第54話 お仕置きだ~べ~!失敗は成功の母?
朝食を終え、ボクが一足先に一人で向ったのはギルド倉庫だ。
ドッペルリングを使いリリーの姿を借りて早足に向う。脇目も振らず歩く姿に道行く人達は振り返るが【脱兎】のおかげで姿を捉えれる者は居ない。リリーには今度美味しいサツマイモ料理をご馳走しよう。
何故リリーの姿かと言うと、秘密裏にスマホの中身を一切合財整理整頓する為には、広い場所と他人に関与されない場所が必要だった。
条件に当てはまるのはギルド倉庫とクラン本拠地の家、だけど家で中身を全部広げると置き場に困るし、再び収容する事になりそうだったのでギルド倉庫にした。
初め見た時は何も無い広い部屋だった倉庫は棚が出来ており、薄暗い部屋の中、壁際に出来た棚にはミイラになったラビッツの頭が一杯並べてあった……
「怖過ぎる……灯火を使ってなかったらチビルところだったよ!」
「こんな風になるんですね~私初めて知りました」
ミイラになったラビッツの頭からは、ラビッツ草の種と思われる拳サイズの種が顔を覗かせている。
これがルナの言っていたラビッツを進化させる食べ物? ラビッツ草よりもこっちの方が良いらしい。
ミイラを手で割って中身の種を取り出し、順番にフェイクラビッツのバックパックへ放り込んでいく。
ロッティが手伝ってくれると言うので連れて来たけど、キョロキョロ見回しているだけだ。
何か鼻息が荒いし、ヤル気あるのかな?
ロッティはミイラを一つ取ると手を滑らせたのかそのまま地面に落としてしまう。
地面に落ちたミイラを右足で踏み、中身の種が転がり出てくるがロッティはそれすらも踏みつけた……
「ロッティ……何やってるの?」
「手と足が滑りました。これはお仕置きですよね!」
地面に両手両膝をつき四つん這いでこちらにお尻を向けてくるロッティ……
「そう……」
親しい中にも礼儀有りとは違うけど、人間やって良い事とダメな事があるよね……
ルナは種が出来るのを楽しみにしていた。ラビッツの引く馬車に乗せてくれると約束してくれた。今でもラビッツを狩る時、必ず首を一発で飛ばし頭を大事そうに回収している。
ロッティはルナの大事な種を踏みつけた……それも何を勘違いしているのか嬉しそうに笑顔でだ。
片膝立てでロッティのお腹の下へ膝が来るように移動すると、ガッチリホールドする。
「今日は蜜瓶を取りに来るだけの予定だったんだけど、ルナが種がそろそろ出来てるって言ってたのを思い出したから……全部回収して今日戻って来たルナを驚かせようと思ったんだよね」
「そうなんですか?」
ルナもラビッツの従魔を欲しそうに見ていたけど、ボクとレッティとアンナの三人の騎乗用にとその事を口に出さなかった。それにサーベラスと仲良くなって一緒に走っていたので我侭はダメだと思ったのだろう。サーベラスと一緒にラビイチを撫でるルナは凄く楽しそうに笑っていた。
「超えちゃダメなラインってあると思うよ? 人の幸せを踏みにじるとかね……」
「えっと、あの、その……」
ようやく自分が何をしたのか気づいたロッティは逃げ出そうとする。でもそんな事はさせないよ?
「知ってる?」
「なにをですか? あの、離してくれませんか? そろそろ休憩が終わりなので……」
「人間のお尻は、体の中で一番脂肪がぶ厚いらしいよ?」
「へぇ~」
何の事か理解していないロッティのメイド服を捲し上げると、中に着ていた天使御用達の服を下着ごとずらす。
「何で……服を捲くるんですか?」
「狙いがそれて変な所を叩いたら可哀相じゃない?」
「はぁ……」
「それにまだ仕事残ってるのに真っ赤なメイド服でお仕事したくないでしょ?」
「!?」
自分の運命を悟ったのか突然もがきだすロッティ、そのまま左手で胴体を押さえて右手を思いっきり振りかぶる。
「大丈夫、ちゃんと振り抜く様な事はしないよ? 振りぬいたら死んじゃうかもしれないしね……表面で止めるから安心してね?」
「ごめんなさい! ゴメンなさい! 御免なさい!」
振り下ろした右手はロッティのお尻を弾き再び振り上げられる。
「――――!? ――――!!」
「まだまだ行くよ? 力加減がわかったから次から連続で打つね?」
声なき絶叫を上げるロッティ、お尻の肉が少し弾けたけど治療ですぐ治す。力加減は分かった、次からはちゃんとギリギリで止める。
打つ、打つ、打つ、部屋に響き渡る肉を打つ軽い音。
「あ゛う」
ロッティの口から嗚咽が漏れ始める。
「思ったより大丈夫でしょ? 打ってすぐ治療しているからね。まだまだいけるよ?」
目鼻口と色々なところから汁を飛ばしボクの膝にすがり付くロッティの両肩を持ち、顔を合わせてお話しをする。
「どんな趣味趣向を持っていてもかまわないよ? 個人の意思や自由……性癖は尊重する。ただし……他人を、身内を悲しませるような事はダメ。絶対ね?」
「ご、主人様、もうしわけ、ございません。わた、しは改心いたします。ゆるして、ください」
歯の根があっていないロッティに治療を施し抱き締める、背中を撫でて落ち着くまでそのままで居ると……
「嫉ましい……」
ハンカチを噛み締めるマーガレットが扉の隙間からこちらを見ている……超怖いデス!
