第42話 宴会が始まるよ!以外な才能?
宴会……それは、気の合う者やそうでない者もお酒や料理の力で、一緒に楽しく羽目を外しましょうという感じの集まりだっけ?
冒険者ギルドの1Fフロアは宴会場へと姿を変えていた。
「ロズマリーはずるいですわ……マリアンにロッズと結婚して順風満帆な人生を歩んでいて、私なんて……」
「マーガレットもそろそろ良い人見つけて、押し倒してしまえば良いんだよ~」
何故か酔っ払ったマーガレットさんとロズマリーさんが、仲良く隣り合った席に座り人生相談を始めている。
「肉、肉、肉、野菜……肉、肉、野菜、肉、肉、うちは幸せや!」
「ルナはもっと野菜食べると良いよ? 普段高いから……野菜はこんな時に食い貯めしとかないとね~」
ルナがラビッツの肉を食べあさっている、時々食べるギザギザの葉っぱは大葉みたいな香りがする香草である。
「秘蔵の酒! 五年物の『オーガ殺し』を樽で持ってきたぜぇ!」
「俺は『アプシードル』を樽で持ってきたぜぇ!」
何故か張り合うオルランドさんとロッズさん、一口味見したところ『オーガ殺し』は米で作られたお酒の様で、すっきりとした味わいのわりにガツンとくるアルコール度数が謎の調和をかもし出している、あちらの世界にある泡盛のような感じ?
そして若い冒険者に大人気の『アプシードル』、こちらはアプの実から作られた発泡性のワインのようなお酒で、バーカウンターで一般的に使われている木のジョッキとは違うクリスタルガラス風のグラスに注いで飲む、お洒落な感じがするお酒だ。味は果汁一〇〇%林檎ジュースにアルコールと炭酸を入れたような感じ?
どちらも非常に高価なようで、マリアンさんが鬼の形相になっていたり、こっそり紹介されたオルランドさんの嫁さんがバーカウンターから射殺す様な視線を向けている。
宴会のお手伝いは非常に割りの良い依頼だそうで、嫁を働かせて自分は高い酒を飲むオルランドさんに明日はあるのか心配だ。
お酒類もそうだけど、基本飲み物がぬるい……分かってはいたので諦めかけて居たけど、『アプシードル』が出てきたので話は別になる。
想像してみて欲しい、常温のカクテル・サワー・ビール……焼酎はまぁ冷温どちらもいけると思うけど、前三つは冷たい方が美味しいに決まっている!
生活魔法で水を出し樽にかける、その後冷却で樽の周りの水を気化させ冷やしていく。
気化熱の事を皆知らなかったみたいで、皆何を始めるのか興味津々だったが、樽が回りの水ごと氷始めると悲鳴に似た歓声が巻き起こる。
「俺は生活魔法舐めてた……精霊魔法の氷結系より簡単じゃねえか!」
「生活魔法が全ての魔法の原型って教えてもらったので……そんなに凄いですか?」
「才能が無いと精霊魔法は使えねえ……MP消費が倍になる事と威力の低ささえ目を瞑れば、氷を作れると言う事は凄いと思うぜ?」
オルランドさんの言い方から推測すると戦いで使うには微妙そうだけど、生活は豊かになりそうだね!
