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ボクが異世界?で魔王?の嫁?で!  作者: らず&らず
第2章 ピースフルデイズ
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第45話 逃げるカナタ!平穏な狩り?

 もうすぐお昼時の人通りが多くなってきた広間に突如現れた金色の噴水は、神聖な光を発し集まる住人の眼前に神々しくも輝く水を吐き出し続けていた。


 ボクは今、目の前で舌なめずりする猛獣――マーガレットさんをどうにか振り切る算段を立てていた。


「何の事ですか? ボクは今から家に戻ってご飯を食べて。……午後から皆で狩りに行かないといけないのです」


 しらばっくれる事にして様子を窺う、それにしても何で舌なめずりしていたのだろうか?

 マーガレットさんは興奮しているのか狐耳がピンと立っていたり、気分が良いのか尻尾がリズム良く左右に揺れてた。


「カナタがギルマスとお喋りしてる間に……ロッティが私に自慢するんですよ? 同じベットで眠ったとか、嫁ぎ先が決まったとか……」


 マーガレットさんの指から爪がニョッキと出てきて肩に食い込む、さほど痛く無いけどベストに穴が開きそうだ。


「成り行きからと言うか、ロッティの命が危なかったからと言うか……ロッティの事は好きですよ?」

「私の事……好きか嫌いか、どっちかと言うとどっちですか?」

「好きですよ? 色々お世話になってますし」


 即答するとマーガレットさんの目が一瞬ギラリと輝くように見えた。


「そう、ですか……。私は何も見なかったし、ちょっとカナタを見かけたのでお話ししようと思っただけですの」


 急に爪が引っ込みいつものマーガレットさんに戻ると、話しを無かった事にしてくれるみたいだ。

 賄賂的なモノとして【才能開花】をしてあげた方が良いかも知れない、マリアさんよりマーガレットさんの方が話しがわかる人だしね。


「マーガレットさん? ちょっとオデコ出してください」


 マーガレットさんは前髪を右手で上げ顔を近づけてくる、ちょっと近い!

 額に手を当て【才能開花】を使いすぐさま一歩下がると、マーガレットさんはかなり残念そうにこちらを見ていた。


「【才能開花】と言うスキルを使用しました。ステータスを確認して追加された項目を確認してみてください」


 意味が良く分かってないみたいで首を傾げていたけど、とりあえずステータスは確認してくれるようだ。


「何で……? 司祭の職業が追加されています、カナタのスキル? 神の恩恵……」

「いやいや、別にそんな大それたものじゃないですよ? マーガレットさんに埋もれた才能が有ったと言うだけで、ボクがそれを呼び起こしたんです」


 花が咲いた様に笑顔になったマーガレットさんは直後、真剣な表情でボクに注意を促してくる。


「この事は絶対に外に漏らさないようにしてくださいね……勇者ブリジッドのお話しどころじゃない騒ぎになります」


 マーガレットさんは小声でそう言い何事も無かったかのように普段の様子に戻った。

 この話はここで終わりのようで、手を繋いで家に戻る……?


「何で手を繋いで一緒に歩いて行くんですか?」

「え? それは――依頼です! もうすぐ大型依頼が出ます、丁度カナタのクランに良いと思ったのでお知らせに行くところですの」


 明後日の方向を見ながらマーガレットさんはそう説明し、一緒に歩いて帰る事となった。




 ――∵――∴――∵――∴――∵―― 




 昼時の食堂に全員揃うと今日の昼食が運ばれてくる。昨日手早く作ってマリアンさんに渡して置いた丸秘アイテムを使用した豪華な昼食だ!

 茹でたラビッツを色々な野菜と一緒に、柔らかいパンに挟んだサンドイッチでパンには自家製の天然酵母が使われている。

 柔らかいパンを作るにあたって必要になった天然酵母は、アプの実をざく切りにし煮沸滅菌浄化解毒処理を施した瓶に魔法で作った美味しい水? と共に入れ、地下の部屋に作った冷蔵部屋に放り込み一週間放置し、一週間後常温に出し一日一回蓋を開けて酸素を供給してあげる事の四日くらいで出来上がる。


