SS 魔狼獣人の系譜(カナタの居ない四日間)
カナタの居ない四日目の朝が来た。
目が覚めても隣にカナタは居ない……代わりにメアリーの胸を吸ってみる。
「うひゃい!」
目を閉じたままメアリーが飛び起きる、でもすぐに横になりまた眠るようや。
「寂しい……早く会いたいよ、カナタ」
十分なラビッツは貯まった。朝ご飯を食べたら【血脈S】を使う事を決意にする。
成長したうちの姿を見て、カナタはうちやと分かるやろか……少し怖い。
隣のリトルエデン本拠地から声が聞こえてくる、まずはロッズが行なっている朝の訓練でも見にいこかな?
地下通路を通って隣の庭へ移動する、今日の見張りはロニーとミリーのようや。
「おはようさん! 二人ともちゃんと肉付いてきたな、体は冒険者の大事な資本ってロッズが言ってたから頑張りや!」
「「ボス! おはようございますー」」
アンナがいつもうちの事をボスと呼ぶので、いつの間にか皆ボスと呼ぶようになっていた。
この群れのボスはカナタなんやけど、カナタはうちの主様やからボスのボスなんかな?
鳴子を避けながら穴を通る、途中額に角の生えたラビッツが生えていたので思わず飛びついた。
「ニードルラビッツや! 今日はええことあるかもしれん」
生えた角をゆっくりと引き抜く、運が良いと抜けた角は武器になる。
「ラビッツレイピアや! 高く売れるってメアリーが言ってたな」
浮かれて鳴子に触れてしまった、けどすぐアルフ達が来るやろうしエモノはここに置いておく事にする。
気が付いてなかったらいけないので、もう一度鳴子を鳴らしておく。
「ボスってさぁ、ダンジョンの一番奥に居そうだよね……」
「うんうん、暗闇だと目が赤く光ってて、思わず背筋がビクビクっとするもん」
「昨日の夜、水飲みに行った時ボスと鉢合わせて……私獣人じゃないけど、思わずお腹見せて死んだ振りしそうになったよ?」
「それダメな行動だってロッズさんが言ってたよ? お腹からガブガブされちゃうんだって」
「今鳴子が鳴ったけど大丈夫か! 侵入者か!?」
後ろからロニーとミリーとアルフの声が聞こえてくる、一声かけといた方が良いかな?
「アルフー! レアラビッツとラビッツ武器穴の途中に置いとくから回収しとってやー」
穴を出て牢屋のある地下室へ出る、ここも殺風景やから、何か植物でも植えんとあかんな。
太陽の光が無くても育つ植物ってなんやろ?
ラビッツでも捕まえて牢屋で育ててみるのも良いかもしれん、レアラビッツにまで成長するのなら美味しいしな。
螺旋階段を上がるとそこは物置ではなく、立派な食料庫になっていた。
ロッズの才能はもう人間のレベルを超えていると思う、つまみ食いは悪い事やから我慢して外に出る。
「ちんたら走るなー! そこー! 矢をつがえて無くても弓を絶対に味方に向けるな!!」
「あほちゃうか……」
ロッズが生き生きとした顔で子供達に指導している、走りながら弓を構え矢を弓の弦に引っ掛けて撃つ。
どう考えても素人に教える方法じゃないと思う。
でもどういう事か皆、格好が様になっているし、的のラビッツに命中している。
「おはようルナ! 一緒に走らないか?」
「何を教えてるんや!? 普通弓って止まって構えて撃つモノってメアリーも言うてたよ?」
「こいつらは白い布なんだ……」
「何やて?」
ロッズは拳を握り力説を始める。
「真っ白なんだ! 今の、子供の内に必要な技能をひたすら詰め込む、将来必ずAランク冒険者に……いや、全員Sランクを目指せてもおかしくない! 俺は今人生で一番充実しているんだ!」
「「「「「「師匠!」」」」」」
ロッズが輝いとる、アレは生活魔法の陽光?洞窟の中で植物を栽培する時に使う光や。
「PT全員が弓で攻撃するとか、うちでもバランス悪いと分かるで?」
「まずは土台作りからだ。全員弓を扱える様になってから、個人の素質にあった技能を教え込む、走りながら撃つ事でスタミナと集中力と観察力を強化し……」
説明し始めたロッズの周りで子供達が休憩を始めた。