調子に乗って大きなタライを用意してもらい、自由に取れる様に砕いた氷を常時補充する事にする。
バーカウンターに居るマスターが、最高の笑顔で握り拳に親指を立てていた。
余談になるが。後日、ギルド倉庫の一番大きい部屋に巨大な氷を作るという指名依頼を受け、途中から面倒になったので部屋全体を指定し【空気調和】で室温を-15℃に設定すると、魔力を365消費して魔法の冷凍部屋にした。
扉は鍵無しで開け閉めできるし中に閉じ込められた時用に、部屋の隅に特大木の宝箱を利用した退避場所を作るのを忘れない。
冷凍部屋の利用が始まった日に、冒険者全員に胴上げされそうな勢いで感謝された。何故かと思ったら……依頼主がラーズグリーズ支店の全ての冒険者&職員だった。
黙々と料理を平らげる冒険者達、差し入れにどんどん食材やお酒を持って来る者。
スラム街出身の冒険者見習いやら、町のお店の店員さんやら再現無く増え始め、気が付くとリリー達も料理を食べていた。
そんな人数だと当然の如く、料理が間に合うはずも無く……料理できる者が必要になってくる。
料理が出来る冒険者や町のお店の料理人はもちろん、一般家庭のお母さんまで参加して冒険者ギルドの中から外へと会場は移動していく、ボクの担当は冒険者ギルドのフロア中央に設置された大鍋で鍋料理を作る事だった。
目の前で繰り広げられる光景を見ながら、大鍋に切った具材を投入していく。
何故か主役のはずのボクが具材を切り鍋に入れ味付けをしている、野菜がメインで肉や魚が入っていない鍋だ。
野菜が高級品なこちらの世界では高級鍋に分類されるのかもしれないが、ボク的には少し寂しいモノがあるので、スマホに保存してあるヤツを調理する事にする。
5m級の超巨大鮭の稚魚を取り出すと賑やかだった冒険者ギルドに沈黙が訪れる……
「失敗したな……こんな大きな鮭解体した事無いよ、解体スキル使うと多分食べれる部分まで消えちゃうしどうしようかな?」
「私に任せてもらおう……よもや生きて『時忘れ』に出会う事が有るとは、思いもしなかった」
バーカウンターからマスターが1m級の肉厚出刃包丁を持って近寄ってくる、鬼気せまる表情で怖い。
無言で場所を開けまな板様に引いて貰った鉄の板の上へ魚を移動する。
「この出会いを神に感謝する……【一の太刀】」
マスターが包丁を小脇に構え、スキルで一息に鮭の正面から包丁を振り下ろす。
何も起きない?マスターは後ろを振り返りまたバーカウンターへ戻っていく。
「俺、マスターが剣を振るったのを始めてみた……。剣聖の剣技が見れるなんて、今日ここに居るやつはついてるぜ!」
オルランドさんは異常なほどハイテンションだけど、鮭は何事も無くそのままだ。
皆ボクを見て肯いている、触れば良いのかな?
鮭の顔に手を触れると冗談のような光景が目の前に広がる。
「すごい、皮・身・骨・内臓全部綺麗に分かれた……」
「内臓はすぐ食べないと痛むから調理するよ! 骨と皮は素材だね! 身は何切れ食べて良いんだい……?」
ガーネットさんが聞いて来るが、質問の意味がわからない、周りは一言も喋る事なくこちらに注目している。それにしても何切れ?何キロじゃなくて?
「大きいですけど一切れ20cmくらいしかないですよ? まぁ全部は食べきれないと思うので、三分の一くらい調理して食べましょうか? お土産に貰った物なのでお裾分けです、残りは燻製にしたりしたいので保管しときますね~」
「「「「「「オオッー」」」」」」
響き渡る歓声と雄たけび、何故か周りにいる人が例外なく叫んでいる。
よっぽど魚が食べたかったのか、海が超危険地帯だと分かったのでしかたないかもしれないけど。
「おま、お前。 そいつはただの鮭じゃねえぜ!」
オルランドさんが唾を飛ばしながら近寄ってくる、下がるとルナの背にぶつかりオルランドさんに詰め寄られる。
「普通の鮭じゃないんですか? 大きいですけど……」
天を仰ぎ、両手で顔を覆ってひざまずくオルランドさん、『なんてこった……』とかぶつぶつ言っている。
「その鮭は通称『時忘れ』魔の海域でも滅多に上がらない超レアな鮭ですよ? 王都に丸ごと持っていけば城が建つんじゃ無いでしょうか……」
「またまた~そういう冗談は通用しませんよ? 普通に朝ご飯で食べてましたし」
マーガレットさんの言葉が冗談のように聞こえるが、冒険者達は誰一人ボクの言葉を肯定してくれない、そして『ゴクリッ』と喉が鳴る音が響きわたる。
