第38話 肉体の限界を超えろ!ちょっとソレは無理かもしれない?
向かった先は城の地下、薄暗い通路をひたすら降りていく、と言っても妙に明るい電球モドキの魔水晶と、各自が使うライト系の魔法で視界が悪くなる事は無かった。
ほとんど忘れてた事だけど【光量調整】が仕事をしてくれているので、ボクはほんの少しの光で十分明るく見える。
三人だけで進む道は入念に侵入者対策がされており、うかつに壁に触れて串刺しになること二回、一歩間違えただけで足場が無くなり真っ逆さまに落ちる事一回……落とし穴や定番の毒矢、転がる大岩など初見には絶対攻略不可能な罠も豊富に用意されていた。
壁はやはり真っ白で通路に塵一つ落ちていない、ひたすら階段を下りたり通路を歩いたり、時には道が無い崖を飛び越えたりどこまで地下に降りるのだろうか?
この城は外から見た分より地面に埋まっている部分の方が多いみたいで、迷宮と呼んでも良いほど道が入り組んでいる。
途中落とし穴の罠にボクだけかかって死に掛けた時、飛行スキルのおかげで命からがら助かったりもしている。
驚いたことにボクの【停止飛行】はヘリコプタータイプの飛行と同じで、空中で急に止まってホバリングしたり、その状態から垂直や水平方向へ飛ぶ事も可能で、何より飛び上がる時に助走も何も要らなかった。
持って飛べる重量はステータスに比例するようなので、今のボクなら何でも持って飛べるかもしれない。
万能とも思えるこの飛行スキルの唯一の弱点と言えば、その飛行スピードだろう……歩くくらいの速度で飛んでいるのである。
「何度見てもカナタの飛行スキルは凄く便利だね~」
「愛には使いこなせないと思います」
「エー、行けるって! それに私の飛行スキルの方が速いよ?」
「この迷宮の場合その速さは要らないと思いますよ……」
先ほど崖を越える時、蔦で愛さんに捕まったアウラさんごと崖を越えた先にある壁に激突しそうになり、急ブレーキで止まった愛さんは助かり、アウラさんだけ壁にめり込んでいた。
鼻血を流しながら蔦を振り回すアウラさんを止めるのは勿論ボクの役目だったんだけどね。
「そろそろ教えてくれても良いんじゃないですか? この先にどんな魔物が住んでいるのか、ボクの予想ではミノタウロス的な大きいやつ何ですけど」
「う~ん、大きいのも居るよ? でも大きいのは絶対ダメだからね! そこまで育てるのに凄く時間がかかるから」
「愛はカナタより魔物の方が大事なのです、さぁそんな人ほっといて私と一緒に歩きましょう?」
先ほどの激突事件が有ってからアウラさんはボクの体に蔦を巻いて行動している、アウラさんがどんなに重くてもボクなら問題なく運べるからね!
「ひゃうん」
「カナタどうかしましたか?」
「ずるい……今カナタの胸元を蔦でまさぐったよね!」
ちょっと蔦が締め付けた気がしたけど何事も無いよ?体重の話題は女性共通のタブーみたいだ。
「何を言うんですか、愛と違って私はカナタの味方です」
うん、それ味方だとは言ってるけど、まさぐってないとは言ってないよね!
「そろそろ見えてきます、愛しっかり選んでくださいね?」
「大きすぎると大変だしね~」
大は小を兼ねると言うし、大きい方が経験値多くて良いんじゃないのかな?
光が見える、到着した部屋は深い穴の底部分を見渡せる展望テラスになっているようだ。
穴の底にはぎらぎら光を反射する液体生物?がいっぱい見える、これがもしかしたらスライムなのかもしれない。
「ご飯の時間だぞ~♪ いっぱい食べて大きくなるんだよ~♪」
愛さんが穴の底目掛けて投げているのは世界樹の葉と種、それに魔物の骨とか宝石?