「ボス! おはようございます、師匠はこうなったら一〇分は絶対このままなので休憩になるんですよ」
「アンナ、あまり無理させないように注意しとってや?」
「その言葉は嬉しいですけど……私達全員足手まといにはなりたく無いので、がんばります!」
「「「「「「ボス! がんばります!」」」」」」
何かうちの考えていた群れから離れていってる気がするけど、強くないとイケナイのは確かや。
「気張っていきや! もうすぐ朝ご飯やから、湯浴みしてから来るんやで?」
そろそろ湯浴み場が狭くなってきたので、またロッズに改築してもらって大きなおふろ?にしてもらおう。
いつもの様に食堂に集まる皆、うちは【血脈S】について説明する時が来た。
「食べながら聞いてや! この後うちは【血脈S】と言うスキルを使って成長する、多分一日はかかると思う。その間メアリーとレッティ……それにアンナ、この三人以外は絶対にうちに近寄らんとってな?」
「ボスは強くなるのか? 三人以外近寄らない様にってロッズさんとかマリアンさんもか?」
「絶対にダメや! 昔うちが住んでた村で、このスキルを使った子供が近寄ってきた仲間をガブチョした事があるねん……」
おぼろげに思い出す匂いと音の記憶、抉られた目では何が起こっているのか分からず、ただ村の教会に立ち込める血の匂いと、何かを咀嚼する音におびえていた。
洗礼の日に起きた事故。何て事は無い、洗礼を受け覚えたスキルを、大人の制止を聞かずに使った子供が一人いただけの事。
うちは目を抉られ、縮こまっておびえていたところ、喉を裂かれ気を失った。酷い子になると尻尾を噛み千切られた子も居るそうだ。
全てが終わった後にネーネが教えてくれた。
その日を境にうちは記憶を失い、暗い世界の住人となった。
その事すらもうちは忘れていたんやな……カナタが直してくれた瞳と喉、思い出される記憶。
始めは戸惑い色々迷ったけど、今のうちにはカナタと仲間が居るから平気や!
「ボス? 大丈夫か? 泣きそうな顔してたぞ?」
「平気や、少し昔を思い出しただけや……」
「それ、私とレッティとアンナはガブチョされないって事だよね……? 大丈夫だよね?」
めっちゃ心配そうなメアリーの顔を見てうちはニヤける。
「メアリーとレッティとアンナは肉付きが良いし美味しそうやからな! がおー!」
自分がおちょくられてると分かったメアリーは、うちの皿からラビッツの香草焼きを半分奪っていった。
「やめてんか! それは楽しみに取って置いたやつやのに……」
「真面目に話してくれるなら返すよ? それで何で大丈夫なの?」
食事中に冗談を言うと危ない事が分かった。もう食事中には止めておこう。
「怒らんから正直に言いや? レッティとアンナ、夜うちとメアリーが眠ったらベットに潜り込んで来てたやろ? 朝は早く起きて訓練に向かってたようやけどな」
「「ぎくりっ」」
「お尻ペンペンは簡便したる。三人の匂いと温もりはどんな状態でも分かると思う、勿論カナタなら絶対分かる」
寂しいのか温もりが恋しいのか、まだまだ子供やから個室に一人で眠るのはまだ早いと思う。
「うちは一人一部屋与えるとは言ったけど、一人で眠れなんて言ってないからな? 眠る時は別に一つの部屋にまとまって眠ったらええよ?」
「なら俺もレッティと一緒に「男はダメやで!」眠っても、えっ?」
働き次第では、一緒にリトルエデンに入った六人は認めてやっても良いけど、子供でも男女別がここのルールや。
「どうしてもと言うなら……男三人ロッズと一緒に眠ったらええよ? あぁ、見張り残さないとダメやから、一日交代で一人ずつな?」
「「「謹んで辞退させていただきます!」」」
アルフと男二人は土下座を始める、ロッズが少し寂しそうや。
メアリーが返してくれた肉は先に食べる、もう取られる事無いように皿に残った方も食べてから話す事にする。
「と言うわけやから、今日は各自訓練と木矢の補充に努めてや? 狩りは禁止やで」
「「「「「「ボス! 了解しました!」」」」」」