「何故高いかと言うところから説明しないといけないようですね……。そもそも海で漁をするなど一般人には不可能です、この世界で漁が行なわれている場所は多く有りません。一番有名な場所が断崖絶壁に囲まれた魔王領『夢魔の楽園』と言う場所で、冒険者で言うSSランク級の者達が漁をして細々と暮らしているという話です。実際行って見てきた者は殆どいません……『夢魔の楽園』に接近すると容赦無く蹴散らされるので、辿り着けた冒険者は数名しかいないのです」
多分その数名は女性冒険者だと思う、そしてボクはそこに行って来ましたとは言えない、墓まで持っていこう。
「そして漁で取れる魚、その中でも『時忘れ』は別格です。通常世界中の海を回遊すると言われている鮭なのですが、稀に海底洞窟に巣を作り親に養ってもらって育つ鮭がいます……親が寿命を迎えて亡くなると初めて自分で餌を求めて巣から出てくるので、時を忘れるほど動かずに過ごす鮭『時忘れ』と呼ばれているのです。乗りに乗った脂と荒波に揉まれ無かったおかげか身は柔らかく、親が厳選した餌を与えるのでその身を食べると芳醇な香りが口いっぱいに広がって時を忘れるほどだそうです……」
それニートですやん……一瞬鮭のトキシラズと似た様なモノかと思ったけど全然違った。
「俺も魔王に攫われたいぜ……」
「ふぃえっ!?」
今誰かが呟いた言葉に焦る、なんで魔王に攫われたのがばれているのか……あのキングビーは魔王とは言ってなかった。
「カナター? どうしたんだいおかしな声を上げて、マーガレットを任せてもいいなら鍋の番代わっても良いんだよ?」
「ロズマリーさん、ボクが誰に連れ去られたとか知ってます?」
「魔王じゃないのかい? タイミング的にカナタ以外しか居ないだろ……【魔王の花嫁】なんて称号貰うやつは」
おかしい、称号の事までオープンになっている、愛姉が喋った?何の為に?
「名前は出てこないがカウンター横の掲示板に、新たな称号を獲得したら表示されるぜ?」
オルランドさんに言われて一番左の壁を見てみると、一週間以内に獲得の場所に、ばっちり【魔王の花嫁】が表示されていた。
「無駄にハイテク過ぎる……」
「それにカナタ……」
ロズマリーが小さい声で囁いてくる、『浄化だけじゃ獣人の鼻を誤魔化せないよ? カナタからするもう一人の匂いは……』顔が茹蛸のように真っ赤になっていたと思う、ボクは今すぐ家に帰りたい。
「エチケットさね」
「ありがとうございます……」
ロズマリーさんが匂い袋をくれた。腰の辺りに巻いて留めておく。
「それにしても皆平然としてますね? ボクの姿見て驚かれると思ったんですが……」
「「「「「「胸が膨らんでる!?」」」」」」
「今さらですか!」
色々有りすぎてスルーされていたみたいだ。
「おめでとうと言わせて貰おう、それよりそろそろ鍋食べても良いんじゃないか?」
冒険者は食い気が優先みたいで、鍋を遠めに取り囲みつつある、『時忘れ』は一人一切れずつあるかな?
リリーちゃんと話をして癒されよう……
「リリーちゃんもいっぱい食べて大きくなってね~」
「こんな豪華なご飯初めて食べるの~」
「「「「「「いただいてます~」」」」」」
冒険者見習いの女の子ばかり集まって食べている、冒険者ギルドの外には愛姉の気配がする。
「これ、まおうさんからなの~」
「ありがとう?」
麻袋の中にはサツマイモの蔦がいっぱい入っていた。
「これで芋を栽培できる!」
「何だその雑草は? 食えるのか?」
オルランドさんが手を伸ばし中身を奪おうとしている。
「これだけはダメッ!」
「「「「「「セイッ!!」」」」」」
手を伸ばしたオルランドさんを囲み、リトルエデンの新人さん?が一斉に黒鉄杉の槍を構えて静止する。
「冗談だよ! 俺は何もしてねえよ!」
「うちの……うちらのカナタに手を出そうとするとは命知らずやな!」
「ルナ……今、独り占めしようとしなかった? 私達全員のカナタだよ? 目を見て肯いてね!?」
あさっての方向を見つめたまま肯くルナを問い詰めるメアリー、周囲の子供達は慣れた様子でそのやり取りを見つめる。
「モテモテじゃねえか、良かったな【絶壁】」
「あっ! そう言えばさっきの話は何なんですか! ボクが凄い怖い人みたいな噂流したのはオルランドさんでしょ!」
「なかなかシビレル噂に仕上がったと思うぜ? 今じゃ王都でも有名人だぜカナタは。ハッハッハッはぶっ!?」
自信満々に宣言するオルランドさんの後頭部を、フライパンで殴打すると引きずっていく嫁さん……
一応治療をかけておいたから大丈夫なはず?
