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流星のコッペリア ~チート嫌いの私と人形使いのご主人様~  作者: 白鰻
第五章 カップラーメン戦争勃発!
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91 ☆ 第三章:女神の降誕 ☆


 旧炭鉱のダンジョン最下層。私たち三人は四足歩行の錬金生物に取り囲まれました。

 赤い魔石はメラメラ燃え、青い魔石は冷気を纏い、黄色い魔石はバチバチ電気が走ってます。十色を超える錬金生物それぞれに属性があり、恐らく攻撃方法も違うのでしょう。

 まあ、どんな属性であろうとこちらの動きは変わりません。とにかく逃げてかわしてチャンスをつかむ! それが私のプレイスタイルです!


「モーノさん、足を引っ張らないでくださいねー」

「それはお前の方だろうが」


 呆れてため息をつくモーノさん。同時に錬金生物が一斉に飛びかかります。

 意外にも物理的な攻撃を仕掛けてくるんですね。私はナイフを取りだし、赤い錬金獣をかるーく弾きます。ちょっと熱いですが防御は可能でした。

 続いて、黄緑と橙の敵さんが同時に飛びかかります。うーん……黄緑が風属性で橙が地属性? よく分からないので、ぴょんとジャンプして回避しましょう。


「さーて、どうしましょうかねー」

「避けるのはお手の物か。しかし、こちらから攻撃する手段がないぞ」


 ですねー。ご主人様の言うとおりです。

 着地のついでに襲ってきた黒い錬金獣を踏みつけました。手応えというより足応えはなし、全く効いていないようです。

 物理攻撃は効果が薄いみたいですね。でもでも、私は魔法の才能がないので全く使えません。


 ではどうするか。

 簡単です。地の利を活用すればいいんです。


「水色の魔石は水属性。橙色の魔石は地属性ですかねー。ま、感覚で判断しますか」


 私が目を付けたのは地面に転がっている魔石。雑な採掘を行ったのか、いたるところに散乱しています。

 原石ですからそのままじゃ使えませんね。ですが問題なし! 私は水色と橙色の魔石を見つけ、それを二匹の錬金獣に向かって蹴っ飛ばしました。

 水色の魔石は炎の錬金獣にヒット。水を発生させて鎮火します。橙色の魔石は雷の錬金獣にヒット。土を発生させて電気を地面に流します。

 そうです! 魔石は私にも活用できるのです!


「魔石は全人類平等に使えると言いましたよね? それって、相手も平等に使えるという事ですよ!」

「きっちり有利属性を選んでやがるか。ちっ、小賢しい女だ」


 力強くぶつければ雑な魔法が発生します。これにはハイドさんも予想外のようでした。

 この世界はステータスや魔法が存在しますからね。まるでゲームのようで、当然属性による相性も存在するはずです。

 ま、そうでなくても火は水で消えますし、木は火で燃えます。簡単簡単! 弱点を見抜くだけ!

 さって! 私のショーはこんなものじゃありませんよ! 


