第26話 真夜中の暗殺者!ルナは見た?
ロッズ&マリアン亭の入り口を通ると広い庭からメアリーちゃんの声と、何かを叩くような音が聞こえてくる。
まだご飯まで時間があるし覗いてみようかな?
あ、その前にやっておく事が二つある、イデアロジックの使用とスマホ強化だ。
今日オークに追われた時の事を思い出す。生存系のスキルは発動しなかったのは何故か、推測だけど本当にボクが死ぬ可能性が有る時にしか発動しないのかもしれない、あの時もし追いつかれても何かされる前にルナがオークを瞬殺していただろう事は分かっている。
だからと言って押し倒されて舐められるくらいはされたかもしれない、イヤだ。今後また同じ事は起こらないにしても、いざと言う時には何とかする力が必要だ。
「ルナ左手出して?」「ワンッ」
スマホから木の宝箱を出し中からイデアロジック(脱兎2)(スピアスタブ2)を取り出す、これって声に出さなくても使えるのか一応検証しとこうかな?
「脱兎! (スピアスタブ)」「ワンッ?」
【脱兎】を獲得しました。【スピアスタブ】を獲得しました。
これ声に出す必要ってもしかして無いんじゃ?使用するイメージを正確に思い描けるのなら何でも無詠唱でいける気がしてきた。ルナの冒険者リングに当てたイデアロジックもちゃんと魔水晶になっている。
「ルナちょっと遊んでみようか? スピアスタブで魔晶の欠片を打ち上げるからルナも真似してね?」「ワンッ!」
手の平に魔晶の欠片を乗せてスピアスタブと念じる……何も起こらない。
まぁ、これは予想道理だから良い、次は指一本伸ばして先に魔晶の欠片を置きスピアスタブと念じる……
「ワンワン!」
1mくらい跳び上がったけどすぐに落ちてきてルナが驚いている、勢いが足りないのかな?
次はバドミントンの羽根を飛ばす要領で魔晶の欠片を打ち上げる。
「ワンッ!」
5mくらい上に跳んでいった!条件は一本の棒に近い物か槍に近い物をイメージかな?
そしてルナは一回で打ち返してくる、爪が出ている人差し指でスピアスタブしているようだ。
ルナは自分の目で見てボクがやれる事なら全部やれそうな気がする、今のやり方もボクの真似だったしこれは才能と言えるのかな?野生の感?
「次はかけっこだよ!」「ワンッ!」
10mほど走って後ろを振り向くとルナはまだ待機している。
おかしい分からなかったのかな?
さらに走っていると『ワンッ』と鳴く声が聞こえて振り向いた瞬間ルナに捕まっていた……
捕まった衝撃で尻餅を付き後ろに倒れる、飛び乗ってきたルナはマウントポジションに跨って尻尾ふりふりしている。
脱兎と念じなくても足は速くなった。どういう事か分からないけどもしかしたらPSスキルなのかな?
残るイデアロジックは(絶倫)……これはロッズさんに覚えてもらうのが良いだろう。
そのままの体勢で【魔力の源泉】をAS使用する、先ほど一緒に出しておいた魔水晶と合わせて六個有るけど何個満タンになるかな?
使用して寝転がって居ると体から何かが抜けていく感覚が続く、魔水晶が一個、また一個と光を帯びて行く、六個とも光ったけどまだ抜けていく感覚は止まらない、ルナが急にふるふるし始める。
ルナの顔が少し赤く息が荒い……もしかしてルナにも魔力が流れ込んでいる?