「ちょーっと待てよ! 嫉妬か? 心配するんじゃねえよ、【絶壁】とはそんな仲じゃない……えっ? 違う? 酒樽の事!? 男には負けられない時と言うものがあってだな……」
「悪は滅びたんや! 鍋もイケルで? うちは幸せや~」
いつの間にか二杯分鍋を確保していたようでバーカウンターでオルランドさんと嫁さんが一緒に食べている、オルランドさんの顔からは余裕が失われ、何度もフォークで自分の手を突き刺しそうになっていた。
「カナタおねえちゃん鍋美味しいね~」
「リリーも食べる!」
「一切れずつあると思うからいっぱい食べるんだよ?」
一仕事終え鍋を食べながら一息ついていると、『時忘れ』の骨と皮を熱心に眺め時折触れてため息をつく不審者を発見する。
「グロウさん……」
「えっ? 今くれるって言った!?」
「盾ありがとうございました! 色々助かりました。グロウさんは何してるんですか?」
「オレはこいつが欲しい……いや、こいつがオレに自分を防具にしてくれと言っているんだ! 頼む譲ってくれ、無論ただとは言わない、その玄武の盾にこいつで作った盾を一つやろう。どうだ? 足りなければオレの出せる物なら何でも出す! お願いだ!」
グロウさんがにじり寄って来る、顔が赤くなって鼻息が荒いし両手をにぎにぎしている、どう見てもヘンタイである。
後ろからガーネットさんが来る、これはまたグロウさんが打ちのめされるんじゃないだろうか?
「私からもお願いするよ……こんな防具馬鹿でも立派な父親になるんだ。これが最後の頼みだと思って防具製作を頼んでくれないかい?」
「えっ!? 最後……」
「盾を作ってもらえるなら願ったり叶ったりなので、是非よろしくお願いします!」
グロウさんが『最後か……そうだよな、オレは子供の為に稼がないとな……』と呟いていたのは聞かなかった事にする。
緊急依頼とシングルスター増加のおかげで防具が飛ぶ様に売れ、ガーネットグロウのお店は大繁盛しているらしい、これが最後と言われたグロウさんはどこか遠くを見ていた。
四回目の鐘が鳴った頃、お腹いっぱい食べ終わったのかリトルエデンの皆はボクの周りに集合し始めた。
「カナタ、リトルエデン本拠地を案内するで!」
「本拠地? どこか建物でも借りたの?」
「すっごいんだよ! 見て見て!」
手を引かれそのままギルドを出て行きそうだったので、マーガレットさんに挨拶してから出て行く事にする。
それにしてもロッティを見ていない、どこか出かけてるのかな?
