第43話 庭に色々植えましょう!あらがうこと、いとむずかし?
深い眠りから覚めると、色々と大変な事になってました。
川の字プラス一で眠っていたはずなのにルナとメアリーが左右から胸に吸い付き、ロッティがボクの足を抱えるように抱き締め親指を吸っている……
何で気が付いて起きなかったのか、余程疲れていたのか不思議な事もあるものだと思います。
「ネーネ……むにゃむにゃ……おいてかんといて……」
ルナの寝言? を聞き考えてみる。事情は分からないけど一人でダンジョンを彷徨っていたみたいだし、姉が居るのかもしれない。
ダンジョン『深き森の深遠』に皆で行ける様になったら親御さんか姉妹か親類を探してみるしかない。
「ん、ルナもメアリーも起きて? 朝だよ」
ロッティは目が覚めると何故か親指を舐め始める、ルナも起きたようで舌先をチョロチョロと動かし始め思わず口を押さえ声が漏れるのを防ぐ。
「何でそんな、んっ! 何この感覚……」
メアリーはまだ眠っているようで吸い付いたままだけど、ルナの舌が縦横無尽にボクを蹂躙する。ロッティがスリスリして来ると体が熱くなってきた。
「メアリーが起きるまでだからね……」
心地よい感覚に身を任せ体の力を抜くと、ルナとメアリーの頭を撫でしばし時を忘れる。
「カナタ様! ボス! 姉さん! おはようございますー」
「ちょっと待って! 上がってきちゃダメだからね!」
階段の番をしていたアンナが挨拶をしながら上がって来ようとしている、この姿を見られるのは恥ずかしい。
ロッティの腕から足を抜き、ルナとメアリーを起こすと身支度を整える、リトルエデンの皆は天使御用達の服を着ているので基本洗濯が必要無いとは言え、眠る時はこの世界の習慣に乗っ取って裸なのですぐに服を着る。
「折角だから朝風呂に入りたいと思います!」
「うちも入る~」
「む~」
「私も色々触り……背中を流しに行きます!」
ルナは早起きでメアリーは寝起きに弱いみたい、ロッティは欲望のままに生きている。
お越しに来たアンナと一緒になると地下に下りお風呂へ向かう、穴通路の方から訓練中だと思われる声が聞こえてくる。
その後お風呂で五人お互いに体を洗ったり、人生初のヌル蔦を使ってみたり色々楽しいひとときでした。
ヌル蔦はお湯をかけるとヌルヌルして来る昆布に似た植物で、ダンジョンの1Fならどこにでも生えているそうです。
元々大穴の側に大量に生えていたモノがお風呂の排水を吸ってどんどん成長し、メアリーの提案で乾燥ヌル蔦としてロッズ&マリアン亭とギルドに卸す事になり、リトルエデンの重要収入源になっていた。
驚いた事にロッズさんが宿の方にも一日で大型お風呂部屋を造っており、それ目当てのお客が増えて来ているとか……
お風呂に入りさっぱりしたボク達は朝ご飯を食べるために食堂へ向かう、どうやらアンナはレッティと交代でボクの身辺警護をしてくれるようだ。
いつも一緒に行動する事になる旨を本人から聞いた。
「ボスが自分でいうって、言ってたのに……忘れてたんですか?」
「そんな事もある……うちは皆がちゃんと仕事を出来るか試したんや!」
ルナは結構感覚で生きている、そして後付が上手い。メアリーは収支報告書に目を通している。
ロッティは泣く泣くギルドのお仕事に行ったみたいで、朝ご飯は途中で買っていくそうだ。
クランを作って色々苦労すると思ったけど、皆が優秀で助かる。ボクは稼いで冶金や野菜を育てる事に集中出来そうで嬉しい。食堂に皆が集まると朝の報告会が始まるみたいだ。
「おはようさん! 食べながら聞いてや! 助けに行くどころか、カナタが自分で戻って来たからうちらの出番は無かった……けど今後はもう二度とこんな事がないようにがんばるで! アンナとレッティは交代で身辺警護任せたからな」
「「イエッサー!」」
ロッズさんから聞いたようで返事がイエッサーに決まっていた。
「そう言えばレッティとアンナとアルフ君それにロニーにミリー以外の名前聞いてないけど?」
