第68話 早い者勝ち!触れるな危険?
川辺に陣取ったヒヨッコ冒険者達の横でのんびりと休憩を取る皆の元へ、マリヤを抱えたボクは全力で走り戻ってきた。皆の視線が痛い。
あれからまだ三〇分くらいしか経ってないしインターバルだと思えば大丈夫だよね?
ボクに詰め寄るメアリーとルナ。
「マリヤは抱っこして貰ってずるい!」
「次はうちやで!」
あ、そっちだったの? どうやらマリヤをお姫様抱っこして走ったのがいけなかったのか全員を順番に抱っこする事になる。丘の上から下品な笑い声が聞こえてくるのはスルーした。
まだ誰も戦果は上がっていない様子で、弓矢で水面の魚影を狙う者や槍で水面を目掛けて攻撃する者達を眺める。ほとんどの者は、矢を撃つ、槍を投げる、結んである紐を引っ張って戦果を確認する、また矢を撃つ、槍を投げるというサイクルでカカオマスを狙っているみたいだ。
どうやら丘に上がったのは高低差を利用して火力を上げる為かな?
丘の一番高い場所をモヒカン率いる王都冒険者達が陣取っており、ラーズグリーズの冒険者達はその少し下の崖になっている場所からカカオマスを狙っている。リリー達は一緒に丘に上がったのは良いけど場所が開いてなくてウロウロしていた。
遠くから眺めていたらリリーと目が合う、カカオモドキの事を教えてあげようと手招きすると……
丘に上がったリリー達、西門の外組みが全員降りてきた!
「上は無理っぽいの~カナタ達はどうするの?」
リリーはボクにそう問いかけた。後ろに居る西門の外組みはボクの発言を一言も漏らさないようにと聞き耳を立てている。
「えっと、とりあえず川辺から狙うしかないと思うよ? 案外ルナの投網とか結構良い線いってるんじゃ無いかな?」
ルナが先ほどから投網を投げてカカオマスを狙っている、全然違う小魚がかかったくらいでまだ戦果は上がっていないけど……
小魚は上げられた側から鉄製の串に刺されて焚き火で炙られている、どうやらルナにとってはカカオマスも小魚も取れたら同じらしい。焼けた小魚は頭から丸かじりでルナのお腹へと治まっていく、あちらの世界の川魚はそれほど好きじゃないんだけどルナがくれた小魚は塩を振っただけでも十分美味しかった。というか小魚って30cmくらいある魚の事を言うんじゃなかった気がするんだけどね。
次第に小魚を食べるスピードより捕まえるスピードの方が上がってきて、焼かれた小魚がヒヨッコ冒険者達を含む西門の外組みへと配られていく。
「こいつは大物だ! 来たぜー!!」
丘の一番上の方から声が聞こえてきた。あちらは次々にカカオマスが上がり始めているみたいだ。
「うちが一番や! ギャース!?」
ルナの大きな声が川辺に響き渡り皆ルナの方を振り向く、同時に響き渡るルナの絶叫!?
ボクは誰よりも早くルナの元へとすっ飛んでいく、停止飛行で少しだけ浮き地面を思いっきり蹴る事で水平に滑るように移動した。
ルナが尻尾を押さえて何かと格闘している? 尻尾の先にはアウラ投網から顔を出した体長80cmくらいの茶色っぽい鮭が食いついている、幸い血は出ていないようだ。
「ルナ動かないでね、すぐその魚殺すから」
「狙うなら目から脳を! 傷つけたらダメ!」
レイチェルが大声で叫ぶ。
ふむ、一瞬脳を凍らせようと思ったけど生け捕りの方が良いみたいだ。魚の口に両手を突っ込むと口を無理やり広げて尻尾から取り外す、ルナの尻尾は10cmに渡って毛がグシグシになっており本人はボクの腰に抱き付いて震えていた。
『カカオマスLv10』
あ、カカオマスも魔物だったのか!
