第46話 いっぱい獲れました!事態は深刻な様子で?
休憩を終え新たな仲間と共に林の奥へと進むボク達、親ガルムのおかげで木を除去する作業が捗る捗る……
元気になった親ガルムは凄まじい勢いで走り回り、木を咥え、一息に引っこ抜き道端に放り投げて次の木へ進む。
子ガルムが親を真似しているつもりか、生えている雑草を一息に引っこ抜くと何故かボクの所へ持って来る。
この両手いっぱいに持った雑草をどうしようか悩んでいるとレッティが顔を引きつらせて近寄ってくる。
「主様――それ全部薬草だと思います。毒消し・麻痺止め・石化防止・魅了解除用の気付けまで……メアリーと相談して調薬後に販売品に追加しますか?」
「よろしく……」
子ガルム恐るべし! 見た感じどれもあまり変わらないように見える雑草が薬草でした!
目の前から木々が根こそぎ引っこ抜かれて行く様を無言で見つめながら、悪路をアースローラーで均していく。
「親ガルム……何か凄いですね、ボスの親戚か何かですか?」
「アンナ? うちの事どういう目で見てるんや!」
アンナが冗談を言いルナが追い回している、微笑ましい。先ほどのラビッツの大群から獲物はまだ何も出てきて居ない。
帰りは均した道を走って帰る予定なのですぐ戻れると思うけど、これだけ魔物が出てこないとどこかに溜まってそうで怖い。
ボクの気配感知はまだランクが低いので感知できる範囲が狭く、ルナの鼻の方が先に獲物を見つけられるし獲物の種類まで分かるというオマケ付きだ。たとえ魔物の群れが潜んでいても不意に出会う心配は無いはずだと思いたい。
少し先の木々の間から差し込む光が見えた。これは林を抜けてどこか違う場所に出る?
そのまま光に向かい進んでいくとボク達の目の前に現れたのは水が枯れた滝の様な場所で、滝つぼにはまだしっかり水が貯まっているので雨季? があるのかは分からないけど年間を通すとそれなりに水が振ってくるのかもしれない。
「ここ、見覚えある気がする」
「あの上から落ちたら助からないかもしれないね~」
メアリー、あなたのお母さんはボクを抱えてその場所から飛び降りたんですよ……
「カナタ! ラビッツがいっぱいや!」
ルナがラビッツを発見した様で一人先に走っていくと、次々とこちらに向かって飛んで来るラビッツ達が視界に入る。
丁度滝つぼの周りを囲むような崖になっておりラビッツ達の逃げ場は無い。親ガルムも先ほど食べたラビッツを思い出したのか殺る気満々で走っていってしまう。
他の皆にも一応滝つぼに注意して行って良いと伝えると嬉々として走っていく、こちらに飛んで来るラビッツの数はどんどん増えていき山を成し始める。
全て一撃で首を折られており、皆の日々行なっている訓練の錬度がうかがえる。こんな場面ではボクはあまり役に立たないので、素直に解体マシーンとなって壺にラビッツの肉をひたすら貯めて蓋をし特大木の宝箱へ入れる作業に入る。
倒す方を手伝おうにもフォレストウルフNOドロップ事件の事を知っているルナが、ボクに休んでて良いと言う……
親ガルムは周囲を警戒し逃げてくるラビッツを前足ですくう様に空に放り投げ、殺戮の宴の中へ放り込んでいる。
子ガルムはボクが解体している隣に座って毛皮を特大木の宝箱の中へ放り込んでくれていた。
わずか三十分もしないうちに溜まっていたラビッツは一匹も逃がす事無く、全部狩り取られる事となり皆満足した顔で戻ってきた。
時々親ガルムが滝つぼに視線を向けていたけど何か居るのかな?
滝つぼを覗き込もうと近寄ると、親ガルムに首元の服を咥えられて元の場所に戻される。
ルナが滝つぼの側を通った瞬間――水面が隆起し何か黒いハサミが飛び出してくる!