「銀色で経験値が多いといえば……はぐれちゃったスライムですか! 大きいのとなるとはぐれちゃった王様スライムですね! テンション上がってきた!」
「いや、違うよ? 簡易鑑定してみたら分かるよ! 私の会心の魔法生物だからね~」
《はぐれニート》
《はぐれニートネオ》
《はぐれニートセレブ》
《はぐれニートポイズン》
《はぐれニートキング》
《はぐれニートクイーン》
「……これって、ここで囲って餌あげてるからこうなったんじゃないんですか?」
「うぐっ、それは亜種を生み出す研究の為にしかたなく……」
「めっちゃ楽しそうに餌あげてましたよね?」
「カナタ、スライムニートには寿命というものが無いのです、年老いて死んでいく民を見かねて不老不死の研究を始めた愛の負の産物なのです……」
遠まわしにかわいそうな人なので、スルーしてあげてくださいと言われてる気がする。
「ん? あの端に居るはぐれニートキング様子がおかしくないですか? 小刻みに震えて今にも死にそうな……」
高さ2m横幅2mはありそうなティアドロップ型のはぐれニートキングが今にも逝ってしまいそうなくらい不気味に震えている。
「この第一研究施設では一番の古参だからね~、亡くなったら次世代用の素材として有効活用するんだよ? そもそもはぐれニート開発に至った研究には……」
愛さんは自分の世界に入り込んでしまった。
初めからよくわからない研究の話をされて聞く事を諦める。
「カナタ少し待っててくださいね? 隣の部屋に美味しい世界樹の実があるんです、愛がこっそり隠してるやつを取って来るので。あの状態になった愛は三十分はあのままなのです……」
部屋を出て行くアウラさん……これはチャンスなんじゃないかな?
あの死にかけの個体なら多分倒しても良いよね?どうせ死ぬなら誰かの糧になった方が良いに決まっている。
流石にあの底で倒すと他のニートの反応が怖いし、スマホに入れてこの部屋まで持って来よう。
停止飛行を駆使してターゲットまで飛行する、足元のはぐれニート達はこちらに興味が無いようだ。
「いっぱい居るけどこれ全部倒したらどうなるのかな」
「ハタライタラマケ」「バアサンメシ」「モットイイホウセキクレ」
何か心の底に黒い気持ちが芽生えそうだ。早く目的の固体を回収して部屋に戻ろう……
「はぐれニートキングげっと~」
愛さんはいまだ講釈を垂れている途中で反応が無い。
「カナタ~黒豆茶とコーヒーどっちにします? 私的には世界樹の実には黒豆茶なのです」
「黒豆茶でお願いします!」
隣の部屋から聞こえてくる声に少しドキドキしながらこの魔物を倒す方法を考える。
素直にグーパンする以外に方法が無いような気もする、分解はちょっと怖いことになりそうだし……
「殴ってみて無理なら考えれば良いや! ボクのステ的に刻んでダメージ与えるか超大規模な生活魔法で攻撃するかの二択しかないしね!」
右手を拳に握り腰に構え左手を少し前に出す、しっかり踏みしめれる様に左足を少し前に出して右足を下げる、右足で地面を蹴るようにして左足を強く踏み込む。踏み込んだ力をそのまま足から腰へ、腰を回転させながら背筋を通して肩へ送る、肩から肘へその先の拳へと螺旋を繋げる、インパクトの瞬間捻りを加え全力で振り抜く、拳は壊れても治療できるので意図して全力で殴ってみる。
『パンッ』と軽い音が鳴り拳に痛みが走る、無視できるレベルだったのですぐに殴った跡を確認する。
「反対側まで綺麗に拳大の穴が空いてる……何これ怖い」
穴の延長線上の壁に銀色の液体が滴っていた。
他に何の変化も無い、倒してないのかな?
「【解体D】あっ、解体のレベルが上がってる! メタルギアリキッド一個、イデアロジック(超硬化)(物理耐性)ドッペルリング一個?」
メタルギアリキッドは多分素材なんだろう……色々と持て余す。
イデアロジックが二個出た、あのヤス君も死んだ瞬間二個落としてたし強力な魔物は複数落とす可能性があるのかな?
最後の指輪は名前から効果が想像できる、凄く便利そうなので指にはめておこう、それにしても手が指輪だらけになって来たよ……
どうやらあの攻撃がクリティカルヒットしたみたいだ。
攻撃力はやはり1でも問題無いみたいだし、手加減する事を考えると1の方がいい気がしてきた。
ついでに魔水晶も全部吸収し、今手に入れたイデアロジックも使っておく、後はステータス確認して愛さんが戻るのを待とう、そろそろアウラさんも戻ってくるはずだ。
ログが出ないと確認が面倒かもしれない、生存の心得くらい返してくれないかな?
名前:彼方=田中(カーナ=ラーズグリーズ)
種族:人間? 年齢:13 性別:女 属性:無・勇
職業:盾戦士・冶金士・儀式術士・魔物の王 位:?
称号:【絶壁】 ギルドランク:E
クラン:小さな楽園 団結:クリスティナ様護衛隊
レベル:????[282+17+13+701+?]☆☆☆☆
HP :1795/1795[500+282+1013+?]
MP :1395/1395[100+282+1013+?]
攻撃力:1[282+1+?]
魔撃力:1[282+?]
耐久力:298[282+16+?]
抵抗力:?[1+11+?]
筋力 :????[282+17+13+701+?]
魔力 :????[282+17+13+701+?]
体力 :????[282+17+13+701+?]
敏捷 :????[282+17+13+701+?]
器用 :????[282+17+13+701+?]
