第60話 緊急依頼その3?消えたモウモウの謎!
昼時を過ぎ流石に休憩無しじゃ体が持たないのと、西門の外に愛姉が現れたとの報告を受け各自交代で食事休憩を取っていた。
冒険者ギルド前の超硬化済みかまどにて炊き出しが行なわれている。プテレアからカナタ芋の蔓が提供され小麦粉に愛姉が持ち帰ったお土産の葱味噌を混ぜ練って作った水団と時忘れのアラで出汁を取った即席汁は大好評で、見るからに怪しい緑の人……プテレアが葉のドレスを着て歩き回っているのに誰も文句を言わない。それどころか『【絶壁】のクランは有能な人材が多いな~』とか言い出す始末だ。
どう見ても人じゃないのが混じってるけど良いのかな?
カナタ芋の蔓を仕入れようと交渉を持ちかけてくる商人をメアリーに任せ愛姉に話しを聞きに行く事にする。
戦力を有る程度分散させてどこの門に敵が来ても対応出来る様に、今回はアヤカとルナとアンナが付いてくる事になった。何故かマーガレットが尾行してきているのは無視する事にした。
西門外に出来た砦に移動する最中、ルナに見つかったマーガレットから今回の緊急依頼の詳細を聞く事になる。
今回の緊急依頼は早い段階で対応がされた事で被害は最小限に抑えられたらしい……最小限、その言葉の裏に数名の犠牲者が居る事を知ってやるせない気持ちになった。
犠牲となったのは今日の北門番をしていた老冒険者一名だ。その場に居合わせた別の町から来た臨時冒険者のPTは再起不能の怪我を負い、老冒険者と一緒に番をしていた見習い冒険者とその臨時PTに付いて来ていた新人の子供が一名冒険者ギルドへと報告に走り何とか対応が間に合った。
臨時冒険者PTのメンバーは初め死んでいると思われており、ルナが気が付かなかったら焼かれていたかもしれない。怪我を治療するにも他の町のギルド登録者なので完治させるとまずいと、マリアの政治的判断によりギリギリ歩けるラインまでしか治療をおこなえなかった。
老冒険者は一ランク特進して遺族に特別報酬が払われるらしい、遺族に対する補償が特別報酬の名目なのは最後まで冒険者としてギルドに貢献し町の安全を守ったからだそうだ。対して臨時PTのメンバーは別の町から来た事もあり、付いて来ていた新人の証言と大型依頼登録時の名前を元に自分達の町へ戻らないと特別報酬が出ないらしい……早々と自分達の町へと戻っていった臨時冒険者PTの者達、他人の事にまで気を使う余裕が無くなり置いて行かれた新人の子供。
涙も枯れ果て冒険者ギルドのカウンターで惚けていた男の子をルナが引っ張り出し昼ご飯を食べさせていた。
色々考えながら歩いていると、西門まで辿り着いていた。今日の西門番は元々ガトーさんだったみたいで、陽気に話しかけてくれる。けど何処か寂しそうな顔をしていた……あと名前聞いてないけどあの男の子も緊張でガチガチになり泣きかけているけどちゃんと門番してました。
西門の外、愛姉が作った砦は林を侵食し始めており、町の壁から直接砦まで壁が繋がっていて壁の外側には黒鉄杉が使われている。もしかしてこのまま林を狩り広げ、地面に石材を敷いて町を広げて行くのかもしれない。アウラが開拓期がどうのと言っていたのはこの事だったのかな?
西門の外、砦の前に土下座をする愛姉が居た。いつからそうしているのか分からない、生えてきたラビッツが土下座する愛姉に体当たりをして、逆に傷つき死に掛けている……
「愛姉? 何してるの……」
「面目次第も無い……」
それだけ言うと顔すら上げない愛姉、この様子じゃ愛姉がモウモウを呼んだわけじゃないみたいだ。
「顔を上げてお話ししようね、今回の騒動はまだ終わってないし愛姉が連れて来たわけじゃないんでしょ?」
「私がそんな事するはずが無いよ……多分死の荒野に新たなダンジョンが生まれたからかな?」
顔を上げ普段通りに戻った愛姉、立ち直りの早さが早過ぎてそういう振りでもしていたのかと疑いそうになる。
「新たなダンジョンが生まれると魔物が移動してくるの?」
「自分が住んでた場所が無くなるんだから移動するしか無いよ? ダンジョンが生まれると一切合財周囲の物を食べてしまうからね~」
今なら一番乗りで新しいダンジョンを美味しいとこ取り出来るのかな? 今回の騒動が終わったら行ってみても良いかも知れない。
「ちなみに安定期に入るまで新ダンジョンには近寄れないからね? ちゃんと確認したら冒険者ギルドにも連絡するから、今の所帰らずの森を越えるようなPTは居ないから大丈夫だけど……ダンジョンに食われるよ?」
「了解……」
顔に出ていたのか愛姉に釘を刺される。
「あいらびゅ~う」
少しずつ近寄ってきていた愛姉が口を尖がらせ飛びついてくる、咄嗟に体が動き避ける。こちらを恨めしそうな顔で見つめる愛姉。
「何で避けるのかな?」
「体が勝手に?」
愛姉が両手を広げゆっくり歩いてくる、ボクの鼓動が早くなる?
