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ボクが異世界?で魔王?の嫁?で!  作者: らず&らず
第7章 カナタ.ワーキング!!
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SS 艦は不思議がいっぱいやで?

 僅かな振動を感じて目を開けると、左腕にスマホ画面が浮き出していた。

 冷たい金属の地面に寝転がっていた事に首を傾げながら、スマホ画面を見て心臓がドキドキするのを感じる。


「やばい――定時連絡忘れてたで……」


 うちは、メアリーからの催促のメールが一〇件ほど入ってるのを見て、背筋に冷たい汗が流れるを感じた。


「こういう時のメアリーは恐い。メールは一応見た事にして返事送っておくで……」


 メールを開くとすぐに閉じ、全部のメールを既読にすると、万事問題無しと登録しておいた定型文で返事を送っておく。

 少しだけ見えたメールの中身は、次の定時連絡が遅れた場合のペナルティに関しての項目だった。


「うちはカナタと一緒に居る為に燻製工場をファイに任せたんや。今更、下位組織員の訓練の為に蟻の巣に行く暇なんて無いんやで」


 メアリーが恐ろしい計画を立てていたので、フェルティが適任とメールで推薦しておいた。


「あの四人は冒険にも行かず暇そうにしてたし、多分適任やで。ん?」


 冷たい金属の地面からお尻を上げてベットを覗き込むと、ホムの姿が見えない事に気が付く。

 うちは嫌な予感がして毛布を捲り上げた。

 現れたのはカナタに馬乗りになって胸元に顔を突っ込んで眠るホムの姿。

 丁度うちが眠っていた場所にホムの足があった。

 どうやら眠っている間にベットから蹴りだされたみたいやね。


「うちは大人や、子供のする事に一々苛立ってたらダメなんや」


 うちは自分に言い聞かせると、カナタに抱き付いたホムの腋を鷲づかみにして引き剥がそうとする。

 すぐさま尻尾で手を振り払ってくるホム。


「ホム? うちはまだ怒ってないで。今なら大丈夫やから起きるんやで?」


 一瞬起きているのかと思い、うちは最後通告を行う。

 反応は無く安らかな寝息を上げるホム。


「大丈夫や、うちは大人、大丈夫、怒ってない……」


 作戦を変えてカナタをベットから引っ張り出す事にする。

 カナタは一度眠るとマーガレットがナニしても起きない。ロッティがよく悪戯をしていたけど、反応しても目を覚まさない。

 うちはベットの縁に足を置き、カナタの手を引っ張り持ち上げようとする。

 うちの手はホムの足に蹴り飛ばされカナタを奪い返す事が出来なかった。


「……グルゥ」


 思わずでた唸り声に自分でも驚き、思わず口を押さえた。


「カナタの側で眠って良いのは眷族だけなんやで……」


 幸せそうに眠るホムを見ると心がザワザワする。

 そっとホムの尻尾を両手で持つとユックリ引っ張っていく。

 獣人の尻尾は敏感で、周囲の気配や湿度温度を測る感覚器にもなる。

 異変に気が付いたのか身動ぎをして、顔をカナタの胸から離すホム。

 目をコスってこちらを見たホムは大口を開けたまま固まってしまった。


「おはようさん、カナタはうちの嫁やで? それに、そこで眠って良いのは眷属だけなんやで?」


 うちはニコリと笑みを作って優しくホムを諭す。

 うちの意思がちゃんと通じた様で、目を左右に泳がせたホムは身を起こしてカナタの上から横にずれる。


「あ……温めて、おきました」

「ふむ、そこはうちの場所や。良い心がけやで?」


 目尻に涙を浮かべたホムはニコリを笑みを作って場所を譲ってくれた。

 うちは大人やからカナタに馬乗りになって独り占めしようとは思わない。

 カナタの右側に滑り込むと腕に抱きついて大きな欠伸をする。

 もう一度眠る為に目を閉じると大変な事に気が付いてしまった。


「今何時や! 眠ってる場合じゃないで!」

「もうお昼だと……思います」


 ホムは自分のお腹を押さえて部屋を見回す。

 うちもスマホ画面を見た後部屋を見回す。


「うちはカナタにホムを一人前の冒険者にすると約束したんやで?」


 一瞬嫌そうな顔をしたホムに、うちは顔を近づけて首を傾げて見せた。


「よ、よろしくお願いします!」


 誠意あるうちの態度にホムは尻尾を下げて頷いてくれた。


「とりあえずあの上の、どうにかしないとダメやね……」

「うえ? 上ですか……ひぃっ!?」


 ホムは、部屋を見回した時点で気が付いていなかったのか、天井の結界越しに見える赤いウネウネを見て尻尾を膨らませる。


「あの赤くて丸いのがいっぱい付いた足は、多分タコやね。ラビイチが読んでた本の付録に載ってた気がするで?」

「食べれるんですか?」

「うちはホムの先輩やけど、多分歳はそんなに離れてない、普通に喋って良いんやで?」

「……アレ食べれるの?」