「今回使用した天然酵母は、ボクが生活魔法で発酵促進した物を使用しました」

「カナタ誰に向かって言ってるんや? それに何でマーガレットがおるん?」


 流れでそのまま昼ご飯を食べる事となったマーガレットさんをルナが警戒している。

 足元を跳ね回るラビイチ・ラビニ・ラビサンは基本地面から魔力を吸収するだけでご飯を食べなくてもいいらしい、一応食べる事も出来るみたいなので畑に雑草でも生えたら与える事にしよう。

 ふと力の流れる感覚がして首を傾げていると、時々すり寄って来るラビッツ達がどうやらボクの魔力を掠め取っているみたいだった。


「従魔ですか? ラビッツの従魔は珍しいですね……これ使ってください。首輪をつけてないと狩られても文句を言えませんよ?」


 マーガレットさんがポケットから植物で編んだ首輪を三個出すと手渡してくれた。忘れないように先に付けておく事にする。

 お代はサンドイッチで良いらしくおかわりを要求してきたので、大量に作ってあるおかわり分をテーブルに持って来てもらう。

 魔性植物で編んだ首輪は装着した従魔の魔力をほんの少しだけ吸い一緒に成長していくそうなので、一度つけると取り替える必要が無いらしい。マジックアイテムには無限の可能性があるのかもしれない。


「取り合えず、大型依頼カカオマス捕獲はリトルエデンの全員と、数合わせのロズマリー・マリアン・ロッズにエルナも、全員登録しておきますね?」

「エルナ? 行かない人も登録するのは何故ですか?」

「エルナは宿のお手伝いさんです。一人当たりの捕獲制限があるので登録人数を増やしその分捕獲してくるのが基本ですの」


 話を聞きやっと合点がいった。あの流れの冒険者達は登録人数を稼ぎたかったのだろう、いっぱい取れても制限があると持ち帰れない。


「それじゃあそんな感じで登録お願いします、出発はいつですか?」

「例年通りならあと一五日後なのですけど……今年は少し早そうなので明日以降召集の連絡が行きますのでそれを受け取ってから移動となります、あまり遠出なさらない様注意お願いします」

「分かりました~。色々疲れたのでしばらくは、お金儲けにお風呂の改造や……冶金とかしてのんびりすごしますよ!」


 話を終えると先に戻っていたルナとレイチェルが準備をしていてくれたのか、皆狩りに出る準備が出来ていた。

 マーガレットさんは直接ギルドに戻るそうなので宿の前で分かれて、ボク達は西門へと向かう。



 大通りに出る前から思っていた事だけど、同じ装備の冒険者が一八人とラビッツが三匹、三列横隊で歩くとひたすら目立つ。

 大通りに出ると回りの視線がボク達に集中し、時々『あの人達が噂の……』とか『【絶壁】のクランが出陣するぜ!』とか『お姉さま~!』とか聞こえてくる。

 噂の内容が知りたいけど近寄り問いただそうモノなら冒険者は土下座しだすし、町娘は顔を赤らめて失神するしまつ……


「皆、今度オルランドさんを見かけたら必ず捕縛するようにね……」


 全員無言で肯くのを確認し、西門へと進む。途中タイガーベアの毛皮を買ったお店で追加の毛皮を注文しておく、眠る時はタイガーベアの毛皮が一番良い感じがするので全員分買い揃える為だ。

