にひびが入ったから、私を受け入れたからクリスタルは割れました。このチャンスは絶対に逃しません! ガッツリ抱きついて放しませんから!

 ですが、バアルさまは私から目を逸らします。主への反抗という陰謀……その全てを知られてしまって、後ろめたい気分なのでしょう。


「わしは……おぬしたちを騙して……」


 おっと、それ以上はストップです! 私は彼女の唇に人差し指を付けました。


「生んでくれたことに感謝です! 親孝行って奴ですよ!」

「テトラ……」


 バアルさまがいなかったら、私たちは存在すらしていません。誰が何といおうと、それだけは紛れもない事実なんですよ。

 私は今を生きることが幸せです。辛いことはいっぱいありますけど、楽しいことだっていっぱいあるんです! だから、本当に感謝してるんですよ。

 例えバアルさまがこの世界の敵だとしても、絶対に分かり合うことは出来ます。これからゆっくり話していきましょう。

 そんな私の考えが分かるのか、モーノさんが優しく微笑みます。


「やったなテトラ。さあ、戻ろう。俺たちの街に……」

「戻るなァァァ! 俺を無視してんじゃねえぞゴルァァァ!」


 物凄くいい締めだったけどダメだった! ハイドさんが許してくれなかった!

 彼は悔しそうな表情をしつつ、ゴーレムを地団太させます。その隙に、モーノさんが私たちの下に駆け寄りました。


「おいおいおいおい! こいつはどういう事だ! 勝ってたのは俺だろうが! だが、この状況は何だ!」

「テトラ、大丈夫か。すぐに回復魔法をかける」

「だから無視すんなって言ってんだろうがァ!」


 騒ぐハイドさんなんて無視し、モーノさんが私の怪我を治癒していきます。

 物凄く痛かったんですけど、実際は大したことなかったみたいですね。正直、身体半分になった時より数倍痛かったです。不思議なものですよ。

 こちらが回復動作に出てもハイドさんは気にも留めません。彼はただ、私に抱かれる女神さまに対して物言いがある様子です。


「女神さまよォ! てめえの目的は世界の混沌だろ! 俺ならその理想を叶えられる! にも拘らず、なぜあの中に閉じこもってやがった! 俺が信用出来ねえってのかよ!」

「……違う。わしは……わしは……」


 すっかり意気消沈してしまったバアルさま。彼女は涙目になりながら、ハイドさんに対して怯えた態度を取ります。

 女神さまの様子がおかしい……? いえ、様子がおかしいのはハイドさんのようですね。

 五番のペンタクルさんといい、転生者のコントロールが効かなくなったと判断します。だから、バアルさまは手に負えなくなって閉じこもっていたのでしょう。

 モーノさんによる治療を終え、私は女神さまと向き合います。そして、その両手に曲がったナイフを渡しました。


「バアルさま、貴方はただ信者の皆さんを取り戻したかったんですよね? だから、自分の名前とこのナイフに掘られたレリーフに反応したんです」

「これはカナンの民の……」

「志半ばに果てた盗賊の遺品です。大事にしてください」


 肩を落とし、ナイフを大切そうに抱くバアルさま。その慈悲溢れる姿はまさしく一流の神様のようでした。

 彼女は主という神様を……このカルポス聖国を決して許さないでしょう。ですが、隠したところでいつか知ってしまいます。なら、真実を言った上で良心に任せるしかありません。


「この世界をどうしたいのか。ゆっくり考えてみましょう。貴方が皆さんの味方である限り、私もお手伝いします!」

「うむ……」


 のじゃロリゲットです! 私のほうがハイドさんより信用できますよー。って、嘘つきの道化師が言っちゃいます。

 ふふふ……ハイドさん。心の異世界転生者に説得で勝負を挑むなんて愚の骨頂です! これが私の真骨頂ですから。

 ようやく私の能力に気づいたのか、ハイドさんの目つきが変わります。完全に私を警戒していますね。


「心の異世界転生者……神の心すら掴むってのか! 人の扱いに長け、他者を有能へ変えることで無能に見える道化。周囲を引き立て、主役を生み出す立ち回り無双ってわけかよ。ようやくそのヤバさに気づいたぜ……」


 今まで私、見下されていたんですね。そのまま見下してれば楽だったのにー。

 彼は私を最優先すべき相手と見定め、再びゴーレムを急発進させます。そして、その豪腕を次々と叩きつけていきました。

 当然、バック転や側転を駆使して避けていきます。もう、他所ごとは考えません! 全力で戦ってるハイドさんに失礼だもの!

 ですが、どうしてもこちらに攻め手がありません。加えて、今は左手でバアルさまを抱えているので圧倒的に不利!