運 :LUCKY[1+12+?]
カルマ:42[45×2]
SES盗×
:【無垢なる混沌】【創造神の寵愛】【原初精霊の加護:土】
;【停止飛行】【創造神の呪】
UNS盗×
:【魔力の源泉】【舞盾】【祈雨】
EXS盗×
:【眷属化】【冶金】【第六感】【物理耐性】
スキル盗×
:【生活魔法】【治療D】【解体D】
:【脱兎】【耐性:熱F毒F】【解毒F】
Aスキル盗×
:【スピアスタブ】【シールドチャージ】【簡易儀式魔方陣】
:【分解】【テイム】【超硬化】
装備品
武器 :黒鉄杉の槍棒150cm[攻+1]
盾 :硬皮の盾[耐+1]
盾2 :玄武の盾[耐+3抵+1]【自己修復E】【反射E】
兜 :フェイクラビッツの帽子[耐+3抵抗+3]【自己修復E】
仮面 :特殊防弾ガラスの眼鏡[耐+1抵+1]【簡易鑑定】【光量調整】
服 :天使御用達の服[耐+1抵+1]【浄化S】【自己修復S】
鎧 :トロール皮のベスト[耐+2]【自己修復F】
腕 :スマホ[耐+1抵+1]【簡易アイテムボックス+5】【発展】【解析】【提携】【子機】
腕2 :円卓の腕輪[耐+1]【部隊作成】
腕 :エアコンのリモコン[耐+1抵+1]【空気調和】
靴 :フェイクラビッツの靴[耐+3抵+3]【自己修復E】
その他 :夜を背負った様な漆黒色の羽根[?+?]【追跡者】
:全てを覆い尽くすような漆黒色の羽根[?+?]【????】
:魔王の花嫁[?+?]【永遠の誓い】
:魔王の首輪[?+?]【意思疎通】
:VBリング12個[運+12]【精体再生】
:ドッペルリング[業×2]【写し身】
人間?って何だよ!一瞬考えちゃったよ。☆が四つになったんだけど何て呼べば良いか分からない……
そしてクエスチョンが多いのはまだ更新途中と言う事かな?
色々突っ込みたいところは多いけど【創造神の呪】?いつ貰ったのか謎だ。
「あ、アウラさんおかえりなさい! もう倒してレベルUP済みなのであとは愛さんが戻れぶぁっふ」
思いっきり引っ叩かれた!?愛さんにもぶたれた事無かったのに!
蔦の跡が残る頬を押さえてアウラさんを見ると、顔を青ざめさせて愛さんを蔦で叩いていた。
「愛緊急事態発生です! いつまで講釈垂れているんですか! 戻ってこないならこの場でカナタを私のモノにしますよ? カナタが最古参の固体を倒しました。早くしないと体のレベルアップに耐え切れずに死にます! 転送魔方陣を出してください!」
え、どういう事?死ぬの?蔦がボクに巻き付いて見た感じR15になっている。
愛さんは穴の底を見つめて震えている?
「な、なんて事を……ニート爺ぃぃぃ! 最後は看取るって約束していたのにぃぃぃ! カナタの血の色は何色だい!」
「赤だけど……」
愛さんが地面を叩きながら大泣きし始める、アウラさんの表情は凍りつくを通り越し無表情になる。
「カナタ、初めての相手が私でも良いですか?」
「「え?」」
蔦がするすると全身を撫で回す、アウラさんの元へ引き寄せられ抱きしめられた。
「ちょっと! 何考えてるんですか? ボク死んじゃうかもしれないんじゃ!」
「カナタは私の嫁! アウラでもダメだって!」
「それなら! 早く、転・送・魔・方・陣を出しなさい! 場所はマテリアルラボが設備が整っているのでそちらへ早く!」
アウラさんの本気を見た為か、素直に魔方陣を出す愛さん、抱っこされたまますぐに魔方陣へ乗り込む。
急に視界が開け明るい部屋に出る、正方形に近い部屋で100m走が出来そうなくらい広い。
壁際にはごちゃごちゃした感じの機械やパソコンっぽい物も置いてある、椅子の数とモニターの数はもしかしたら一〇八セット分くらいあるんじゃないだろうか?
中央にそびえ立つガラスの塔みたいな物はもしかしなくても中に裸で入って液体に満たされるあれじゃないかな?
「凄く広い部屋ですね、あのパソコン? ネットとか繋がってます?」
「脱いでください」
「はい?」
ボクの聞き間違えかな?アウラさんがそんな事言うわけ無いし。
「産まれたままの姿になってください」
「えぇ?」
愛さんも居るのにどういう事?もしかしてさっき言ってた続きの話!?