 入荷すればすぐに家に配達してくれるとの事なので取り合えず前金で金貨1枚渡す。

 金貨を受け取り驚く店員さんに理由を聞くと、普通冒険者は現金即決主義で前金なんて事はしないそうだ。

 何度かリトルエデンの皆も毛皮を買いに来ているみたいだし、なかなかサービスの良いお店なので毛皮はここで頼む事にする、レイチェルの実家は毛皮を扱っていないのだ。

 狩りで回収した肉を入れる壺の事を思い出し先にレイチェルの実家へ向かう事となった。



 ボクやルナやメアリーが何か言わないと全員無言で歩く、ちょっとくらいお話ししながら移動しても良いと思う。

 ルナに聞いてみると日常生活が訓練なんだそうで色々と厳しい規則があるそうだ。ボクの知らない間に……


「日頃から訓練や! 狩場で音を立てて自分の居場所を獲物に教え、逃がしてしまってもあかんやろ?」


 狩場での事なら正論なのでよしとする、その代わり本拠地内は自由にするようにちゃんと言い包める。

 レイチェルの実家はあの瓶が全て無くなると、もともとそれなりに売れ行きが良かったお店みたいで活気を取り戻していた。

 お店の看板の横に『【絶壁】御用達のお店』とか書いてあるのは気のせいだと思いたい。

 中に入るとレイチェルのお父さん……レイさんが、紐が付いた矢がセットされたクロスボウを冒険者にオススメしているところでレイチェルはチェルシーさんを呼びに言ってしまった。雑貨屋さんなのにクロスボウが売ってる事に首を傾げそうになるけど、瓶を先物買いしたレイさんの事なので何か考えがあるのだろう……

 接客が終わり冒険者が紐が付いた矢とクロスボウを買ってホクホク顔でお店を出て行くのを見送ると、レイさんに挨拶する。


「こんにちは~」

「いらっしゃ……チッ」


 露骨にボクの顔を見て舌打ちをし、レジへ戻っていくレイさん……

 ルナが飛び掛りそうになったのをメアリーが何とか抑え、レイさんが血祭りに上げられるのは何とか防がれた。


「あの~、獲物の肉を入れる壺が欲しいんですけど……」

「今日は店じまいだ。チッ」


 また露骨にボクの顔を見て舌打ちし閉店準備を始めようとするレイさん……


(しま)うのはお前さんの頭だよっ! いらっしゃいませ【絶壁】様!」


 店の奥から飛び出てきたチェルシーさんがレイさんのボディーに抉りこむ様に右ストレートを入れ笑顔で接客を始める。


「レイチェルは俺の娘……」


 一言呟くと倒れるレイさん、レイチェルが足を引っ張ってそのまま店の奥へと引きずっていったのは見なかった事にした。


「本日はどのような御用件でございましょうか?」

「獲物の肉を入れる壺が欲しいです」


 手の間から煙が出るんじゃないかと思うくらい、高速で揉み手をするチェルシーさんに答えると奥からレイチェルが壺の在庫数を言って来る。


「主様~50kgくらい入りそうな壺が二〇個ほど残ってますセット価格で半銅貨10枚になりますね」

「じゃあそれ全部ください。それと作って欲しい物が有るんですが依頼とかできます?」

「まいど~ありがとうございました~。何でも融通させていただきます!」


 チェルシーさんに燻製を作る為の装置を説明する。ルナに『うちにも教えて!』とせがまれたが出来てからのお楽しみにしておく……正直一回で良い物が出来るとは思ってないし、改良を加えてちゃんと燻製が作れるようになってからお披露目したい。


「燻製? ですか……その様な料理方法があったんですね。興味が沸いて来たのですぐにでも取り掛りますので……お代は完成後に出来栄えを見てからお願いいたします」


 前金を受け取ってくれなかったけど、完成度によっては今後チェルシーさんに燻製器の流通を任せて一部の宿や懇意にしている酒場・料理店に販売する許可を与える事となった。

 冒険者から商売人へとクラスチェンジしたチェルシーさんは、こちらの方が性に合っているみたいで満面の笑みを浮かべボク達を送り出してくれる。

 お店を背に西門へ再び向かうボク達の背後からレイさんの悲鳴が聞こえてきたけどしかたないよね? 接客態度があんなじゃ怒られるってモノだよ!



 今日の西門の番は知らない冒険者と見習いの子供だった。ボク達がボードに名前を書き門の外に出て行くまで直立不動でまったく動かず、ガチガチに固まっていた。緊張をほぐす為に声をかけようと思ったけど、ルナが面白がって膝を後ろから突いたりしていたので恥ずかしくなりそそくさと通り過ぎた。悪戯したルナはメアリーに耳を引っ張られて門の外に出て行った。


 門を出るとそこには前と同じ風景が……


「進化してる!? なんで生えるところ限定されてるの!」


 町の地面に敷かれている物と同じ切った石材が所狭しと並べられ、5m毎くらいに一箇所わざと空けられている。

 前のどこに生えるか分からない状態より効率良く確実に狩れるし、何より待機中が楽そうだ。

 ボク達が道の真ん中を通ると、ラビッツを狩る者達から尊敬の眼差しで見られている気がする。道なりに進み林の中へ入るまでその視線を背中に感じて少しムズ痒いような気持ちだった。


