姫と彷徨う精霊の物語
今度は童話風に物語を書いてみようと思い立ち、書き上げてみました。
ご一読頂ければありがたいです。
善政を敷き長く栄えていたある王国はいま自然の災厄、はびこる疫病によって滅亡の危機に瀕していました。
国中が死で溢れ、厚い雲が天空を覆い、城から見える火は遺体を焼く炎だけでした。
王様は自然を操る強大な力をもつ精霊に協力してもらうことを考えます。
精霊にとって人の栄衰、生き死は無関心なもの、この世の初めから存在する神に近い存在・・・普通の方法ではとても協力を得られないはずですが、王様には精霊と交信する不思議な力がありました。
王様は毎日毎日、精霊に協力を持ちかけましたがやはり精霊は答えず、幾月の日々が過ぎ犠牲者はさらに増え続けていました。
そんななかひとつの精霊が王様に答えました。
『あなた達の宝をくれるなら助けてもいい』
王様は喜びます、持っている金や宝石、彫刻などは少しも惜しくなかったからです。
『どんなものでも差し上げます、なにとぞ私の国民達をお救いください』
そう王様は答えてしまいます。
『なら、あなたと国民の宝をもらいうけましょう』
「差し上げます。ですが宝とはなんでしょうか?」
『あれを貰おう』
精霊が指差すものを見て王様は唖然となります。それは死神の魔の手から唯一逃げおおせていたまだ幼い末娘でした。
それはできない、王様は自らと交換してくれと頼みました。
『もう契約はなされた』
精霊はそういうと姫をつれて消えてしまいました。
それからは、今までの悲惨な事がらが嘘だったかのように傾いた王国は持ち直し、以前に増して栄えていきました。
精霊と共に消えた姫の行方は誰も知りません。
そのときから十余年の年月がたち国は豊かになり、人々に笑顔が戻りました。
王様も喜んでいます。
でも心のなかではずっと涙を流しています。
悲しみが癒える事を誰もが願っています。
精霊は連れてきた人間の子に辟易していました。
深い、深い、森の深遠、光も届かぬ場所に精霊の巣はありました。
「暗い、お家に帰して、寒い、お腹が減った」と人間の子は泣き叫び衰弱していきました。
なぜ、自分はこんな人間の子なぞ連れてきたのか、精霊自身も良くわかりません。
ですが、ここで死んでしまうのはせっかく連れてきたのに良くないことだと思いました。
人間の食べ物なんて知らない精霊はしばらく考えて決めました。
精霊は自分の身体を少し裂くと娘に食べさせたのです。
娘はみるみるうちに回復していきました。
『よし』
精霊は納得しました。
そして、人間の子を育てる為に少し人間の社会を学ぼうと心に決めました。
そうして望まずに強制的に連れてこられる者を「奴隷」と言う事を精霊は学びました。
『まさにお前がそれだ。これからはお前を奴隷と呼ぼう、だが奴隷は働かなければならないらしい』
精霊は考えます。
精霊には人間のように働く必要はありません。
ただそこに在る事で世界に深い影響を与えるのです。
言うなれば在る事が仕事です。
『ならば奴隷はここに居ることが仕事だ』
奴隷はコクリと頷きました。
『よし』
精霊は納得しました。
こうして最も深い森に住む奴隷が誕生しました。
数年程が経ち、相変らず奴隷はそこに居続けました。
奴隷は少し成長しました。
奴隷は精霊の一部を食べ続けた影響か、その眼もその髪も精霊の色になりました。
そして、少しずつ精霊と同じ言葉を話すようになりました。
『精霊、私は何時までここに居れば良いの?』
ある時、そんな質問をされて精霊は考えました。
『ふむ、精霊の言葉を話すお前は人間とは言えないであろう。奴隷というのは辞めよう。』
精霊の言葉には力が宿ります。
まだ小さなものですが、その力は人在らざる者の証明。
精霊はこの世でそんな存在をなんと呼ぶか心当たりがありました。