皆で歩く大通りは前見た時より人が多い気がする。冒険者ギルドにアレだけ人が集まってもまだ大通りには人通りが絶えない。口々に依頼がどうこう言っているので、また緊急依頼みたいなモノが出るのかもしれない。
家に帰る途中、八百屋さんに顔を出しトマトっぽい実のなっている鉢と、どう見てもジャガイモの鉢を買い、庭に農園を作る計画を立てる。
ずっと気になっていたリトルエデンの新人さんの事をメアリーに聞くと、恐ろしくも賢いルナの仕業のようだった。ルナは尻尾ふりふりしながら前を歩いている。
「……と言うわけで領主様に見つからないように全員綺麗に身支度を整えて、装備も天使御用達の服と各種装備を揃え、お父さんが師匠になって皆訓練にはげんでいるんだよ~」
思わず絶句する、スラム街から身寄りの無い子供を拉致してきてクラン構成員に仕立て上げる皆WinWinとも言える?恐ろしい手口だ。
「ボク、明日にでも領主様に合わないといけないんだけど……絶対バレる自身あるよ?」
「この子達の命はカナタおねえちゃんの肩に掛かっているんだよ~」
後ろを振り向くと三列横隊で付いてくる子供達の視線が突き刺さる、話が聞こえていたのか『私達捨てられるの?』とでも言いたげな悲しい目である……
「少し予定が早まっただけだと思えば良いよね……マリアさんには胡麻を擦って何とかしてみるよ! 皆これからヨロシクね~」
「「「「「「主様よろしくお願いします!」」」」」」
平均して一三歳前後だと思われる子供達が一糸乱れぬ仕草で並び歩き付いて来る、はっきり言って目立つ。
「もう後戻りできないね……」
リトルエデン最強クラン化計画を練り直していると、前を歩くルナが急にトンでも無い事を言い始める。
「カナタは嫁何人欲しいん? うちは何人でもかまわへんよ?」
「私も全員大事にしてくれるなら良いよ~」
そして本日二度目の絶句、どうやらルナとメアリーはクラン構成員を全員ボクの嫁で固める気のようである……
あれ?これ手遅れになってる気がする、ちゃんと説明して普通に仲間になってもらおう。
後ろを振り向くとまた『私達捨てられるの?』とでも言いたげな視線がボクを責める、詰んでいた。
「気が付いたら嫁が一四人増えていた。ボクはもうどうする事もできない……」
「「「「「「よろしくお願いしますカナタ様!」」」」」」
両手を上げ降参すると前を歩くルナの後に付いて行く、何故か宿の隣の屋敷の裏手に回り始めるが皆何も言わない、どういうわけか裏には黒鉄杉で作った門が有り隣の屋敷に侵入できるようだ。
「どこに行くの? 隣の屋敷を買って本拠地にしたの!? お金大丈夫なの!?」
気が付いたら借金まみれでした……とかなっていたら嫌だ。
庭に入り、正面玄関から中に入ると食料庫に入って行く、そこにあったのは地下への螺旋階段と謎の穴通路だ……
「お父さんがリトルエデン結成祝いにって買ってくれたよ~あと改築とか全部も」
「えぇぇっ! こんな立派な建物に何この秘密基地通路、よく四日くらいでこの通路掘ったね……いくら借金したのか怖くて聞けないよ」
「え? ボロ屋敷だったのを買い取って全部お父さんが改築したんだよ? 朽ちかけてたからスッゴイ安かったって言ってたよ! この通路も掘ってくれたし」
丁度穴通路を出て謎に部屋がいっぱい有る空間へと進む、ボクの記憶が正しければここは幅3mくらいの何も無い通路だったはずだ……
「こんな部屋無かったよね……あっもしかしてこっちはお風呂!?」
「部屋は全部クラン構成員の嫁達の部屋だよ~その盾の吊ってある方が今じゃ少し狭いけど女の子用のお風呂だよ~」
特大木の宝箱を利用した木造の湯船が二個と少し手前にもう一個置いてある、手前のは飲み水を溜める用かな?コップがセットしてあった。
扉をあけて家の地下へ入ると綺麗に整理整頓された男部屋に繋がっていた。
「これ少し可哀相じゃない?」
「何が?」
「何がって……」
天井を見ると先ほどの穴通路から天井を伝ってこの部屋まで続く鳴子がある、なったらさぞうるさいだろうと思う……
「本来ならリトルエデンには男は必要ない、行くとこ無さそうやから男手が必要な時ようにここに住まわせてやってるんやで? ロッズが男は庭で十分だって言ってたけどな~」