「功績を上げた者は初めて名前を名乗れる権利を得るんや! 初めからカナタにアピールできると思うんやないで!」
ルナが無茶苦茶な事を言っている、名前も聞かずに日常生活を送るのは不都合がある気がする。
「それだと呼ぶ時困るよね? 別にそこまで厳しくしなくても……」
「群れの中で序列は大事や! 晴れてここに居る者達はリトルエデンの幹部候補になったんやからな! 後から入ってくる者に対して示しがつかへん」
「カナタお姉ちゃん、ルナの言う通りだよ? これは全員で決めた事だから誰も文句を言わないよ?」
第一期リトルエデン構成員って事になるのかな?幹部候補がこれだけ居るとなると、相当大きいクランにするようだ。ボクがクランの盟主なのに流されるまま事が進んでいく。
ご飯を食べながら話を聞いている子供達を見つめると、皆ヤル気に満ち溢れてる……見つめていると何故か頬を染め視線をそらされた。
ロッズさんは基本喋らない、訓練中と必要な時意外はずっとこのスタンスを通すようだ。
「それじゃあここで皆にプレゼントがあるよ! ボクのスキルで眠っている才能を呼び起こすよ~」
「「「「「「え?」」」」」」
皆が不思議な顔をして固まっている、【才能開花】については成長痛が無い事を鑑定で確認ずみなので問題無く全員に使う事ができる。
ルナ、メアリーから始め順番に額に手を触れ【才能開花】を使用する、あっけないほど簡単に終わる。
「あとロッズさんも是非受けてください、色々お世話になりっぱなしで恐縮です!」
ロッズさんが無言で肯くと、ボクは才能を開花させる。スキルを受けた者は各自ステータスを確認して騒いでいる、どうやら相当効果は高いようだ。
「俺の追加職業【超弩級建築士】とは何だ?」
「多分凄いんです! ユニーク職業だと思います……」
ロッズさんはそっち系の力を開花させたようだ。アレだけの物を作る凄い腕を持っていたのに、才能が開花してなかったとかこれからどうなるのか……
「私とアンナは【ロイヤルガード】になりました! 騎乗スキルが追加されたので乗れる魔物を探さないといけません……」
レッティとアンナが色々相談している、ロイヤルガードで騎乗といえばグリフォンが頭に思い浮かぶけど、グリフォンとか飼うスペースが無いし初めはフォレストウルフくらいで我慢してもらおう。
「森に行った時にでも、ボクがフォレストウルフか何かテイムしてくるよ?」
「それならラビッツや! ラビッツテイムしてんか! お願いやカナタ! ラビッツ草の種、量産してるねん……」
ルナの食い付きが半端じゃない、尻尾ふりふりである。
「ラビッツに乗るの? さすがに無理があるよ……」
「ラビッツ草の種を食べさせて成長させるねん。うちが住んでた村ではラビッツが馬車引いててん」
ルナに策があるようなので、ラビッツをテイムして飼いならす事にする方向で話を進める。ラビッツが馬車を引くとか凄い光景が見れるかもしれない。
「私も追加職業に就いたけど……【商人星】って何?」
「メアリーはリトルエデンの財政を取り仕切るお財布役を任せるね! こういうのは向いてる人に任せた方が良いから」
ボクが任せると言うと、悩んでたメアリーは何かを決心したようで笑顔に戻る。尻尾ふりふりである。
「うちはよう分からんからカナタ見てや!」
ルナのステータスを左目で見る。
名前:ルナ=フェンリル
種族:猫・魔狼獣人 年齢:13 性別:女 属性:無
職業:狩人・守護獣 位:無し 称号:【生存者】【番犬】 ギルドランク:F
クラン:小さな楽園
レベル:25[12+13]☆
HP :243/243[200+18+25]
MP :31/31[6+25]
攻撃力:18[18]
魔撃力:6[6]
耐久力:27[18+9]
抵抗力:7[7]
筋力 :31[18+13]
魔力 :19[6+13]
体力 :31[18+13]
敏捷 :31[18+13]
器用 :19[6+13]
運 :NORMAL[0]
