第32話 森の戦争屋の最後?魔物の王襲来!
暗い森の中を五一名の冒険者が二列横隊で進む、現在二〇時過ぎ。
フレイムストームで出来た道を進んでいるので案外順調に歩いている、雨のおかげで冷えてはいるけど地面が黒いガラス化している……七〇〇℃~一〇〇〇℃くらい無いと石とか土って溶けなかった様な気がして青ざめているのはボクだけだ。フレイムストームが発動してすぐに遠ざけて無かったら、軽い火傷じゃすまなかった事になる、自分で味方を焼き殺すところだった……
思いの他楽な行進になったのは不幸中の幸いと言う事で納得しておこう、火と風系の複合はヤバイ。
歩いていて気が付いた事は魔物がまったくいない、と言うか生き物の気配がしない。ロズマリーさんによるとこの周囲の生き物全てビックWARビーの餌になったとか……
「巣が見つかった……が問題が出てきた」
「どうしたんですか?」
「【絶壁】がやり過ぎたんだよ! 巣の入り口付近の地面が焦げていてまだ熱を持っている」
「すいません……水を撒いて冷やしますね」
「ちょーっと待てよ! 離れるからな! 全員周囲を警戒しながら10m離れるぞ!」
オルランドさんそれは傷つくは……側に残ってくれたのはルナにロズマリーさんメアリーちゃんにクリスとガーベラさんそれに……新人冒険者全員だった。
「魔法を使う時、襲われたら危ないしねぇ」
「ワンッ」
「一緒に行くよ~」
「別にあなたの事が心配ってわけじゃないんだからね! ただ巣が見たくなっただけで……」
「お嬢様それならもう見たのでお下がりください」
「「「「「「付いていきます!」」」」」」
オルランドさん達一流冒険者は少しバツが悪そうにしていた。
「冗談に決まってるだろ! 緊張を解きほぐす為のなーハッハッハッー」
「「「「「「【絶壁】本気にするなよなー」」」」」」
何と言う変わり身の早さとその団結力、別の事に使ってください。
「威力は抑えますよ、範囲と持続力優先で。アクアスプリングラー!」
丸めた水玉を中に浮かせ、撒き散らすように放水する、巣の周辺は湯気とガラスがきしむ音で結構煩い。
「凄い湯気です、お嬢様温泉に入りたくなりますね」
「帰ったらね、カナタも王都近くにある私の屋敷自慢の温泉に入りに来ると良いわよ!」
「考えておきます!」
温泉があるのか……お風呂作りの参考に一度行って見ないとね。
「お前ら緊張感が無さ過ぎるぞ……何か出てくる! 女王蜂か?」
「大きいけど一匹じゃないから違うんじゃない?」
湯気が濃くまだ視界が悪い、仕方ないので微風をちょっとだけ強めに送って視界を確保する。突風って英語でなんて言うんだっけ……
「ストーム!」
「うぉぉぉぉー【絶壁】やりすぎだ!」
「アレは……女王蜂が三匹!?」
湯気どころか地面を抉って周囲の物を吹き飛ばす、現れたのは女王蜂と呼ばれた固体だけど三匹?
「攻撃して来ないけど何で?」
「分からん、全員警戒しつつ周囲を囲むぞ! 三人一組で散開しろ!」
「「「ミツケタ!」」」
「な、んだ、変な音が、何かのスキルを使われた! 全員攻撃するぞ!」
「え、今女王蜂が喋らなかった?」
今確かにミツケタって言った様な気が……
「あたいが先陣を切る! 続けー!」
「「「「「「オオッー」」」」」」
「気のせいなのかな……」「ワンッ?」
「新人どもは下がっていろ! 相手は動かなくても女王蜂だ。一流冒険者にまかせな!」
マイケルはボク達を守る様に前に立つ、新人冒険者二七名を何があっても守りきる気だ。
ここは任せよう、手柄をこちらのPTで占めは悪い、それにしてもなんで女王蜂は動かないのかな?