体に悪そうだから止めよう。【魔力の源泉】を止めると意識すれば念じなくても止まった。
「ルナだいじょうむぐ、ん、ちょっと!?」
ルナは尻尾をブンブン振りながら顔中舐めまわして来る、興奮しているような雰囲気だけど体に良くなかったら危ないし解析しとかないといけない、今装備は見なくて良いのでOFFにしておく。
名前:ルナ=フェンリル(彼方=田中の眷属)高揚
種族:猫・狼獣人 年齢:13 性別:女 属性:無
職業:? 位:無し 称号:? ギルドランク:F
レベル:20[7+13]
HP :130/130[100+10+20]
MP :44/22[3+19]
攻撃力:10[10]
魔撃力:3[3]
耐久力:12[10+2]
抵抗力:0[0]
筋力 :23[10+13]
魔力 :16[3+13]
体力 :23[10+13]
敏捷 :23[10+13]
器用 :16[3+13]
運 :NORMAL[0]
カルマ:3[368]
UNS
:無し
EXS
:【眷属化】【生存本能】【第六感】
スキル
:【血脈S】【生存の心得S】【鋭敏聴覚S】【鋭敏嗅覚S】
:【気配感知S】【危機感知S】【視線感知S】【隠蔽S】
:【再生F】【耐毒F】【耐病F】【生活魔法】【脱兎】
Aスキル
:【スピアスタブ】
AスキルはアクティブのA?アタックのAかもしれない、名前の横に高揚と出ているので状態異常は名前の右みたいだ。
問題は現在のMPがおかしい、倍に増えている……顔を舐められながら頭をヨシヨシしていたらルナは落ち着いたけどMPは増えたままだ。
「ルナもう大丈夫? 気分悪いとか体が痛いとか無い?」「ワンッ」
ケロッとしているので今は放置しておいても良いかも知れない、高揚も治った様で一時的なステータスUPの可能性が高い、でもボクが動けなくなるから戦闘では使えないね。スキルのクールタイムは一日みたいだ。
魔水晶(魔6)と魔晶の欠片・大欠片もスマホに吸収させておこう、いくつ拡張されるか楽しみだ。
スマホが【発展】します、魔晶の欠片一個吸収。魔晶の大欠片一個吸収。魔水晶六個吸収。
スマホに【提携】スキルが追加されました。スマホの【簡易アイテムボックス】が+3に拡張されました。
【提携】により眼鏡・スマホ・リモコンは互いにスキルを共有します。
どういう意味かな?眼鏡で解析が使えるかもしれない。
魔水晶二個分で何かが増える?偶然の可能性もあるけど拡張が+2も増えた!何個入るようになったのかな?
名前:彼方=田中(カーナ=ラーズグリーズ)
種族:人間 年齢:13 性別:女 属性:無・勇
職業:? 位:? 称号:無し ギルドランク:F
レベル:32[2+17+13+?]☆
HP :234/234[100+100+2+32+?]
MP :134/134[100+2+32+?]
攻撃力:1[2+1+?]
魔撃力:1[2+?]
耐久力:9[2+7+?]
抵抗力:?[1+3+?]
筋力 :32[2+17+13+?]
魔力 :32[2+17+13+?]
体力 :32[2+17+13+?]
敏捷 :32[2+17+13+?]
器用 :32[2+17+13+?]
運 :NORMAL[1+?]
カルマ:3[3]
SES
:【生存闘争】【神の呪】
UNS
:【魔力の源泉】【生存戦略】
EXS
:【生存本能】【第六感】【眷属化】
スキル
:【生存の心得F】【生活魔法】【治療E】【解体E】
:【脱兎】
Aスキル
:【スピアスタブ】
装備品
武器 :黒鉄杉の槍棒150cm[攻+1]
盾 :硬皮の盾[耐+1]
兜 :無し
仮面 :特殊防弾ガラスの眼鏡[耐+1抵+1]【簡易鑑定】【光量調整】
服 :清楚な白いワンピース
鎧 :トロール皮のベスト[耐+2]【自己修復F】