「西門は任せてね? もう暫くは戻らずにここに留まって町を広げるから。隙あり!」
「い、嫌っ! あれ?」
不意に抱きついてくる愛姉、何故か自分の口から悲鳴に似た声が出て愛姉の手を振りほどく。
「カナタ……どうしたの? カナタの大好きな愛姉だよ?」
「ヒッ、違うの、嫌……」
手を繋いでくる愛姉の手を体が勝手に動き振りほどく、心臓の鼓動が自分でも怖いくらい早くなっている。
「貴女が魔王ね? これ以上アヤカのカナタに近寄らないでくれる? どう見ても拒否られてるからね! 大方……無理やりえちぃ事でもしてカナタに拒絶反応を植えつけたんじゃないの?」
アヤカが抱き締めてくれる、安心する……ルナが愛姉を警戒し始めた。うろたえる愛姉、言われて見ればそうかと思い納得するボク。
「大丈夫だよ? ボクは愛姉の事嫌いになったりしないからね! ヒッ」
「いや、だって、そんな……」
愛姉の伸ばした手を避けアヤカの背に隠れる、冗談のつもりは無いし本気で体が勝手に動く……
「分かった? 会いたい時はアヤカを通してくれる? 私は崎守彩夏、私の鑑定で見えない人は初めてだけど貴女日本人よね? カナタとどんな知り合いか知らないけど暫く離れていた方が良いんじゃない?」
「……時間がカナタを癒してくれると信じてるよ」
こちらに伸ばした手をそのまま握り愛姉は引き下がった。
アヤカが愛姉の手を引っ張り砦の影に連れて行き何か話している?
「……の魔法を……教え……自分の立場を分かって……経験を積めば……愛してるわよ?」
遠くて聞こえないけど何かアヤカが愛姉を強請っている気がする。あ、スキル分与の魔水晶を愛姉がアヤカに渡した!
「お待たせ~さっさと戻って大きいモウモウを探しましょう~」
「リリー達も会いたがっているから、いつでも遊びに来て良いんだよカナタ……私は隅っこで見ているから」
何を強請り取ったのか知らないけどアヤカの機嫌がすこぶる良い、対照的に少し煤けて見える愛姉。ルナは終始警戒を解かなかった。
念の為、早歩きで中央広場に戻ってきたボク達は、西門は警戒しなくて良い旨を皆に言い。ギルドから北門と東門の警備を強化するように伝えて貰う。
「それにしても大きいモウモウはどこへ? そんな大きいサイズなら絶対すぐ見つかると思ったんだけど……」
「案外もう帰ったんじゃねえか? そんな事より【絶壁】、イデアロジックがまだ出てないんだが……いや、別に催促してる訳じゃないんだぜ? 前はアレだけ出ていたイデアロジックが、今日は一つも出てない様だから体調でも悪いのかと心配してだな……」
警備から帰ってきたオルランドは仕切りにイデアロジックの事を心配している……残念だけどもうスキル【黄金率】は効果無いんだよね!
余程の強者を解体すればイデアロジックは落ちやすいみたいだけど、さっきのキングモウモウは落とさなかった。
「アレはレアスキルの効果でもうそのスキル切れたから、多分皆と同じくらいしか出ないよ?」
「はぁ? え、ちょっと待ってくれよ……いや、ほら、だってそんな? オレのハーレム計画が……」
顔を両手で覆い両膝を地面に付きぶつぶつと独り言を言い始めるオルランド、背後からその背を見つめる視線がある。言わずと知れたアンジェリカだ……いつか刺されるんじゃないかな?
