第6話 おいでませ、異世界へ
満天の星空を上昇して行き、あまりの高さに気絶して……気が付くとそこは異世界でした。
「半端無い、普通転送って言ったらワープとかするよね。途中から足が生まれたばかりのバンビちゃんだったよ」
地面に仰向けに寝たまま思わずつぶやく、体を起こし正面を見ると見渡す限り一面に高さ10cmくらいのペンペン草に良く似た草が生えている。地平線が見えるくらい何も無い。平成生まれで地平線を見た事がある人は、北海道の一部に住んで居る人以外ほとんど居ないんじゃないだろうか。
後ろを振り返ると100mも離れていない場所から薄暗い森が広がっていた。ちょっとビビッて森からさらに400mは離れる、眼鏡をかけて左手にスマホを右手にエアコンのリモコンを持って全力疾走だ。
多分人生初の全力疾走だったと思う、金メダル狙っちゃうレベルで全力疾走したよ! 全裸で……
「何でそのまま全裸なんだよ! 防御力低いってレベルじゃない。天使御用達の服貰ったはずだけど何も持ってないんだよね」
思わず叫ぶ、まえ読んだ本に強烈な精神的衝撃を受けた時、人間は自己の主観を取り戻そうとする為に、色々な逃避・代謝行動を行うと書いてあったけど、まさにソレだね! 独り言。
スマホのカバー(手帳型クリア色)に挿んであったおつかいの内容と装備の説明書を取り出し広げて見る。
『僕より、彼方へ』
いかがお過ごしでしょうか? 転送とは早いものです、彼方との語らいがついさっきの様に思えてしまいます。今の心境をこの紙いっぱいに書き連ねたい気持ちは山々ですが、仕事をすっぽかすと恐い上司に磔にされそうなので初回のおつかい内容をコピペしたいと思います。
1.初回のおつかいはいわゆるチュートリアルとなっておりますので指示に従って進行してください。開始地点は周囲1km以内には敵性生物が存在しない安全地帯にランダム転送される仕様となっており、安心してお進みいただけるようになっております。
2.まずは服を着よう! 運が悪い方は極端な猛暑や極寒を味わっておられると思いますが、天使御用達の服を着れば少しはマシになるかもしれませんよ? 初回開始時には全員へ使い切り恩恵スキル【ギフト(天使御用達の服)】をプレゼントさせております。スキル名を叫んで現れた箱から服を取り出し着用してください。
※ネゴシエーターよりアイテムを貰った方はここで装備する事をオススメします。なお()内は種類判別の為の表示であり叫ぶ必要はございません。
3.服を着て一息ついたところでお待ちかねのステータスを確認してみましょう。ステータスオープンの掛け声で脳裏に自身のステータスが表示されます、スキルの説明などは専用のスキルを使用しない限り簡易版で表示されるのでご注意ください。なおステータス表示やスキル使用には必ず声を出す必要があるので注意してください。
4.さぁ、冒険の始まりデス。1kmの境界線を超えるとそこはもう弱肉強食の異世界が広がっております、自身の身の丈に合った敵を五匹倒してみてください。
※五匹の内訳によっては次回転送時にボーナスアイテムを手に入れる事が出来ます。
5.ここまでくればそろそろタイムリミットも迫って来ていると思われます。時間がもう無いかたは周囲の安全を確認しながら転送を待ちましょう。
まだまだ余裕だゼ! という方は次項へお進みください。
6.自由気ままに冒険をしよう。初回召喚時に六時間の制限がかけられているのは、まず慣れる事を目的としている為で有りこの項目まで進める事が出来た一部の勇者候補様にはさぞ不満である事でしょう。
そんな貴方の華々しい歴史の一頁をたったの六時間で終わらせてしまうのは私たちの本意では有りません! 互いの幸福の為に出来る事は何でも行いましょう。制限を解除する魔法の言葉を御用意いたしました! さぁ勇者として活躍する栄光の未来を手に掴む為に声高らかに宣言しましょう!
魔法の言葉は『もう帰りたくない』です! さぁ一緒に栄光の未来を目指しましょう!
僕が思うに項目4.があるから転送事故死率が五〇%を下回らないんだよね。by天使
よし、途中で突っ込まずに読み終えた。天使のおかげで突っ込みを抑制する力が大幅に上昇したようだ。でももう駄目だ、突っ込まずには居られない!
ルビはもう気にしない、ぱらだいすで結構。コピペの最後に書いてある天使の一言も許そう、実際その通りだと思う。
「ただし項目6.テメエは駄目だ、『効率良く搾取するには・初級編』に書いてあった罠ワードそのままじゃないか! これ言っちゃうと物扱いになっちゃうYO」
勇者候補とか華々しい歴史の一頁とか持ち上げて、勇者として活躍する栄光の未来を手に掴む為にとか煽っておいてどんな罠だよと思う。
そろそろ一人で寂しくなって来たので2.から順番に5.まで進めようか……ここまで全裸だしね。
「ギフト!」
目の前に現れた箱は側面の表示が目まぐるしく入れ替わる、いかにも殴る・蹴るするとアイテムが生えてきそうな箱だった。頭の中で効果音を再生しながら箱を叩いてみるとさっき天使が着ていた系の服が出てきた。異世界のスタンダードは良く分からないけどこれ目立たないのかな? 着方がいまいち分からず途方にくれそうになるが羽織ってみる。
「あ、んっ、自動で装備者の体格に合う状態で装備される謎テクノロジー……これは魔法かな?」
自動で巻きついたから思わず変な声が出たよ! 男の変な声とか誰も喜ばないよね!