カルマ:95[463]
SES
:【尻尾の気持】
UNS
:【紅の瞳】
EXS
:【眷属化】【生存本能】【第六感】【罠操作】
スキル
:【血脈F】【生存の心得S】【鋭敏聴覚S】【鋭敏嗅覚S】
:【鋭敏視覚D】【鋭敏味覚D】【鋭敏触覚D】
:【気配感知S】【危機感知S】【視線感知S】【隠蔽S】
:【再生F】【耐性:毒F病F】【生活魔法】【脱兎】
Aスキル
:【スピアスタブ】【蜂の一刺し】【ヴォーパルストライク】
色々増えているし前見た時よりかなり強くなっている、ボクが拉致されてから今日まで余程鍛えたに違いない。
この左目はSESさえ読み解けるみたいで、ルナの尻尾の能力がスキルだと分かる、他に突っ込みたいところは色々あるけどここは置いておこう。
「ルナには【守護獣】って職が増えたのかな? 色々スキルも増えているしがんばったんだね。眷属化が解けたのは何故かな……成長したからかな?」
「なんやて!」
ルナがこの世の終わりの様な表情で詰め寄ってくる、安心させようと抱き締めると息も出来ないくらい強烈な吸い付きを受ける、ボクが眷属化をもう一度使うまで放さないつもりかもしれない。
舌を飲み込まれそうなくらい吸われ、必死にしがみ付くルナを前に眷属化をもう一度使用する。
「ふぃ~」
「はぁ、はぁ、ふぅ、はぁ、ルナ……眷属化が解けてもいつでも一緒だよ?」
満足げな顔をしたルナの頭を撫でると目を細め喉を鳴らす、そして他の皆からの切望の視線がボクに突き刺さる。
「【罠操作】を使って矢も量産してん! 魔法の矢もあるねん! 罠の魔力が枯渇してもう木の矢しかでえへんけど……」
「魔力なら補充できるからなんとかなるかも?」
「あの罠を再利用できるとなると大幅に収入が増えるかも、後でイクス確保リストに追加しとかないと」
ルナから手渡された矢を左目で見てみる。
『魔矢ヴィグ』
魔力を込めると所持者に登録される、所持者が呼ぶとどこからでも戻ってくる魔法の矢。
:対生物限定物理攻撃強化
:無機物への物理攻撃無効化
「どこかで聞いた事ある名前……オルランドさんの槍と同じ名前で同じ様な効果? もしかして奈落の穴シリーズ的な武器があるのかもしれない」
「ほぅ……オルランドの槍は、最下層広間にある無限の台座と呼ばれる場所から引き抜いた魔槍だ。もしかすると他の無限系罠にも装備が隠されているかもしれんな」
ロッズさんによると無限の台座は木や鉄銅銀金毒など様々な槍が生えてくる罠で、モンスターハウスの中央にあるらしい。生えた槍を魔物が使用するので大変危険なんだそうで、オルランドさんが魔槍を手に入れてから動かなくなったみたいだ。これはヴィグシリーズ獲得条件が確定したかもしれない。
近いうちに皆でダンジョン攻略に向かう予定を立てて、とりあえず朝ご飯を食べ終え各自今日の予定をこなす事にする。
「皆自分の才能が開花した事で、それぞれ得意分野を鍛える事が出来ると思うからがんばってね! あと数名この後サツマイモを植えるから手伝って欲しいかも、魔法で畑を耕すから蔓植えるだけだけどね~」
「人選はまかせてください! ロニーとミリーそれに二人ほど連れて行きますね」
「私は色々な物の販売ルートの確保の為に商人ギルドに行って来るね~」
メアリーは商人ギルドへ、ロッズさんは今日は訓練を自習として、宿の増築をするらしい。レッティとロニーとミリーの三人とルナにアンナに二人子供を連れて隣の屋敷の庭へ移動する事になった。
わざわざ地下通路を通らなくても隣に移動できると良い気がするけど、聞くとロッズさんに『それはロマンだ』と言われ何と無く納得する。
隣の屋敷は高い塀と、黒鉄杉の壁の二段構えで完全に外から見えないように改造されている、庭は石畳では無く剥き出しの地面でラビッツ射的場が設置してあったりするし、マリアさんから追及されると凄く困る事になりそうだ。
「この剥き出しの地面、領主様に追求されたら困るね……」
「バレなければ問題有りません!」