『人の形をして精霊と話すことができる者を妖精と呼ぶらしい、これからはお前を妖精と呼ぼう』
『わかった。でも妖精ってなにやるの?』
『ふむ、妖精は人に気付かれずに悪戯をしたり、施しをするのが仕事らしい。そうしてみろ』
『わかった、そうしてみる。・・・・でもどうやるのかわかんないよ』
妖精は困っていました。
ふむ、それもそうかと精霊は考えます。
『ならば、わたしが力の遣い方を教えてやろう』
『わかった』
妖精は頷きました。
『よし』
精霊は納得しました。
さらに数年が立ち、妖精は外の世界へ行って、悪戯をして施しをしました。
そして、精霊にその結果を報告に来るのでした。
『ふむ、それは小気味よい結果だったな。また話を聞かせてくれ』
『はい、師匠』
妖精はそう答えました。
『師匠・・・それはなんだ?』
『いろいろな事を教え、教わる関係を師弟と言うらしいです。』
精霊は聴いたことのないその関係を知ろうと心に決めました。
『確かに私とお前の関係は師匠と弟子にあたるな。これからはお前を弟子と呼ぼう』
『はい師匠、これからも色々教えて下さい』
弟子は精霊に礼を取りました。
『よし』
精霊は納得しました。
そんなある日、弟子はあろうことか人間に囚われてしまいました。
彼女の生まれた王国の美しい青年に体ではなく心を囚われてしまったのです。
精霊の心は波立ちます。
『弟子よ、もうあの青年とは関わるな』
『なぜですか師匠、あの方はとても美しい』
『美しいもの等、この世界にはたくさんある。お前はそれを見ると良い。』
『いいえ、あの方の心の輝きの美しさは世界のどこにもありません』
弟子はそう言って出て行ってしまいました。
しばらくして王国での災いの際、弟子は青年を助け、導いたようです。
ですが、弟子は人ではない。
青年は別の女性と一緒になってしまったのでした。
青年とは心を通わすものの、共にはなれなかったのです。
悲しみに暮れる弟子の元を精霊は訪れました。
『師匠、なぜ私のところに来たのですか?』
『わからぬ、だが私にはお前が必要だと思ったのだ。失いたくはないのだ。離れて欲しくないのだ。』
『師匠は・・・それほど私を想ってくれていたのですね』
『ふむ、この想いはなんと呼ぶものなのだ』
『それはきっと愛と呼ぶものでしょう』
彼女はそう言った。
『愛・・・これが愛というのか』
精霊は納得した。
『私は貴方を愛している』
精霊は自分の想いを伝えて嬉しく感じた。
そう、私は彼女を一目見た時から愛していたのだ。
だから彼女の次の言葉は彼をひどく揺さぶりました。
『私は貴方が憎い、最愛の両親と別れさせ、奴隷として扱い、言葉で縛られ、人でいられず、想い人とも添い遂げられなかった。』
彼女は淡々とそう述べたのでした。
『そうか、だが私は貴方を愛してしまった。この愛は1000年経とうと変えられない。』
それでも、彼は彼女に愛を訴えました。
『私は人ではない、妖精でもない、言葉に縛られない、愛を思い出せない、力を授かり貴方を食べた私は精霊になるのでしょう』
彼は驚いたが、しかし同じ存在になるならそれは永遠に共にあるという事だ。
彼は喜びました。
『いいえ、貴方は私に食べられすぎて、もうあと一口で消えてなくなる。そして愛を憶えた貴方は人へと生れ変わるのでしょう。』
彼は泣き叫びました。
『私は貴方を憎みます。この憎しみの理由すらわからなくなったとしても、貴方が輪廻を何度巡ろうともあなたを探し出すでしょう』
彼はその話を受けて酷く悲しんでいました。
それでも憎しみは薄れません。
彼女はぱくりと彼を食べました。
『憎いお前を食べずにいられなかったのだ』
そして精霊は彷徨い続けます。
いつしか憎んだ感情も忘れて、ただ輪廻の向こうに居る存在を見つけ出す為に在るのでした。
巡り彷徨う愛憎劇でした。