第36話 職業?の謎が解けました!
あれから広間を食堂へと移動してご飯を食べ終わるまでに三回泣いた。
一度目は、またまた下を見ると気絶するレベルの天空の回廊を通っての大移動をする時。一〇九名全員が一斉に列になって移動するものだから、いつ回廊が落ちるかも知れないと怯え、泣きながら移動した……
後で教えてもらった話だと、回廊を含め城全体が空間に固定されているらしく、あの城一式は落ちると言う概念が存在しない物質なんだそうだ。山が無くなってもあの場所にそのままの姿でたたずむとかチート建設物過ぎる。
二度目は食堂での事、朝ご飯のメニューが純和風で白ご飯に白菜っぽいお漬物、鮭の朴葉味噌焼き、出汁巻き卵、お味噌汁に緑の豆ときんぴらごぼう、そしてデザートに大学芋が用意されていた。
一週間食べてないだけだったのに日本食は涙が止まらない味になっていた。
お味噌汁が響の作ってくれた物と同じ味で、懐かしくてまた泣いたのが三度目だ。
食事中は誰も喋ったりせず静かに食べ、泣いてるボクにも声をかけたりせず温かい目で見守ってくれた。
愛さんだけ一人百面相してたから思わず笑ったけどね。
食後ボクの部屋を決める段階でひと悶着あったけど無事にアウラさんと同部屋になる、何があったのかと言うと……
愛さんを含む数名がボクと一緒に眠る権利をかけてバトルロワイヤルを開催しそうになってアウラさんが切れた。
アウラさんの部屋は愛さんの部屋の真ん前なので我慢して欲しい、一緒に眠ると貞操の危機な気がする。
今はアウラさんの部屋で花嫁修業の方向性をお話し中です。
「カナタに足りないものはズバリ攻撃力だと思うんだよ~」
「半端な攻撃力は危険を呼ぶだけです、私は防御を主体に行きたいと思います」
愛さんの『殺られる前に全部ヤレ』な主張と、アウラさんの『死なない限り負けじゃ有りません、後は貞操を守れるだけの自衛能力です』という主張がぶつかり合っている。
ボクが決めないと駄目みたいだね。
ボクはズバリ言うと攻撃力って要らないんじゃ無いかと思う、確かに殴っても全然ダメージが与えられないし魔法自体を敵に当ててもダメージが全然無かった。
でも複合系の生活魔法はトンでもない威力だったし、生活魔法を呼び水にして自然現象を操れば攻撃力を上げる以上の結果を出せると思っている。そうなると防御さえしっかりしていたら不意打ちで死ぬ事も無いし……何よりボクは守る方が好みだ。
「ボクは防御を主体に行きたいです! 守りながら魔法を使ってフォローする感じの後衛系?」
「むむむむ、カナタはアウラの方が好きなんだ……」
いきなりいじけだす愛さんをどうしたものかな?
「段階を踏んで育てていけば良いのです、まずは基礎の体作りから行なってゆくゆくは愛との攻撃力の強化と言う事でいけませんか?」
「それです! ボクが言いたかったのは、まさに主役は遅れてやってくる的な!」
「そうかな……そうだよね! 体作りは大切だよね~」
そういって尻尾を服の間から入れてお腹をさするのは止めて欲しい……肌触りが良いから余計困る。
「それではまずステータスをキチンと把握してからメニューを決めましょう」
「ステータスオープン」
これ久しぶりに言った気がする、別に無詠唱でも良いんだけどなんとなく必殺技にはかけ声が的な?
とりあえず装備情報は要らないよね?
名前:彼方=田中(カーナ=ラーズグリーズ)
種族:人間 年齢:13 性別:女 属性:無・勇
職業:? 位:? 称号:【絶壁】 ギルドランク:E
クラン:小さな楽園 団結:クリスティナ様護衛隊
レベル:36[6+17+13+?]☆
HP :242/242[100+100+6+36+?]