腕 :スマホ[耐+1抵+1]【簡易アイテムボックス+3】【発展】【解析】【提携】
腕2 :円卓の腕輪[耐+1]【部隊作成】
腕 :エアコンのリモコン[耐+1抵+1]【空気調和】
靴 :皮のブーツ[耐+1]
その他 :夜を背負った様な漆黒色の羽根[?+?]【????】
:全てを覆い尽くすような漆黒色の羽根[?+?]【????】
:布製のリュック
:魔王の花嫁[?+?]【永遠の誓い】
:魔王の首輪[?+?]【意思疎通】
所持金19480イクス
スマホ8 ――∵――∴――∵――∴――∵――
木の宝箱・A馬車(補給物資)・B馬車(補給物資)
C馬車(補給物資)・玄武の盾1
木の宝箱 ――∵――∴――∵――∴――∵――
肉用壺(オーク50kg)2・ラビッツ草10
イデアロジック(絶倫1)
ブレードラビッツの肉5kg・タイガーベアの毛皮1
布製のリュック ――∵――∴――∵――∴――∵――
ゴブリンの角1・オークの牙2・オークの大牙2
色々見やすくなっているし変わっている、これで最強のスマホへとまた一歩近づいたね。
ロッズさんを探して庭へ向かう、メアリーちゃんの声と何かを叩く音は庭から聞こえてくる、多分訓練でもしているのだろう。
居た、庭で訓練するのは良いけど石畳になっているのでこけたら泣きそうだ。
切った石材を敷き詰めた庭はボクの常識じゃ庭じゃないけど、皆が庭と言うんだから庭なんだろう、普通に噴水とかあるし広間みたいなんだよね……
「ロッズさん少しお話しが有るのですが」
「おねえちゃんおかえりなさい~」
「……」
メアリーちゃんは木の剣と木の盾を放り出し駆け寄ってくるが、ロッズさんに木の剣でしばかれていた。
「いたひ……」
「……自分の命を預ける防具を粗末にするな」
スパルタだね、でも木の剣の平の方で叩いてるしちゃんと手加減しているみたいだ。
「庭の少し端よりにある空の物置を貸して欲しいのです、いつまでもロズマリーさんの部屋を借りるわけにはいきませんし」
「……あの物置小屋か、ふむ……」
むむ、感触が良くない。ここは袖の下の出番ですよ!
「これ良かったら、ロッズさん使ってください」
「これは!? あの物置はやる、あと必要な物が有ればいくらでも言ってくれ! 三人が並んで眠れるベットはすぐ作るからな」
「ありがとうございました! 出来れば後二個ほど木の宝箱が欲しいです」
「主部屋で回収した特大のやつを二個用意してやろう! 通常の三倍のサイズだぞ! ガッハッハ!」
ロッズさんに効果抜群だ!あげた物は勿論……イデアロジック(絶倫)ですよ奥さん。
その場で冒険者リングに当ててイデアロジックを使用している、勿論空の魔水晶は回収しました。
「一時間で作ってくるからちょっと掃除でもしといてくれ!」
「鍵とか有りますか?」
「入り口入ってすぐの棚に置いてあるから無くすんじゃないぞ!」
ロッズさんがみなぎるパワーでベットを作りに行ってしまった。
今の内に掃除をして片付けを!と言っても中は空なんだけどね。
「新居だよ~♪」「ワンワン♪」
「毛皮もっと買っとけば良かったかな?」
入り口から入ると中は少し埃っぽい、清掃と浄化の生活魔法ですぐにぴかぴかになる便利すぎてもう元の生活には戻れない……
黒鉄杉で出来た物置小屋は窓が五個あり、扉の隣に一つ、入ってから気が付いたロフト部分に四つとなかなか良い感じのログハウス風で、窓ガラスの代わりに硬虫の羽が二重にはめ込まれており、中からしか開けられ無い細工がされていた。
奥の壁際にある階段で上がると丁度1Fの半分くらいの広さのロフトになっており、ベットを置いても各自の荷物入れ用宝箱を四個は並べて置けるくらい広い。これは十五畳どころじゃない……二十畳くらいの広さはありそうだ。
1Fに降りてみるとルナが階段の下をスンスンしている、隠し扉とか見つけたみたいだ!
