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ボクが異世界?で魔王?の嫁?で!  作者: らず&らず
第7章 カナタ.ワーキング!!
222/224

第166話 ホムちゃんは認められたい。

 眩い輝きを放つ銀製の調度品の数々。

 特別に作らせたと言わんばかりの高級感漂うトレント材の机。

 冒険者ギルドマスターの執務室にはギルドマスターのエウアとサブマスターのヘズの姿があった。

 入り口まで一緒だった受付嬢のベリルはすぐに出て行ってしまい、ここにはボクとラビイチと余りにも場違いな子供が一人、そわそわと話が始まるのを待っていた。

 ここに居ないルナは、ラビッツ燻製の作り方のノウハウを冒険者ギルドの寄与すると言って、他の部屋で受付嬢に書き取りして貰いながらレシピ本を製作中だ。


「帰って良いですか……」

「ん、ちょっと待ってね? 何かフウちゃんにも関係があるらしいから。それに何でボクの顔を見た瞬間逃げたのか教えてくれるかな?」


 冒険者ギルドに入った所で偶然、依頼書を眺めてウロウロしているフウに会った。

 ボクと目が合うなり走って逃げようとしたので捕まえたところ、ベリルに一緒に連れて来てください、と言われ執務室まで同行する事になった。

 何故逃げたのかの理由は黙秘していて、今にも泣きそうな顔でボクのマントの端を掴んでいる。


「騙す様な事をして悪かったのう――何も聞かずにこの依頼を受けてくれると助かるのじゃが……」

「サポートは任せてもらって構わないぜ?」

「やっぱりあの依頼書はボクを釣る為に? でも何でピンポイントで素材とか分かったんですか?」

「ら、らび……」


 何故か目を合わせようとしないエウアと、まるで他人事の様に気楽なヘズ。

 ラビイチがネコババしていた素材の収拾依頼を出した経緯は分かったが、何故簡単にはめられたのかが分からない。

 ラビイチは頭が良いし危険に敏感だ。トキジクの件で食べれない物がある事を知ったラビイチは、食べれる野草図鑑なる金貨10枚もする大図鑑を購入して読み歩いているらしい。