「カカオマスを生け捕りに……私初めて生きたまま捕まえる所見たよ? 普通どれだけ上手く頭を狙えるかが勝負だからね……」
メアリーの話しによるとカカオマスは、水中を弓矢や槍などで狙い、串刺しにしたところを結んである紐で回収する漁が一般的なのだとか?
魚は基本死んだら鮮度が落ちていく、氷水で冷やしてもここから一番近いラーズグリーズの町でさえ大人が三時間歩く距離がある。生きたまま捕まえたカカオマスはかなりの値打ちになるみたいだ。
丘の上に陣取った王都の冒険者達はその場でカカオマスを開いて氷付けにしている、凍らせる為に専用の魔法使いを雇っているのかな?
「凍らせるだけの為に魔法士を連れて来ているとか、かなり奮発してますね……それより、ボスはお魚さんが怖くなっちゃったんですかー? ほらほらコレが怖いんですかー? イッ!?」
いつも道理のテンションでルナをおちょくりに来たアンナがボクの手からカカオマスをつかみ取るとルナの前に持って行こうとする、そして指を噛まれた。
「「「「「「……」」」」」」
「ギャーッ!?」
皆の沈黙と指が千切れたアンナの絶叫が一瞬時を止める……急いでまたカカオマスの口をこじ開けアンナを助けるとすぐさまアヤカが回復させる。涙目になりボクの腰にしがみ付くアンナ……
「アンナ……うちらは友達やんな?」
「すいませんでした……私が悪かったです」
ボクの腰にしがみついた二人は謎に和解を成立させていた。
「ダッセー事してんな! 生け捕りはすげえが、それだと運ぶのが手間だぜ? そっちの獣人はヒヨッコどもと仲良くやっているみたいだけどよ。そんなカス手なずけても無駄だぜ? まぁ、依頼が終わったらこっちに捨てていくけどよー」
「アンタは確か……ブルブル狼の人らだっけ?」
「震える狼だ! 馬鹿にすんなよ!? こっちにはなぁ、王都冒険者ギルドでも一二本指に入るオデュッセウスさんが付いてるんだ! 前のようにはいかないぜ」
声が聞こえてきた方向を見ると丘を降りてきた冒険者が大声でまくし立てていた。前に一度見た事のある冒険者で、あの後懲りて新人や見習いを無理やり募集するような事をしていなかったと思ったら……どうやら王都の方へ戻っていたのかそちらからヒヨッコ冒険者を連れて来たようだ。
それにしても今の発言はいただけない、ルナが腰に抱きついたまま歯軋りを始め、アンナに至っては黒鉄杉の槍を回復した手で握り剣呑な目つきでブルブル狼を睨んでいる。
「あん? お前! その手、今どうやって――」
「おい、ドロリゲス、顔見ねえと思ったら何サボってやがるんだ。こんな所で油を撒く暇があるんだったら戻ってカカオマスを解体しろ」
まずい、アンナの指が千切れた所を見られていたみたいだ。そして回復させた瞬間は見ていないのか治った手で槍を構えるアンナを困惑した表情で見つめているロドリゲス。ん? ドロリゲス?
新たに現れたモヒカンがブルブル狼の頭をつかんで引きずって行く、気のせいか……もしかしてこのモヒカンがオデュッセウスさん? 何だコレ……やるせない気持ちが!?
何か離れて行く二人が内緒話をしている、ルナがこっそりとボクに知らせてくれた。
もう丘の中腹まで登っているのにルナの聴覚は化け物か!