「どうなってるのかな? 地面は愛姉(あいねえ)の仕業だと思うけど……」

「私ドキドキしたよ! 何か自分達が偉くなったような気がしたよ?」

「計画通りや!」


 ルナが何か知ってそうだけど、問いただすとしらを切るので噂のオルランドさんを捕まえた時にまとめて聞く事にする。


 林に入る前にふと振り返って愛姉(あいねえ)のロッジを探すと一段と実用的に改造された砦がそこにあった。


 遠目に愛姉(あいねえ)だと思われる人物が林の外周から木を引き抜き、後ろに並んでいる見習い冒険者の子供達が剣で根を切り枝を落とし転がして砦まで運んでいく。

 アウラさんの手紙に開拓期が近いって書いてあったし下準備をしているのかな?

 大きく手を振ってみるとやはりこっちに気が付いていたのか愛姉(あいねえ)は顔を謎の仮面で隠し尻尾を振っていた。見習い冒険者の皆は元気にやっているようで安心する。


 林に入ると薄暗いのとデコボコした地面に足を捕られる為に進むスピードが落ちてくる、今日は何故か他に冒険者は居ないようでボク達以外に人の気配はしなかった。デコボコの地面を普段どおりのスピードで歩けるのはボクとルナと以外にもレッティにアンナの二人組みだけだった。


「レッティもアンナも大分慣れてるね? 職業補正とかもあるのかな」

「私達の住んでいた場所もすぐ側に草木が生い茂った森があったので、昔を思い出して少し楽しいかもしれないです。それにロイヤルガードになってから体が丈夫になった気がします」


 アンナはそう言い素手で側の木を殴りつけると木に2cmほど拳がめり込む。引き抜いた拳には傷一つ無く痛みもまったく無いみたいだ。

 ちょっと真似してみたくなり丁度良さそうな木を探す、木々がまばらに生えているためあまり遠くまで見通せない。しょうがないので一番近くに生えている太めの木に右手を振りぬくようにパンチする。

 殴った木は『ボコン』と軽い音を立てて拳大の穴が開く、振りぬいた右手がそのまま拳大の穴へ入ってしまい腕を抜くのに苦労した。

 皆の反応を見るのが怖い、化け物扱いとかされたら泣いて挫けるかもしれない……

 振り返ると目を輝かせこちらを見ている皆がいた。今度は逆に恥ずかしくなり別の事を考える。


 帰らずの森を切り開く冒険者の事を思い出し、今のうちに練習しといた方がいいと思ったボクは皆に提案する事にした。


「ある程度細い木々は折ったり切ったりして道作りながら進もうか? 近いうちに開拓期に入るらしいし、慣れておいたほうが良いと思う」

「音で獲物が逃げていくかもしれへんよ?」


 ルナは心配そうにこちらを見てくるけど多分大丈夫だ。ボクから漂う魔力や色々な匂いが魔物を誘き寄せる可能性があるのでついでに試す事が出来る。


「ボクが居る限り魔物は向かってくると思うし、槍だと少し木を切りにくいかもしれないけど何事も挑戦してみるといいよ!」


 ボクが先頭に立ち木を引っこ抜きながら進む事になる、★の影響で自動手加減されてるとはいえ確固たる意思で望めば普通にステータス通りの力を出せる事がわかっている。あのラフレイシアさんのおかげで分かった防御に関して言えば、多分ボクにダメージを与える事ができる魔物は滅多に居ないだろう。

 生息域その物がヤバイほど危険な一部の魔王領は注意しとかないといけないけど……


 それにしてもこの無双感、癖になりそうで怖い。木々を引っこ抜いては足元に転がし、足から振動系の土魔法をイメージしたアースローラーを使い地面を押し固めていく。

 抜いた木々は勿体無いけど今回は置いていく事にする。大きめの荷馬車が欲しくなるところ……


 三十分くらいそうやって進んでいた時だった。


「ラビッツの匂いが近寄ってくる、カナタ何か様子がおかしいで!?」

「普通ならこれだけ人数が居たら逃げるよね? 確かに何かおかしいかもしれない……全員警戒して!」


 警戒を促すと前方から来る何かの気配に備える事となる。足元は動きやすいようにアースローラーで押し固めているし、邪魔になりそうな木々も引っこ抜いて即席の広間を作り上げた。