力強くそう言い、鍬を構えるレッティを下がらせて生活魔法のイメージを構築する。
アースオーガーを元にする、深さはそれほど必要無い30cmもあれば十分かな、地面を掘り起こし土に空気を含ませるイメージ、他に石や岩があれば砕き混ぜ水はけを良くする、うねは40cmくらいで良いかな、一緒に魔法で作ってしまう事にする。
「皆下がっててね~アースシェイカー!」
地面がボコボコと沸き立つ様に隆起し、瞬きする間に剥き出しだった地面の庭に巨大な畑が出来上がる。
レッティは鍬を構えたまま固まり、他の皆も口を大きくあけ立ちすくんでいる。
「皆この蔓をうねに水平になるように植えていってね? 本当は水平じゃなくても良いけど、今回は初めてだし揃えた方が収穫が楽だから同じ植え方で行くよ」
「あ、ハイわかりました……」
鍬を足元に落とし何も言わず蔓を受け取り作業に入るレッティ、他の皆も蔓を受け取り順番に植えていく、ついでなので八百屋で買ったシェルトマトと砲丸芋も畑に植える事にした。
この植物は宿に持って行きマリアンさんに見せると色々助言をくれた。
トマトに似た野菜はシェルトマトと言い、大きく育ち実も沢山なる野生のモノを無理やり鉢で育てる事により小粒な実をオールシーズン収穫出来るようにしたモノらしく、広い地面に植えるとかなりの収穫量を期待できるそうだ。
砲丸芋はシェルトマトと同じタイプで見た目ジャガイモだけど、違うところがあるとすれば、あちらの世界では普通に土の中にできる塊茎を収穫するのに対して、こちらの世界の砲丸芋は塊茎が地上に出来る。鳥や魔物や虫などに食害されると思ったがなんとこの芋……外皮が無茶苦茶堅い。投げつければ魔物を攻撃する武器になるほど硬いらしい。味は最高なので門の外にも一部植えられているらしく、実は門番が見張っていたのはこの芋だった説すらある。
「私の知っている農作業じゃない……」
「あれ? こっちの世界でも地面掘り起こす農作業とかするとこあるの?」
「私とアンナはもともと町の外にある村から、依頼の報酬として売られてきたので……大抵スラムの子供達はそうやって売られてきた子供達ですよ? このご時世、他人の子供を育てる余裕がある人達は冒険者でもあまり居ませんし、奴隷として売るにも手続きや登録などがメンドイらしく、ほぼ全て領主様に引き渡されスラム街の住人になるのです。子供にはイデア=イクス様の加護があるので、暴力や体を狙われる心配もありませんし」
領主であるマリアさんはそう言った子供を大銀貨1枚で引き取っているそうだ……
話を聞きながら冷や汗が止まらない、ルナがやった事はどう考えてもアウトくさい。この後マリアさんに合う予定だったんだけどどうしようかな?
「町の外は結構過酷そうだね……」
「私達の居た村は運良く開拓され、現在町の一部になっているそうです」
「その……今は町になっているその村に帰りたい? 何だったらボクが何とかしようか?」
「私とアンナは村の総意で売られたんです! 運が悪いと大人になるまで貴族に囲われて、性奴隷や家畜の様に一生を過ごす可能性があるのに……。あの日、誰の子供を売りに出すか決めた日の村人の顔は忘れられません……」
両の拳を握り締め、唇を噛むレッティを慰めるように後ろから抱くアンナ。切れた唇から少し血が流れ、握り締めた手は震えていた。
ボクはレッティに口付けをし、治療するとアンナごとレッティを抱きしめる。
「ごめんね……大変だったのに」
「私達を救い出してくれたルナ様と、娶ってくれた主様に一生尽くします!」
あれ?レッティはアルフ君の事が好きだから嫁候補って話じゃなかった気がするんだけど……アルフ君涙。サツマイモがいっぱい取れたら美味しい大学芋を差し入れてあげよう。
「植えるのはこれで終わりですか?」
「そういえば色々貰ったけどまだ見てないよ! 特大銀の宝箱に何か入っているかも?」
スマホから特大銀の宝箱を出し、蓋を開けて見る。中からは色々な物やラビッツが出てくる……!?