こっそり移動する。
「だってよお、あのガキが……」
「二度は言わねえ……それにお前じゃ無理だ。いや、そもそも――あの御方に無理言って借りたアテナが任務開始直後に王都に逃げ帰った時点で――」
「アテナ? あぁ、あのメスガキですか? こう、ツンとしたオッパイにほっそりとしたあの手足……容姿なら文句無しの満点出しますが、中身が最悪ですぜ? 逃げ帰った? いったいどういう……」
「お前は……抱けもしないガキに何色気付いてるんだ? もし抱ける歳だとしてもアレは止めとけよ? あの御方の長女様がいたく気に入ってるらしいからな、傷物にでもしたら……殺してさえくれないかもしれんぞ?」
「殺してさえ? いったいどういった状態で?」
「王家には冒険者ギルドの上を行くあの部屋があるらしいと言う噂を聞いた事がある、それにあの御方が一言声をかければ……その瞬間から王都に居る全ての兵士や冒険者がお前の敵になるぞ?」
「こえぇー、オレには過ぎた獲物って事か。そういや、王族といい高ランク冒険者といい――女は何故男より年下の女を選ぶんですかねぇ?」
「簡単な事だ。お前は自分より強い女を嫁に貰う覚悟があるか? 嫁に媚売って生きて行くなんざ俺には耐えられん」
「はぁ……つまり自分より弱い男など眼中に無いと? でもそれで女に走る理由は……」
「お前案外頭良いんだな、そこまで考えが付くならわかるだろ……自分の顔を鏡で見た事あるか?」
「詰まったところを言うと、むさくて弱い男より、綺麗な女の方がマシだと?」
今……凄く、ルナが迫真の演技を見せている。
「ってな具合に話しとるで? これ以上は雑談やね」
モヒカンとブルブル狼の会話を盗聴していたルナが、身振り手振り込みで会話内容を話してくれた。
他の冒険者には聞こえないようにと、ルナを担いでノアの箱舟までダッシュで戻り一番後ろのメッシュ状の窓から盗聴していた所で、今更ながらルナの聴覚はヤバイと言う事を思い出させる。
「ありがとうルナ、アテナって女性に何かばれた可能性があるね……鑑定系のスキル持ちだったのかな?」
「そこはもうどうにもならないと思いますよ? 帰ったら外部拠点の建築を始めた方が良さそうですね~」
ジャンヌがそう言い、ボクが前から考えていた町の外に支援拠点を置く事を考え始めている。コレは流れに乗るチャンス!
「あ、今から追いかけてそのアテナって人をカナタの魅力でメロメロ~にしちゃえば問題無いんじゃないですか!?」
「いや! 何良い事思いついたって感じの顔して怖いこと言ってるのジャンヌ! おかしいからね? 今ボクが戻ったら外部拠点を作り始めるよ~って言おうとしたところだよ!?」
ジャンヌ恐ろしい子、アンナに毒されて? 最近はルナに一緒にちょっかいを出していたと思ったら元からアンナ側の人間か!
「うち負けたくないから漁に戻るな~」
空気が読めなかったルナはそう言うと、走ってカカオマス漁へと戻っていった。
「マーガレットはどう思う? もう大分マシになった?」
「このソファー寝心地が良過ぎて困りモノですの~」
マーガレットが寝返りをうち、座ったボクの太ももを枕にしてこちらを見上げる。
「アテナ=ロウアイアス、国王陛下の一番上の娘――次期女王になると噂されるミネルヴァ様の腹心の一人で、看破系のユニークスキル持ちだと言う噂があります……あっ、ダメですよ? 確かにアテナは同性OKみたいですけどミネルヴァ様の飼い猫ですからね?」
「いやいや、そこ関係無いしそんな気も無いからね? 国王陛下には息子が二人居たよね? 何で女王?」
キョトンとした顔でこちらを見上げるマーガレットは、何か思い出したのか立ち上がり両手をボクの肩に置いた。
「こちらの世界、カナタの言葉で言うと女尊男卑ですよ? アヤカに聞きました。今の国王陛下が男なのは、強さと姉妹が生まれなかったからです」
「マジで……この世界男に厳し過ぎじゃないの? 創世神イデア=イクス様の加護って女性限定だよね」
「男はステータス補正が高いんですよ?」
「そうなのか……どっちが良いのかな~」
ジャンヌがこちらを見てソワソワしている事に気が付く、どうやら膝枕が羨ましいらしい?
