第30話 冒険者vs森の戦争屋
お昼ごはんを終え、蜂の巣を探しに行く捜索班の冒険者達を尻目に準備運動を始める。
通って来た道は一週間くらいでまた元の森に戻るらしく、根っこまでなくなっても生えてくるとかどんだけーと一人で突っ込んでみたり。
ベースキャンプの拡張班と捜索班は夜まで別々に行動する事となり、ボク達は補給・救援班としてすぐに行動できるよう待機する。
当初の予定では今日はベースキャンプの拡張のみとなるはずが、周囲の池付近で真昼間から蜂が目撃された為、急遽予定を変更して一流PTは捜索班として出払ってしまった。
ロズマリーさんも捜索班に入っているので実質ボクの護衛はメアリーちゃんのみになってしまう、他に話せない依頼なのでどうにもならず、仕方なくロズマリーさんは捜索班へ着いて行った。大声で叫べば【半獣化】してでも戻ってきてくれるとの事なのでそんなに心配はしていない。
ベースキャンプは、ここまで来るのに切って来た木で周囲にバリケードを作って、100mくらいの広場を確保していた。
真ん中には大きなやぐらが建ててあり、森を上から一望する事ができる様になっている、蜂が飛んで来る方角を確認するのと、危険な大型魔物が接近してないかを常時監視する為である。
現在ベースキャンプには新人冒険者のほぼ全員とボク達の合計二六名が居る、待機もしくは周囲の哨戒と称してラビッツを狩ったり、ゴブリンやコボルトをトレインしてきて皆で滅多打ちにしていたり、思い思いの方法で緊急依頼を堪能している。
これもオルランドさんが『拡張班は各自のPTリーダーの判断でベースキャンプを防衛する事』と言って捜索班に付いて行ってしまったためだ。
ルナの警戒網には強い敵は引っかかっていないが、ボクの【神の呪】があるため油断できない。
捜索班が出かけてから一時間が経った頃、やぐらの上から見張りの叫ぶ声が聞こえた。
「森の戦争屋が来るぞ!! 全員やぐらの周りに固まって各自戦闘に備えろ!」
「「「えっ?」」」
「捜索班が向かった方向の反対から来やがった! 緊急警報と狼煙は上げたが戻るまで三十分はかかる!」
どういう事?蜂の飛んで行った方角に捜索班は向かったはず、その反対から来るって事はまさか……
「ビックWARビーって賢い固体とか居るんですか? 女王と普通の蜂と子供くらいしか聞いてないんですが」
「普通はいねえよ! これはやばいかも知れん、ビックWARビーの種類はビックWARクイーンビーを頂点とした縦社会で、上からクイーン一匹、ビショップ二匹ナイト二匹ルーク二匹残りは普通の兵隊蜂だ」
チェスの駒そのままだけどキングは居ないのかな?
「普通はその全種類は絶対揃わねえ、理由はクイーンが兵隊蜂を生み巣を大きくして行くが、上位の蜂を生む様になるほど巣が大きく育つ前に必ず討伐されるはずなんだよ! 発見からまだ一週間も経ってねえぞ!」
「クリス、ガーベラさんビックWARビーとの戦闘経験は? 出来たら弱点とか戦闘中に飛ぶ高さを知りたいです、真上から来られたら対処が難しい!」
「私ははぐれを一匹仕留めた事があるくらいで論外だわ」
「お嬢様、あれは私が止めを差し損ねた死にかけの個体です。……弱点は火と水です、戦闘中は2mくらいの高さまで降りてくるので盾を持つ者は基本斜め上に構えてください」
Aランクなのはガーベラさんでクリスはボクと同じ守られる立場みたいだね。
最悪火種を撒き散らして時間稼ぎするしかない、今の内に出来る事をやっておかないと。
「やぐらで見張ってた人名前は?」
「マイケルだ! 【絶壁】何か手があるのか? 先行の一陣到達まで後二分もねえぞ!」
「一分で穴を掘るので、全員入って上空へ向けて盾を構えて耐えるとかは? 戦える者は穴を守る布陣で」
「ハッハッハッー冗談言ってる暇はねえぞ! やれるものならやって見ろ!」
マイケルに切れられたよ、生存系が動いてないって事は死ぬ危険は無いって事だから、まだ何とでもなるロズマリーさんが来るまで耐えるくらいならね!
「戦えない者は今から掘る穴に入って! アースオーガー!」
生活魔法の穴堀を元に作った魔法で地面を掘り起こす、予想以上に使い勝手が良く三〇秒くらいで深さ2m横幅2m長さ10mの穴を掘り上げる。
「お、おま、【絶壁】なんだその魔法は! 初めて見るぜ、今は助かった、新人ども! さっさと穴に飛び込め!」
「クリス、メアリーと共に穴付近の防衛よろしく! 怪我なら治せるけど捕まったり死んだらダメだよ!」
「分かったわ! あなたこそ死んだら許さないんだからね!」
「おねえちゃん頑張って!」
「ルナ! 一緒に穴に近寄る蜂を倒すよ! ガーベラさん大変だと思いますけど遊撃で、痛めつける事優先でお願いします」
「ワンワンワンッ!」
「上位蜂が居ないなら全部倒してしまっても問題ありませんよね?」
多分ガーベラさんだけならここから逃げる事も容易だろう、でもクリスが居る間は絶対にここを離れないはず、誰だって自分と大切な者の命は他人より重い、でも頼もしい事を言ってくれるガーベラさんは大好きだ!
