第77話 変態は類を呼ぶ?
スケルスとゴヴニュの二人を連れて、大通り冒険者ギルドの側にあるガーネット&グロウの店に移動してすぐに後悔する事となった。
扉を開けて防具店から中に入ると……そこには――時忘れの盾を我が子の用に抱え、うっとりとした表情で見つめるグロウがいた。こちらには気が付いていない様子だ。
ボク達は外に出ると扉をそっと閉め……顔を見合わせる。
スケルスとゴヴニュがこちらを拝んでいるので仕方なくボクがまた扉を開ける事になった。今度は大きく音を立てて扉を開き中へ一呼吸置いて入る事にする。
「遅かったな! 良い盾が出来てるぜ! それと……それくれないか? いや、売ってくれ!」
「こんにちは……何で見せても無いのに新しい素材持ってきた事がわかるんですか!」
「「「ドワーフだからな!」」」
グロウとスケルスとゴヴニュは三人揃って馬鹿笑いを初めてしまった。『よう! 兄弟~』とか良いながらムキムキの腕を組み合わせ抱き合う姿を見せ付けられる――正直もう帰りたい……
「これ使ってアームカバーとレッグカバーに手袋、それと膝下を守る用のレッグガードと……ガントレットは要らないか――マント! そうだ忘れちゃいけないよね! これだけ作れる? 追加で素材は提供するからフリーサイズのオーダーメイドでサイズ調整出来るようにね? 数はとりあえず五〇セットくらい欲しいかな? あと今日中に」
「「「常識を考えろ!!」」」
顔を真っ赤にした三人に揃って怒られた……防具作成スキルがあるって言ってたのに? あ、MPの問題かもしれない。
「なおMPは無制限に使ってよし、秘密にしてくれるならMPが回復するお菓子を差し入れるし報酬はお金……より現物の方が良さそうだよね? ダイヤモンドもしくはこの素材を報酬で渡すよ?」
「その話聞かせてもらったよ! 水臭いじゃないか、ここは私の店でもあるんだよ? 全力でやらせてもらうさ!! 報酬にカナタ芋クッキーとスイートポテトを追加で頼むよ……」
隣の服屋さんからガーネットが参戦! ガーネットに睨まれた三人は何も言う事が出来ずただ肯くのみだった。
ガーネットは新素材を撫でると電気が走ったかのように手を引っ込めてこちらを凝視している。
「この手触り……金剛石を細く裂いた!? ――いや、これは元からこの形に……カナタ、良い腕さね」
「ありがとうございます?」
何故か褒められた? 工房の奥へ進んでいく四人を追って奥へと入り込む。
炉や謎のBOXや鍛冶屋道具一式が並ぶ工房奥は、素人が入る事を躊躇わせる雰囲気があった。キチンと整理整頓されてる割にゴチャゴチャした印象を受けるのは、この工房の主がグロウだからだろうか?
「普段は防具作成スキルは使わないんですか?」
一つ気になっていた事を聞いてみる、一日1MP回復するならそれなりに使えるんじゃないのかな?
「手で作れば一〇〇個に一個くらいのミスで済む。防具作成スキルは素材の鮮度や保存状態、それと使用者のスキルランクでかなり差が出てくる……オレで二〇個に一個くらいのミスが出る。ランクはFだ」
「ならEまで上げましょうか、適当にそこら辺に転がってる折れた剣や壊れた防具から素材を【分解】して作り出すので適当に作ってください。完成した物をまた【分解】して素材に変えるのでランクが上がるまでよろしくお願いします」
「「「「はぁ?」」」」
固まって動かなくなる四人の前で実演してみせる事にする。
工房の入り口隅にまとめて山にしてあるガラクタを手に取ると、次々【分解】してついでに【冶金】で素材のインゴット化も行なう。次々積み上げられていく金属のインゴットの前で口を大きくあけ惚ける四人。
長年放置されていた為か、だいぶ悪くなっていた素材も有ったけど全部インゴットに変換する事ができた。所要時間にして一分ちょっとくらいかな?
右手で【分解】して左手で【冶金】して床に積む、なかなか楽しい一時だった。
「最大MPはいくつですか?」
「110だ。ガーネットが100丁度だ……何が起こった?」
「そうですか……これだけ有れば足りるかな? さぁ、リトルエデンの為にがんばって下さい!」
追加で作って補充しておいたビックWARビーの加熱蜜結晶を瓶ごと取り出し床に積み上げて宣言する。
「これは多分、起きてる時に見る夢だ。オレ達は寝ても覚めても装備を作っていたからイデア=イクス様が褒美に最高の夢を見せてくれているんだ。ヤルぜ!」
ソレからは素材にハァハァしちゃう変態四人が編隊して大変な事が起こり、積みあがるテスト品に分解されて戻るインゴット……流れる様な作業がついつい楽しくて気が付いたら予定を大幅にオーバーしており、グロウの防具作成スキルはランクDへと成長していた。
ボクは片手間に結界で工房入り口方面を隔離し、炭素繊維を量産する事も忘れない。
結界を張る理由は炭素の粉を吸い込むと洒落にならないくらい痛いらしいからだ。プテレアの分体が吸い込み悶絶し、苦悶の表情を浮かべ死に掛けていたのを見て、恐怖のあまりちびりそうになったのは今でも良い思い出になっている。
「手が震えてやがる――オレに防具を作らせろ! 神が舞い降りてるぜ!!」
「「「グロウ最高ー!」」」
徹夜明けのような変なテンションになった四人の前に素材を並べていく。五〇セット分なので大目に用意したけどどうなることやら?