「隠し扉有った? 貯蔵庫か地下室かどっちかな~♪」「ワンワン~♪」
「多分そこ……」
観音開きの扉を開けると中へ降りていく、メアリーちゃんが何か言ってた気がしたけどルナと一緒に下へ入ってしまった後だった。
「光よ、浄化、清掃、浄化、清掃、浄化、清掃、浄化」「キュ~ン……」
「……」
地下には解体室がありました……壁に血の跡や大きい石の机にはさびさびになったノコギリまで置いてあります、降りてきたメアリーちゃんも絶句の殺魔物現場です。
「おねえちゃん……こっちに扉があるよ?」
「ルナ開けてくれる? あけたらすぐ下がってね」「ワンッ!」
フィンガーフレイムボムの準備を両手でする!メアリーちゃんは無いよりマシくらいの木の剣と盾を構える。
開けた先にあったのは……
「通路だね、おねえちゃん」
「ボクが盾を構えて進むからルナはボクの影から攻撃の用意しててね、メアリーちゃんは一応後ろも警戒して」
現れたのは幅3mはある大きな通路ですぐ1mくらい坂になって下がっている、下がった先は天井まで高さ3mはあると思う、魔物が生えない様に切られた石材で完全に覆われておりどこかのトンネルみたいだ。
明かりを何個も遠くに飛ばしながら進む事にする、不思議通路の可能性も否定できなかったけどこんな場所にあるわけが無いと思い考え直す。
「結構長いね? 多分もうすぐ町の外に出ると思うよ~」
「緊急脱出用通路みたいだね、出る場所だけでも確認しとかないと逆から入ってこれるなら危ないしね」
それからも無言で進む三人は道が狭くなっていく事に気が付くと足を止める。
もうすぐ出口みたいだ。光がギリギリ届くところに扉が見えている、閂が外れている。
鍵の類は見当たらないけど開いてるのかな?
『ダンジョン:奈落の穴1F裏通路入り口』
「待って、その扉は開けないで! ダンジョン:奈落の穴1F裏通路入り口って表示されてる」
「なんでダンジョンに繋がっているのかな? でも奈落の穴1Fなら大丈夫だよ? おねえちゃん」
メアリーちゃんが何の躊躇も無く扉を開く、ルナも危険は無いと判断しているようで一緒に扉の前で待っている。
「裏通路だよ! 危ないかもしれない、万全の準備をしてから……」
「裏通路って事は入り口右を進んだ先の大穴を越えた所に繋がってたのか~」
「どこか分かるの?」
メアリーちゃんは1Fまでならちょくちょく臨時PTで行くらしい、臨時PTとは冒険者ギルドでメンバー募集して、集まった人で冒険して清算後に解散するPTの事だ。
光を追加しながら扉を超えて進むと少し歩いた先に大穴が見える、灯りの生活魔法を放り込んでも底まで見え無い、光で周りを照らしひたすら灯りを底目掛けて放り込むと何かが反射して一瞬光ったように見えた。
「ダンジョン名の由来ってこの穴なのかな?」
「それも有るけどここのダンジョンは主部屋が見つかって無いの、普通に階段を下りていくと最下層で広間に出るんだけど主は居ないし生えてくる宝箱も通常のやつばかりなの」
「主って倒すとまた生えてくる? 一回だけ? あと通常以外のってさっき言ってた三倍のやつ?」
「そうだよ~ここの広間は一日一回生えてくるみたい。主部屋には普通は七日に一回主が沸いて倒すと特大宝箱が生えてくるの!」
リポップ七日なら独占出来たら美味しそう、思わず考えてしまう。
「その最下層は中ボス的なモノでこの穴の底に主が居そうなんだけど誰も試してないの?」
「深すぎて誰も降りようとしないの~」
試しに落ちていた石を投げ入れてみると地面に当たった音がしない、ここから攻略するのは無理かもしれない。
「ワンワンワン!」
「そこの壁が怪しいの?」
ルナが壁を引っかいている、ルナは斥候の素質が有るのかもしれないシーフかな?
「ちょっとその壁壊してみる、フィンガーフレイムボム!」
「おねえちゃん凄い!」「ワンッ」
両手で連打する事五分、大分柔らかくなった壁をルナが蹴り破りました。
「ん、何このスイッチ罠っぽい、でも押したい」
「穴の底へ降りるスイッチかもしれないよ~」
「押したら矢とか飛んできそう、念の為に見るから待ってね」
『罠:ランダム矢』
「あぁ、普通に罠だよって危ない!」
「ワンッ!」
メアリーちゃんが罠のスイッチを押して真横から飛んできた矢をルナが手で受け止める、メアリーちゃんはへたり込んで足元にシミが広がっていく……
『銀の矢』
「一応銀製だからその矢持って帰ろうね……メアリーちゃんメッだよ?」
「ごめんなさいです……」
「家(ログハウス風物置小屋)に戻ろう、ここから誰か入ってくる可能性はほぼ無いし。あの大穴を入り口側から超えてくるには飛行魔法でもないと無理だね」
「飛行魔法なんて聞いた事も無いよ~」
「なら一応、開かないように外れてた閂だけ閉めていこ」
この通路の事はロッズさんに聞いてみよう、あの罠は謎だけどなんで壁の中に?