「そろそろ戻ってカカオマス捕りましょう! あんな禿げに負けたくありません」
あれ? 違った。ジャンヌの闘争心に火が付いていたようだ。でもあのモヒカンさんは禿げてるんじゃなくてそう言う髪形だからね……
「ラビッラビッ!」
ノアの箱舟の外からラビニの声が聞こえた。いや、多分ラビニ? 何か騒がしいので確認に行く事にする、どうせ川辺に戻らないとダメだしね。
外に出て森の方を見るとラビニとラビサンが食事から戻ってきたようだ。ラビサンが口に緑の人形を咥えている?
葉っぱの服を着たそれは何処かで見た事があるような……
『コショウ草Lv25』
「食べちゃダメー!?」
「ラビッ」
ラビサンは元より食べる気は無かったのかボクの目の前に置いてまたラビニと森へ入っていった。
どうやらスプライトは気絶しているようだ。置いていかれたスプライトを抱き上げてみると重さが無いのか羽根のように軽い、頬を人差し指で撫でて見るとくすぐったかったのか小さな手でペシペシされてしまった。
「念願のコショウ……でもスプライト、プテレアもスプライトだったし任せたらなんとかなるかな?」
「私が見ておくのでカカオマスよろしくお願いしますの~」
寝っころがるマーガレットがそう言うとスプライトを受け取りソファーに寝かせる、逃げられたりしないかな……
「ソファーから蔓が!」
スプライトが寝かされている場所から蔓が伸び、足に絡まって逃げれないように捕獲している。
「珍しいモノを捕って来てくれましたね! コショウってあのお肉にかける高い香辛料ですよね!」
「うん、多分そうだよ。プテレアに任せる事になるけど、もしかしたらコショウも量産出来るかも?」
ジャンヌがヨダレを垂らしてこちらを見ている、食いしん坊キャラだったのか……
最近塩以外にも醤油味噌と調味料が増えてきたのでコショウは嬉しい限りだ。ただ醤油も味噌も愛姉からの輸入に頼っている現状なので将来何とかしたい所、いつか醤油と味噌をラーズグリーズの町の特産品にしたい、市場で全然見ないところを見ると材料か製法が伝わってない可能性がある。
「カーナーター!!」
ルナが大声で叫んでいる? ジャンヌを抱っこするとダッシュで川辺に戻る。手を首に絡めてくるジャンヌの頭をなでて停止飛行走法で行く事にする。
少し浮いて地面を蹴り進む――コレめっちゃ便利だ!
川辺に戻ってみるとリリーが足首を押さえてうずくまっていた。周りに人集りが出来ており心配する声が聞こえる。
「早く回復を!」
「でも――」
「でもはも無いから! 目なんて気にしなくて良い!」
足首の傷口は二本の牙で穿たれたように1cmくらいの穴が深々と空いており、声をかけても反応が帰ってこないリリー……目は焦点があっていない!?
「毒か! 【解毒F】えっ!? 効果が無い?」
「まずいぞ、多分カカオマスモドキにやられたんだ。普通の毒消しじゃ効果が無いかもしれん……」
声の方を見るとマイケルが目を抉られて死んでいるカカオマスを黒鉄杉の槍で突いていた。
『カカオマスモドキLv51』
「えぇ!? カカオマスモドキレベル高っ! その毒の症状はどんなの!?」
「痙攣から始まって意識の混濁……傷口が黒く変色していき、全身から滝の様な汗が流れて……黒が全身に回ったら死ぬ」
リリーの傷口はまだ黒くなっていない、全然間に合う!
「マリヤ何か聞く解毒薬持ってない? 何でも良い、多少の毒性はこちらで調和するから!」
「症状を遅らせる事なら多少……でもカカオマスモドキが何でこの時期に?」
時期? カカオマスモドキは通常別の期間に取れる魚なのかな……それより今は解毒しないと。
「それでお願い、血清でもあれば……!」
ふと思いつく、ボクは毒耐性Eを持っている……耐性をまったくもっていないリリーよりは多少マシだろうしもしかしたら血清を作れるかもしれない。最悪毒が回ってもブリギッドが何とかしてくれるはず……?