 先頭にボクが立ち玄武の盾を構える、ルナとメアリーが左右を堅め、一応背後はレッティとアンナに任せ他の者達は中央に固まりどこから来ても支援できるように陣形を整える、何の練習もしていないのに以心伝心お互いカバーし合う様に固まって待機する。この陣形は亀の陣を呼ぼう。


「来る!」


 前方の茂みから飛び出してきたのは普通のラビッツだったが、数が多すぎる。

 現れたラビッツはボク達が見えて居ないかのように全力で走りぬけようとしていた。


「取り合えず狩れるだけ狩って! 周囲の警戒はボクとルナとメアリーに任せて、獲物は取り合えずほっといて良いから狩る事優先で」

「皆気張りや! 何がきてもうちらが何とかするからラビッツは任せるで!」


 ルナの鼓舞も効いたのか普段通り落ち着いてラビッツを狩っていく皆……あれっ?

 これ――ボク以外普通に狩れている、未だにラビッツを狩るのすら時間がかかるボク。さすがロッズさんが教えた子供達は違うね!

 若干、攻撃力1は手加減の為とは言えやり過ぎなんじゃ……と思ったその時ラビッツを追っていた魔物が茂みから飛び出してきた!


『ガルムLv56』


 ガルム……一言で言うと黒く大きい犬だ。ルナ以外、ボクも含めて全員固まっている。

 体長はゆうに2mを超えているだろう。真っ黒な毛並みは暗い場所で鉢合わせすると間違い無く絶叫モノだ。

 それだけでもヤバイのにこのガルム……全身の筋肉が発達していてムキムキ過ぎで怖い。


「ガァウゥゥ!」


 ルナが一言大きな声で鳴くとガルムの気を引き、素早く足を攻撃しにいく。すくい上げる様に右手で猫パンチを出すとガルムは器用に真後ろへバックステップをし、目の前にいるルナへと右足を振り下ろす。

 ルナはかわしきれずに足を痛めたようだ。流れる血を見て我に返り、すぐさまルナへと近寄り治療をかける。


「密集して! 相手はガルムLv56結構強そうだよ!」


 すぐ完治したルナがまた攻撃をしかけるが、ボクの治療を見たせいかガルムは逃げ越しになり攻撃をしてこない。ガルムはヨダレを垂らしこちらを見ている、ここはボクが押さえ込んでルナに止めをさして貰った方が良さそうだ。


「ボクが押さえ込むからルナは止めをお願い!」


 一言そう告げ槍をスマホに収納して玄武の盾を飛ばす。両手をだらりと垂らしたまま無防備に近寄る。

 背後から悲鳴の様な引きつった声が聞こえたが手を振って大丈夫だと伝える。ガルムはこちらの様子を窺っていたが、意を決したのかボク目掛けて爪の出た両手を振り下ろして来た。

 意識を集中しゆっくりと時間が流れる感覚のままガルムの両手を掴むと、地面に引きずり倒しマウントポジションを取る。


「ガウガウー」


 ルナが鳴きガルムの胴へ蹴りを入れるとガルムは血が混じった胃液を吐きだし、次第に弱っていく……

 その様子に違和感を覚えすぐさまルナに静止の言葉をかけようとするが、茂みから現れた新たな影がルナに飛びつく!


「ルナ止めて! 様子がおかしい、殺しちゃダメ!」


 新たな影はルナと一緒に転げ周り、起き上がったルナが抱き上げて連れてきた。


「小さいガルムや……親子なん?」

「クゥ~ン」


 子供のガルムはルナの手に噛み付こうと必死で首を振るが、ルナが頭を押さえているので次第に大人しくなって行く。

 ボクの下敷きになっている親ガルムは弱々しく鳴くと、子供へ視線を固定し涙を流していた。


「これは――罪悪感が半端無い。ここでこのガルム親子を殺すと夢に出てきそうだよ……」

「私も今度生まれてくる子供の顔を見れなくなっちゃいそうだよ……」

「カナタ――うちはラビッツでええよ? ガルムは美味しく無さそうやし……」


 振り返ると皆涙を流しそうな顔でこちらを見ていた。リトルエデン満場一致でこの親子を逃がす事に決定する。ただし人間を襲って怪我をさせたり人を食べたりされると困るのでなんとか言いくるめないといけない。