「アームガードは手首から肘……いや肩までを覆う布の筒みたいな感じで、伸縮するようにチェインメイルみたいに編みこんでね?」
「無茶振りキターー!?」
「「「最高ー!」」」
酷いノリだ。でも楽だし便利なのでノリに便乗して次々と無茶振りしておこう。
「レッグカバーも同じ仕様で足首から太ももの上くらいまでをカバー出来るようにヨロシク。あと手袋も同じ編みこみで、サイズ調整は手首に巻き紐でも付けて結べば良いかな?」
「無茶振りの畳みかけやでーー!」
「「「もう一個! もう一個!」」」
何か楽しい、ノリノリになった雰囲気に乗って少し無茶してみよう!
手元に結界を張り、レッグガードサイズの三分割ダイヤを薄めに調整して作り出す。手馴れたモノで薄さ5mmほどの膝用・脛用・足の甲用の三枚のダイヤを一五秒ほどで作ると、手に乗せて四人の目の前にかかげる。
「これをさっきの繊維で編み込むようにして、膝と脛と足の甲を守るように配置してね! もちろん足の動きを阻害しないようにね!」
「「「「……」」」」
「あれ? ノリが悪いよ?」
急に現実を思い出したかのように笑顔を引きつらせこちらを見る四人、でもこれくらいで驚いて貰っては困る、こういう時はアレしかない……
「成功報酬に好きな形状のダイヤを追加でプレゼントするよ?」
「「「「これは夢だー! でも報酬は現実だー!」」」」
ノリが戻ったようなので最後のマントの仕様について話す事にする――マントには譲れない信念がある!
「最後のマントは肩で止めるタイプじゃなくて、いざと言う時はローブみたいに完全に体を覆える感じで!」
この世界に来てから見たマントの中で、ボクが望む完全に体を覆えるタイプのマントはまだ見つかっていない。
町の服屋や防具屋をいくら探しても……冒険者ギルドで装備している人をいくら探しても、完全に覆えるタイプはローブしか見つからなかった。でもローブじゃないんだ……折角飛行が出来るんだからローブ着て飛ぶよりマントでしょ!
肩留めマントにはボリューム感が足りない。
「良く分からんが理解したぜー!」
「「「マント最高ー!」」」
「グロウの良いとこ見てみたい! ワッショイ!」
「「「ワッショイ!」」」
「ワッショイ!」
「「「ワッショイ!」」」
高まる緊張と興奮のボルテージ、異様な空間が生まれ、どこかで見ているかもしれないイデア=イクス様に祈る。
グロウの手が赤く光りを帯びると素材を手に取る、瞬間工房を埋め尽くす閃光がほとばしる!
ボクだけ眼鏡に付いている【光量調整】スキルのおかげでその瞬間を目撃できた。素材が球体に変わり一瞬で目的の装備へと変化した。
留まる事を知らないグロウは次々と素材を手に取り、時には加熱蜜結晶を食べ、間違って加熱蜜結晶を素材に混ぜたりして……五〇分くらいで五〇セットの装備を作り上げる事に成功する。
「夢はここで終わりだ。だがオレは新たな夢を見る資格を得た! UNS【刹那の見切り】来たぜーーー!!」
「「「イデア=イクス神・降・臨!!」」」
感激のあまり涙を流しながら絶叫する四人を他所に、出来た装備を特大木の宝箱に仕舞いスマホに放り込む、間違って加熱蜜結晶が混ざったマントが一個あるけどどうしようか……
『ビックWARビーのマント』
蜜蜂の王、ビックWARビーの蜜から編まれた謎のマント。その芳しき香りは貴婦人と虫を虜にする。
(材料・製作方法不明)
:魅了(対象限定=貴婦人・虫)
なんと言うコメントしずらい物が出来上がったのか。貴婦人を魅了するのはまだ使い方がわかる、虫も一緒に来ちゃダメでしょ……阿鼻叫喚の地獄絵図が出来上がりそうだ。
一応スマホに放り込んでおく、枠上限が気になるけどまだ大丈夫、王都に付いたら冒険者ギルドで在庫になっているであろう魔晶の欠片や魔水晶を売ってもらおう。
「あ、グロウ、これ何故か二個同じ物が出来たんですけどどう思います? 寝ぼけてたのかもしれないし、何か意味が有る可能性も捨てきれないし……」
「何でも来いー!」
取り出したのは何故か二個出来てしまったダイヤの盾だ。普段使っていない方を取り出すとグロウさんに渡し――そうになって慌てて自分の手で持つ。
ボクが手を放したら洒落にならないくらい重くなるのを忘れるところだった……
「ば…馬鹿な!? カーバイン……カナタ! 絶対手を放すんじゃねえぞ!」
空気が凍りつく、先ほどまでのテンションやノリが嘘だったかのようにドワーフ組み三人は顔を青く染めボクの手に持っている盾を見つめていた。
「グロウ? 何慌ててるんだい? この盾がどうしたって言うのさ「触るな!!」え?」
「「ゴクリッ」」
盾を触ろうとしたガーネットさんの腕を引き寄せ一歩離れるグロウ、スケルスとゴヴニュの生唾を飲み込む音が妙に響く。
「カナタ、お前は鑑定眼か何か持ってるんだろ? その盾がどう見えるか見てくれないか?」
「ダイヤの盾を作ろうとしたんだから出来上がったのはダイヤの盾のはず?」
一応左目で見ると……
『カーバインの盾』
無名の神器。
(所有者=カナタ)
:???