「何でやねんー」
その一言を残してハサミに足を挟まれ、滝つぼへと引きずり込まれるルナ。
すぐさま滝つぼの水をスマホに収納するとそこに居たのは……
『カルキノスLv105』
「蟹? いや――ヤシガニ? ルナ今すぐ助けるからね!」
現れたのは三対の足と一対のハサミを持つ3m級の蟹で、ぐったりしたルナを挟んだまま滝つぼの底に開いている横穴へと逃げようとしている。ルナを穴まで引き込まれると厄介な事になるかもしれない。
焦る気持ちを無理やり押さえつけ、手をまだぬかるんでいる滝つぼへと触れさせるとまずは逃げ道を塞ぐ。
「アースウォール&サンドミスト! 全員周囲を警戒して待機、可能ならあの穴を塞いで! 相手はカルキノスLv105ボクが行く、絶対に手を出さないように!」
アースウォールでカルキノスと横穴の丁度真ん中に壁を作り、サンドミストで乾燥した砂を撒き散らし地面を乾燥させる。ボクの声が聞こえたのか足を挟まれたまま宙吊りになっているルナが正気を取り戻す。
「ガァァァー!」
ルナが大声で鳴くと目が赤黒く光り、次の瞬間にはルナの姿が消えていた。
ボクの側でルナの荒い息遣いが聞こえ咄嗟に横を向くと――挟まれていた足が半ば千切れかけたルナが倒れていた。
「ルナ! 【治療D】皆逃げるよ! 親ガルムとボクが殿を務めるから、他の皆はルナを連れて先に全力で道を戻って!」
親ガルムがボクの側に走ってきていたので一緒に殿を頼むとカルキノスへと視線を戻す。
急に親ガルムがボクを咥え上げた――目の前を巨大なハサミが通過する。
「蟹? なのに前歩きとか卑怯だよ! ヤシガニは前に歩くんだっけ!?」
先ほど居た位置から真っ直ぐこちらまで高速移動して来たカルキノスを足止めする為に、種火を撒き散らすとボクは親ガルムの背に乗せられ走り出す。
早い、足を胴体に回すようにして親ガルムにしがみ付いているけどあまり持ちそうに無い。
後ろを見るとまだカルキノスは追って来る、左右それぞれ三対の足を交互に一対ずつ前進させ一対のハサミを器用に使い高速移動しているのが分かる……走り方が気持ち悪い。
「カナタこっちや! うちはもう怒ったで!」
前方に来た時無かった大穴が開いている!? 停止飛行で親ガルムごと穴の上をあたかも走っているように見せルナ達が待っている反対側へ移動する。飛行中の親ガルムは大穴の上で犬かきしていました……
全員揃って生活魔法で掘った穴みたいで深さは5mほどあるかもしれない、底には種火が集められ落ちたら良い感じの焼蟹が出来上りそうだ。
今度こそいけると思い、振り返るボクを裏切るように蟹は一対のハサミを地面につき三対の足で地面を蹴りジャンプするのだった……
「「なんでやねん!」」
跳ね上がり空を舞うカルキノスを目の前にし、ボクが咄嗟に取った行動は――スマホから水を全部外に出す事だった。
濁流の如く水が噴出される勢いで、空中に居たカルキノスがひっくり返り背中から地面に落ちる。そして全ての水が放出された後には足をバタつかせ起き上がる事が出来なくなった……ただの大きい蟹が居た。
「取り合えずスマホに収納してから考えよう! そしてまだいたら怖いからもう帰るよー」
バタつく足の一本に手を触れカルキノスをそのままスマホに入れると、辺り一面水浸しとなった林から目を背け全員全力疾走で町を目指す。
モノの数分で林を抜け西門前の広間へ戻ってくるが入り口の様子がおかしい?