 少しだけ治療を使い親ガルムの怪我を治すと、もしかしたらと思い喋りかけてみる。


「今からボクが【テイム】をかける、もし親子共々生きて生きたいなら……悪さをしないと誓えるなら受けて欲しい。ボクはあなた達を束縛する気は無いし危害を加える気もない、怪我を治しラビッツを分けてあげるくらいならさせてもらうつもりだよ?」

「ワンッ……」


 ガルムが犬の様に一声吠えると子供がルナの手から逃れこちらに近寄ってきた。

 一瞬身構えるも子供はお腹を見せて転がり親も尻尾を振って体の力を抜く、ボクの言いたい事が分かったみたいなので【テイム】をかけると一回で成功し新たな従魔が生まれた。

 固唾を呑んで見守る皆にもう大丈夫と手を振り立ち上がりラビッツを集めさせる。その間に治療を行い怪我や古い傷を完治させると集めたラビッツを全部解体する。

 ガルムの親子は伏せの状態のままこちらを見ている、緊張が緩んだ所為か親のお腹の鳴る音が林に響き渡った。


「【解体D】毛皮は全部売るとして……魔晶の欠片はスマホへ、肉は今日のところは全部上げても良いよね?」

「良いと思います。今日はまだ時間があるのでもう少し狩りできますし、荷物になると足が遅くなるので……」


 レッティが皆を代表して答えると、子ガルムの方にチラチラ視線を送り手を開いたり閉じたりしている。

 皆も視線を子ガルムに送り、時々親ガルムを窺う様な目で見ていた。


「ご飯を食べた後で、親の許可を取ってからなら触っても良いと思うよ……」


 ボクのその言葉を待ってましたと言わんばかりに解体が終わったラビッツの肉を持ってガルム親子に群がる皆を横目に見て、この事態をどう報告するか頭を悩ませるのだった。


「こういう場合ってどうなるのかな? 血の混じった胃液吐いてたから多分何も食べてないと思うけど……誰か怪我さしてる可能性は有り得るよね……」

「従魔の扱いについては全責任は主に向かうけど……まだテイムしてない時の被害は多分大丈夫じゃないかな?」

「まぁ、ギルドに戻ってから考えれば良いよね! 食事が終わって少し休憩したらまた先に進むから皆休んでてね」


 メアリーが大丈夫と言ったのなら多分大丈夫だ。根拠は無いけどメアリーは日に日に賢さを増している気がする、出会ったばかりの子供だったメアリーの面影はもう殆ど無い。

 今回は助けたけど、これで胃液に人間のパーツとかが混じっていたらどうなったか……

 完全に敵意を持った魔物らしい魔物は容赦無く殺す事が出来るかもしれない、けど知性のある魔物は本当に狩るべき対象なのだろうか? まだまだボクが未熟者と言うだけなのだろうか?

 色々と難しい事を考えていたら一五分くらい時間が経っていた様でボクの顔を見にルナがやってきた。


「何難しい事考えてるんや? うちが解決したろか?」


 ルナが尻尾を振りながら詰め寄ってきたので、簡単に話すと簡単に答えを出してくれた。


「うちらの仲間になるかならないか、それでええんとちゃうん? 全てを助ける事なんてできへんよ?」

「そう、だね。この世界は弱肉強食……もし助けた魔物が他の人を襲ったりしたら、また別の誰かがその魔物を狩りに来るしね」


 忘れてはいけない、ボクには愛すべき人、守るべき者達・場所、色々な物を両手に持っている事を。

 あちらとこちらの価値観の違い、ボクにはまだまだ慣れないけど一国一城の主になったんだから覚悟を決めないといけない。

 ボク達のクラン本拠地は殆ど地下に広がっている部分がメインだから、城と言えるかは微妙だけどね!


「そろそろ移動しようか!」


 まだまだ考える事は沢山ある、でも今は前に進む事だけ考えていたい。

 最後の鐘が鳴るまでまだ時間があるので皆と一緒の狩りを再会する、明日の事は明日考えれば良いよね!

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