「まぁ、美味しい水団汁でも食べてアンジェリカと話しあった方が良いよ? 勝手に嫁増やしたら普通なら大変な事になると思うから……」
ボクは視線をオルランドの後ろへ固定しながらオルランドに諭す、その意味を理解したオルランドは『あぁ、ありがとう……』と呟き二人分の水団汁を持ってアンジェリカの居る場所へ歩いていった。
「何かこう……キュピーン! 隠れた敵の気配がする! とかそんな感じのスキルか魔法でも無いのかな~」
「燃費が超悪いオリジナル魔法なら有るわよ?」
「そうそうそういう魔法が……有るの?」
さっきも食べていたのに水団汁のお代わりを食べているアヤカが普通に答える。
「アヤカが初めてオリジナル魔法の事を知って作った魔法よ……正直もう二度と使いたく無いわね。MPが無くなった時の倦怠感と言うか喪失感はもう二度と味わいたくないわよ」
「燃費とか何とでもなるので是非教えて! どんな感じなのか教えてもらえれば自分で作るから」
よく考えればアヤカはこの世界で今の歳まで過ごしてきたんだから、ボクの知らない事をいっぱい知っているはず。愛姉ももしかしたら聞いたら教えてくれたかもしれない。
一番近くにアヤカとか愛姉とか魔法に詳しい人が居るのに聞くと言う発想が出なかったのはボクの驕りだったのかもしれない、もっと仲間を頼っても良いのかな?
「使うのは無理だから説明ね、MPを薄く延ばして広げていく感じで……カナタって結界張るの上手いけどどうやって空間を認識してるの?」
説明の途中で何故か結界の話しが出てきた? 空間を認識って? 結界は結界だよね……
「普通に結界をどこに張るか目視して……あれ? そう言えばどこからどこまで張るか考える時、普通に空間を認識しているのかも? 空間ってそういう意味だったのか! これでベヒモス袋が作れるかな、後で試してみよう」
「ふ~ん、カナタは天然魔法使いなのね。魔法使いには書物や口伝で使い方を覚え機械的に繰り返す事で魔法と使うタイプ……普通はこちらね、と自分の感覚や知識で使い方を覚える天然魔法使いがいるわ。世間一般では前者が多いから、あまりその事を言いふらさない方が身の為よ? やっかみの元だから……」
過去に何かあったのだろうか? アヤカは少し寂しそうな顔でそう言い何処か遠くを見つめている。
「何でも無い。それで! MPを薄く延ばして広げていき自分の領域を作る感じ? 調べたい方向へそっとその領域を延ばしていくと良いわ。注意点はこの方法はソナーみたいなモノだから感が良い相手だとこちらに気がつかれる恐れが有る事よ」
言い直したアヤカは顔の前で手を振り何でも無いと言い少し恥ずかしそうだった。
「やってみるよ!」
魚群探知機の様な感じなのかな? テレビで見た事あるイメージを正確に作り出す、でも魚群探知機は海面下を探る物だ……ゲームで良くあるレーダー的な方が使いかってが良さそう? イメージを修正していく、蝙蝠のように超音波を放ち返って来る音で場所を感知する感じかな? 全方位に向けて薄い魔力の波を放つイメージを作り上げる。
「イメージは出来たよ、今から使うから見つけたらダッシュで向うね。サーチロケーション!」
見つけた! 一瞬で広がった魔力の波は当たった生き物の魔力の大きさをサーチし報告してくれる、範囲は町の中いっぱいがギリギリみたいだ……町の中!?
「ヤバイ! 町の中に進入してるかも、反応を見つけたけど……どうしたの皆?」
静かになったな~と思っていたら周囲に居る人が全員ボクを見ている、家の窓を開けてこちらを見ている人も居る? 隣に居たアヤカも大口を開けてボクを見ていた。
「カナタ……今何したの?」
「薄い魔力の波を全方位に向けて放って当たった生き物の魔力値を確認したんだけど?」
「おばか! ……説明不足だったようね。この方法だと相手に探している者の位置がばれるのよ。カナタが馬鹿みたいに魔力を込めて使うから、関係無い一般人まで何か感じ取っていたみたいだし……まず間違いなく探している事がばれてるわね。それで場所は……えっ? 町の中?」
惚けるアヤカと皆を連れて走り出す、目指す場所は何故かリトルエデン本拠地だ。
「どういうわけか大きいモウモウはリトルエデン本拠地にまで侵入してる! プテレアが居るから平気だと思うけど隣には宿があるんだし急がないと!」
全力で走る、途中息を切らせたアヤカとマーガレットを小脇に抱え何故か背に乗ってくるルナと『ずるい……』と呟くクラン員を連れて。
ロッズ&マリアン亭の隣、ボク達のリトルエデン本拠地の壁に1mくらいの大穴が開いている。
どういう事なのか分からない、相手は大きいモウモウのはず? 魔力の強さから見て強力な魔物がここに居る事は確実なのに……
穴をくぐって丁度プテレアの畑の前に辿り着いたボク達は想像を絶する光景を目の当たりにする事となった。