朝食後まずは家周囲の確認をする、侵入者の痕跡が無いか、宿の方に変な客は泊まってないか。
一時間ほど念入りに周囲確認してから家のベットに移動する。
「うちが手伸ばしたらその干したラビッツを渡してな?」
「ラビッツって干すとグニグニになるんだね~。普通焼くか煮るかしかしないから知らなかったよ?」
「塩を塗りこんで干すとこうなるんやで? そういえば町で全然干したエモノ見なかったけど無いんかな?」
うちの村では保存食の基本やったのに、いつでもエモノが取れる町だと新鮮な物が喜ばれるみたいやな。
「食料庫の塩使ったのルナだったの!? 私凄く怒られたんだよ! 塩は結構高いんだよ?」
「知らんかったんや……」
村に一番近い川の岩場で拾ってきた岩塩を削って使っていたから、町ではそんなに高い物だとは思わなかった。
明日成長が終わったらマリアンに謝りに行かないと。
「私達は何をすれば良いんですか?」
「多分様子を見に来る子が居ると思うから、階段で見張りしててな?」
「ボス! 見張りなら任せてください!」
「そろそろ、使うで。明日の朝には成長が終わると思うからあとの事は任せるな?」
ネーネが【血脈】を使った成長は凄く痛いって言ってた。
ネーネが使ったのは【血脈A】って言ってた。
ネーネが使った時はずっとお父さんが手を握って居てくれたって言ってた。
怖くは無い、カナタにまた会う為に、うちはがんばる!
うちの不安が分かったのか、メアリーが頭を撫でてくれて、手を握ってくれた。
「メアリー、手をずっと握っててな……【血脈S】」
「大丈夫だよ、安心してね」
メアリーの声が聞こえた。次第に体が熱くなって行く、ベットが燃えるんじゃないかと思って視線をずらすと、自分の体が真っ赤に変色し始めているのに気が付いた。
「体が、熱い……でも全然平気やぁぁぁ!? がぁぁ、ぐぅぅ」
「ルナ! ルナ……」
メアリーの声が聞こえない、自分の体が内から膨らんでいくような感じがする、手足の骨が軋んでいる。
視界が真っ赤に染まる、耳も聞こえなくなり周囲の音が無くなる、匂いも無くなる。
「痛い、痛い、痛い、痛い」
「ボス!? ボス……」
体の感覚が薄れていくのに痛みだけが残っている、声が出ない。
「ぐぅぎゃぁぁ、ぎぃ」
「騒がないで! ルナは大丈夫! 最悪世界樹の葉を食べさせて何とかするから落ち着いて!」
ネーネはこの痛みに耐えたの?うちもあの子供みたいに壊れるの?
「いやや! カナタ、カナタ」
「カナタの為にがんばって!」
カナタにまた会う、絶対にこんな事で立ち止まるわけにはいかない!
「ぐぐうううう」
「レッティ! ロズマリーお母さんから噛ませる布貰ってきて! 牙が伸びてる」
この痛みが明日まで続くんかな……もう少し体の元を蓄えてからの方が良かったのかな?
そうだ!ラビッツを食べないと体の元が足りなくなる。何とか手を動かさないと、メアリー気が付いて。
「肉をぉ! 体の元が、足りなぎぃぃ」
「肉だね? でもこんな状態じゃ自分で噛む事も出来ないんじゃ……」
「メアリー! あんたが噛んで口移しであげるんだよ! 小さい頃よくやったやつさね」
「お母さん! わかったやってみるよ!」
痛み以外何も無い場所に居る、上下左右もわからない、不意に温かいモノがうちの中に入ってくる感じがした。
「ガナタ、がぁぁっ」
「つぅっ!?」
「メアリー!? あんた右手が……」
「手はカナタが戻ったら直してくれるから平気! 絶対に放さない!」
カナタ、会いたいよ。カナタ、頭撫でて欲しいよ。カナタ……
「急に静かになった!? 大丈夫なの!」
うろたえるメアリーの頭を撫でるロズマリー。
「メアリー落ち着くんだよ! あたいはルナの種族の事を少し調べた」
「種族? 猫獣人と狼獣人の子供じゃないの?」
「あたいも初めはそう思ったけど、ルビーのような目が気になって調べたんだ。ルナは、猫系の獣人と魔狼獣人のチェンジリングさね、【血脈】という特殊なスキルを持ちダンジョンの中で生活する、あまり村の外に興味が無い者達さ。真っ赤な瞳は魔狼の長の系譜に連なる者の証だそうだよ……」