「「「アノカタヘ」」」
「またあの音だ! 全員状態異常になってないか確認するんだ! 異常が有るやつは下がれ」
「何か聞こえる……」
「ちょっと、大丈夫なの? 体調が悪いなら私の肩に捕まっていても良いわよ!」
何故か凄く嬉しそうにクリスがくっ付いてくる、ルナも一緒になってくっ付いてくる、メアリーちゃんも……
「首を刎ねるんだ! 何かヤバイぜ、早く倒して巣を回収しよう」
「あたいが行く! 【ヴォーパルスラッシュ】オルランド右は任せたよ!」
「おうよ! 【ヴォーパルピアーシング】戻れヴィグ!」
ロズマリーさんが放った一撃は見事に女王蜂の首を音も無く落とす事に成功する、オルランドさんも魔槍を投げ見事に首を千切り落し魔槍ヴィグは持ち主の手へ戻ってくる。
「あと一匹です、私の技も見せましょう! 【ヴォーパルエッジ】」
何かいつの間にかガーベラさんが前に出ていた!目立ちたがりなのか自分だけ影が薄いのを気にしたのか……
「終わった……?」
「オレ達の勝利だー!」
「「「「「「オオッー」」」」」」
あっけなさ過ぎる、女王蜂は最後まで動く気配すら見せなかった。
「何かおかしくないですか? 巣は丸ごと回収して後で蜜の分配で良いですよね?」
「あぁ、それで良い女王蜂は運ぶには大きすぎる……ここでやってくれ」
「まぁ、仕方ないですよね」
「【解体E】すごい……魔晶の大欠片二個、BWQヘルム一個、BWQレイピア一個、BWQシールド一個、七色の雫一個、イデアロジック怪音波一個です」
「まじでか……」
「あたいも始めてみる物が混じっているよ!」
「ちょっと! 順番に見せてよ」
「半端ねえぞ、これは確実に一人金貨2枚以上になる……七色の雫なんて始めてみるアイテムだぞ!」
「「「「「「オオッー」」」」」」
すぐに拾ったイデアロジックは自分に使用する、これは誰にも見られない方が良い、適当に怪音波とか言ったけど拾ったのは……イデアロジック(停止飛行)だ。
前メアリーちゃんが飛行魔法は無いと言っていたし、始めの規約通りボクの物だと言っても……争いが起こるかもしれない、後で身内にだけ話して効果の検証もしよう。少し罪悪感が有るけど初めからイデアロジックはボクが貰う事になっている、要らない争いは起こしたくない。
「ちょっと量が多くなったので整理整頓しますね、その間にマジックアイテムとかドロップ装備を見たい人は集まってください!」
「一〇人一組で順番に哨戒と周囲警戒と休憩をするぞ! 見たいやつは休憩中に集まれよ!」
「周囲に怪しい気配は無いよ! あたいのスキルには反応無しさ!」
「ワンッ」
ロズマリーさんとルナのサーチ能力をスルー出来る魔物なんて居るはずがない、皆緊張の糸が解けた様だ。
「【絶壁】ちょっと来てくれ!」
一度馬車全部と特大木の宝箱を出す、オルランドさんが呼んでいるので他の人に整理は任せよう。
「どうしました? あ、巣の回収ですね」
「そうなんだが……どれくらい持っていけそうだ? なるべく回収して行きたいな!」
「ん~、生えてる木は回収出来なかったんですけど、埋まっている岩はいけました……条件がわからないんですよね」
「そんなの生えてるかただ埋まっているかの差じゃねえか?」
オルランドさんは即答する、今考えもしなかったよねこの人!そんな簡単なわけが……
「あ、回収出来ました! スッゴイ大きい穴が出来ちゃったんですけど、これほっといて良いのかな?」
「「「「「「……」」」」」」
前方に地面深く穴が開いた、これ下手したら全員落下してたんじゃ……不用意の収納は危険だね。
「【絶壁】だしな、もう何でもありだぜ! もう一人金貨何枚になるかわかんねぇよ! 喜べお前らー」
「「「「「「オオッー」」」」」」
皆考えるのを止めたみたいだ……そうだよね!気にしない事が一番良い。
「お姉ちゃんがカナタって言う人?」
「そうだよ?」
あれ?こんな小さい子居たかな?
「何か空が変だぞ?」
マイケルの声で全員空を見上げるとそこには……途方も無く大きな魔方陣が広がっていた!