予想以上に軽くて動きやすい、そこそこ分厚めの生地でコスプレと言うより民族衣装系だ。天使に改造して貰ったアイテムはもう装備している事になってるみたいだしお待ちかねのステータス確認だね!
「ステータスオープン!」
名前:彼方=田中
種族:人間 年齢:17 性別:男 属性:無
職業:自由人 位:無し 称号:無し ギルドランク:無し
レベル:18[1+17]
HP :119/119[100+1+18]
MP :119/119[100+1+18]
攻撃力:1[1]
魔撃力:1[1]
耐久力:5[1+4]
抵抗力:5[1+4]
筋力 :18[1+17]
魔力 :18[1+17]
体力 :18[1+17]
敏捷 :18[1+17]
器用 :18[1+17]
運 :NORMAL[1]
カルマ:0[0]
UNS
:【魔力の源泉】
EXS
:【生存本能】
スキル
:【生存の心得F】【治療F】【解体F】
装備品
武器 :無し
盾 :無し
兜 :無し
仮面 :特殊防弾ガラスの眼鏡[耐+1抵+1]【簡易鑑定】【光量調整】
服 :天使御用達の服[耐+1抵+1]【浄化S】【自己修復S】
鎧 :無し
腕 :スマホ[耐+1抵+1]【簡易アイテムボックス】【発展】
腕 :エアコンのリモコン[耐+1抵+1]【空気調和】
靴 :無し
その他:無し
初期レベルが高い、その割りにステータス低くないかな? 名前が先で苗字が後か。カッコの中の数字は何かな? 17が多い所を見ると年齢がステータスに関係してる? 職業が自由人ってフリーター扱いになるのかな。一式スキルの効果が知りたい、簡易鑑定で見れるのかな?
『【簡易鑑定】対象の名前が分かる』
「言葉に出してないのにスキルが発動した? 【簡易鑑定】だからかな、それとも条件があるのか」
『【魔力の源泉】魔力があふれてくる』
どうもこれは【簡易鑑定】じゃなくて簡易版のスキル説明みたいだ。
『【生存本能】生き残る為の本能』『【生存の心得F】生き残る為の心得』
よく分からないけどパッシブだしこれは良い物だと思う。惜しむべくは【生存戦略】が取れなかった事かな?
『【治療F】簡単な傷を治す』
どこまで治せるかが気になるけど自分で試すわけにも行かないし、いざと言う時効果がどれほどか分からないと不安だ。見返りを求めない辻ヒーラーとして効果の程を検証するしかないね。
『【解体F】小型の獲物を解体できる』『【光量調整】光を自動で調整する』『【浄化S】新品同様に保たれる』『【自己修復S】かけらでも残る限り修復する』
解体は小型限定なのかな? 他も簡易スキル説明で十分どんなスキルか分かる。自己修復Sが凄い、かけらが有れば良いのなら修復時間がどれくらいかによってはなかなか凄い事ができそうだ。まっぷたつにしたらどうなるか試してみたくなる。
『【簡易アイテムボックス】二つまでなら何でも収納可能』
これは一見劣化アイテムボックスな残念スキルに思えるけど、二つがどこまで許容範囲が広いかによっては本家を超えるんじゃないだろうか? 本家の説明が見れないのが悔しいけど、アイテムボックスと言ったら生物は入れれない原則があるはず! 詳しい説明が見たい、鑑定スキル取っておけば良かったと少し後悔。
『【発展】成長する』
これは間違いなくチート! 最終的に『ボクが考えた最強のスマホ』になるんじゃないかな? 装備分類が腕だから武器なのか防具なのか良く分からないけど。
『【空気調和】一定空間の空気調整をする』
思いがけない良いスキル、まさか異世界でエアコンがある生活が出来るとは……女神様の勘違いに感謝! 間違いを正さなかったボクの勝利だね。
さて、恒例の突っ込みタイムだ! UNSとEXSにスキルレベルが無い、装備に付与されてるスキルには付いてる物と付いてない物がある。ココから導き出される結論はUNSとEXSにはスキルレベルが存在しない、つまり……
「天使どんだけ無茶してんだよ!! 才能が過去最高の7でも色々とってUNS一個EXS一個なのに、どうやったらどっちのレアスキルか分からないけど五個も付与出来るんだよ! 『世界に存在する力』がほっとけば馴染むとか言ってたけどこれボクの力が枯渇して無いのか」
大声で叫んだら少し落ち着いた。さっさと弱そうな敵5匹倒して休憩しようかな。
「初めての相手はなるべく怖くないやつが良いよね、スライムとか小動物的なやつを希望するね」
草原を見渡す限り生き物はちっさい虫か時々飛んでる小鳥みたいなのしか居ない、小鳥みたいなのは翼が二対あるがこっちを気にもせずチョンチョン鳴いて上空を飛んでいる。
『チョンチョン』
いきなりターゲットカーソルみたいなやつと名前が表示されて思わず逃げそうになる。
「装備に付与されてるスキルは意識したら自動で発動するみたいだ。チョンチョン鳴いてるからチョンチョンか……誰が名付けたのか問い詰めたくなる」
またまたつぶやきながら森へと足を進めようと思い振り返るとソレは居た。