第2話 天使のおつかい
「ちょっと僕と契約して異世界?に行って欲しいんだ。ニコッ」
同じ言葉を続ける天使、ニコニコと微笑んでるのが少し怖い。
「あの……喋り方はそっちが素ですか?」
「どちらでも~貴方のお好きな私を演じて見せます!」
演じるって言っちゃったよこの天使。
「素の方でお願いします。色々と疲れたので早く話を終えて眠りたいんです」
「それでは……ちょっと僕と契約して異世界? に行って欲しいんだ」
「この話、明日の夜にして貰っても良いですか?」
「ちょっと――ちょっと待ってよ! 僕の話を聞いてくれないの? このままだと家に帰さないよ?」
「さっきから同じ事ばかり言ってますよね? 契約って何ですか? 異世界? 行って何するんですか?」
面倒になってきたけど一応聞いてみないとね。明日は響を誘って映画を見に行く予定だから今日は早く眠りたいけど。
「良くぞ聞いてくれました! 僕は今非常に人手に困っているんだ」
「人手に困っているって事は……ボク以外にもここに連れて来られた人が居るんですか?」
「いや? 居ないよ?」
「あぁ……ボクが一番目でこの後まだ人が来るんですね。説明とか全員集まってからで良いので、今日は家に帰してください」
「いや? 来ないよ?」
「喋り方がちょっとイライラするけど……もう少しだけ付き合ってあげようかな? こんな広い場所でボッチなんて可哀想だし。見た目が理想の女性なだけに『はいさよなら』とは言いにくいしね! スマホで一枚撮っておきたいくらいだよ。あっ……でもこのまま撮ったら盗撮&公然猥褻罪でタイーホされるかな? 盗撮の方は本人の許可があれば撮っても良いんだっけ? 公然猥褻の方は服を着てもらうか……せめて謎の光さんがしっかり仕事してくれたらいけるかもしれない!」
「あの~・・・もしもし~?」
「非常に残念な事に服が無いんだよね。謎の光さんは中途半端な仕事しかしてないみたいだし。他に隠す物って言っても周りには本棚しか――ハッ! 本が有るじゃないか! 本で少し隠してもらえばギリギリセーフかな?」
「僕的にそれはアウトだと思うね。ウンウン」
「えっ? 今なんと言いました?」
「声に出てたよ? あと忘れてる様だから言うけど。僕は心が読めるから隠し事は無しだよ? ニコッ」
「アッー! すいません。本当にごめんなさい! つい出来心で考えてしまっただけなんです許してください!」
すぐさまその場でジャンピング土下座するボク。
「また僕の大人の魅力が一人の男の子を魅了してしまったゼ! ……と言う冗談は置いといて。写真の一枚くらい撮っても良いよ? 早く話を戻そ?」
恐る恐る顔を上げると、ギリシャ神話の神が着ているような布の服をまとった天使が微笑んでいた。
「ありがとうございました!」
満天の星空を背景に理想の女神をスマホで撮ったボクはもう『何でも言う事聞いちゃうゼ!』なテンションだ。
「その手に持っている物はカメラなのかい? 僕の記憶にあるカメラはもっと大きかったはずなんだけど?」
「カメラの機能も有るけどスマホですよ?」
「スマホ? その右手に持っているやつも? あとその顔に付けてるやつは何かな?」
「スマホは電話・カメラ・メール・ネット・時計・辞書・計算・ゲームその他色々できる万能機械です。最近じゃほとんど一人一台は持っていますね。右手のはエアコンのリモコンです、一定の範囲を冷やしたり暖めたりする道具のスイッチみたいな物かな? あと顔に付けてるんじゃ無くて眼にかけているのは眼鏡です。普通の眼鏡は目の悪い人が遠くを見やすくしたり、特定の波長の光を通しにくくして目を守ったりします。今つけているのは特別なやつでめっちゃ硬くて踏んでも殴られても割れません。ちょっと種類が違うけど暗視ゴーグルなんて物も今は有るみたいです」
「へぇー、僕が知らない間にこの世界にも面白そうな物が出来ていたんだね……」
女神様(天使から格上げ)のためなら何でも答えましょう。
「異世界でやって欲しい事は色々あるんだ。だから契約してもらって現地に出向いてもらいこちらで指示するよ。指示の内容は主におつかい程度の事だと思っていいから意外と楽かもしれないよ? やってくれないかい?」
一気に話しが進んだ。でも肝心な事が何も分かって無い、ここはしっかり聞いておかないと大変な事になりそうだ。
「何と無く分かりました。細かいところを聞いて良いですか?」
「うん? なんだい?」
「まず期間です。一日何時間? 月に何日? 日本に戻ってこれるのか?」
「一日に六時間程度、星空が見えている方が良いから深夜〇時からが良いね。月に二〇日前後で合計して月一〇〇時間くらいかな?」
女神様は、ほとんど考える素振りを見せずに即答するけど、もう契約内容とか決まってるのかな?