 少し躊躇したホムもうちがニコリと微笑むと普通に喋るようになった。


「タコはグネグネウネウネしてるけど美味しいらしいで? 火を通して食べないと、あの足で逆に内臓をボロボロにされるらしいから注意やね」

「……お腹空いた」


 さっきまで怯えた目でタコを見ていたホムは、お腹を押さえると喉を鳴らして美味しそうな物を見る目でタコを見ていた。


「サーベラスが居たら丸焼きにできるんやけど……」

「火出せる!」


 ホムは得意げに胸を張り両手を前に出すと、手の平サイズの火の玉を作り出した。

 吹けば飛ぶ様な小さな火の玉を、うちは手で払い落とす。


「あっ……」

「こんな小さな火じゃ全然ダメやで? これくらいならうちも出せる」


 右手に生活魔法の種火を出すとホムの目の前で少し大きくして見せる。

 何かを思いついたのか、ホムがうちの右手に手を向けると目を瞑る。

 途端に種火が炎を巻き上げて火球へと姿を変えた。


「うわっぶ、熱いで!」


 うちは前髪を焦がす寸前のところで火の玉を放りだす事に成功する。

 その場に浮いたまま炎を維持する火球。

 凄いドヤッ顔でうちを見てくるホム。


「やる事を事前に通達しないとダメなんやで! ホウレンソウは大事って教えて貰ってないんか!」

「ほうれんそう?」


 心底不思議そうに首を傾げるホムに、うちは溜息を付いて大人なところを見せる。


「報告と連絡と相談をして作戦を立てましょうって事やね。冒険者なら常識らしいで?」

「タコ食べよ!」


 うちの話を半分に、ホムは天上の穴に熱い視線を送っていた。


「まぁ良いで……カナタの結界が有るけど、その結界は内側からの攻撃魔法は全部通るようになってるからそのまま上に撃てば良いで」


 ホムは話半ばで天上の穴へと火球を投げつけた。

 すぐに魚が焼ける様な音を上げて焼けていくタコ。


「何で火の玉は戻ってこないの?」


 また不思議そうに穴を覗き込むホム。


「結界の外に出たらそれはもうただの攻撃魔法やから、結界に阻まれて戻って来ないんやで?」


 うちは説明しながら取り出したラビニ特製の木皿に、天上の穴から落ちてくる焼きタコを回収していく。


「何で結界あるのに、焼けたタコだけ落ちてくるの?」

「多分カナタの結界やからやで?」


 うちはホムの質問に対する答えを考えてすぐに諦める。

 カナタの魔法は曖昧なモノが多い。

 それこそカナタの性格を現したかのように曖昧な生活魔法や結界は、うちらじゃ真似できない代物やね。

 皿に手を伸ばして焼きタコを食べようとするホムを手で制する。


「まだやで? 特製ソースがあるんやで!」


 うちは胴体にしっかり結び付けておいた黒バックから、アヤカ特製香味野菜ソースを取り出すと皿にかける。

 茶色のドロッとしたソースが焼きタコにかかるのを見たホムが、泣きそうな顔になって一歩後ずさった。


「ホムの気持ちは分かる、でも大丈夫や。作り方を知ってるうちも初めは尻込みしたけど、このソースは美味しいで!」


 恐る恐る焼きタコに手を伸ばすホムに、鍛冶屋のおっちゃんに作って貰った先割れスプーンを手渡した。

 先割れスプーンで焼きタコを突き刺して食べるホムは言葉も出ない様子で尻尾をフリフリしている。

 うちは反応を見て満足すると、一緒になって焼きタコを食べる事にした。


「美味しいけど、ちょっと多すぎやね……」

「いくらでも食べれる!」


 放っておくと動けなくなるまで食べそうなホムを制して、穴から落ちてくるタコを木の器に入れていく。

 これだけ美味しいタコなら皆の分もお持ち帰りやね。


「食べ過ぎて動けんようになったら探検できないんやで」

「分かった……我慢する」


 うちはヨダレを垂らすホムを尻目に、焼きタコが落ちてこなくなるまで木の器にタコを入れると、蓋をして黒バックに収納した。


 食事が終わると、捲れ上がったホムの天使御用達の服を綺麗に直して探検に出発する。


「カナタはこのままで良いの?」

「大丈夫やで。眠ったカナタをどうこうする事は不可能なんやで?」


 首を傾げるホムの目の前でカナタに向ってラビッツの燻製を一つ投げつける。

 かなりの勢いで飛んで行った燻製は、カナタの影から出てきた白黒の翼を持つ天使に掴まれて影に飲み込まれて行った。


「ん? ここどこ?」

「海の上らしいで?」

「そう、また今度食料の調達お願いするね」

「分かったで。うちらは探検に行ってくるからカナタの事お願いやで」

「いつも通りね~」


 手を振って影へと戻っていく天使。

 あの天使の他にももう一人カナタには天使が付いている。

 うちは呆気に取られて呆然とその光景を見ていたホムの手を引くと、扉の無い出入り口から部屋の外へと出た。

 部屋を出ると何故かうちに跨ろうとするホムをふるい落としその場に立ち上がる。


「乗せてくれないの?」

「うちはこう見えてもれっきとした獣人やで! 歩くのは四速歩行の方が楽やからやで?」