「ん、ルナその短剣どこから出したの?」
「ルナちゃん、私にくれるんですか?」
「ワンッ!」
ルナは尻尾から謎の黒い短剣を出すとメアリーに渡していた。
どう見ても尻尾に入る長さ太さじゃないよね!
「オレはどうしたら良い、ここはお前さんの方が向いている。斥候のオレじゃ自分の身を守るくらいで手一杯だ」
「生活魔法の火種でとにかく燃える物に火をつけて下さい! もうやぐら燃やしても良いですよね?」
「了解したぜ」
「ガーウ!」
「もう来たのか」
新人とは言えさすが冒険者を目指す者達、焦って逃げ出したりせず指示に従って、穴篭りの用意は完璧にできている、絶対誰も死なせない!
「玄武の盾よ守りは任せる! 【舞盾】そして、フレイムウォール!」
スマホから出した玄武の盾を周囲に浮かばせる。森を移動中に試行錯誤した結果自分の周囲1mなら何とか攻撃に反応できるようになった。
そして火種をまとめて火の壁を作り出す、森林火災とかもう気にしている余裕は無い、次々と火の壁を作り出し余計な攻撃を受けないようにする。
「一陣の到着だぜ! 気張れよ【絶壁】」
「マイケルも死なないでください!」
「ワンワンッー」
ブンブン・ブゥン・ブォォォと凄まじい羽音を立てながらビックWARビーが飛来する!
胴体を狙って飛んで来る蜂を玄武の盾で弾き、槍棒を使いスタブで蜂を火の壁に突っ込ませる、相手は大きいけど飛んでいる為かそれほど重い手応えはしない。
良し!これなら全然大丈夫だ。
「ルナ! ガーベラさんも一応刺されたり噛まれたりしたらすぐボクの側へ」
ガーベラさんの名前を呼び姿を確認すると、既に五匹もの蜂を地面に叩き落すガーベラさんが居た。
盾で蜂をスタブするように弾き飛ばす、あのスキルなかなか便利そうだ。余裕が有る時に教えてもらおう。
「お前らすげえな! 一陣はあと少しだ」
「ワンワン!」
おっと、玄武の盾が後ろを守っている時に正面から蜂に狙われる、左手の硬皮の盾で流しそのまま火の壁へ突っ込んでもらう、槍棒はその間も右手から来る蜂の胴体目掛けて振りぬく。
「ワンワンワンッー!」
「どうしたのルナ? で、デカイ!!」
振り向くと其処には普通の倍のサイズはある蜂が一匹飛んできていた。
「普通のビックWARビーでも1mはあるのに2m超えとか……こいつが上位蜂か!」
「そいつはルークビーだ! 体が堅いから下手に攻撃すると反動で手をやられるぞ!」
「ガーベラさん! は無理か、全力で上空を狙うのでなるべく身を低くしててください!」
ガーベラさんはルークビーを二匹同時に相手している、全部で二匹しか居ないんじゃないのか!余程大きい巣があるのか、ちょっと不味い事になったのかもしれない。
「逆巻け炎の壁よ! 蒼天を穿て! フレイムシューティングスター!」
作り置いていた火の壁をばらして上空へ打ち上げる!即興で作った呪文にしては良いできだと思う。
ついつい反応が見たくて振り替えると皆唖然としていた。何かミスったかな?
「【絶壁】お前魔法使いだったのかよ! 杖も無しにどうやったんだ? すげえぞ、勝てる!」
「【パワースラッシュ】【インパクトスラッシュ】ふう、カナタ様もなかなかやりますね」
余裕ぶっこいていたガーベラさんもスキルを使いルークを二匹片付ける、今ちょっと対抗心燃やしてたように見えた。
「あらかた片付けたな、二陣が来る前に治療と足元の蜂の死体をどかすぞお前ら!」
「「「「「「オオッー」」」」」」
「ワンワンッー♪」
ルナが器用に首だけ飛ばしたルークビーを持って来てくれる、まともに原型が残っている固体が少ない為解体は諦めていたところで助かった。さすがルナ、良い仕事をしてくれる。
「【解体E】むむ、魔晶の中欠片一個、毒針一個、蜂の爪二個、蜂の指輪一個?装備品が出るのラビッツ以来だね」
「おいまじか! 蜂の指輪って名前なのか!?」
「本当ですかカナタ様! マジックアイテムです!」
「全員聞けーーー! マジックアイテムがドロップしたぞ! 生きて戻ったら大銀貨1枚以上確定したぜ!」
「「「「「「オオッー」」」」」」
「これで巣本体も持ち帰れれば一人金貨1枚も夢じゃなくなったぜー! 生きて帰るぞお前ら!」
「「「「「「オオッー」」」」」」
マイケルの鼓舞が利いたのか作業効率も上がり二陣の飛来に間に合った。今度は事前に火の壁を設置してある。
「ワンワンッ!」
「穴に飛び込めー」
二陣が来た!三〇秒用意が遅れていたら危なかった。
「不味いです、ビショップビーが詠唱を! 毒霧が来ます!」
「そんなの有りかよ……」
「燃える系の毒? 吹き飛ばした方が良い?」
「燃えると余計酷い事になりかねません」
「OK吹き飛ばすよ!」
生活魔法からオリジナルの魔法を作る時、イメージが大事だ。
トイレの後にも使う微風を、渦巻く様に周囲から空気を取り込んで上へ上へ送る様に……ん、んん?