「水は0度以下で凍っちゃうので氷が弱点。地は根っこで止められちゃうから木ですかね? 光と闇はなんか、互いに打消しそうな感じです!」


 襲い掛かる敵をアクロバティックにかわしつつ、転がった魔石を次々に蹴っ飛ばしていきます。

 水色の魔石を青色にぶつけ、橙色の魔石を緑色にぶつけ、白い魔石を黒色にぶつけ……とにかく楽しく魔石を選んでいきました。

 まるで宝石とダンスを踊っているようですねー。色とりどりに輝くそれは、私の命に従って敵を打倒します。十体……二十体……踊れば踊るほどに敵の数は減っていきました。

 モーノさんも剣で敵を切り裂いてますが、私の方が綺麗でしょう! ご主人様も感心しています。


「実に煌びやかかつ、愉しげに戦うものだ。しかし、テトラよ。この数を一体ずつ減らすのはいささか骨が折れるだろう」

「いちいち相手にするだけ無駄だ。どけっ、一撃で吹き飛ばす!」


 楽しく踊る私を払いのけ、モーノさんが錬金獣を一手に引き受けます。彼は剣に大量の魔力を集め、その刀身を眩しく光らせました。

 強い光属性の力。燭台に使う光の魔石とは桁違いの眩さです。もう、見るからにヤベー奴だと素人目でも分かるでしょう。

 ニッと笑うモーノさん。やがて、彼はその光輝く剣を錬金獣たち目掛けて思いっきり振り落とします。

 放たれた攻撃はまさに閃光。それは見る見るうちに敵を飲み込んでしまいました。


 狙ったもの全てを掻き消してしまう光属性の大魔法。

 これにはハイドさんも私もお口あんぐりでした。


「……は?」

「有利属性かんけーねーし……」


 糞ゲーの再来。転生者の二番と四番、揃ってどん引きです……

 力の異世界転生者チートすぎるでしょ! 私の頑張り意味ないじゃん!

 良いですもん! 私はエンターテイナーですから! 戦闘内容は私の方が魅せてますもん! 観客がいたら絶対私の方が絶賛されるもん!

 ふくれっ面の私なんて気にせず、モーノさんはハイドさんに剣を向けます。実力差は圧倒的でした。


「随分と姑息な手段を使うな。こんな雑魚で俺を倒せると思ったのか?」

「ち……力の異世界転生者……でたらめな魔力だがっ! こっちはまだまだ駒があるんだよ!」


 錬金獣を盾にし、高みの見物を決め込んでいたハイドさん。身の危険を感じたのか、彼は再び背を向けて水晶の炭鉱を走り抜けていきました。

 その途中、コートを翻して地面に何かをばら撒きます。これは、また魔石ですか! アイテムボックスをコートの下に隠し、そこに大量の魔石を保持していたんですね。

 って、いったい何体の魔石獣がいるんですか! これではいたちごっこですよ!


「らちが明かないな……」

「これはあしらった方が良さそうですねー」


 私とモーノさんは背中合わせで立ちます。既に魔石は四足歩行の獣へと変わり、再び私たちを包囲してしまいました。

 これが知の異世界転生者。ダンジョン作って引き籠って、手下のホムンクルスに指示して、いざ戦いになったら逃げてばかり! くっそめんどくせー戦い方です!

 さって、どうしましょうか……ハイドさんの後追いたいんですけどね。

 なーんて思っていた時でした。今まで攻撃を回避してばかりいたご主人様。彼が敵の目を引くように動きます。


「では、ここは私が引き受けよう。あのハイドという者はお前たちが向き合うべきだ。その繋がりは何よりも強く、決して逃れることの出来ない因縁。無関係の私はこの人形たちの相手をするのが相応しい」


 そう言って、彼はマントの中から一体の糸操り人形を取り出しました。

 鼻がツンと伸びた少年の形で、作りは完全な木製。足と手に結び付けられた糸は、ご主人様の左手に繋がってます。

 目には目を人形には人形をってわけですか、確かにご主人様の操作があれば戦えるかもしれません。

 死者を操れなくなったネクロマンサー。今はマリオネットを操作し、人形師として人々と付き合っています。さて、その実力のほどは……


「この少年の名はピノ。右手はテトラの操作に使っている故、操作は左手のみで行う。なに、相手を引きつける程度ならば片手だけで十分だろう」

「……お前が止まればテトラの操作も止まる。共倒れだぞ」

「心配はいらない。お前には負けるが、これでも己の実力を自負しているつもりだ」


 モーノさんが心配せずとも、ご主人様はかなりの実力者。心配する必要はありませんね。

 彼は左手を器用に動かし、人形のピノくんを動かしていきます。まるで本当の人間のように、瞳に生気が宿る少年。それを操作し、錬金獣の一匹を蹴りつけました。

 物理的な攻撃なので倒すことは出来ません。ですが、操作の正確さと動きの素早さにより、多くの敵を引きつけることに成功します。


「この錬金獣、非常に精巧な作りだが知能はない。動きの激しいこちらに標準を定め、他は厳かになっていると理解できる。故に、お前たちは私を囮に切り抜けるべきだ」

「じゃあ、行っちゃいますよご主人様。頑張ってください!」


 言い回しが面倒くさいので、素っ気なく流しちゃいました。

 最近、ご主人様の扱いが雑になってる? 知ってます。仕様です。こんな感じで良いんです!