「「「ラビ!」」」
「もしかして……ラビイチ!? ラビニも、ラビサンも生きていたの!」
特大銀の宝箱から出てきたラビッツはボクが魔物の王に就く時テイムしたラビッツだった。
訓練のあと三匹とも見なくなり、疑惑のラビッツ香草焼きが晩御飯に添えられていた時はもうダメかと思ったのに……
額の植物はテイムすると同時に枯れて、代わりに角が生えてきている。角を撫でると『ラビラビ』鳴きながら手を舐めてくれた。感動の再会を涙ながらに皆に語ると貰い泣きする者が続出する。
「……ラビニとラビサンは育てて、レッティとアンナの騎乗用になってもらうね!」
「「良い話でした! 一生懸命育てます」」
一応間違えて狩られないように天使御用達の服を裂いて胴体に巻きつける、これで皆に周知してもらえば大丈夫だ。マリアさんに合うついでにテイムした魔物用の首輪を貰わないといけない。
「マリアに会った帰りにギルド倉庫に寄ってな! ラビッツ草の種がそろそろ出来てるはずや」
「ラビッツが食べると進化するってやつだよね? この三匹は最強のラビッツにするよ! 他に入ってるのは長い蔦? アウラさんの蔦を編んだ縄かな。それに謎の種が複数個と薬瓶? 袋? 説明書とイデアロジックに謎の皮が大量……?」
「種は植えますね~」
「あ、説明書先に読むね」
『カナタへ』
説明書を読みながら手順をふんでください。
まず掘り起こした地面に種を植えて十分な魔力を撒いてください、次に水を撒き一日放置します。
薬瓶はHP回復薬、通称HPポーションと呼ばれるアイテムの原液です、千倍ほどに薄めて売るなり使うなりご自由にどうぞ。この世界には一般的に回復アイテムは出回っていませんので注意を。調薬できる仲間がいたら分析して量産すると良いですよ?
袋はとある魔王領に住んでいる魔物の王ベヒモスを生きたまま愛が解体して手に入れた胃袋から作ったアイテムバックです、イデアロジック(魔道具作成)とベヒモスの胃袋も同封しておいたので作って嫁に持たせて上げてください。サンプル品は愛が全身全霊を捧げて作ったモノなのでカナタが使ってあげてくださいね? 重量と質量を限りなくゼロに近づける用作ってあるみたいです。
なお魔物の王ベヒモスは、そのあとスタッフが責任を持って回復させました。
縄は私の蔦を編んだ特別製なので色々な冒険に役立ててください、愛にも引き千切れない様に特殊な編み方をしているので実用性は抜群ですよ?
カナタがテイムしたラビッツですが……すぐに進化が始まりカナタの魔力に当てられて爆散しそうになっていたので、私が保護して回復させておきました。
カナタのスマホとやらは、自分のレベル以下の生物を問答無用で収容して出すまでの間の時間を止めておけるみたいなので、ラビッツを一緒に入れておきますね?
愛が多分そちらに行くので適当にあしらっておいてください。もうすぐそちらの町の北門外が開拓期に入るので厄介だと思いますけど、そのまま放置してください。一応、まおう=あいと言う名前で冒険者登録されているので問題ありません。
最後に、カナタに幸多き未来があらん事を嫁一同切に願っています。
さすが良心の固まりアウラさんだ。ラビッツ達がそんな事になっていたとは思わなかった。
魔物の王ベヒモスには可哀相な事をしたかもしれないけど、これで冒険が楽になるね!
それにしても何の種なのか書いてなかった……まぁ大丈夫だよね?