MP :142/142[100+6+36+?]
攻撃力:1[6+1+?]
魔撃力:1[6+?]
耐久力:19[6+16+?]
抵抗力:?[1+11+?]
筋力 :36[6+17+13+?]
魔力 :36[6+17+13+?]
体力 :36[6+17+13+?]
敏捷 :36[6+17+13+?]
器用 :36[6+17+13+?]
運 :NORMAL[1+?]
カルマ:42[44]
SES盗×
:【無垢なる混沌】【創世神の寵愛】【原初精霊の加護:土】
UNS盗×
:【魔力の源泉】
EXS盗×
:【眷属化】【冶金】
スキル盗×
:【生活魔法】【治療E】【解体E】
:【脱兎】【耐性:熱F毒F】【解毒F】
Aスキル盗×
:無し
「SESが三個になってる、【創世神の寵愛】【原初精霊の加護:土】が増えてる? あとスキルの右に盗×って書いてある」
盗×は何と無くわかる、盗めなくなるって事だよね。SESが二個増えてるのに脳内ログのアナウンスが無かった?ガイアお爺ちゃんサボってるのかな?
「待ちなさいカナタ、今三個になっていると言いましたか? 二個増えているじゃなくて?」
「何かカーナが言ってたけど私の目でも見通せないSESが一個生まれてるね……」
問題が発生したようだ。SES【無垢なる混沌】はどうやら怪しいを通り越して……どこか別の世界のスキルかもしれない。
「SES【無垢なる混沌】と言う名前のスキルで、転送魔方陣にのって移動中に生存系スキル使ったら覚えましたよ?」
「良くあんな一瞬でスキル使う暇なんてあったね……」
「はい? 転送って十五分くらいかかりましたけど……真っ暗な空間をあのキングビーにつかまれて飛んでたような?」
「「……」」
ちょっと待ってよ、これはアレかな?転送って実は一瞬で飛ぶものであの時点で何か変な事になってたのか。
「その通りだよカナタ。やはり生存と名前の付くスキルは奪っておいて良かった」
「他のスキルは返してあげなさい愛、カナタの努力の結晶ですよ?」
「元々カナタのだからすんなり返せると思うよ~」
良かった、スキルは返してくれるみたいだ。でも生存系は返してくれないって事はアレ実は危なかったのかな?
愛さんが魔水晶を胸元から取り出し何か光らせている、しばらくすると目の前に光る魔水晶が差し出された。
「これは?」
「【スキル分与】だよ、早くそれ使ってね。時間が経つと私に戻ってきちゃうから」
『スキル分与済み魔水晶』
「指輪に当てると良いんですよね、何て言えば使えるのかな……あっ?」
指輪に当てると勝手に吸収されるスキル分与済み魔水晶、ちょっと今のスキル欲しいかも。
でもやはり脳内ログとかアナウンスが無い、もしかしたら生存系を持っていないと出ないのかもしれない、もしくはガイアお爺ちゃんの身に何か?
「スキル覚えた時って脳内ログとかアナウンスみたいなのって普通出るんですか?」
「何それ? カナタは出るの?」
「多分生存系のスキルの恩恵かと思いますよ?」
「それは返してくれないんですね。何か問題があるとか?」
「カナタは生物としての本能が弱すぎる、多分生存系スキルがあるから育たなかったのかもしれないけど、それは異質で危険な事だから……」
確かに当てにしていたのは有るかもしれない。生存系が動かないと安心して死地へと旅立つ事になったかもしれないしね。スキルが覚えにくくなったけどそこら辺は試行錯誤して頑張れば良いよね!
「多分理解はしていたんだと思います、ただ何かにすがっていないと怖くて動けなくなるから本能がそうさせたのかも?」
「ならもう要らないね! 私達が居るし町には大切な仲間も居るんだよね?」
「はい!」
抱きしめてくれる愛さんとアウラさんが温かくてまた涙が出そう、ボクこんなに泣き虫だったのかな?