:超重量
「ダイヤじゃなかったよ!? カーバインの盾って何! 無名の神器!?」
「この事は誰にも喋るな!! リトルエデンの為だ……素材はダイヤと言う事にしておくんだ! 良いな? 絶対だ! ここに居る五人だけの秘密だ……」
気のせいかグロウの手足が震えている?
「大丈夫ですか? 治療しましょうか?」
「ヒィッ!? 違う、コレは!」
ボクがグロウの手に触れようとすると悲鳴を上げて後ろに転ぶ、何かに怯えている様子だ。
「私には全然分からないけど……一つだけ分かる事があるさぁ!! 何カナタに怯えて生娘みたいな悲鳴上げてんだい! この子は大切な町の仲間だよ? ほら! しっかりおし! ほら、ほら、ほら、ほらほらほらほら!」
グロウに馬乗りになり、ほらほら良いながら往復ビンタを始めるガーネット……スケルスとゴヴニュは笑い『良い物が見れた。それで良いじゃないか』とグロウの手を取り引き起こす。馬乗りになっていたガーネットがそのまま後ろに倒れそうになり咄嗟にグロウが抱き止めた。
「バカ野郎! ガーネットの腹にはオレの子が居るんだぞ!? 怪我でもさせてみろ――尻に鉄槌ぶち込むぞ!」
グロウに抱っこされて満足気なガーネットは頬を染めグロウの胸にのの字を書いていた。
「詰まるところカーバインが作れたボクが異常って事ですか?」
「そうだな! カーバインと言う物質はドワーフの伝説鍛冶に出てくる神器の材料だ。そんな物を作れるって事は普通じゃないって事だ。でもそんなの関係ねーぜ! この子供が生まれたらカナタに名付けしてもらうか! 良いだろガーネット?」
そう言ってボクの肩をバシバシ叩いてくるグロウ、先ほど見せた怯えは未知の物質に対してだったのかもしれない。
「ふふ、バカみたいな鍛冶屋のアンタがここまで店を大きく出来たのは、間違いなくカナタがこの町に来たからさね……可愛い娘の名前を考えておくれよ?」
「ばっか! 息子に決まってるだろが!?」
「「まぁまぁ、どっちでも!」」
「「ふざけるなよ!?」」
スケルスとゴヴニュに掴みかかるガーネットとグロウを眺めて思わず一言呟いてしまいそうになる。
「皆仲が良いね~」
「腐れ縁だからな! オレが一番強い、証拠が嫁のガーネットだ!」
「アレは、僅差だっただろ? もう少しオレが早ければガーネットはオレになびいていたね! 絶対」
「二人とも落ち着け、この際三人でどうだ?」
「三人でどうだ? じゃねえよ! ゴヴニュぶっ殺すぞ!?」
ドワーフ三人が殴りあいに発展しそうな喧嘩を初め、呆れた顔のガーネットがこちらへ歩いてくる。
「王都に行ってくるんだろ? メアリーが下着類を大量に買いに着てたよ、無事に帰ってくるんだよ? 報酬のダイヤはその時貰うからね……クッキーとスイートポテトは先に貰えないかい?」
笑顔で催促するガーネットに、ボクはすぐメアリーへメールを送り届けてもらえるように手配する事となった。
「何か全然買い物して無いですけど、戻ってきたら普通の衣類とか買いに来ますね!」
「あぁ、頑張っておいで!」
背中をバシーンと叩かれお店の外に出る、振り返るとガーネットがお腹を擦りながら『名前よろしく頼むよ~』と大声で叫んでいた。
大通りを歩く冒険者が何事かとこちらを見るも『何だ【絶壁】か……』と呟いてそのまま通り過ぎていく。
「誤解……もうそんな事どうでも良くなってきた。もうボクは【絶壁】、全てを守る超絶の壁になるよ!」
お昼ご飯を食べる為に帰路につく、そして昼食の間中その宣言をたまたま聞いていたマーガレットに弄り倒される事となるのだった……