冒険を終了し、駆けっこで家に戻る……ルナが一番早かった。
メアリーちゃんは扉の影で着替えてたようです、ボクもやった事あるので何も言わない。
「やはり見つかってしまったか……」
地下室の通路から上がるとロッズさんが待ち構えていた!
ちょっと気恥ずかしそうな顔に全員クエスチョンを飛ばす。
「もしかしてこの通路ロッズさんが掘ったんですか?」
「奈落の穴を越えた所に主の部屋へと続く道があると思ってな……若気の至りだ忘れてくれ」
顔を赤くしたロッズさんとかレアすぎてシャメ取りそうになったよ、問題も解決したし今日はご飯を食べて眠ろうか。
晩御飯は10cmくらいのキャベツ丸々一個とラビッツのパエリヤ風煮込みご飯でした!キャベツは普通にナイフとフォークで切って塩を振りかけて食べるようで、美味しいけどこれじゃない感がすごい。あと米は粒が長いけど普通にこっちにもあるみたいだ。
思わずお代わりしてお腹いっぱい食べるとマリアンさんが凄く嬉しそうにしていた。何故かと思い聞いて見るとマリアンさんの生まれた地方で良く取れるのがこの米だそうで、こっちの世界じゃ硬パンが主流であまり食べる人が居ないらしい、硬パンは顎が疲れるからずっとコッチで良いのに……
今朝仕留めたピヨピヨは仕込むのに時間がかかるらしく、緊急依頼が終わった頃が食べごろだそうです。
ロッズさんが作ってくれた黒鉄杉をふんだんに使ったキングサイズベットに三人で横になる。
早速4m×4mの大きなタイガーベアの毛皮が役に立つ、この毛皮もっと買っておいて良いかも知れない、手触りも良いし匂いも無いし何より暖かいのに蒸れない、さすが異世界の生き物だ。
一応防犯の為、地下への入り口は下からあけると上に置いてある鳴子が鳴る仕掛けをセットしてある、勿論ルナの感覚を突破できるとも思えないけどね、だってルナ眠っていてもボクがトイレに行くと付いて来るんだよ……心臓に悪い。
明日はロッズさんに少し稽古をつけて貰おう、特に盾の使い方が全然なってないと自分でも思う、攻撃は全然ダメだし槍棒はスタブで飛ばす用にして生活魔法で攻撃するスタイルにシフトしよう。
「ルナ起きてる? メアリーちゃんも」
「ワ…ン」「……」
何か甘い匂いがしたと思って聞こうとしたら反応が無い!これは何かおかしい、生存系に反応は無い、気のせいかな?
【毒薬散布】を受けました。対抗します。
【生存の心得F】成功
【生存の心得F】により対抗可能なスキルをコピーします。
最重要候補:【耐毒F】をコピーします。YES
【耐毒F】を獲得しました。【耐毒F】PS発動します。
【毒薬散布】を打ち消しました。
「体が動く……けど意識が、何かが、く、る」「ワンッ!」
良かったルナは耐えれたみたいだ。けど、メアリーちゃんは……すやすやと眠っているだけ?
ルナが大丈夫なら何とかなる、意識にうっすらと雲がかかるように……
「ルナあとは、たのん、だ、よ……」
薄れる意識の中、誰かの声が聞こえる。『大丈夫よ私も居るから』その言葉を聞いた直後、意識は暗転する。
静かになった家に二人の怪しい男が地下から侵入する。
「こんなちゃちい鳴子で俺らを止めようなんざお笑いだね」
「なぁ止めようぜ、いくらなんでも殺すのはやり過ぎだよ」
「王位継承権が一番下とは言え、あのクリスティナが目を付けたんだぞ邪魔になるに決まっている!」
「だからって……俺達の任務はクリスティナの監視と可能なら怪我を負わす事だよ、殺すんじゃない」
言い争う声が聞こえてくるわ、片方は生かして置いてあげましょうか?
