45話残虐
私の目の前であり得ないことが起きていた。
さっきまでボコボコにやられていたあの男が姿が急に変わって圧倒的なほどの差で今度は、あのテドレ侯爵に成り代わったらしい魔族をぶっ飛ばしたのだ。
「グッ・・・何だこれは・・・」
魔族が、戸惑うのもわかってしまう。私も、戸惑っているのだから。
『ギ・・・ギリャァァァァァァァァァ!!!!』
「うっ!」
明らかに、ヒトではない声に私は、耳を塞ぐ。そして男は、魔族に向かって突っ込んでいく。
「クソ!!」
魔族が、剣で斬りつけるが腕に弾かれてしまう。
『ギリャァァァァァァァァァ!!!』
あの男は大剣を一気に振り下ろした。
「グ!」
魔族は、避けることに成功するが攻撃の余波を受けて飛んでいく。
「きゃあ!」
激しい煙が、立ち上がり私の所にも煙がくる。煙が過ぎ去った後を見る。
「ちょっと・・・何よこれ・・・」
見てみると、あの男を中心に地面に大きい穴が空いていた。
「どんだけ、やったらあんな穴が作れるのよ。」
この威力に呆れがくるが、これだったらあの魔族も生きていないだろう。そう思ったら地面から手が生えてきて徐々に身体が出てくる。この魔族も大概だと思う。
「・・・何だこの力・・・まるで、クロウ・クルーワッハではないか・・・」
魔族が、恐怖に満ちた声でいった。
クロウ・クルーワッハ。生きとし生きる者を殺しつくす殺戮の魔物。全てを憎んだ負の権化。しかし、その姿を見た者は、誰もいない。一様、ランクSに認定されているげど実質、いないであろうと考えられている魔物だ。
男は、魔族を見つけると身体が小刻みに動いた。
(もしかして、笑ってる?)
顔は、見えないがなんとなく笑っているように感じた。
男は、背中に生えた翼を使って宙に浮き魔族に向かって飛んでいく。
「ひい!来るな!来るなー!!」
既に、戦う意思がなくなって逃げようとする魔族の頭を掴んで顔面を地面に押しつける。
「うが!!」
そのまま翼に力を入れ、顔面を押しつけたまま、飛んでいく。
「うががががががががが!!」
地面に擦れて顔面の皮膚が破けて血と筋肉が剥き出しになってもまだ、止まる気配はない。
やっと、止まった時にはもう誰か区別できない顔になっていた。
「・・・・・・」
喋ることも出来ずただ、身体をピクピクさせていた。
その姿を、見て男は、大剣で右足を斬り落とした。
「あがぁがぁぁぁ!?!?」
いきなり、足を斬られて悲鳴が響く。次に、左腕を斬り落とす。
「うぎゆわが!?」
次に、右手をその次に左足の足首と斬り落としていく。その光景を見て私は、ゾッとした。
(いくら、魔族とはいえ戦意がない者をあそこまでするなんて酷すぎる。)
止めなければと思った。これ以上やらせてはいけない。
「ねっねぇ、やりすぎじゃない?もうやめてあげなよ。」
しかし、男は無視して右肘から下を斬る。
「あがぁがぁぁぁ!?っあ。」
痛みに耐えきれずついに、死んでしまう。でも、男は、斬ることをやめない。
「ちょっと!!もう死んでるのよ!!死んでまで弄ぶことは・・・」
目が合ったような気がした。実際は、兜で見えないが、まるで、憎んでいるかのように感じ取れた。私は、黙り込んでしまう。
『ギリャ!!ギャ・・・・』
突如、男は苦しみだし徐々に元の姿に戻っていった。
大剣も、元に戻る。
「ハァハァ・・・・」
「ちょっと、大丈夫?」
あまりに、苦しんでいたので声をかける。
「あぁ、心配ない。もう、大丈夫だ。」
本当に元に戻ったことを確認、出来て胸を下ろす。
その時、後ろから誰かが走っきた。その人はこの戦に出たヒトなら絶対に知っているヒトだった。
「父上 ?」
来たのは、テレド侯爵の娘のナタリア・トアレだった。