ちょっとした隙にボクのお尻を撫でてくる尻尾、目ざとく見つけたアウラさんが掴んでそのまま扉の外へ放り出すと扉を閉めた。
「愛は恒例の一二の試練の用意でもしていてください」
「良いんですか?」
「良いんです、嫌ならはっきり言ってあげてくださいね?」
「別に、いやとかじゃないんですが、ちょっとスキンシップに慣れてなくて……」
おもむろに抱きしめてくるアウラさん、ついついそのまま抱っこされて居たくなる。
「ここにいる皆はカナタを拒みませんよ? いつでもどこでもね♪」
「す、スキルの効果とかわかりますか! いつ手に入れたのか分からないんですが、【原初精霊の加護:土】はアウラさんがくれたんですよね?【創世神の寵愛】はいつどこで?」
「一般的には神かそれに類する上位の存在の加護を受けると、それを超える存在からしかスティール系のスキルは受けなくなります、原初精霊の加護を突破するには神か愛のスキルじゃないと無理なので実質これでスティール系は防げる事となります。他の恩恵も色々ありますが自身で確認してくださいね? もう一つの方はこの場所が一番天に近いからかもしれませんね」
話は終わりですと言った顔でお茶を飲むアウラさんにならって、ボクもこれ以上聞かずにお茶を飲む……見事な日本茶だ。
「この世界にはスライムと呼ばれる魔物が二種族居ます」
急に何を言い出すのかな、まだ何の事か分からないから話を聞かないと。
「片方は名前のままの魔物です、見た目に騙され無いようにしてくださいね? もう一方はあまり知られていませんがスライムニートと呼ばれる存在です」
「何か弱そうな名前ですね」
「愛が錬金術で創造した新たな種族なので知る者が見ないとわかりません。主に落ちてるゴミを食べたり、壊れたダンジョンの壁を補修したりして生きています。誰にも攻撃しないし誰からも攻撃されないので冒険者の間では倒せないスライムと呼ばれているそうです」
「それは凄く良いスライムですね! で、それが何か?」
「カナタの職業はクエスチョンになっていますが……生まれてから何一つ仕事をせずに洗礼を受けるとなれる職業があります、それの条件をもうすぐ満たしてしまいそうなのです」
それは、もしかして、もしかしなくてもニートなんじゃ……
「職業に今すぐ就きたいです! 何すれば良いんですか、どこに行けば、どうすれば、ニートは嫌です!」
「今日は職業訓練と行きましょうか……」
――∵――∴――∵――∴――∵――
空は茜色に染まりつつあり、もうすぐ夜の帳も下りるだろう……ボクが寝転んでいるのは城の広い中庭である、上から見たら真っ白な地面も間近で見るとそれほど真っ白な訳ではないみたいだ。
全身の筋肉が痙攣しており、もう一歩も動けそうに無い。治療は全て終わるまでお預けと言われているので使用できない。
お話しの後、アウラさんと中庭でそれぞれ別の職業に就いている嫁さんを紹介されて個別に指導を受けた、その数は二〇にもおよぶ。城の中庭でみっちり夕方までお昼も食べずに訓練した結果ボクが就いた職業は……
「盾戦士・冶金士・儀式術士・魔物の王、何このラインナップ! 必死で頑張った結果がこれだよ!」
「全部ユニーク職業です、よ? その、多分凄いんです、私も初めて知った職業があります……」
先ほどからアウラさんが目を合わせてくれない、それに妙に優しい。
盾戦士は重戦士のお姉さんに盾を二個装備してひたすら攻撃を受ける訓練、と称したイジメを受けた時に就いたみたいだ。
怪我をしたら治るまで添い寝してあげると言っていたけど、あの目は獲物を狩るハンターの目だよ!怪我させる気満々だったよ!