「種もう植えた? 植えたらスキルで魔力を撒くから離れてね~」
「OK主様、植え終わりました!」
ついでなのでイデアロジックを使い【魔道具作成】も覚えておく。【魔力の源泉】を使用すると気のせいかサツマイモの蔓が太く長くなって行くような気が……
「あの……? 主様、サツマイモが急激に成長しているような気がするんですが?」
「見間違いじゃなかったのね!」
ウネウネと畑の範囲外へと延びていくサツマイモを止める事はもう出来ない、とりあえず種の為に魔力を撒くと水も撒いて農作業?を終了とする。
「このサツマイモ大丈夫かな?」
「主様の魔力を吸って育った植物なら格別に美味しいかと思います!」
おかしな話だけど、ラビッツなど植物性の魔物とこのサツマイモは本質的には一緒らしい、ラビッツもサツマイモも近くにある『世界に存在する力』や魔力を求めているのだとか。
レアラビッツに狙われたのは案外ボクの力に引かれたのかもしれない。
「まぁ、ロニーとミリーに世話を任せていいかな? あの端の花壇見たけどすっごく良いと思うよ? メアリーに経費申告してもっと花壇増やしても良いね」
「「了解しました! 一生懸命育てます」」
「それじゃあボクはマリアさんに特大ビックWARビーの巣を渡すのと同時に色々清算してこないとダメだから……皆も今日くらいゆっくりしても良いと思うよ?」
適度に遊ぶ事も必要だと思う、皆まだまだ子供だ。全員の頭を撫でてボクは教会跡の孤児院へと足を向ける。ルナとアンナが一緒についてくるみたいだ。
宿側の出入り口から外に出て裏通りを歩く、付いて来るルナとアンナ。
「ところでルナ? なんでアウラさんの縄でボクと自分を繋いでるの?」
「わんっ?」
ボクの腰に巻いた縄を自分にも巻きつけ縛っている、後ろを付いて来るのは何故かと思ったけど、横に並ぶと縄に誰かひっかけそうな気がするから遠慮したのかな。
可愛く首をかしげるルナ、危うく騙されそうになるけどそれとこれは別だ。
「もうカナタと離れるのはいやや……」
「大丈夫だよ? そうだ! スマホの子機をあげるからこれでいつでも場所がわかるよ?」
スマホから子機を四台作りルナとメアリー、レッティとアンナのに持たせる事にする。
GPS機能はONにしてある、使える機能はアイテム収容とMAPと通話に限定されているけど子機は十分すぎるほど便利だ。
「アイテム収容と地図と、通話と言って遠くに居ても話ができる機能がついたマジックアイテムだと思ってね。収容できるアイテム数は無生物を一個みたいだから、特大木の宝箱を収容して普段はその中に色々物を入れると、取り出しが大変だけど便利だよ?」
受け取ったルナは尻尾をふりふりしながら縄を解いてくれた。
アンナが立っていた場所から、大きな物が地面に落ちたような音が聞こえてきたので振り返ると……アンナが気絶していた。
ルナが往復ビンタをしてボクが治療するとアンナは目を覚ます。
「頬が痛いれす……マジックアイテム貰えるなんて、感動しすぎて頭が真っ白になりました」
ルナがボクのマネをして左手に子機を近づけると腕の中に吸収されて見えなくなる。。
アンナも試すが何も起こらない、どうやら眷属限定の事みたいなのでアンナにも口付けをして眷属化を使用する。
「帰ったらメアリーとレッティも眷属にしないとね~」
「幸せすぎて死んじゃいます!」
再び歩き始め教会跡の孤児院へ向かう、鼻歌を歌いながら三人並び歩いてすぐに目的地に着くが、門は閉まっており中なら人の気配はしない。
「冒険者ギルドの方かもしれないね~」
「冒険者ギルドまで競争しませんか!」
「うちに勝てると思っとるん?」
ボクが制止する間もなく走り出した二人を追う。護衛対象をほって先に行ってしまうとはどういう事かな!