 付録と思われる小冊子を手渡してくるラビイチは、本当に申し訳無さそうに目線を地面に落としていた。


「ん? 別冊危険で一杯魅惑の素材集? まさか……」


 小冊子を捲り流し読む感じでイラストだけを確認していく。

 思ったとおりユニコーンの角やメデューサの首のイラストを見つけた。

 冒頭に書いてある一言の言葉。


「冒険者ギルドや商業ギルド以外に卸すと罪に問われる素材か……単純所持にも登録が要るのか」


 所持する為には許可が必要であり、許可を貰うのにも莫大なお金がかかるらしい。

 何故そこまで? と思ったが、一覧に表示されている使用用途の項目を見ると何と無く理解できた。


「コレクション目的以外にも、呪具の原料に特殊な用途のマジックアイテム、毒薬、長寿薬、武器防具の材料か……」

「理解が早くて助かる。先日、とあるコレクターの秘蔵していた品が盗難に合ってな。まぁ、違法性の高い物が多数合った為しょっ引けたんだが、ついでに利用させて貰った」

「何故ラビイチが持ってると思ったの?」

「ラビ……」


 また申し訳無さそうに鳴くと首を振るラビイチ。


「ラビイチが丁度良いタイミングで所持の許可、もしくは売却の手続きをしに来たんでな」

「つまり、収拾依頼書を出して盗まれた品と同じ物を売りにくる人を待っていたって事?」

「いや、収拾依頼自体は昔から出ている。ついでに利用させて貰ったのは、カナタにこの依頼を受けてもらうって所にだ」

「ヘズ……おのし、少し喋り過ぎじゃぞ?」


 エウアの一睨みで口を閉じたヘズは壁際へと下がる。

 代わりに椅子に座りなおしたエウアが一枚の依頼書を机の上に置いた。

 机の上を滑るようにこちらに来た依頼書を手に取ると内容を見て首を傾げる事となる。


「マグロ漁? 本気? マジ本気?」

「上からの指示――それ以上の事は言えないんじゃよ」


 決して目を合わせようとしないエウアに問い返すと、不思議な言葉が返ってきた。

 冒険者ギルドのマスターであるエウアに指示を出す事のできる人物、それは王族かそれに類する実力者と言う事になる。


「受けるのは別に良い。でも、何でフウちゃんがここに呼ばれているかが知りたい」

「それはじゃな……」

「ホムが悪いの――! だって、ホムが大人になっちゃったから……」


 急に背中に抱きついてくるフウ。

 フウが涙声で話し始めた途端、エウアは口を閉じて初めてボクと目を合わせた。


「ホムだけ先に大人になって、ライを取られると思ったんです……だから――」


 要領を得ない話の途中で、また話す事を止めるフウ。

 溜息を吐いたエウアは立ち上がるとフウの頭に手を置いた。


「あくまでこの依頼を受けたのはホムとやらの意思じゃ。小娘が気にする事ではないぞ?」

「でも、私が一人で依頼を成し遂げたら認めるなんて言わなければ――」

「もう一人の小僧は知っておるのか?」

「王都西街に買い物に言ったって……」

「と、言う訳じゃ」


 エウアはこちらを見て小さく頷くと、机に置かれた依頼書の写しの側に羽ペンを置く。


「ふむ。つまるところ、ホムちゃんが初花を迎えて体が大人になったから、ライ君との仲が進むのを恐れて一人で依頼を受ける様に仕向けたら、ホムちゃんが気合入れすぎてマグロ漁船に乗っちゃったって事?」

「この寒い中、ホムが受けれる依頼なんて食堂の住み込み給仕くらいだと思っていたの……泊り込みなら安心できるって――」


 少し頭の痛くなる話だ。ライフウホムの三人部屋からライを別の部屋に移動させるようにメアリーにメールを送っておこう。


「あー、とりあえずこちらの一般常識的なマグロ漁船って大変な仕事?」


 念の為に聞いておかないといけない。

 どれほどの危険があるか、それとマグロのサイズもだ。こちらの魚類は巨大過ぎる。


「あとマグロってどれくらいのサイズ?」

「船員の半分は犯罪を犯して奴隷に落ちた犯罪者奴隷じゃのう……後は、借金を負った冒険者かのう? マグロのサイズも千差万別、10トンを超えるマグロを魔王マグロと呼ぶらしいのじゃ」


 かなりのブラック企業くさい事が分かった。声が聞こえなくなったと思ってフウを見ると顔面蒼白で気絶していた。

 軽い気持ちで言った言葉でホムが死地に旅立った事を知ったフウは、良心の呵責を通り越して自衛の為に意識を落としたようだ。


「依頼は受ける。フウちゃんが危ない事しない様に見張りをお願いします」

「任せるのじゃ! 暇そうにしていたシルキーを付ける」

「ヘズ、サポートの内容は?」

「1F奥の部屋に食材を二人が一月食べるに困らない量を用意してある。その黒バックとか言うアイテムボックスなら余裕だろう?」

「OK。他に注意する事は何かある?」

「あぁ、それなんだがな……」


 ヘズの歯切れの悪い返事。エウアの指が依頼書の一箇所を指差して固まっている。

 依頼書の期日についての項目に何か不備でもあるのだろうか?