冶金士は正直なんで就いたか分からないから困る。
鍛冶屋のお姉さんが携帯溶鉱炉を設置して金属の精錬を見せてくれたり、冶金のスキルを持っているけどダイヤモンドが作れないと相談したりしていたらいつの間にか就いていた。後ダイヤモンドもしかしたら作れるかもしれません。結晶化するのには高温高圧な状況を作り出せれば何とかなるかも?常温・常圧で結晶化しようとするから消費が激しいとの結論に至りました。
儀式術士は魔術師のお姉さんに付与魔術を教えてもらっていたらいつの間にか就いていた。
魔術と魔法の違いが分からないと言うと怒られたよ……魔方陣を用いたり道具を使うのが魔術士で魔法使いは己の魔力を使うそうです、どっちもどっちな気がするんですけどね。
最後の職がこれまた一番の謎で魔物の王……どう考えても職業じゃない気がする。
調教士と召喚士の姉妹お姉さんにどちらを先に教えてもらいたいかと問い詰められ、一緒が良いですと答えて三人で訓練していると就けました。
この訓練が一番大変だったよ!姉は直感派で妹は論理派な訳で、姉の訓練はこんな感じ。
「ラビッツを掴む! 目を見る! 屈服させる! はいカナタも!」
「ラビッツを掴む、目を見る、屈服させる?」
ここら辺のラビッツはレベルが高いみたいで三回ほど指を食い千切られてその時だけ治療を許してもらいました……
妹の方はひたすらお説教的なお話しを聞きました。
「召喚というものは、自らの魔力を元に世界を騙し手繰り寄せ、時には異界の門すら開き時間の流れをも……」
一時間ほど正座でね!足が痺れるってレベルじゃないよ、地面に直で正座とかどんな拷問だよ!
「抱っこしてあげますよ、帰ってお風呂に入りましょうね……」
アウラさんは『盾戦士は多分防御系なので予定通りです!』と言っていたけど明らかに態度が怪しい、まるで慰めるようにそれはそれは優しくなっている。
「治療しても良いですか? 筋肉がピクピク痙攣してて動けません」
「多分それ治療じゃ治りませんから……」
「アッー! 何それ治らないのとかあったの? 古傷とか部分欠損も直せたのに、筋肉のピクピクは無理なのか。こんな状態じゃご飯も食べれないし眠るのも一苦労だよ!」
「一応回復魔法はかけてみたのですが、効いてないみたいですね……」
ピクピク生活が始まってしまう、普段からもっと体を鍛えとかないといけないかもしれないね。
「一応【治療E】ん? ピクピクが止まったし治ってる気がする、ちょっと筋肉付いたかも? やったね!」
「それ何て治療なんですか? 多分名前の通りじゃないですよソレ、さすが愛の見込んだ人です直すだけなら筋肉は増えませんので。明らかに自然回復力を強化している上に部分欠損が直ると言う事は復元まで行なっている……」
どうやら始めに覚えたスキルはどれもチート系みたいだ。あの天使には感謝しないと!
名前教えてもらっとけば良かったけど、羽根についている【追跡者】がある限りいつか会えると思う。
お礼はその時にまとめてすれば良いかな?
訓練が終わるとまずはお城の展望露天風呂へと移動する事になる、露天風呂がある建物は丁度愛さんの部屋の窓から覗ける位置に有り、明らかに作為的な建て位置となっていた。
マイお風呂を作る為に色々確認しておかないといけない、忘れてはいけないのは覗き対策だね!
「この建物が展望露天風呂になってます、愛が多分部屋から覗いているので水着でも着ますか? 私達は気にしませんけどカナタはまだ式も挙げていないのですから……」
「露天風呂に水着は邪道だと思います! 手で隠せるくらいしか無いので……あっ! 冗談です、つい出来心と言うか口が滑っただけです!」
アウラさんが不思議そうにこちらをみている。ボクはカーナさんの精神攻撃を受けていた!
体の主導権を奪い取られ、何事も無かったかのように建物へと向かうボク、この扉の先に待つのは天国かそれとも……