先に行ってしまった二人を追いかけるも、早すぎて追いつかない。
視界の端にガラス製だと思われる瓶とコルクの蓋がセットになった物が……店の軒先まで溢れているお店を発見して足を止める。
嫌な予感しかしない、ボクはスマホに入っているビックWARビーの巣の事を思い浮かべながらお店に入る事にした。
「いらっしゃい……」
「いらっしゃいませ! お父さん、腐ってるならもう奥に引っ込んでてよ!」
死んだラビッツのような目をした青年と娘だと思われる子供が出迎えてくれる、店内を見回すと小瓶や雑貨、生活用品がメインで、何故か編んだ籠や皮のスリッパも売っていた。
お父さんと呼ばれた青年は娘の言葉にも反応せずただレジに立ちすくんでいる、娘はボクを目で追い後ろから歩いて付いて来る。
商品を手に取るたび表情が輝くように笑顔になり、元の場所に戻すと暗く泣きそうな顔をする。
「えっと……お父さんがあんな事になったわけとか、聞いちゃっても良いかな? 多分手助けできるんだけど」
「今月末までに借金を返さないと、私が奴隷として売られてしまうんです。ビックWARビー討伐依頼が出たので、借金までして高品質なコルク蓋付きの瓶を揃えたのに、品物が返品されてこんな事に……」
話す女の子は決意を固めた目をして笑顔で瓶を薦めてくれる。この子はもう自分が売られても良いと思っているみたいで少しでも在庫を減らす事で親を助けたいみたいだ。
どうやらボクが巣を持って帰れなかった事が原因で大変な事が起こっている……
「すいませんでした! 責任持って全部買わせていただきます……」
「えっ? ちょっと、お姉さん何してるんですか!」
レジの前で土下座をするボクを起こそうとする女の子、まだ腐ったままの青年。
娘の声を聞いたのか慌てた様子の女性が店の奥から出てくる。
「どうしたんだい? まさか夜逃げの準備がバレて……」
「お客さんがいきなり土下座して動かなくなっちゃって……」
夜逃げの準備……もう、申し訳なくて頭を上げる事ができない。次第に涙が出てきて声が震えてくる。
「全部ボクの、責任です……瓶は全部買わせていただきます、ごめんなさい、ごめんなさい……」
「はぁ? えっ! 全部お買い上げになられるんですか……?」
状況が把握できていない二人と腐った青年に土下座したまま緊急依頼の事を説明する。
「……全部で金貨2枚近くあるんだよ? 大丈夫なのかい」
「これでも冒険者としてそこそこ稼いでいるので大丈夫です……」
「あ!! 私、このお姉さん見た事あるよ! 【絶壁】さんだよね!」
娘の言葉を聞いた母親と思われる女性が、すぐにボクの肩を掴み無理やり立たせてくれた。
初めてみる女性の顔面は蒼白で今にも泣きそうになっている。
「このたびは大変な無礼を働き、まことに面目しだいも無く……娘の命だけは簡便してください」
「「えっ!?」」
女性は急にちぐはぐな言葉使いで謝りだし、娘の助命を願いだすと逆に土下座を始めた。
「お母さん? 何してるのか分からないんだけど? お客さんが困ってるよ!」
「もしかしなくても、変な噂に惑わされているだけですよ! ボクは全然怖くないですよ!?」
「カナタ~付いて来ないから迎えに来たで!」
カオスな状況になりつつある店内に新たな客が登場する。
ルナは遠慮無くボクの手を取り外に出て行こうとしたので慌てて止めると、状況を説明する。
「蜂蜜入れる瓶は必要やし……カナタが買っておいてマリアにセットで引き渡せば良いんちゃう?」
「そうそう、それを言いたかったんだよ? とりあえず金貨2枚受け取ってね!」
「でも金貨2枚は貰いすぎだと……」
「迷惑料も込みなので! もしダメなら差額の値段分雑貨を買わせてください」
金貨2枚を女の子に渡すと瓶をどう運ぶか悩む事になったが、後で指定の場所まで運んでくれるらしいので甘える事にする。
まだ腐ったままの青年を女性が張り倒し、正気に戻らせると家族三人揃って頭を下げてくる。
「「「お買い上げありがとうございました!」」」
