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8.兆し

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さて、こちら予算に優しいのが罠のようだと言われた少女の部屋では、


「ふぁぁ〜〜」


後ろで扉が閉まったのを確認後、感嘆の余り開いた口の閉まらないリディアンリーネがいた。

ラティスハルクでは、飾り彫りなどの技術もあるものの、壁や天井に施されるのは主に絵画やタペストリーである。天井もイスファンよりは低く、天窓も殆ど見受けられない。

対してイスファンでは壁の上面から天井にかけては浮彫りにされた精緻な模様。また、壁や仕切りの一部は美しい透し彫りが施され、風通しの良い工夫がされている。また、腰壁には打って変わって趣の違うタイルが幾何学模様に張り巡らされ、鮮やかな色で目を楽しませてくれる。階段の側面にさえも可愛らしいタイルの模様が嵌め込まれており、6階まで上がるのに疲れ知らずで上がれてしまっていた。


「すごい、スゴイ、凄〜〜い!」


天井を見上げながらくるくる回るリディアンリーネを見ながら、ラーナとマルヴィナは運び込まれていた荷物を手早く片付けていく。


「姫様、猫が剥がれておりますよ」

「は〜い」


マルヴィナの指摘にとりあえず口だけ押さえて更に反り返った。…途端、

どさり、という音と共にリディアンリーネの望み通り視界が上方へと広がった。幾つかの小さな星と共に。


「痛っ…つぅ…」

「きゃぁーっ!姫様!?」


涙目で頭を押さえるリディアンリーネに、ラーナとマルヴィナは悲鳴をあげた。

慌てて駆け寄る二人の背後で勢いよく扉が開く。


「リディ嬢!?」


『きゃー、何でリューク様が!?』

『知りませんよ。とりあえず姫様目を閉じます?』

『あ、気絶?それいい!あとよろしく』


リュスタークの突然の訪問に、リディアンリーネが倒れる以上に慌てた三人が口裏を合わせるのと同時にリュスタークが傍に膝を付く。


「どうされました?」


―――ひぃぃっ


「と…突然姫様が…」

「音は?どこか打ったような音はしましたか?」


―――や、頭抱えてちゃまずいんじゃ…


「あ、多分…」

「アーク!侍医を呼べ!!」

「はっ!一人走らせました!」

「とりあえず寝台に運ぶ。あちらの扉を…」

「はい」


―――ひぃぃ…むりむり、絶対ばれる〜


内心の叫びをよそにリディアンリーネの身体がふわりと浮いた。


―――えぇぇぇ?なにこれなにこれなにこれ???


「かわいそうに…このように汗を…」


―――ごめんなさいぃ…冷や汗ですぅ…


「浴室がそちらにある。多分リネンもそちらだ」

「はい」


リュスタークの指示に小走りに走る音がする。

やがてリディアンリーネはふわりと寝台に降ろされた。ひんやりとした布の感触に、動きそうになる顔の筋肉を必死にこらえる。


―――だ…誰?…う…動いても、大丈夫なの?ダメなの??


「ほっ、病人はここかの?」


ひょこり、と顔をのぞかせた老爺の声に、ホッとした様子のリュスタークは寝台脇から一歩身を引いた。


「爺、こちらだ」

「おや、珍しい御仁と会うものじゃ、久方ぶりじゃの、坊。少しは王宮の椅子を温める気になったか?」

「ああ、しばらくな。それより診察を」

「ほっほっ、そうじゃな。どれ……」


老爺がリディアンリーネの手を取る傍で、鞄の中身を広げるのを手伝い、まるで助手のようにその傍に控えるリュスタークへ、呆れたような視線を向けた。


「……」

「……」

「……?」

「……坊…」

「どうだ?」

「どうだ、ではない。女性の診察に同伴はまかりならん。部屋に居りたければ婚約ではなく、結婚してからにしなされ。ほれ、邪魔ゆえ、さっさと出た出た」

「!失礼」


慌てて踵を返すのを呆れた表情で見送り、扉が閉まるのを確認してからリディアンリーネに向き直る。


「さて、邪魔者は出て行きましたぞ?起きられますかな?」


―――ひぃっ!バレてる!!


おずおずと目を開くリディアンリーネの目の前には、満面の笑みを湛えた好々爺の姿があった。


「初めまして、じゃの。ラティスハルクのお客人。わしはこの城で侍医をしとるカレルヴォ・アウノ・メリライネンじゃ。今日はどうされたかの?」

「初めまして。リディアンリーネ・フェイ・ロスガルドと申します。あの…先程床で頭を…」

「頭か…どれ……」

「いっ…」

「ほっ、たんこぶが出来ておる。出血はないようじゃが…めまいや吐き気はないかの?」

「大丈夫です」

「物が二重に見えたり、手足が痺れたりは?」

「してません」

「ふむ、大丈夫そうじゃの。あとは冷やして二、三日安静にしておくことじゃ。痛くて寝れぬようなら薬を取りにこさせなさい。痛みがひどくなるようならわしを呼びに来ること。ま、コブもさして大きくないし、心配はないじゃろ」

「ありがとう存じます」


深く謝辞を示すのへ軽く手を振って応え、手近の椅子を寄せるとちょこんと座る。


「で?」

「は?」

「何故気絶したふりをしておったんじゃ?」

「……」

「……医師には守秘義務があるから、国家存亡の危機でもなければ殿下には話さぬぞ?」


ま、その場合は陛下かの、と笑うメリライネン医師の目には好奇心の光が宿っていた。


「……て…天井の細工に見惚れすぎて頭から倒れまして、驚いた侍女が悲鳴をあげて、それに驚かれた殿下がいきなり入ってこられて…羞恥と驚きのあまり…」

「混乱して気絶したふりをされ……た…と……ぶふっ!……しっ…失礼」


くつくつと笑う医師から3人はそっと視線を明後日の方へ彷徨わせる。


「失礼。お嬢ちゃんが我が国の装飾を気に入ってくれたようで何よりじゃ。殿下は追い払っておくゆえ、ゆっくりと休まれるがよい。まぁ、少ししたら気がついたと知らせてやっておくれ。あれもだいぶ心配しておるようじゃ」

「お気遣いありがとう存じます」








―――なんだろう


リュスタークは机の端に浅く腰掛けてじっと手を見ていた。

その手には、未だ少女の重みの温もりが残っているようだった。

たまたま通りかかったドアの向こうから聞こえた悲鳴。考えるより先に動いた身体は、軍の訓練の賜物か―――


「主?」

「…ああ、聞いてる。気が付いたとか?」

「はい。ご心配をおかけ致しましたとのことです」

「そうか、なんともないなら良かった。…晩餐の事は?」

「いえ特に」

「そうか。…では、無理をしないよう、伝えてくれ」

「はい」


出て行きかけたアークを呼び止め、溜まった仕事を自室に運ぶよう指示する。


「え?執務室には行かれないんで?」

「溜まってる余剰分がある間だけだ。執務室でやってたら兄上が更に余剰を持ってきそうだ」

「…シグルド様ならやりそうな…」

「それに、執務室の仮眠ベットは寝心地が悪い」

「変えるよう言いましょうか?」

「しょっちゅう使ってたまるか」

「週3日は少なくないと思いますが」

「書類仕事は文官の仕事だろう。最近なんで増えてるんだ?」

「主を王都に居させるためかと」

「……」

「事務官入れますか?ベット入れ替えますか?」

「…両方」

「賢明かと」


今度こそ出て行くアークを見送って、リュスタークは大きなため息とともに肩を落とした。




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