「がんばってね……」
男三人が『オレ達がんばります!』と言って背を伸ばしこちらに頭を下げてくる、今度差し入れでも持って来てあげよう。
1Fに上がると壁際に並ぶ机と棚、それと入り口カウンターからやり取りできるように改造してあったりして、まるでギルドカウンターの様だった。2Fへの階段は2Fを守るように扉が付き、中に人が待機できるようになっている。
「もう何があっても驚かないよ! ん? 外にまだ何かあるの?」
ルナに手を引かれ外に出ると家の隣に食堂が出来ていた。
「何でやねん! まだ四日しかたってないっちゅうねん……誰や! 誰がこんな凄い事を?」
「お父さんだよ? 私から見ても凄い才能持ってると思うよ~」
ロッズさん……あなたは神か?建築系の神様の祝福でもうけているんじゃないだろうか。
食堂の中は家に繋がる扉が一つと隣の空き地に出る扉が一つ、これは将来また隣に食堂を追加する予定があるかの様な作りだ。
「よーっしボクもう考えるの疲れちゃったよ……とりあえず眠って明日また考えよう」
「久しぶりに一緒に眠るでー!」
「三人で眠るの~」
今日はもう解散として訓練も明日からにして休む事にする、見張りの二人と家の階段の見張り一人を残して各自自由時間にすると眠る為に2Fへの階段を上がっていく。
「「「……」」」
皆無言である、ベットの上に子供が一人入れそうなサイズの袋が横になって置いてある。
ルナが突くと『キャッ』と聞いたことの有る声が聞こえた。ルナとメアリーが即座に動く。
「メアリー熱いな~窓開けてんか?」
「そうだねルナ、丁度ここの窓……子供くらいなら外に放り出せるくらいには開くんだよね~」
ルナもメアリーも声は笑っているような明るい声だけど……口を半開きにして牙を見せている。
「ロッティ出てこないと2Fから硬い石畳にダイブする事になるよ……」
顔を出すとルナとメアリーの怒りがどれほどのモノか理解出来たようで、そのまま転がって階段を下りていこうとしている……もちろんルナとメアリーが逃がすはずも無い。
「悪い子や!」
「悪い子~」
「ちょっと、あっん、待って、いっ、ください! 二人がかりは、んっ、ダメですっ! はぅ」
ルナがロッティを捕まえてきて、ベットに上半身を乗せるとメアリーと交互にお尻ペンペンしはじめる。
ずれた袋からロッティの背中が見える、何で裸で袋に入っていたのか……
「ここはカナタの嫁専用ベットや! 悪い子はお仕置きや!」
「手が痛いけどちょっと楽しいかも……」
「はぁ、はうっ、いいっ、もぅ、んんっ」
ロッティの声を聞いていると変な気分になる、メアリーも怪しい笑みを浮かべ手を振り下ろしている。
「もう眠りたいんだけど……」
「お仕置きはおしまいや」
「ふぅ、手が赤くなっちゃったよ~」
「えっ!?」
ルナがロッティを床に放り出す、一瞬驚いた表情を浮かべたロッティはこちらを見ている。
「ロッティそんな格好で床に転がってたら風邪引くよ?」
「ご主人様! 一緒に眠って良いって事ですか! ことですよね! 分かりました失礼します~」
「ロッティはカナタの嫁なんか?」
「一蓮托生と言うか……」
どういう仲なのか自分でも分からない、ただロッティが一生をボクに捧げる気でいる事は間違いないと思う。
「もう一四人も一五人も変わらないよね……嫁で良いんじゃない?」
「カナタ様~むにゃむにゃ」
ロッティはベットに入るやいなやボクの足元に寝転がると寝息を立て始める。
広いベットだから別にルナかメアリーの隣でも良いのに……
ルナがタイガーベアの毛皮をもう1枚出しロッティが風邪引かないようにかけてあげていた。
むむむ、ルナが尻尾からタイガーベアの毛皮を出す瞬間を目撃してしまった。
「ルナ……その尻尾どうなってるの?」
「むにゃむにゃ」
ルナもメアリーもすぐに眠ってしまったようだ。ルナの尻尾の謎はいつか解き明かしてみせる!
ふと、気配を探ると家の外に愛姉の気配をまとった精霊が漂っている事に気が付いた。
どうやら見張りをしてくれているらしい、昼間見たロッジで眠っているであろう愛姉に感謝しながら目を閉じる。
この幸せな日々が長く続きますように……
週三回の更新は可能な限り火木土の日に行ないたいと思います!