思い立ったら即行動、カカオマスモドキの元へなるべく他の人に不審がられないように近づきその牙を自分の腕に刺す……刺さらない。
「ふん!」
力を込めて牙を押し込むと牙が粉々に砕けたけど一応腕に傷が付いた。効果は一瞬で現れ始める、前身にゾクゾクとした悪寒が走り汗が少し流れ始めた。
「カナタなにやってるんや!?」
ルナに見つかった。メアリーが鬼の形相でこちらを睨んでいる、怖い……
「いや、その血清があればリリーを救えるかな~とか……」
「今朝自分で言った事忘れたの……?」
メアリーが無表情になりこちらに歩み寄ってくる、ちょっと口から牙が覗いている!?
「えっと……これからは無茶する時はちゃんと皆に相談するし、基本無茶しないように頑張る――かな?」
ニコッと微笑みメアリーの機嫌を窺うと……左足で地面を力強く蹴るメアリー、『ダンッ!』と川辺の小石が粉砕され凄い音が響いた。何事かと集まってくるヒヨッコ達。
「何か言う事は?」
「ごめんなさい……」
思わず土下座して謝ってしまう。丘の方からこちらを見ていた王都冒険者が数人笑いながらこちらを指差していた。思わず声が聞こえる方向に視線を向けると殺気を飛ばす……やりすぎた。丘に居た身内の冒険者も殺気を受けたのか地面に腰を落とすと顔を青くしていた。
「何余所見してるの?」
メアリーがボクの顎をつかんで自分の方へ顔を向けさせる、凄く笑顔になっているメアリー。ただ目が笑っていない……
「で?」
「ん?」
で? ってナニかな? 首を傾げたらまたメアリーの口から牙が覗いた。
「お目当ての血清? はどうなったの!」
「あれ……毒が消えてる? そう言えば血清ってどうやって薬にするんだろう?」
体調が元に戻っている、毒耐性Eランクで無力化できる程度の毒らしい。これはもしかすると?
「ナニを言っているの……自分で今やろうとした事だよね?」
メアリーの尻尾が盛大に逆立っている、後ろで様子を窺う皆も一歩後ずさる。
「良い事思いついた! ボクの【解毒F】をランクUPさせれば多分いける! 時間が無いしとりあえず試すよ!」
「それが一番良さそうだね……その他の事はまた後でね?」
メアリーが顎をつかんだ手を放してくれた。後が怖いけど今は解毒しないと、確か100MP消費くらいでEランクに上がるはず?
リリーの傷口に手を当てると【解毒F】を連続使用する。無詠唱がバレルのもアレなので口に出す事を忘れない。
「【解毒F】【解毒F】【解毒F】【解毒F】【解毒F】【解毒F】【解毒F】……」
どうやら完全に効果が無いわけじゃないらしく、Fランクでもかけた始めるとリリーの意識が戻った。
「失敗したの……ごめんなさい」
「今は良いから、それにコレも経験だよ? 致命的じゃない失敗は自分と仲間の糧となるんだよ!」
リリーの頭をルナが撫でて手に尻尾を握らせている、モフモフ……じゃなかった、リリーの体調が大分マシになっているのだろうか? でも油断はできない、予定通りEランクになるまで解毒する。
「【解毒F】【解毒F】【解毒F】【解毒F】【解毒F】【解毒F】【解毒F】……」
「ルナ、私良い事思いついたんだけど? 多分逆転勝ちできるよ?」
「なんやて!?」
気のせいかメアリーがこちらを見て微笑む……悪魔の微笑みを!?