発生した小型の竜巻を大きくしていくと、火の壁を吸い込み始めた!
「……フレイムストーム」
ボクは勝手に大きくなって行く火災旋風を眺める……
「なんて事しやがる! 【絶壁】手加減くらいしろよ……」
「すごい……大きいです」
火の壁を吸収した竜巻は蜂が向かってきた方向へ勢力を増大させながら進む、森の木々を引っこ抜き燃やし尽くし……
思わず名前を呼んだけどこれどうするの……一応まだボクの微風の影響下にあるので動かす事はできる、しかしもう吹き飛ばすとかいうレベルじゃなくなってしまった。
経験値が規定値に達しました。レベルが上昇します。
経験値が規定値に達しました。レベルが上昇します。
経験値が規定値に達しました。レベルが上昇します。
「どうやって消そう……」
「お、おま、冗談だよな? ハッハッハッー笑える事言うなよなー!」
微風を止めると進行方向を調整できないので危険だし、勝手に大きくなって行く……涙が出てきた。
「むりぽい……」
「天使様、オレは今まで決して善い人間だったとは言えません、だけど一つだけ誇る事が有るとすれば裏切らなかった事です。この困難を乗り越えれるのなら、残りの人生は善なる人として……後輩達の育成に命をかける事を誓いますのでどうか慈悲の心を……」
「【絶壁】さんすごいっす!」「【絶壁】さんまじぱない!」「【絶壁】兄貴と呼ばせてください!」
あぁ、マイケルが両膝を地面について祈り始めてしまった。あと三人目の人は後でちょっと話をしようか……
「池の上へ誘導してみてはどうです?」
「「それだ!」」
ガーベラさん頭良い!本気神様!早速微風を調整して少し離れた場所にある池へ誘導する。
これで消える、と思った瞬間爆音が響き渡る、一瞬で空を覆う厚い雲……轟く雷鳴と稲光!?
ガーベラさんは鎌持っている方の神様でした!
「どうなってるのこれ! 水蒸気爆発? 竜巻がえらい事になったよ! ガーベラさんどうしよう……」
「雨が降りそうです……」
「神よ……許したまえ……」
「【絶壁】!」「【絶壁】!」「【絶壁】!」
ガーベラさんは火は水で消えると思って適当に言ったみたいだ。
良く考えればわかる事だったのに、注意力が散漫になっていた……マイケルは神頼みを始める、新人達の穴からはこの世紀末な光景が見えない様で【絶壁】コールが止まらない!
「カオス過ぎる……」
「ワンワンワンッー!」
「ルナどうしたの? これ以上厄介ごとは……!」
振り向くと蜂の来た方角から少しずれた位置から突如一〇〇匹を越える蜂の群れが飛び出してくる……これはダメかもしれんね。
生存系が仕事をしてないのが気になる、けどもう竜巻は制御不能になっているしもう一個作るのはこの惨状を見ると怖くて試せない。
「カナター!! 何が有ったんだい! この空とさっきの爆音は!?」
「女神降臨! 助けてロズマリえもん! 魔法が暴走して大変な事に!」
「【絶壁】冗談だろ?」「【絶壁】マジかよ!」「【絶壁】凄まじいな!」
ロズマリーさん達、捜索班総勢二五名が合流する。この現状は一流冒険者もビックリの大惨事の様だ。
「マイケルー! 呆けてないで報告しろ!」
「オルランド! 新人は全員無事だ。【絶壁】が一陣と二陣は全て吹き飛ばしたぜ、現在蜂は総勢力でこちらに向かって来ている!」
「良し分かった! 【絶壁】後で詳しく話しを聞かせてもらうぜ、全員新人を守りつつ飛来する蜂を迎え撃つぞ!」
これで助かる、と思った瞬間……沈黙を破って生存さんが!
【生存の心得】PS発動されました。【生存本能】PS発動されました。【生存戦略】PS発動されました。【生存闘争】PS発動されました。
現状を打破するスキルを周囲の生物からコピーします。
最重要候補:UNS【雨乞い】対象がUNSの為コピー出来ませんでした。
現状を打破するスキルを創造します。
UNS【祈雨】を獲得しました。
やっぱりUNSはコピー出来ないんだ……
新たなUNSを発動させる準備を始める、周囲は波の様に押し寄せてくる蜂を迎え撃つ準備が完了したところだった。