「元に戻らないの?」


 ホムが痛いところをついてくる。

 うちも簡単に戻れるのなら元の姿に戻っている。


「戻り方が分からないんやで……もう行くで」

「分かった」


 先導するうちの後ろをホムが付いて来る。

 うちは新しい子分ができたような気がして気分が良くなって来る。


「ホムもうちの眷属になる?」

「心に決めた人が居るから無理」


 即答だった。

 うちは少し悲しくなったけど、ホムが勘違いしている事に気が付いていたのでそれ以上の事は言わなかった。




 ――∵――∴――∵――∴――∵―― 




 金属製の通路は歩くと爪が当たってコツコツと小さな音がする。

 ギリギリまで爪を引っ込めておかないと手足が痛くなりそうやね。

 探検を初めてまず探したのはトイレだった。


「いくらビーストモードなうちでも、そこら辺にするのは無理やで!」

「もう、ちょっと……ヤバイ」


 先ほどからカタコトしか喋らなくなったホムは、限界が近いのか内股気味に歩いている。

 初めに居た倉庫はこの艦の中心部一番上にあるらしく、周囲は倉庫ばかりで人が殆どいない。

 たまにすれ違う人にトイレの場所を聞こうにも、うちの姿を見て走って逃げてしまう。

 うちなら全力で追いかければ追い付く事は可能だったが、追いついて肩に手を置いた瞬間に少し漏らして気絶してしまった。

 気絶した女の人には、浄化清掃をかけて服を乾かした後、ごめんやでと書いた紙とラビッツ燻製を置いてきた。


 どこかで見た事のあるマークが書かれた扉を発見する。

 うちの感やとここがトイレだと告げている、と言うか先ほどの女の人の匂いを辿ったら分かった。


「多分ここやで! ホム、もう少しの辛抱やで!」


 もう言葉すら出なくなったホムがヨロヨロと付いて来る。

 うちは部屋に入ると扉で区切られた個室を覗き込んだ。

 見た目はカナタが作ったトイレに似ているけど、座って右を向いた壁に何かボタンが付いている。

 ホムはうちを押しのけて便座に座ると大きな溜息を付いた。


「このボタン何かな?」


 ボタンの上にある小さな絵には、鳥がさえずっている姿が描かれている。

 試しに押してみるとどこからとも無く鳥が鳴く声が聞こえてきた。


「何で鳥の声がするんやろう?」


 ホムの返事は無い。溜まっていた水分を出し切って余韻に浸っているホムは、うちの疑問には何も思わなかったようやね。

 うちは隣のボタンを押してみる事にする。


「うにゃふん!? 水が出てきたの!」

「ふむ? これは生活魔法の代わりのボタンなんかな? ホムはそのまま座っててや?」


 もう一度ボタンを押すと水は止まったようだった。

 うちはその隣のボタンを押して見る事にする。


「ふぁぁぁぁ!? 温かい風がふぁぁぁーって出てくるの!」

「ふむ。うちの推理は完璧やね! この最後のボタンは何かな?」


 うちとホムは壁のボタンの上に描かれた絵を見て首を傾げる。


「回る風車の絵やね? 押すで?」

「ちょっと待って、危なそうだから退く」


 ホムが便座から下りるのを確認すると恐る恐る最後のボタンを押してみる。

 唸るような小さな風音が聞こえてくる。


「……何も起きないで?」

「何か小さな音が聞こえる」


 そのまま一〇秒ほど時間が経つと音は止まってしまった。


「「???」」


 小さなコツコツ音が聞こえたので、うちはホムと一緒に個室に潜むと扉を閉める。

 隣に誰か入って来る気配がする。

 順番にボタンを押しているのか先ほどと同じ鳥の声や水の音が聞こえた。最後に聞こえてくる唸るような小さな風音。

 遠ざかっていく足音を聞きながらボタンの意味を考える。


「終わったよボタン!」

「ん? その発想は無かったで!」


 何と無くホムが言った事が妙にしっくり来た。

 うちも用を足すと順番通りにボタンを押していく。

 ホムと一緒に個室を出ると、入る時には気が付かなかった手洗い場の鏡を発見する。

 入る時は切羽詰っていたので気にしていなかったけど、驚くほど綺麗な鏡が手洗い場には付いていた。


「この前中央市場で見た小さな鏡は一つで金貨5枚やったで? このサイズならいくらするんかな? 何するん?」


 うちが鏡に触れようとすると、顔を青ざめさせたホムに尻尾を引かれて止められる。


「壊したら弁償できない!」

「うちはそんなに不器用じゃないから大丈夫やで?」


 うちは涙目で首を振るホムの顔を見ていると、万が一の事を考えてしまい鏡に触れるのを諦めた。


「何か良い匂いがする!」

「ん? 本当やね。この匂いは焼いた塩漬け肉と野菜の匂いやで。近くに食堂があるのかもしれんで!」


 今にも走り出しそうなホムを制すると、うちらは匂いのする方へと歩き始めた。

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