深夜〇時から六時間って眠る時間無いね……学校で授業全部居眠りで過ごすとか将来真っ暗になりそうなんだけど。次の質問と一緒に聞いてみないと。
「次は異世界に行ってる間の事です。さすがにほぼ一人暮らしといってもそんなに行方不明になっていたらヤバイです。幼馴染に見つかった日には血の雨が降ります。それにその条件だと睡眠時間がありません……ほぼ一日おきに徹夜とかどこのブラック企業ですか?」
「人に知られるのはまずいか……深夜〇時から六時間おつかいに行っている間は時間を停止しよう! おつかいから戻っても深夜〇時だからいつもと変わらず眠れるよ?」
「時間の停止!? そんな凄い事出来るんですか?」
「こう見えて僕は結構すごいんだよ? なんなら見せようか? ニヤニヤ」
上目遣いで見るのは止めて欲しい。顔がニヤけてるって事はわざとか。
「つ、次です! もし現地で何か問題が発生して命の危険に晒されると言うか……死ぬとどうなります?」
「僕としては出来るだけ長くおつかいして欲しいから。死亡か瀕死状態になったらすぐ移動前の状態で日本へ戻す事を約束するよ」
「あ、あと怪我をした場合はどうなります? 命に別状は無いレベルの怪我や病気は」
「その場合だと戻す時に完治させるよ? 死亡か瀕死状態の時との違いは分かるよね?」
取り合えず命の危険は無いみたいだ。痛いのとかはちょっと嫌だけど、戻ってきたら治るなら現地で注意すれば良いかな?
違いって言うと……移動前の状態で戻すと戻す時に完治の違いって事だから。
「死亡か瀕死状態になったらその日のおつかいは無かった事に。怪我や病気なら悪化しない限り六時間程度は戻され無いって事ですよね?」
「正解で~す。ヨシヨシ」
撫でられるが悪い気はしない、もともと撫でられるのは嫌いじゃないんだよね……恥ずかしいだけで。
「質問は以上で良いかな?」
「最後に……一番重要な事を聞いていません」
「まだ何かあったかな?」
ボクはNOが言えない日本人だよ。もう半分以上受ける気で居るけどこれは聞いとかないとね。
「その契約を受ける事によるボクのメリットを聞いていません」
「日本人はしっかりしてるね! 僕はすっかり忘れてたよ。メリットって具体的に言うと欲しい物だよね、金で良い?」
「金? お金ですか? 貰えるなら大歓迎です。具体的に日当どれくらいとか支給日とか聞いても?」
「日当は3gで月二〇日だから60gを月末まとめ払いで良い?」
「えっ? グラム? 金って……おかねじゃ無くて現物ですか!?」
「どの世界もいつの時代も金ってそこそこ価値があると思ったんだけど、少ないかな?」
「ちょっと待ってください! スマホで検索してみます。あぁぁ……電波が、届く!」
さすがワンワン電波だ。こんな怪しい空間でもアンテナ5本立ってるよ!
「空間座標的には貴方の部屋と同じ位置だから電波くらい引っ張って来れるよ!」
女神様が電波を引っ張ってきてくれてるらしい本気女神様! 気になる検索結果は。
「60gだと18金で二〇万超え! 24金なら二七万!」
「この条件で良いかな? ちなみに18金だよ。24金より僕向けだろ? じゅうはちきんとかさ。ニヤニヤ」
「ぜひっ! おねがいします」
思わず何も考えずに答えたけど、安全なおつかいをこなすだけで月二〇万か~高校生でこの月給? は凄いよね!
金ってどこで売るのかとか、引かれる手数料とか、毎月金を売りに来る高校生って怪しいよね、とか全部後回しにしてしまった。
「契約成立だね♪ 早速用意しないと」
「もう行くんですか?」
「色々準備があるんだよ! あとそのスマホとエアコンと眼鏡を貸してくれるかな?」
「別に良いですけど壊さないでくださいね」
「僕がそんな事するわけ無いじゃないか! さっさと貸して! あと準備してる間にこれ読んでね。色々書いてあるから」
渡された冊子の表紙にはこう書いてあった。
『初めての異世界転送・初級編』
もう少し続きます。