まだ心の準備が出来ていないので今度にして欲しい。
「時間が有りません、自分で脱がないのなら愛に脱ぐのを手伝わせますよ?」
「むふ、むふふ、むふふふふ……ジュルリ」
「全部ですね分かりました!」
愛さんに手伝ってもらうのは危険だ。手をニギニギしながら近づいてくるのでアウラさんの後ろに隠れて脱衣する。
軽い空気が漏れる音がすると、中央のガラスの塔に人が一人通れるくらいの穴が出現する。
「おぉ! あのガラスの塔自動開閉機能付きなのか! でも何でボクを押し込もうとしてるんですか?」
「踏ん張らないでくださいね!」
ボクは蔦に捕まってガラスの塔にINしそうになっている、愛さんは『カメラ、カメラ!』とか言いながらごちゃごちゃした機械類の乗っている机の上を探していた。
「踏ん張る様なら愛と一緒に詰めますか……」
「スイマセンでした!」
「ぎょえぇぇえぇっ!」
ボクがガラスの塔に入ると自動で閉じる穴、スライディングで一緒に入ろうとした愛さんの尻尾がはさまり凄い悲鳴が聞こえてくる、一瞬穴が開いたので尻尾を蹴りだす。
「あれ? 外の音が聞こえないんですけど?」
幸い中は液体で満たされたりしておらず、空気も上下についている穴から出てくるようだ。
とりあえず反応が有るまでは超ローアングルから写真を撮ろうとしている愛さんを警戒する。
「ゴポッ、ニュル、ゴップ」
「変な音が聞こえた気がする……」
「あーあー、マイクのテスト中、あー。感度良好の様です」
「アウラさん今からボク何されるんですか?」
アウラさんの手に小さなナイフとこのガラスの塔の上部に繋がっていると思われる管が握られている。
イヤな予感がして来る、あの足元に置いてある巨大なタライは……何を入れる為の物なのか。
「手首切って血がブッシャーとか止めてくださいね? スプラッタは簡便してください!」
「大丈夫です、蔦を切って樹液を集める為のタライですから」
あの蔦切っても大丈夫なのか、そして蔦なのに樹液?
アウラさんが背中から伸びた蔦を次々に切り透明な樹液をタライに集め始める、結構な勢いでタライに貯まるそれに、愛さんが何か薄水色の液体を注ぎ込んでいた。
「アウラさん足元! 愛さんが何か注ぎ入れていますよ! 体に悪そうな色してますって!」
「今は説明を省きますが、この液体がニートの元です」
「ふぇっ?」
樹液とニートの元が混ざり合い蠢き始める、次第にかさが増えていき巨大なタライいっぱいに貯まったところで樹液が止まる。
「アウラさん? 間違ってもその管を入れないでくださいね? その薄水色のニートどうする気ですか?」
「こうします」
アウラさんは容赦無く管を巨大なタライへと投入する。
管を逆流してどんどんガラスの塔へと上ってくるニート、丁度この中を満タンに出来そうな量だ。
「まってよ! ソレ無理だから! ぬるぬるプレイは無理だって!」
「……グッジョブ!」
ご満悦な愛さんはほっといて、こっちに入ってきたらスマホの中にでも収容しとこう。
片手をアウラさんに見えない位置へ持っていきスマホを用意する。
「安心してください、痛く有りません。あと事前に麻酔用のニートポイズンを足元に仕込んでおいたのでそろそろ……」
「にゃんらって、てにょきゃんきゃくぎゃ……」
足元を見るとはぐれニートポイズンがこちらを見ている、あの音はこいつか!
次第に四肢が麻痺して動けなくなる、上部から流れ込んでくるニートをどうする事も出来ずに素肌で受け止める。温かくて気持ちいいのが悔しい!
「いにゃ、にゃめて、にゅりゅにゅりょすりゅ」
「もう我慢できない! 私も入れてー!」
「ふんっ! このシリンダーにこの線より近づいたらカナタがどうなるか……愛ならわかりますよね? このニートは私の樹液で作られた言わば私の分身……感覚を共有していますよ?」
アウラさんに投げ飛ばされ地面に叩き付けられた愛さんは蒼ざめた顔でわなわなと震えている。
麻酔と言うか麻痺?が進行したようで言葉を喋る事すらできなくなる。
「何故こんな事になっているのかはすぐに分かります、カナタが先走らなければこんな事にはならなかったんです、少しくらいヌルヌルされても文句は言えませんよ……」
ニートはもう顎のところまで上がってきている、これ息できるのかな?窒息しそうな気がするし、もし出来たとしても肺にニートが入ってくるとか全身鳥肌物だ。我慢していたけど恐怖と色々で涙がこぼれてくる。
「カナタの涙……少ししょっぱいです」
その言葉の意味を理解したボクの脳は考える事を止めた……