「えっと……マーガレットも叩く?」
「……結構ですの」
ブルリと身を振るわせたマーガレットはロッティの首根っこを掴んで歩いていく。
「ロッティは悪くないよ、ちょっと欲望が勝っただけだと思うから……あまり怒らないであげてね?」
「これ以上どう怒れと言うんです……休憩時間が終わっただけですの」
本当に休憩時間だったロッティを連れてマーガレットが戻っていった。
とりあえず床と色々汁の付いた手足を浄化・清掃してスマホの中身を整理する。リバイバルニートはボク専用だと言っていたけど、眷族相手になら使える可能性があるので後で姉妹さんに試してもらおう。
特大銀の宝箱に時忘れの肉が入った壺とブレードラビッツの肉を入れた壺を入れて、食料専用の入れ物にする。
イデアロジック(絶倫)は……使う事は無いと思うけど、空の魔水晶が欲しいので使っておく。
メタルギアリキッドは使い方が分からないのでとりあえずそのままスマホに放置だ。これを原料にはぐれニートが作れるみたいだけど穀潰しは必要無い。
「あれ――世界樹の種が無い!? まずい……」
「カナタ~こっちの用意出来たよ?」
狩りで得た収穫物用のギルド倉庫から荷物を出し終えた姉妹さんが呼びに来る。世界樹の種は確かにスマホに入れたはず、落としたとしたら自室か――プテレアの畑の下かもしれない?
今から向うのでプテレアに捜索願いを出そう。プテレアはクラン本拠地内なら蔓をウネウネ動き回らせる事で、大抵何でも出来るみたいなのですぐに見つけてくれるだろう。
姉妹さん達と一緒に冒険者ギルドを出ると、従魔待機スペースに置いてある荷車を確認し、見張っていてもらったと思われるスラムの子供に、報酬として蜂蜜入りの試供品パンを三個持たせる。少し焼け焦げの跡があるので今回配られなかった朝食の残りのパンだ。
妹さんが本来の報酬である銅貨を5枚渡すと、元気良く手を振って西門の外へと向かって行った。
割と短時間で銅貨5枚、一食分だと思えばかなり美味しいのかもしれないけど。
積荷が剥き出しのビックWARビーの蜜瓶で、それも大量に乗せてあるとなると……
子供を疑うわけじゃないけど危なくないのかな? チンピラとかに絡まれて取り上げられたら大変だと思って聞いてみると。
「あの子はレベルだけなら私より上ですよ? それに冒険者の荷物を……それも冒険者ギルド前で盗もうなんて者は長生き出来ないでしょうね……」
「マジで……西門の外に向かって行ったし、まおうさんのロッジに住み込んでいる子達かな?」
「最近有名な何でも屋の子ですね」
姉によると身分証明に冒険者リングを参照させて自分の身を保障すると言う、普通は実力を隠す冒険者の逆のやり方で着々と顧客を増やしている何でも屋なんだそうだ。
借り物の荷車に大量搭載された蜜瓶を確認し、幌を被せる。
「カナタ~何してるの?」
「こうすると一つの物扱いでスマホに入れれるんだよ」
「いいな~」
左手を撫でながらじっと見つめる妹さん。後でスマホの子機を増やしても良いかも知れない、何個まで作れるかの実験もしとかないとダメだしね。
姉妹さんとそれぞれ手を繋いで家に戻る、スマホの中身はもう整理できたのでドッペルリングは解除してある。冒険者ギルドに入るまでは、誰にも見られてないし冒険者ギルドの入り口で変身が解ける変な音をさせたくらいだ。
仲良く手を繋いで歩く姿に時々手を振ってくれるお爺ちゃんとお婆ちゃんが居る。ちょっとほのぼのなマッタリライフを楽しむ予定だったボクは謎の感動を覚えた。
最近休む暇が無かったし、たまにはのんびりしたいよね!
