60話空腹
ステロが決闘をして治療院で寝ていると知らないおれは今、あるモノと命がけで闘っていた。
「食い物ぉ、食い物ぉをよこせぇぇぇぇ!!」
「ここには、無いと言っているだろうが!!」
あるモノが、飛びかかってくるのを空中で捕まえて放り投げる。あるモノは、空中でキレイな回転をして四つん這いに着地した。そのままの格好で唸り声をあげる姿はまさに、獣と言っても差し支えなかった。どうして、どうしてこうなってしまった。
「いい加減に落ち着け、キリー。」
おれは、あるモノの名前を言う。キリーがこうなってしまったのは時を少し前に遡る。
「お腹すいた〜、ステロまだ〜?」
「まだ、昼になったばっかだろうが夕暮れまでまだ、時間がある。」
その日はキリーは腹を空かしていた。これは、ペンドラゴンに来てから同じなので特に問題はなかったのだが、それからが問題だった。1日たってもステロが来なかったのだ。
「メシ、メシ、メシ、コナイ、メシ、メシ・・・」
「おっおい大丈夫か?」
次の日の夕方になると言うことがカタコトになりはじめてさすがに、心配して声をかける。
「メシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシ」
そう連呼しながらおれを見てくるキリーを危険と感じた。
「メシィィィィィィィィィィィィ!!!」
ついに、発狂し始めてそして、今にいたる。
「メシィィィィィィィィィィィィ!!」
「チィ!!」
おれは、咄嗟に襲いかかるキリーに向かって殴りつける。
「メシィィィィィィィィ!!」
「何!?」
手加減したとはいえ、それなりに速く放ったがキリーはいとも簡単に避けおれにつこっんでくる。おれは、キリーの足を蹴る。いきなり蹴られたためにバランスを崩しその場で倒れこむ。おれは、その隙に距離を取る。
(コイツ、戦闘力が異常なほど上がってやがる。)
これは、少し本気を入れなければいけないかもしれない。
「食い物ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
キリーが、連続で放ってくる拳を間違っても壊さないように捌いていく。時々、カウンターを打ち気絶させようと試みるが防がれてしまう。
「ブラック・ボアァァァァァァァァァ!!」
キリーは、魔物の名前を叫びながらまた、つこっんでくる。ブラック・ボアはイノシシが魔物化したモノでその名の通り全身、黒い毛で覆われている。大概の魔物の肉は食えるものじゃないが、ブラック・ボアの肉はそこらへんの家畜の肉よりも上質な肉がついている。しかし、ランクBと高めだったため普通のヒトではまず手に入らない。どうやら、コイツはおれがブラック・ボアに見えているらしい。ただ、黒いという共通点だけでそう見えるとはコイツの目がイカれたかよほど、腹が空いているのだろう。
「闇夜の楔を放ち、敵を捕縛せよ。」
『ディメンション・チェーン』
おれは、それを避けてキリーが態勢を立て直す前に魔法を放つ。空中に小さな穴のような影が4つほど現れ中心から鎖がキリー目がけて放たれる。鎖はキリーの手足に巻きつきキリーは地面に突っ伏す形になった。
「食い物ぉ!食い物ぉ!メシィィィィィィィィィィ」
手足の自由が効かず頭だけ動かして騒いでいたが数分たつと疲れたのか騒ぐのをやめ大人しくなった。おれは、ひと息吐いて近くにあった箱に腰かける。
「まさか、魔法を使うはめになるとは・・・」
いくら、暴走していたとはいえ魔法を使うとは思ってもいなかった。おれは、一度、天井を見る。サビて僅かに開いた隙間から日が差し込んでいる。
「失礼します〜」
その時、ドアが開きステロが中に入ってくる。今日はパースも一緒に来ていた。
「うわ!どういう状況なんですか!?」
目の前で、キリーが鎖で巻きつけられてる姿を見てステロが驚きの声をあげる。
「あぁ、どっかの誰かがメシを1日持って来なかったせいでこうなったんだ。」
「うぐ!すっすいません。」
「もういい。済んだことだ。それより、さっさと食い物をキリーに渡してくれ。」
そう言うとステロは、食べ物が入ったカゴを持ってキリーに近づく。
「!!食い物ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
食べ物の匂いを嗅いでキリーがさっきよりも強い力で暴れる。おれは、鎖に魔力を注いで鎖の縛りを強くする。
「食い物を目の前に出しておけばいい。」
「はっはい。」
ステロは、言われる通りキリーの目の前にカゴを置いて後ろに下がる。それを確認するとおれは魔法を解除する。鎖から解かれたキリーは目の前の食い物に飛びつき必死に食らいつく。
「さて、どうして昨日来れなかったのか説明しろ。何かあったのであろう。」
ひたすら食らいつくキリーを無視してステロに聞く。ステロは、おれが聞くと素直に教えてくれた。
「そうか・・・わかったか?魔法を使う覚悟が。」
「・・・はい。」
「なら・・・いい。」
それだけ言うとおれ何も言はない。もう、他に言うことがないからだ。
「それより、リーオとかいう奴は学園ではどうなっている?」
おれは、もうひとつ聞きたかったことを聞く。
「えぇ、昨日は学園には来ませんでした。大方、ステロくんに負けたのが恥ずかしくなったんですよ。」
パースが自分のことのように言っている。それをおれは黙って聞いていた。
(リーオってのは確かあの時の・・・)
あのような輩は自分がプライドが高い。そのような奴が恥をかかせた相手を許すだろうか。
(一様、気おつけておくか・・・)
ステロとパースが話している中おれは密かに考えていた。