ラビッツが生えては倒され積まれ、また生えては倒され……回転サイクルが異常に早くなっている。
皆――鬼気迫る表情でラビッツを狩っている、もしかしなくてもこれはあの溜まっていたラビッツを倒したからかもしれない。
ある程度の範囲にある生息域から、倒された個体分だけ次のラビッツが生えてくるのなら……あの崖に囲まれた場所に居たラビッツの分だけ全体的に生え易くなっているはずだ。
「これだけラビッツ狩られると、値下がりとか起こさないか心配だね……」
他に狩る獲物が居る冒険者達は良いかも知れないけど、いつもここで狩りをしている見習い冒険者には死活問題になりえる。心配していたボクの言葉をメアリーが否定する。
「ラビッツは絶対に値下がらないよ? 冒険者ギルドに売れば獲物保管庫に全部回収してくれるよ~」
「数と言うか量が多過ぎたら、肉が痛んだりしないのかな?」
「獲物保管庫はすっごく大きいアイテムボックスみたいだよ! 時間が止まってるから入れた時のままだって言ってたよ!」
人が多い場所に来てやっと一息付き、ゆっくり歩いて西門へと向かう。ここなら砦に愛姉が居るし何かあっても大丈夫だと思う。真ん中の道を通ると集まってくる子供達に困惑するボク達。
「これを……」
子供達が両手に沢山持っているのはラビッツ草だった。ラビイチ・ラビニ・ラビサンの三匹を見つめ、再びボクの目を見てくる者達の考えている事は言われなくても分かった。
西門から出た時感じた視線……全ては従魔になったラビッツ達が目当てみたいだ。
ボクが肯くと子供達はそれぞれ思い思いのラビッツにラビッツ草を与える、三匹とも手ずから渡される草を美味しそうに食べていた。
「普段自分達の糧として狩っているラビッツを、見て撫でて可愛がる。一見すると奇妙な光景だね」
「この町のシンボルがラビッツだからじゃないかな~」
何それ初めて聞いた! ボクが振り返り皆の顔を見つめると『何で知らないの?』と言いたい様な目で見つめられ再び前を向く。
子供達にラビッツ草のお礼を言い、またガチガチに固まる番の人を素通りして……西門を抜け、冒険者ギルドへ急ぐと前からロズマリーさんが丁度走って来るところだった。
「カナタ! 無事だったのかい、心配してたん、だ、よ!?」
「ただいまロズマリーさん、丁度良い所に……後で冒険者集めて蟹退治したいんですけど勝手に使って良い広場とか有りましたっけ?」
口をあんぐりと開けたままのロズマリーさんがこちらを指指し固まっていた。
不思議に思い振り返ると特に何も異常は無く……リトルエデンメンバーが一八人全員とラビイチ・ラビニ・ラビサン・ガルム親子、あっ親子に名前付けないといけないかな? 元から名前あれば良いんだけど無いよね?
「緊急討伐依頼の討伐対象と――何で仲良く歩いてきてるんだい!」
「「「「「「ええっ!?」」」」」」
どうやら西門外の林に居たガルム親子の存在は、リトルエデン全員が驚愕する事件に発展していた。
ロズマリーさんにここで待つ様に言われ待機する事になり、念のために亀の陣でガルム親子を真ん中に待機させ守る。今はとにかく冒険者ギルドに連絡をしにいったロズマリーさんの帰りを待つ。
次第に集まる野次馬達、中には盾を構えこちらの様子を窺う冒険者も混じっている、武器こそ構えさせていないが皆に注意を促すと、今後について考える。
とにかく早く首輪を貰わないと殺されても文句を言えないとマーガレットさんは言っていた。
まずは首輪の入手でその次は……町まで一緒に戻ってしまったガルム親子の住む場所をどうするかだ。
予定では狩りが終わり次第解散と言う事で安全そうな場所に移ってもらうつもりだった。帰らずの森の池周辺ならビックWARビー以上に強い敵は居ないだろうし、ガルム親子があの蜂に負けるとは思えない。それに多分あの蜂達はもう居ない、食べ尽くされた周囲の動物や魔物達も時間と共に元に戻るだろう。
冒険者に狩られない様に首輪を付けて置けば安心って……どっちにしても首輪を取りに町へ戻る必要があったのか!