そのまま立ち去ろうと店の出口に向かうが、青年に呼び止められ振り返る。
「このご恩は絶対忘れません! 何か必要な物があれば何でもご用意するので仰って下さい!」
「その子が必要や、健康状態も良さそうやし賢そうな子や。カナタの嫁に貰っていくな!」
土下座した青年の言葉を聞き、ルナがトンでも無い事を言い出しボクを慌てさせる。
「ちょっとルナ! 必要な物とは言ってたけど必要な者じゃないからね!?」
「そうです! この子は私達の大切な……目に入れても痛く無い大切な娘です! ぶっは」
呆然とする娘の目の前で母親が青年の顔を殴り沈黙させると、計算高い商人を思わせる笑みでこちらを見つめてくる。
「レイチェル今日から貴女は【絶壁】様の嫁になるのです。荷物は後でまとめて送るのでそのまま付いて行っても結構ですよ」
「えっ! お母さん? 【絶壁】さんはお姉さんだし急にそんな事言われても……」
「そうですよ? ほら本人の意思とか大事ですし、そこはちゃんと話し合って決めないとダメです!」
母親はレイチェルと呼ばれた女の子の手を引っ張りレジの影で説得しているみたいだ。狭い店内なので声が聞こえてくる。
「レイチェル、貴女はこんな小さなお店で一生を終えたいのですか? 私は結婚して冒険者家業から退きましたが、【絶壁】様の名前は聞き及んでおります。将来を約束されたようなモノなんですよ!」
「えっ!? でも私もお姉さんも女だし……確かに綺麗だし、凄く素敵な人だと思うけど?」
「性別は関係ありません、もとよりランクの高い女性冒険者は同性を娶る事が多いそうですし。教会の秘術をかけてもらえばアレが生えるそうなので、貴女の努力次第で子種もいただけるかもしれませんよ! それにこのご時世、他人にぽんっと金貨2枚差し出せる人なんて……腹黒い貴族かお馬鹿な正直者だけです、【絶壁】様は間違いなく後者なので私も安心して送り出すことができます」
ちらちらとこちらを見ながら話す母親、そして小さい声だけど確実に聞こえてくる話の内容。お馬鹿な正直者と言われている……
「でも、お店の売り子をしないとお父さんだけじゃ売り上げが……」
「原因を正せばあの馬鹿が、利益を優先して娘を借金の形にしてまで無謀な事をするから悪いんです。貴女ががんばって御用商人にここを選んで貰えるようにすれば、安泰ですよ? 貴女をだしにするようで悪いですが、私が【絶壁】様の嫁に行くには歳を取りすぎているのです……」
こちらを見て頬を染める母親、ボクから見たら全然有りなお姉さん系美人だ。でもNTR属性は持ち合わせていないので遠慮願いたい。
「そう言えばそうだよね……私が借金の形になった事を告げられた日は、一日泣いたのを思い出したよ。お母さん私がんばる!」
「それでこそ私の娘です! こんな事もあろうかと冒険者時代に培った手練手管を書き記した日記を貴女に託します。今でこそこんな冴えない旦那を持った身ですが、昔は男女問わずモテモテだったんですよ?」
「酔っ払ったお父さんが話してくれたけど……結婚するまでは気が気でなかったって言ってたね~」
聞こえてる、お話聞こえてますよ! こちらをチラ見する親子の視線は肉食獣が獲物を捕らえて舌なめずりしている時のソレになっていた。
「話は決まったみたいやな! 用事の途中やからさっさと行くで?」
「レイチェルと言います! よろしくお願いします~」
「娘をよろしくお願いします! 私はチェルシーと申します、何か必要な物が出来たら『レイ&チェルシーの店』を御贔屓に~」
途中から商人モードに入ったチェルシーさんに見送られながら、ルナに引きずられ外に出るとレイチェルも一緒に付いて来る、ボクが何も言わないうちに嫁がまた一人増えました!
床に転がっているレイさん?と思われる青年を見て確信する。
この世界の女性は強い、気を抜くとガブリといかれる猛獣だと……
引きずられるまま冒険者ギルド前までやってきて思い出す、まだ一難残っている事を。