「【解毒F】【解毒F】【解毒F】【解毒E】あっ! リリー体調はどう?」
リリーは両手両足を揺らすように動かし立ち上がる、その場で飛んだり跳ねたり蹴りにパンチに足踏みに……『ドンッ!』と川辺の石が爆ぜる音が聞こえリリーが『治ったの~』と大声で喜んでいる。
「良かった……血の気が引いたよ? 油断大敵だね、次からはむぐっ!?」
リリーがボクに飛び付き口で口を塞いで来る、それはキスとは呼べないような歯と歯がぶつかるような……子猫が親猫に甘えるような可愛らしい行為だった。
だけどその行為を見てスルーできるほど今のメアリーは穏やかでは無かったらしい。
「うん、大丈夫だよ? 私は平気だから、それにリリーは将来有望だしね~ルナ!」
「うちは……カナタやし大丈夫やで!」
メアリーがそう言うとルナがアウラ縄を持ってボクに近づいてくる? あ、カカオモドキ使えば逆転も出来るよね。
「これカカオモドキって言ってカカオマスの好物らしいよ? これを川に投げ入れてそこに投網投げれば一網打尽だよ! ん? なんでボクにアウラ縄結んでるの? ルナ?」
無言でアウラ縄をボクに結びつけるルナ、伸びた縄の先を持ってラビイチの胴体に結びに行った。
「メアリーさん~? ほらこれ、いっぱい採って来たよ? えっ? なんでカカオモドキもボクに結び付けてるの? アンナ? ジャンヌ? あれ……アヤカ何笑って!?」
アンナとジャンヌがアヤカと一緒にこちらを見て笑っている?
「アヤカの見立てによるとカカオモドキもカカオマスもカナタにダメージ与えられそうに無いし……今毒耐性がDに上がったみたいだから毒すら克服できてるわよ?」
「どういう事?」
握り拳に親指を立て『グッドラック!』と叫ぶアヤカ、嫌な予感しかしない。
アウラ縄をラビイチに結び終わったのかルナが戻ってくる、ルナなら何とかしてくれるはず!
「ルナ~ノアの箱舟の中で尻尾の毛づくろいしてあげようか?」
「また後で頼むで!」
そう言ったルナはボクを両手で持ち上げると川に向って歩いていく、もう自分がどうなるか理解出来てしまった。
「メアリー! 生餌とかちょっと酷くない!? ほら惨酷だとか騒ぐ団体が――」
「無傷で戻ってこれるってアヤカが言ってたから問題無いよね?」
「あ、う……」
微笑むメアリーのその笑顔は、それ以上ボクに何も言う事を出来なくさせた。自分のクランの盟主を生餌にすると言う狂気の沙汰を見た他の者達はドン引きしている、丘を見るとモヒカンと目があった。
そらされた!? 右手で十字すら切っている……
「ルナァぁぁぁぁぁー」
「グッドラックやで!」
ルナが思いっきりボクを川へと投げ込んだ。一瞬停止飛行しようかと思ったけど人の目が多過ぎる……
あっという間に水面に叩き付けられて咄嗟に結界を張ろうとして思いとどまる。これは結界張ってカカオマスが近寄ってこなかったら……何回も投げ込まれる気がする!
諦めて川底を眺める、思ったより透明度が高くくっきりと茶色い川底が見えた。川底からはこちらを見上げる生気のこもっていないような虚ろな目が多数……!?
川底が動いた……と言うか川底じゃなくて全部カカオマスかヨ! さすがにコレは無いは……
全力で川岸へと泳いで戻る、後ろを振り向くとかなりの数のカカオマスが追ってきている。捕まったら肉体的ダメージは無くても精神的にクル可能性が高い。
「ゴブォ!?」
足に甘噛みされたようなこそば痒い感触が? 視線を向けるといつの間にか体長1mくらいの茶色い鮭が足にかぶりついている、さすがに両手が使えないと泳ぐのも大変で追いつかれた!
もう四の五の言ってられない、停止飛行を使おうと水面から顔を出し……目の前にアウラ投網が広がる光景を見る。
次々とかぶりついてくるカカオマス……ドクターフィッシュってこんな感じがするのかな。
投網でカカオマスごと捕獲されたボクは、ラビイチが引っ張るアウラ縄に手繰りよさられるように川岸え引き上げられていった。
この作戦、ボクの息が続くかどうかを考慮されて無い気がする。意識が飛びそうだよ……
ボクは皆の声が聞こえたような気がして手を伸ばすと、伸ばした手にもカカオマスが殺到し全身甘噛みされながら意識を手放した。