「ワン?」
「静かにしていてねルナちゃん、あなたのご主人様を守らないといけないわよ?」
頭を撫でて私は準備をする、やっぱりルナちゃんは賢い……何か察してくれたようね。
「俺だけで殺る、お前は地下で待ってろ」
「あの少年だけにしろよ……他の二人はターゲットですらないんだからよ」
「お優しいこって、了解するぜ」
怪しい男は一人地下へと戻り、もう一人は静かに、音も立てずにロフトへ上がってくる。
「三人とも幸せそうに眠ってやがる、俺も鬼じゃねえ……苦しまずにおくってやるよ」
「レディをエスコートするには役不足じゃなくって? アイストーチ」
私の唱えた魔法は簡単な冷却、生活魔法の中でもあまり使われない種類のものね、理由は一回の効果が低すぎる点、水分が無いとそもそも冷やす事すらできない魔法……カナタの記憶から探れば成人男性の体の水分量は約六〇%もあるそうよ?それだけあれば十分じゃないかしら?
凍るまで唱えれば良いだけよね?
「汚い氷におなりなさい?」
「からだ、が、うごかねえ……お前何をし、た」
「ガゥアー」
経験値が規定値に達しました。レベルが上昇します。
「ルナちゃんの手を汚す事は無いわよ? もう死んでるから」
この氷どうしようかしら……目覚めたカナタがこんな物見たらかわいそう、少しスキルを借りるわよ?
「【解体E】綺麗に無くならないわね……ルナちゃんこれどこかで拾ってきた事にしてくれる?」
「ワンッ」
「イデアロジック(罠操作)にアサシンダガーなかなかの業物ねこれはメアリーちゃんに似合いそう、後はこの汚い肉だけど……燃え尽きなさい?」
私が唱えるのはただの種火、神の呪は私にも有効……?
一〇〇回まとめて唱えればゴミを燃やすくらいはできるようね。
「この気配は……あのダンディなおじ様かしら? かわいそうに、折角逃がしてあげたのにね?」
「ワン?」
「眠りましょう? ルナちゃん、私の事はナイショよ? 抱っこしてあげるわ」
「ワンワン~♪」
眠りましょう……カナタとの夢の続きを……幸せな夢の続きを。
――∵――∴――∵――∴――∵――
暗闇の通路を走る男は自分達が空けた横穴から町の外へと走っていた。
「なんて運が悪いんだよ、あの馬鹿が宿の庭まで続く通路を掘るとか言わなければこんな事には! あの通路は何だ! 普通じゃねえよ、あの通路に穴が通じてしまった時点で俺だけでも逃げれば良かったんだよ」
「これだけ走って息も切らさず愚痴をこぼすとは……その身のこなし、どこの者だ?」
男の顔に影が差す、周囲を舞う盾は見る者を圧倒し、自らが対峙した者が誰なのかを思い知らせる。
「お前の死因は二つ……俺の娘達を襲った事と」
「舞い盾!? お前がロッズか! 俺は知らなかったんだよ、【舞盾のロッズ】の娘だったなんて! 頼む見逃してくれよ! 金輪際二度と近寄らない、帰ったら絶対に手を出さないように上に掛け合うからお願いだ!」
「もう一つは……俺のロマンを馬鹿にした事だ!」
舞う大小様々な盾は互いに一つも触れ合わず……ただ男を打ちのめす。盾が再び舞い始めると男の居た場所には黒いシミが残るばかりだった。
「あのお嬢ちゃん、いや、カナタもなかなかやる様だな、まるでスイッチを入れ替える様に攻防のバランスが変わっている、イヤ片寄っているのか? 後は……横穴を埋めないとな……」
その夜マリアンとロズマリーは珍しく一人飲みに行ったロッズの事を心配して……いなかった。