「これは貸しですよ?」
マーガレットさんの声が聞こえ意識を戻すと目の前に、舌なめずりをして尻尾ふりふりのマーガレットさんが首輪を二つボクへと差し出していた。
接近に全然気が付かなかった? いや……味方だから注意を向けてなかったのかもしれない。
「ありがとうございます! これでボクの従魔と言う事で依頼は取り下げてもらえるんですよね?」
すぐ首輪をガルム親子に取り付けると子ガルムが少し嫌がっていたが、集まっていた野次馬は解散していく。
「依頼自体はもう解決された様なモノでしたので……異例の緊急依頼解除を行ないました」
さすが仕事の出来る女・マーガレットさんは対応が早い、詳しい話をする為に冒険者ギルドへ向かう事となった。
冒険者ギルド前は物々しい雰囲気に包まれ、フル装備の冒険者達がこちらの様子を窺っていた。
ボク達とガルム親子が扉に近づくにつれ緊張は高まる……
「もし――このガルム親子に手を出したらどうなるか……」
ボクはそれだけ言い【無垢なる混沌】を少しだけ使い影を広げ、皆を守る様に囲む。
「ちょーっと待てよ! ガルム親子に関してはオレが何とかするからそれを引っ込めてくれ! お前らもあの広間の噴水の様になりたくなかったら手を出すんじゃねえぞ? もっともガルムなんて危険な魔物に手を出そうとするやつは早々居ないと思うがよ……」
「え? 可愛いワンコじゃないですか少し大きいですけど……お腹が空いて苛立ってただけだと思いますよ? それにしても何で噴水の事がバレてるの……」
人間の言葉を理解している様だし、親ガルムはアレだけ飢えていたのに西門の側に居た人間――見習い達を襲おうとしなかった。あの親ガルムと対峙した時もラビッツを置いて引いたら多分戦闘にはならなかったと思う。
大方誰か第一発見者が急いでギルドに連絡し緊急依頼が出たのだろう。そう言えば愛姉も手を出していなかったみたいだし……案外林の中のラビッツを倒してくれる事によって西門前が賑わうので良い魔物になったかもしれない。
「適当に言ったら当たってやがったぜ――まさか【絶壁】があの噴水事件の犯人だなんてな!」
「やっぱり【絶壁】が」「あんな事するのは【絶壁】くらいだぜ!」「お姉さま~!」
カマをかけられていたみたいだ。よくよく考えるとマーガレットさんは絶対漏らさないし、あの場面を見ていた冒険者が居たとしてもボクがやったとは思わないだろう? ……思わないと思いたい。
緊張が解けた冒険者達は各自解散しそうになっていたので、蟹の討伐&解体のお手伝いと言う名目の強制参加イベントを行う事にする。
「あーっと、冒険者の皆さんはお話が終わるまで待機していてください。用事がある人は解散しても良いですけど……残った人は蟹が食べれるかもしれませんよ!」
「「「「「「ゴクリッ」」」」」」
返事は無かったけど、ほぼ全員の喉が鳴る音が聞こえたので大丈夫だろう。
冒険者ギルドへ入り、会議室を目指す。会議室には先客がおり、ロズマリーさんとロッズさんが待機していた。
入り口のサイズの関係上親ガルムは通ると窮屈そうなので廊下に待機してもらう。
扉から親ガルムの顔だけこちらを見ているという、大層怖い絵図らになっているが我慢してもらおう。
「ただいま戻りました!」
「良くやった。それと約束のスヴェルだ……遅くなって悪かった」
ロッズさんはそれだけ言うと扉から出て行く、引きとめようとしたら蟹料理の準備をするとの事だった。口の端からだらしなくヨダレが垂れていたのは、見なかった事にしてあげたほうが良いかも知れない。
受け取った盾はもう盾と呼んでいいのか分からないレベルの大きさで、大人が構えても人間を丸々隠せる程大きい。盾表面を薄っすらと冷気が覆っている、盾の後ろに隠れると完全に姿が隠れどんな攻撃でも防いでくれそうだ。
この盾どうやってこの部屋に入れたのかな……スマホに収納する。
「師匠……蟹が好きなようですね」
アンナの呟きに無言を貫く皆、少し豪華になっているソファーに座るとマーガレットさんに事の顛末を事細かく聞かれ、しばらくの間西門外の林はこのまま立ち入り禁止と言う事になった。