「まずいわ! 全員馬車の周りに集まりなさい! サイズが段違いだけどアレは転移用の魔方陣よ!」
「クリス、転移用って事はアレから何か出てくるの?」
先ほどの子供がうずくまって居て移動できない、緊張の糸が切れたのかな?背負って移動した方が良さそうだね。
「おかしな事にあれは帰還用みたいなのよね……さっきの女王蜂が動かなかったのは詠唱していたからなのかしら?」
「危険がなさそうならとりあえず放置しても大丈夫じゃない? あそこまでジャンプとか無理だしね!」
「あたいでも無理さね」
この子結構重い、服の下に鎧でも付けているのか背負うと硬い感触が背に当たる。
「ルナ馬車の中から水を出して? この子が気分が悪いみたい」「ワンッ」
あ、ちょっと、子供の手が胸とお腹辺りを押さえてくる、小さい子だけどさすがにそこまずいよ!
「ちょっと、変なところ触らないでね!」
「全員動くと殺すよ?」
「「「「「「はぁ?」」」」」」
何冗談言ってるのかな、さすがにそれは笑えないよ……
「あれ、そいつ誰だ?」「ちょっと待ってな、五一名ちゃんと居るぞ?」「お前自分も入れろよ!」
「ちょっと……待てよ、全員動くな!! 絶対にだ!」
「どうしたんだい? オルランドらしくないじゃないか」
「ワンッ?」
全員動かずオルランドさんの言葉を待つ。
気のせいじゃなかったら、今ボクの太もも辺りにも三本目と四本目の手があるんだけど……堅い感触の!?
「出発前は五一名だったよな?」
「オルランドも自分入れ忘れてないか?」「まだそんな歳じゃないだろ~」「面白い冗談だぜ」
「あの、捜索班って二四名とシングルスターの新人入れて二五名でしたよね?」
「そうだねぇ、メアリーの方はカナタを含めて二七名居たんだろ?」
おかしいよね……広間に居たのは二五名、ボクを入れても二六名つまり……
「お母さん……こっちには二六名しかいなかったよ? 私全員の顔と匂い覚えているけど、その子見た事無いし、匂いもわからないんだよ?」
「「「「「「……」」」」」」
だよね~一人増えてるとか帰らずの森で亡くなった人の幽霊?あれ……
「気のせいじゃなかったら……ボクの足が地面から離れているんだけど?」
「全員動くな! 聞いた事があるんだよ、ギルマスが昔言ってた事だ」
「あたいも聞いた事あるさね。いや、実際体験した者も居るはずだよ? 魔物の王クラスになると特殊な能力を手に入れる固体が居るって……ベヒモスの空間拡張能力のようなやつをね」
「あの、さっきからボクに触れている手の感触が凄く硬くて棘棘しているんですけど……」
ボク以外の全員が顎が外れたように大口を開けてこちらを見ている。生存系は働いてないし大丈夫だよね……
「ソウダンはオワッタかい?」
あ、漏れたかもしれない、顔の真横で聞こえた声は半分女王蜂と同じ感じの声だった。
「ビックWARビーに雄の固体は居ない、なのに何故子供を生めるか謎だったが……」
オルランドさんの顔が青ざめている、馬車の中に居たルナの足元にシミが広がっている!ボクは理解した。ルナがまったく動けなくなるような存在に捕まっている事を。
「あの、もし良かったら自己紹介とかして貰っても良いですか? ほら、名前呼べないと不便ですよね?」
「ソレモそうだね、お姉ちゃんのタノミならショウガナイ、我のナマエはビックWARキングビー、さっきは我の嫁をヨクモ殺してクレタネ?」
ボクの足は現在地面から1mくらい浮いている、足元を見て確認したから間違い無い、地面のシミは見なかった事にしたい。
「痛いのは嫌いなんですけど、あと皆もそうだと思うんです」
「ワカッテイルよ? 人間はツウカクとイウモノが有るんだよね? ダイジョウブ安心してイイヨ」
「そう言う事なら話は早いんだが、【絶壁】を放してはくれないか?」
「お前はモウダマッテいいよ?」
キングビーが喋ると同時にオルランドさんの足元に向けて針を飛ばす、誰も反応できないほどの速度で。
「言葉が聞こえずらいのって何か理由があるんですか? 別に聞きずらいからとかじゃなくて単純にね?」
「ゴメンよ、お姉ちゃんのタノミならしかたない、これでどうだい? 人間の顔には慣れて無くてね」
「あ、ありがとうございます! そしてそろそろ家に帰りたいので下ろしてもらって良いですか?」
「駄目だよ? 上空の魔方陣が見えるよね、あのオカタの元へ案内するのが我の仕事なんだ」
「ワンッ!」「動かないで!」
これは詰んでる、オルランドさんに当たらなかったのは警告だ。多分次は無い、ご丁寧に人質ってやつかな。
「これってボクが一緒についていくなら……皆無事に解放してくれるんでしょ?」
「極力人間を傷つけないようにと言われているからね……お姉ちゃんが素直ならね?」
今思い出したけどボクのスマホ生き物も収容できるんだよね!何で忘れていたのか、手でつかんだらこっちの物だよ!