 相手さんはそれを知ってか、今度は両手から弾丸を放っていきます。


「だが! 今この場面で心がなんの役に立つ! てめえらは! このミスリルゴーレムに手も足も出ねえ!」

「誰がそんなことを言った」


 ですがその時でした。モーノさんの声と共に、弾が詰まったかのようにゴーレムの攻撃が止まります。

 それだけではありません。その場から動くことも出来ないのか、マシンは腕をだらんと落としてしまいました。

 この突然の機能停止にハイドさんは大混乱です。機体をバンバンと叩き、冷や汗を流しました。


「……は? はあ!?」

「いくら装甲が堅かろうが、中身は精密機械だろ? 俺は機械音痴だからな。色々魔法を使ってたらぶっ壊しちまったな」


 剣を肩に乗せ、やれやれといった態度のモーノさん。さっきから余裕の表情でしたし、もう勝負は決まっていたんですね。

 そうとも知らずに勝ち誇っていたハイドさん。かっこ悪いですねー。この一瞬で全ては逆転してしまいました。

 弄ばれたと思ったのか、彼は怒りをあらわにします。これはモーノさんが意地悪でした。


「て……てめえ! 苦戦しているふりをして内部に魔法を……!」

「俺がド派手な魔法しか使えないとでも思ったか? 甘く見てもらっちゃ困る」


 ハイドさん詰みです。モーノさんを倒す手段はありません。

 それでも彼はイキっています。転生者として邪魔なプライドがあるようでした。


「何なんだてめら……何なんだよ! 何度も何度も俺の発明を退けやがって! いい加減死ねよォ! 死ねえええェ!」


 私もモーノさんも、冷たい眼差しでハイドさんを見ます。

 なんて諦めの悪い……これは心を掴むのは難しそうです。


「だが! だがだがだがァ! この雷の魔石がありゃ再起動は可能だ! さあ、ぶっ潰して……」

「悪いハイド」


 大きなため息をつくモーノさん。彼は魔石を使うハイドさんを哀れむように見下しました。


「お前と戦ってても面白くないわ」


 右手をかざす英雄。次の瞬間、そこから大量の氷塊が放たれていきます。

 なんという掃射速度でしょうか。魔石によって動き出したゴーレムもまったく反応が間に合いません。

 降り積もる氷塊。やがて、それはマシンの下半身を完全に覆ってしまいます。氷魔法による凍結ですか。これは動けませんよ!


「ななななっ……!」

「始めから拘束すれば終わっていた。だが、あえてしなかった」


 続いて、モーノさんは突き出していた右手を軽く振り払います。それにより、風魔法の突風が放たれ、機体に乗っていたハイドさんを吹っ飛ばしてしまいました。

 完全にゴーレム無視! 空中に投げ出され、彼はそのまま地面へと落下します。ここまで一方的にやられても、相手さんは全くの無防備。やっぱり、典型的なインテリタイプだったんですね。

 そんな敵さんを見逃すはずがなく、モーノさんは身体強化魔法で急接近します。まさに、圧倒的な力の差でした。


「始めから本体であるお前を狙えばよかった。だが、それもしなかった」

「くう……」


 地面情けなくお尻を付けるハイドさん。初めて恐怖を感じたのか、全身がガクガクと震えています。今までの男らしさは欠片も感じません。

 こうして見てみると彼、カッコよく着飾っていますが女顔ですね……小柄でなで肩、それを気にしてあんな言動や態度を取っていたのでしょうか?

 何にしても、今のハイドさんはか弱い乙女。ですが、それでも許されません。モーノさんは容赦なく、もっていた剣を振り払います。


「お前を期待していたんだよ。だけど、がっかりだ。もう一度、自分の能力を考え直すことだ」

「ひ……ひい……」


 剣による一閃。狙うはハイドさんの頭部。

 それにより、彼の被っていたシルクハットが宙を舞います。真っ二つになり、もう使い物になりません。

 彼は前に会ったとき、戦闘前に帽子を外しました。ですが、今回はずっとかぶりっぱなしで、頑なに外そうとしませんでした。

 特に意味はない。まあ、誰でもそう思うはずです。


 ですが、もし大きな意味があったのなら……


 私は呆然とします。頭が真っ白になりました。

 そんなはずがない。ありえない。だけど、ありえてもおかしくない。

 必死にその理由を考えますが答えにたどり着きません。思わず口に出たのは、なぜかハイドさんの機嫌を取るお世辞でした。


「その眼鏡……似合ってますね……」

「ああ……気に入ってんだ……」


 水色の可愛らしいデザインの眼鏡。

 まるでヘアバンドのように、彼の頭に付けられていました。


 これはあるシスターが作った物。この世に二つとありません。

 ハイドさんが彼女から奪った……? ありえません。そんなことをする意味がない……

 ではなぜ彼が持っているのか。その答えはメイジーさんの言葉にありました。


『ハイドは女性! このジルって奴がハイドなのよ!』


 ああ、そうか……まいったな……


 逆だったんです。

 ジルさんが男性だった。この僅かな違いが捜査を難航させたのです。


 メイジーさん、貴方の鼻を信じるべきでした。恐らく、香水か何かで隠した転生者のにおいを感じ取ったのでしょう。

 ですが、それでも積極的に調べなかった。ハイドさんを見つけてしまったことで、ジルさんへの警戒が解かれてしまったからです。

 悲しい気分になりました。私は道化、騙されるのは悔しいですけど嫌いじゃありません。

 

 違うんです。あの優しいジルさんが偽りだった。

 その事実を受け止められなかったのです。


やっと出せた。

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