余程マーガレットさんも蟹を食べたいのか話を聞きながらレポートをまとめ、話終わると同時に席を経ち宣言する。
「蟹は鍋が良いですの!」
「そうですね……焼き蟹も捨てがたいと思います、多分生は危険なので止めといた方が良いですよ?」
背を押されるようにギルドの外へ移動するとギルド前には宴会場が設営されていた。
どんだけ宴会好きなんだよっ! と一人突っ込みを入れどこでカルキノスを倒すか相談する事にする。
「蟹は生きたままなんですよね……腕に自信がある人は解体を手伝ってください。タダとは言いませんよ? 手伝ってくれた方には優先して手足の身を食べる権利を与えます!」
「「「「「「オオッー」」」」」」
全員ヤル気満々の様で安心する、あの素早い動きのカルキノスと戦うなら狭い場所に出して袋叩きにするのが良さそうだ。
「動きを制限したいので(前後左右動き回られると厄介なので)ギルドの訓練施設的な広間とか有りませんか?」
「そうだな動きは制限したいな(左右にちょこまか動かれると解体に時間がかかるしな)マーガレットギルドの訓練場借りるぜ?」
「後でカナタに浄化してもらうので結構ですが、普段は解体部屋で獲物を捌いて下さいね?」
オルランドさんはバーのマスターが使っているエモノと似た大きな鉈の様な武器を背に移動を開始する。ボク達も後に付いて移動すると、ぞろぞろと冒険者達が移動を始めた。
地下へと続く階段を暫く下りて行くと。あちらの世界でも有名な建造物が見えてくる。長径200m短径150mくらいの楕円形で中央に掘り下げられた舞台のような場所があり、それを観戦できるように周りには観客席を思われる石の段差が段々と端まで広がっていた。天井には大量の輝く魔水晶がはめ込まれており、ここが地下だと言う事を忘れさせるくらい明るい。
「何でこんな場所に円形闘技場が……」
「どうだ? 凄いだろう! 誰も訓練なんてしないからほぼ毎日貸切だけどな! 年に数回ランク昇格試験に使われるくらいだぜ」
「「「「「「アッハッハッ」」」」」」
オルランドさんが自慢げに話すと大声で笑い出す冒険者達……それで良いのか冒険者!
ちゃんと通路になっている場所と、観客席だと思われる石の段差は区別されているので通路を歩き中央の舞台へ下りる。
「それにしても『時忘れ』の次は蟹か……こんな豪勢なお土産を持たせてくれるなんてその魔王は良い奴だな!」
「はい? 西門の外に広がる林を進んだ先にあった、枯れた滝つぼから捕って来たので――お土産じゃないですよ?」
「「「「「「何だって!?」」」」」」
固まる冒険者を横目で見ながら亀の陣を敷くと舞台中央へカルキノスを出す、途端に円形闘技場に響き渡る怒声。
「「「「「「そいつは蟹じゃねえ! ヤシガニだ!」」」」」」
「なんて魔物連れてくるんだ!! ギルド前で出していたら大惨事になっていたぜ……」
全員それなりの怒声を上げていたが逃げる者は居ない。蟹とヤシガニの違いなんて素人に分かるはずがないよ!
「でも食べれるんですよね?」
「あの滝つぼは年に一度だけヤシガニ漁が行なわれる場所で、普段は誰も近寄らない場所なんだ。理由は分かるよな――親ヤシガニが活動期に入っているとヤバイんだよ! 親が冬眠している間に漁で子供を捕るんだぜ……子供でも超が付く高級食材だ。帰らずの森の木々の根っこを食べて育った親ヤシガニとなると、どれだけ美味いかわかんねえな……」
なんとカルキノスは草食性で捕まえた獲物はあの洞窟の奥に持って行き、帰らずの森の木々の栄養としているそうだ。話を聞いたルナは尻尾を抱く様に前に回しボクの側で震えていた。
「弱点とか無いんですか!」
「有るし【絶壁】が居たら安心だ。【絶壁】が居なかったら即逃げだけどな! 冷気に弱い、特大の魔法をお見舞いしてやれ! 俺達は退路を確保するぜ!」
亀の陣はボクだけ前に置き去りにした陣形に変化し、さらにその周りを冒険者が囲い守ってくれている。
「弱点がわかればこっちのモノだよ! 火は試そうと思ったけど逆は考えもしなかったね」
舞台に出してから、自分がどこに居るのかわからず固まっていたカルキノスは、ボクが近寄ると再び動き出す。
「さぁ、反撃開始だよ!」