「悪さしちゃ駄目だよ? このお手手食べちゃっても言いんだから。アレ? 駄目なのかな? あの猫獣人なら良いかな?」
両手をしっかり固定されていて、生物収納は誰にも話してないのにばれている、生存系は死ぬ可能性が無い限りPS発動し無い事が分かった。
「ごめんなさい、許してください、一緒に着いて行きます……」
「そろそろ魔方陣を維持するのが面倒になってきたから丁度良かった」
「【絶壁】すまない……オレにはどうにも出来ない」
「オルランドさん気にしないで! 幸いさっきドロップと馬車は出したから戻って清算できるよ? 巣は出せないけどいつか持って帰るから……」
涙が出てきた。
「クゥ~ン」
「ルナ、ボクは大体分かるようになったけど、言葉覚えて皆と話せるようになってね! 次合う時までの宿題だよ?」
ルナ……必ず戻るから、ボクの事忘れないでね。
「カナタすまない、あたいが着いていながら……」「おねえちゃん……」
「ロズマリーさんこっちに来て初めて会った人があなたで良かった。メアリーちゃん少し遠くに行くけど冒険者頑張ってね!」
貴女が人妻じゃなかったらボクは性別の壁を超えていたかもしれません。
メアリーちゃん、あまりかまってあげられなくてごめんね、戻ったら一緒に冒険しようね。
「カナタ様、似たスキルの悲しみを持つ者同士、またいつかどこかで……」
「いや、もう封印するからね!」
あの踊りとか無理だから、もし……次踊る事が有るとしたらガーベラさんも巻き込むからね。
「絶対に死ぬんじゃないわよ! あなたは私の婿に来てもらうんだからね! あなたが帰ってこなかったら……私はずっと処女のまま年老いて行くのよ! 責任取りなさいよね!」
「クリスは気が付いてなかったのか……次合った時にボクの凄い秘密を話してあげるよ!」
もし、気持ちの整理がついていたらクリスと一緒に温泉でも入って裸の付き合いがしたいね。
「「「「「「【絶壁】さんありがとうございました!」」」」」」
「変なの、今死ぬ可能性があるんだよ? ボクのせいで死ぬかもしれないのに……ごめんね」
新人冒険者達は一皮剥けて、明日から立派な冒険者として過ごして行くだろう……またいつか一緒に依頼を受けたいね。
この後どうなるか分からないけど死ぬ事は無いみたいだ。
あぁ神よ……絶対に殺す!泥水を啜ってでも……手足が千切れても必ずお前の元に辿り着く、待っていろよ!
「お別れは済んだかい? 行くよ」
上昇し魔方陣へと飛んでいく……誰一人動ける者は居ない、けどそれで良い。
これはボクの戦いなのだから、カーナさんには謝れなかった。完全にボクの都合に巻き込んだ事を。
ごめんなさい。
魔方陣に触れた瞬間意識が薄れていく、これが転送魔法、生存系をAS使用すれば……覚える、事が……
カナタの消えた空は何事も無かったように闇色の空へと戻っていく……
誰一人喋らず、町へと戻る者達の背中を見つめる者の姿を隠す様に……




