【3】Witchcraft
----ねぇ、聞こえる?? 私の……私の……----
暗闇から声が聞こえる。聞き覚えのあるような……どこか懐かしい声が。
だけど声の主の姿はどこにも見えず、俺の体もピクリとも動かない。
「君は……誰だ……。」
「誰って……どうして今更そんなこと聞かれないといけないのよ。」
いつの間にか、俺は意識を取り戻していた。しかし、目の前に移るのは今まで見たことのない天井だった。無駄に装飾が凝っており、所々に宝石が埋め込まれている。
どうやら自分はあのアリスとかいう少女に連れられ、どこかに匿われているらしい。
「っていうか、ここどこだ……?」
重い体を起こすと、そこはまるでおとぎ話に出てくるような景色が広がっていた。
80帖はあろうかという広すぎる部屋に巨大なシャンデリア、グランドピアノに高価そうなティーセット……ここは夢の国か?
「はぁ……あなたには品性のかけらもないようね。」
「うわぁぁっ!」
枕元から聞こえてきた声に俺の心臓は飛び跳ね、慌てて身を後ろに退いた。
バッと声のする方向に目をやると、そこには一人の女性がいた。
「ふぅ……呆れたわ。貴方の品性の無さは天井知らずのようね。普通声を掛けられて悲鳴なんて上げるかしら?」
「お、お前……」
「長月………!!」
声の主の正体は、俺のクラスメイトの長月叶だった。
長月は普段の制服姿ではなく、真っ赤なドレスに身を包み、長い金髪をツインテールに纏めていた。
その姿はまるで妖艶な女王のようなオーラを放ち、まるで別人のような印象を俺に与えた。
「何よ、分かってるんじゃない。なるほど、さっきの言葉は寝言だったのね。」
「ね、寝言……?? 何を言ってんのかよくわかんねぇけど、なんでお前がここにいんだよ?」
「あなたは馬鹿なのかしら? 自分の家にいて何が悪いのよ。」
「はぁ!? 自分の家!? この豪邸が!?」
確かに、長月が名家のお嬢様という話は聞いていた。しかしその家を見たことは無かった。
しかしまさかこれほどまでの家に住んでいるとは予想していなかったのだ。
「それで、腕の調子はどうかしら? 応急手当はしたのだけれど。」
「あ、あぁ……。痛みは無いし、大丈夫みたいだ。ありがとう。」
右腕に目をやると、二の腕の中心あたりから下は無い。残された腕には包帯が巻かれており、点滴のチューブが繋がれていた。
「そ、そうだ! あのアリスって子はどこにいるんだ!?」
「ここにいるよ。」
バーンッと勢いよく部屋の扉が開くと、そこには新たなドレスに身を包んだアリスがいた。
色は血に染まったものとは真逆の黒いドレスで、肌や髪の白さが更に際立っている。
「意識戻って、良かった。」
「え? あぁ、ありがとう。」
アリスは心配そうに俺の腕を見つめるも、回復した俺の様子を見て安心したらしい。
「って、そうじゃないそうじゃない!! 俺たちは何で長月の家に匿ってもらってるんだ!?」
すると、長月は真剣な眼差しでこちらを見つめだした。その目は何か強い意志を宿しているようで、普段の表情とはかけ離れている。
「……貴方、魔導世界の住人に襲われたんでしょう?」
「魔導世界……??」
「この世界とは違う世界……異次元、パラレルワールドとも言えるわ。」
「お、おい長月……お前大丈夫か?」
長月は突如として意味不明な言葉を言い始め、俺には一切理解できなかった。
その様子を察したのか、長月はポケットから一枚のメダルを取り出した。
「翠川隆景……あなたは決して触れてはいけないこの世界の禁忌に触れたわ。本当なら記憶消去をするのだけれど……友人の好で少しだけ教えてあげるわ。」
「樹守魔術五柱宗家 長月家次期当主……長月叶がね。」
「あのー……もう少し噛み砕いてくれ。」
「あなたには難しかったかしら? そうね……つまり
貴方は魔術師の世界に足を踏み入れたのよ。だから魔術師である私が貴方に話をしてあげるってことよ。