51話泉のオブジェ
黒甲冑の男を見た時に思ったのは怖いではなく可哀想だった。自分でもよくわからない。でも、そう思ってしまう。
「・・・公衆の面前でヒトを殴るとはいい性格をしているな。」
思っていたよりだいぶ若い声だ。僕の年齢とそう変わらないかもしれない。
「てってめぇ!俺に何をする!!さっさと下ろせ!!」
リーオが我に返りジタバタ暴れる。しかし、それでも男は、下ろそうとはしない。
「きさまが、この2人に頭を下げるなら下ろしてやる。」
「ふざけんな!!俺は誰だと思ってる!?幹部の息子だぞ!!」
男が言ったことに怒って怒鳴り散らす。
「知らんよ。第一、それは父親が幹部なだけであってきさまがすごいわけではないだろう。」
「黙れ黙れ黙れ!!俺には誰も逆らえねぇ!!俺は!!選ばれたヒトだ!!お前らみたいな下等生物じやないんだよ!!」
リーオの手に赤い光が集まる。
(まさか、こんな所で魔術を撃つつもり!?)
ペンドラゴンでは、教皇に認められた場所でしか魔術を撃ってはならないとういう決まりがある。それを犯した場合、重い罪が課せられる。いくら、幹部の息子とは言えタダではすまない。リーオは怒りで何も考えていない。赤い色ということは炎属性の魔術。つまり、攻撃に特化している。それでリーオでも無詠唱で発動出来ると考えれば1つと魔術に辿り着く。
(まさか、『ヒートショット』!!)
『ヒートショット』は低学年で初めて習う初期魔術の中で唯一の攻撃魔術。威力は低いがそれでも近くで撃てば相手は重傷になる。ましてや、それが頭に近くとなると恐らく死ぬだろう。
「マズイ!!早く離しー」
「死ねぇぇぇぇ!!!」
『ヒートショット』
忠告が遅く、男の兜に火の玉が当たり爆煙で見えなくなる。公園では突如の爆発音で辺りがパニックになる。
「はっはは。」
リーオは一瞬惚けてから笑い出す。
「ざっさまぁみろ!!俺に逆らうからこんなことになるんだ!!」
「おっおい!ヤバイってどうする!?」
「俺は知らねぞ!!」
「そうだ!!リーオが勝手にやったんだ!!俺たちは関係ねぇ!!」
取り巻きたちは今の光景を見て急いでその場から逃げ出す。取り巻きたちが逃げ出していることも無視して笑い続けている。僕は、呆然と見続けあることに気がついた。
(あれ?どうして、腕が上がったまま?)
兜で守られていたとはいえあんな至近距離で放たれたらひとたまりもない。普通なら死んでいる。それだと身体の姿勢が崩れる筈だ。でも、その身体は今もリーオを離していない。
「なるほど、初級魔術とはいえ無詠唱とはただの脛かじりではないようだ。」
未だ、煙立つ中から男の声が聞こえる。リーオは驚いて目が大きくなる。徐々に煙が消えて男の兜が見えてくる。その兜には傷1つ見つからない。リーオの魔術を受ける前の何ら変わっていなかった。
「そっそんな・・・何で?」
パースさんもつい、口に出てしまっている。無理もない。僕も同じ気持ちなのだから。リーオから見たらどんな風に見えるのだろうか。自分の魔術でまったくダメージを与えていたないそんな男に掴まれている。きっと恐怖に染まることだろう。現に、リーオは何か言おうとしているが口をパクパクさせるだけで何も発声出来ていない。
「小銭を泉に落としたと言っていたな。」
そんなことお構いなしに男はリーオに話す。
「自分の物は自分で拾うのが当たり前っだ!」
そういうとリーオを掴んだ腕を振り上げ泉に投げ込んだ。すごい水飛沫と音がして上半身は水に浸かり足が天を向いたという謎のオブジェが出来上がった。男は、手をはたいてこちらを向こうとした時に人だかりの中から1人の女性がすごい形相で走ってくる。
「あ〜ん〜た〜は〜何やってんのよ!!」
その後、何か言おうとしたが憲兵が駆けつけてくるのが見えた。
「ヤバ早く逃げるよ!!あんたはその子たちを抱えてさっさと来る!!」
鬼のようや顔をして睨みつけられ男はただ黙々と僕とパースさんを両脇に抱えて走る。てか、何で僕たちも連れてかれているのだろうか。