 私とモーノさんはご彼を残し、錬金獣たちを突っ切ります。既にハイドさんは遠くまで逃げてしまい、今は全く見えません。

 とにかく、走って追いつきましょう。彼を止めないと、どうにもやべー予感がしますからね。











 魔石の広間を進み、私たちはようやくハイドさんに追いつきます。

 彼は巨大な水晶の前に立ち、私たちを待っていました。初めから、この場所に誘い出すために逃げていたのでしょう。

 ずっと、見せたくて見せたくて仕方なかったようです。ハイドさんは透明な水晶をぺしぺしと叩き、その中に閉じ込められた何かをアピールしました。


「第三章:女神の降誕」


 頭身を超えるほど大きな結晶、その中で眠るのは一人の少女。

 私たちより遥かに子供で、白い布の服に金色の装飾を付けていました。


 彼女のことは知っています。知らないはずがありません。

 私たち転生者が生まれた原因。この身体を作り出した母のような存在……



 全ての始まりを告げた少女……



「女神……さま……?」

「驚いたか? そりゃ驚くよなあ。こいつが前に言った見せたいものだ」


 褐色肌の自称女神さま。彼女は水晶の中で眠り、まったく動く気配を見せません。

 なんで……何でこんなところに女神さまがいるんですか! ハイドさんはいったい何を……分からない事ばかりです! 説明を求めます!

 あまりにも異常なこの状況。幼気な幼女が閉じ込められているんです。良い気分がするはずがありません。

 当然、モーノさんも冷静さを崩してしまいました。


「これはどういう事だハイド……返答次第では……」

「まあ、落ち着けよ。こいつは閉じ込めているわけでも、苦しめてるわけでもねえ。療養ってやつだ」


 ハイドさんはそう説明します。つまり、これは治療中ってわけですね。なーんだ。女神さまに酷いことしてると思っちゃいましたよ。

 そう言えば、この女神さまは五番の転生者であるペンタクルさんに貫かれたんでしたね。どうやら、その時に神の力を吸収されてしまったようです。


「女神の力を吸収した五番の転生者ペンタクル。奴と直接対決をし、俺はこの最低限の存在を奪い返した。あの時の俺は甘ちゃんでよお。ずっと、こいつを救いたいと思ってたんだよ……」


 複雑な表情をするハイドさん。やっぱり、彼は正義の味方だったんですね。

 あのショッキングな幼女串刺しからずっと、彼女を思って救う手段を模索していたのでしょうか? 詳しいことは分かりませんが、事実としてハイドさんは女神を救出しました。


「こいつはなあ。哀れな負け組の神様って奴だ。主という強大な神に信者を奪われ、その力を失って幼児化。嫉妬心で主に喧嘩を吹っかけた大バカ女神さ」


 憐れむような蔑むような。同情するような慈しむような。そんな表情で彼は続けます。


「世界の理を崩すために死者の魂で俺らを作り、特別な力で世界を歪めようと考えた。結果、自分が作った人形に下剋上くらってこのありさまよ……」


 彼女は……女神さまは異世界無双の力で、世界を歪めようと考えていました。

 恐らく、それは秩序に重きを置く大いなる主への嫌がらせ。自分より強大な神に対しての反抗というくだらない理由でした。

 ずっと考えてたんですよ。私は転生者として生まれた理由を知りたかった。


「じゃあ、私たちの使命って……」

「世界平和だとでも思ったか? 笑わせるなあ! 逆も逆よ! 歪めて何もかもぶっ壊すための転生だったってわけだ! 最強のチート能力、別世界の知識が世界の為になるわけがねえだろ!」


 複雑な心境でした。頭の中で何もかもが合点しましたが、それでも嫌な感じです……

 そうです。異世界転生者は世界の癌。特別な力で特別じゃない人をあしらうエゴの塊です。

 チートとは不正行為の意。いつ必ず報いを受けます。


 はあ……少し期待した私がバカみたい。

 だから、チートは嫌いなんですよ……


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