プテレアの畑まで歩いて戻るとそこに居るはずのプテレアは居ない。その上今朝まで普通に生い茂っていただけのグリーンジャングルが倍以上に増量されていた。
「何かやったね……」
「カナタ芋沢山取れますかね?」
「畑の下ってどこ~?」
「ここらへんに……あった! 一緒に滑って行こうね~」
妹さんを股の間に座らせると姉を背中に抱きつかせてサンドイッチ状態で滑り降りる、ふわっふわの抱き心地に背後からピッタリくっ付いてくる姉の柔らかな感触が幸せを運んでくる。
「ヌルヌル~」
「何度でも滑りたい心地よさだね!」
「階段を作ってください……」
幸せな時間は瞬く間に過ぎ去っていき、地下に到着しての一言目がこれである。姉はお気に召さなかった様だ。
とりあえずどこかに黒鉄杉の廃材を切った板を並べてフローリングを作りたい。灯火を量産して天井付近に次々と飛ばしていくと……
地下フロアの中央でプテレアが横になってイビキをかいている。幸せそうな笑顔で眠っているので放置する方向で。
姉妹さん達も状態を把握したのか口を押さえていた。
「完成品置き場や資材置き場を作ろうと思っていたんだけど……いつの間にか部屋が追加されているし」
ボクの仲間は優秀過ぎる気がする。得に何も言ってないのに次々問題が無くなって行く。
無くなって行く端から問題は増えていくのでまだ当分現状維持なのかもしれないけど……
「黒鉄杉を板状に切って行くから、どんどん並べて行ってね?」
「カナタは刃物も扱えたのですか?」
凄く驚いた顔で姉がボクを見ているけど、そんなに見つめられると照れる。
「いやいや、このフロアを埋め尽くすくらい切るとか大変だよ? 生活魔法があるからそっちで試すね!」
ベヒモス袋から思いついた空間系の生活魔法。物を切るんじゃなくて空間を分ける……
理屈では無い、そう言うイメージをボクはゲームで知っている。黒鉄杉の丸太を立てに並べ手をかざす。
「ディバイドセブンティーン!」
「「……?」」
何も起きない、悲しい。一七に分割する予定だったのに……
何が悪かったのか、イメージが足りてない? 初めから一七に分割とか欲張り過ぎたのか!
「ダブルディバイド!」
「あの……?」
「待って! 違うの、出来るはずなんだよ?」
黒鉄杉に変化は無い、妹さんは中央で寝ているプテレアの方が気になるのかそちらを見ている……
「ディバイドエッジ!!」
「カナタ?」
「アレだ! 今日はたまたま調子が悪いんだって。そうだって、明日は必ず……」
「私達は鉈でコツコツ切っていますね」
姉の懐から刃渡り30cmくらいの木の鞘に入った鉈が出てくる、妹さんも同じく刃渡り20cmくらいの鞘入りの鉈を懐から出すと黒鉄杉を切り始める。
コツーン、コツーンと小気味良い音を立てながら、堅い黒鉄杉を切る姉妹さん達……何この姉妹怖い。
「いくら鞘に入れてあるからって、鉈を懐に入れるのは危ないと思います……」
「大丈夫ですよ? 私達は切れますけどカナタには傷一つ付きませんから」
意味がわからないよ!?
確かにボクの頭部に当たった剣が折れが事はあるけど。見た感じ使い込まれている姉妹さん達の鉈は結構切れ味もありそうだ。
「そうじゃなくて……間違えて自分の肌を傷つける可能性が有るとか、そう言う事を言いたいの」
「私達が小さい頃から使っていた鉈だから、もう体の一部だよ~」
そう言うと妹さんは手をパーで開き指の間を鉈の先で素早くトントン突き刺し始める!
「イヤ! ヤメテ! 怖いから、それダメだから! お願い止めて!」
「ご、ごめんなさい……」
半泣きになりそうなボクに妹さんはすぐに謝り止めてくれた。
心臓に悪いしリズムが良過ぎて普段からやっていそうで怖い。いくら治療が出来るからって自分から怪我するのは止めといた方が良いと思う。
「床に敷く黒鉄杉の板は二人に任せるね! ボクはベヒモス袋の加工をやっちゃうよ!」
「「任されました~!」」
姉妹さん達の元気な返事を聞き、失敗を取り戻す為にもベヒモス袋を魔法道具に加工する作業を始めるよ!