メアリーはルナの安否を気遣い、落ち着くことなど出来なかった。
「今はそれどころじゃないの! ルナは大丈夫なの!?」
「これから数時間置きに体が成長していく、初めの痛みを乗り越えたならもう心配無いさね。メアリーも良くやったよ」
落ち着いた声でロズマリーは答えメアリーの頭を撫でる。その声は他人を心配できるようになった自分の娘への、成長を喜ぶ母の声であった。
「良かった……お母さん外の警戒任せても良い? 私心配だから付いていたいの」
「ご飯は持って来るから食べるんだよ? あと手に包帯を巻くのを忘れないようにね」
言われてメアリーは自分の右手が折れている事に気が付くが、そのままルナの隣に横になる。
「レッティ、アンナ、交代で休憩とご飯は取ってね? 私はルナと一緒に少し休むね」
ルナがメアリーの肩に顔をよせ寝言を言う。
「肉……」
「眠りながらラビッツの肉でも食べているのかな?」
室内に居た皆は先ほどとは違う、微笑ましい光景に体の力を抜く。
「ガブチョ」
「いったーい! 私はラビッツじゃないよ!? アンナラビッツの干物取って! 私が食べられちゃうよ!」
アンナが口元に干物を持っていくと物凄い勢いで食べ始める、怖くなったメアリーはルナの背に抱きつく。
時折震えるルナを抱きしめたメアリーは、今は遠い場所に居るカナタを思うのであった。
――∵――∴――∵――∴――∵――
何時間経ったのかな?アレだけ痛かった体が全然痛く無いし、力がみなぎってくる。
温かいモノがうちの体にくっ付いている、メアリー?
「もう朝かな? メアリーもう起きや!」
丁度三度目の鐘が鳴り、今がお昼時だと言う事をルナに告げた。
手足はそんなに伸びてない、胸が少し増えたようや。無事に成長が終わったのかな?
「う~ん、ルナおはよう~」
メアリーが起きて来る、ずっと一緒に居てくれたみたいや。
不意に温かな気配を感じる、これは冒険者ギルドの方角から?
「メアリー! カナタの気配がする、何故かわからないけど冒険者ギルドの方角からするで!」
「ん! ルナ胸が少しふっくらしてる。私はそんな気配しないけど? 成長して鋭くなったの?」
ここから冒険者ギルドまで結構離れている、でもこれはカナタの気配。
「メアリー行くで! 他の皆もすぐ来るように言ってや! うちは先に行く」
「ちょっと、待って、私もすぐ行くからね!」
家を飛び出て走り出す、少し動きにくい、重心が変わったのかな?
見える世界が色付き、新鮮なモノに見える。
思ったように体が動かなくてもどかしい、走ると胸が少し邪魔になる。
冒険者ギルドの扉が見えると、突っ込むように扉を開け中に飛び込む。鈍い音と『扉はゆっくり開けろよ……』とオルランドの声が聞こえたけど気にしない。
カナタの姿を探す、居ない?違う、カウンターでくさいオバサンと話しているのは間違い無くカナタや!
背が伸び胸が膨らんでるけど同じ匂いがする、いや、前より良い匂いがする!
「カナター! うちは愛してるでー!」
うちは今の気持ちを言葉にし、走り寄って飛びつく。胸がふかふかや、もう絶対離れない!
「えっ? ルナちょっと大きくなった? ただいま」
カナタが抱きしめてくれた。嬉しくて体が言う事をきかへん、カナタの胸元に顔を突っ込んで匂いを嗅ぐ。
「あっ、ちょっと、こんな場所でスンスンしちゃだめだって!」
顔を上げると微笑むカナタが居る、うちは幸せや。
視線をカナタの後ろにそらすと、どこから出したのか大きな両手剣を上段に構えるくさいオバサンが居た。
「隙有りですわ! 死になさい魔王の嫁ぇぇぇ!」
「「「「「「はぁ!?」」」」」」
冒険者達は誰も動けない、カウンターにいた他の者も、うちもカナタに抱きしめられて動けない。
「カナタ!!」
「ほぇ?」
カナタが振り向くのを見つめながら、うちの視界から色が消えていく。絶対にやらせない!
カナタの居ない日々は終わる……新たな闘争の匂いと共に。
これにてカナタの居ない四日間が終わり次話から2章が始まります!