「ん? この期日って数日前までじゃ?」

「依頼主がここ数日二日酔いで依頼を出すのが遅れたのじゃ……」

「は? 何言ってるの? 犯罪者がひしめくマグロ漁船にホムが一人で居るって事だよね?」

「面目ないのじゃ」


 エウアが頭を下げてきた。

 今日なかなか目を合わせようとしなかった理由がこれか。


「品を回収してすぐにでも出る。マグロ漁船はどこに泊まってるの?」

「王都最西街の端にある漁港から出港して、もう蒼海の上かのう……」


 目の前が真っ白になる思いだ。思わず目頭を押さえて現実的に取れる手段を考える。


「上空、それも王都に被害が出ない高度なら飛んでもかまわんぞ?」

「……それしかないか、まぁ――いつばれたのかは置いておくとして。ルナは置いていくから言い包めて洋館に戻らせて」

「連れて行かんと言うのじゃな?」

「ん、獣化が解けるまでは慎重に、危ない事をして欲しくないからね」


 依頼書にサインをすると、若干驚いた顔のエウアに手を振って部屋を出る。


「冒険者として一番大事な事を忘れてるぜ?」

「ん?」


 ヘズの待ったがかかったので振り返ると、もう一枚の書類を手渡された。

 書類は成功報酬について細かく書かれていて、今ここで目を通すには文字量が多すぎる。


「エウアとヘズの事だから、見合った報酬は用意してくれるんでしょ?」

「Sランク冒険者をロハで使ったとなれば世間体が悪いしのう。その書類に目を通しておくのじゃ」

「あとオマケだ。旧スラム街一帯の土地をオーキッドとカナタの連盟での所有地にして置いた。手続きをすれば市場から税が取れるぞ?」


 なかなか魅惑的な話のようだが、今はそれよりホムの方が重要だ。


「帰ってきてから詳しく聞きに来ます」

「体に気をつけるのじゃぞ――」


 扉から出たところでエウアの声がかかったが後半は聞き取れなかった。

 飛び降りる様にしてギルドの入り口へと下りると、驚く冒険者に手を振って外に出る。


「カナタ様! 忘れ物ですー!」

「あ、食材一式忘れてた!」


 ベリルの叫び声を聞き慌ててギルドに戻ってくると、酒場から失笑が聞こえてくる。

 ボクの顔は多分今最高に真っ赤になっているだろう……。


「アレ? ルナが居ない?」

「ルナ様ならもう戻られましたよ? すれ違いませんでしたか?」

「いや、見てない。まぁ、メール送っておくか」


 全員に一斉送信でマグロ漁に言ってくる事を伝える。

 ベリルに案内されるまま倉庫に向うと、麻袋で綺麗に分けられた食材の山がボクを出迎えてくれた。


「……多くない?」

「二〇人が一ヶ月船上で過ごせる量との事でしたので――」

「え? 二人じゃないの?」


 ベリルは無言で手に持った羊皮紙を見せてくれた。羊皮紙には一の位に丁度穴が空いていた。


「余った分は成功報酬に上乗せとの事なので、内緒ですよ?」

「あー、その、何と言うか、ありがとう?」

「いってらっしゃいませカナタ様」


 八重歯を見せてニコリと笑ったベリルは綺麗なお辞儀をして倉庫から出て行った。

 時間が無いので手当たり次第黒バックに突っ込むと外に飛び出る。

 次は気配を消してこっそりギルドを出たので笑われる事は無かった。


「方角はこちらか、被害が出ない高度ってどんなだ? まぁ、巨大フライングラビッツが潜む雲より上なら問題無いか」


 スマホ画面で位置を確認すると尺度がおかしい事に気が付く。

 どう考えても王都の街は西に長過ぎる。この島全体の半分ほどになる所々離れた街並み。


「王都ってもしかして元々西の方にあったのかな?」


 スマホMAPの最西端には旧王都のような城が中心となった街があった。


「げげ……めちゃくちゃ遠いし、ホムちゃんは何日前に出発したの!? フウちゃんは毎日ホムを探しにギルドに顔を出していたのか。まさか本気でマグロ漁船に乗るとは思わないよね……」


 冒険者ギルドの裏手から停止飛行で飛び上がると、周囲にこちらを見る視線が無い事を確認してさらに上空へ向う。


愛姉(あいねえ)? 居ないの? アレ? おっかしいな?」

「愛様はご気分が優れない様子。全てはアウラ様から直接護衛を言い渡された私に御命令ください」

「うぉい!? どこから現れるの!」


 飛び上がったさらに真上から声が聞こえてきた。

 見上げると真っ黒な布キレと褐色の肌が目に入る。

 黒くビロードのように綺麗な羽を持つ女性が何故か上空に居る。

 尻尾の形状や羽の形から愛姉(あいねえ)と同じサキュバス系の人っぽい?


「えっと、護衛の人? お名前は――」

「……本当に左目を使わないのですね。才能の持ち腐れです」

「えぇ!? いや、だってほら、プライバシーってモノが――」

「技能は使わなければ意味がありませんよ? だいたい、いつもいつも愛様を独り占めし、アウラ様の手を煩わせ――」


 何故か説教気味に怒られる事となった。

 時間が無いので簡便して欲しい。

 腕を掴むと加速する為の結界を多重に張り巡らせて行く。


「触らないでくれますか? 私はそっちの趣味は有りませんので」

「あのね、時間が無いの! 誰さんか知らないけど五月蝿くするなら置いていく。OK?」


 渋々といった感じに腕を掴んでくる女性。


「……テミスです」

「ん? 何か言った?」


 ボソリと肩越しに何か言われた気がしたので振り返る。

 完成した結界の外に暴風を発生させるため、温かい空気と冷たい空気を上手い具合に練り混ぜ、結界を使い圧縮していく。


「アウラ様からカナタ様に言い寄る男共を全て食べる――もとい、カナタ様の貞操を守るようにと使わされたテミスと申します。以後お見知りおきを」

「ちゃんと挨拶できる子。ヨシヨシ」


 テミスの態度が(あい)を取られた妹の様に可愛い感じがしたので、思わず頭をナデナデしてしまった。


「そういうのいらないんで。私に欲情しないでくださいね?」

「何でだよ!?」


 眉を潜めた心底嫌そうな顔で身を引くテミス。

 圧縮した空気が十分貯まったので前を向いて方向を確かめる。

 少しずつ加速していく。


「喋ると舌噛むよ3、2、1、GO!」

「キャャャーーー!?」


 圧縮空気を後方に解放すると雷を伴った螺旋状の雲を作り出し、更なる加速に目の前に広がる景色がグンッと横に伸びる。

 凄まじいGが体全体にかかり、結界の表面がオレンジ色に染まっていく。


「あ、これアニメで見た事ある。宇宙から地球に再突入する時のやつだ!」

「キャャャーーーキャャャーーーキャャャーーー!?」


 ただひたすら叫ぶだけの存在となったテミス。


「あ、これってブレーキどうしよう?」

「……」


 テミスからの返事が無い。

 手足を体に巻きつけたままテミスは気絶していた。

 手が真っ白になるほど全力で握られている。


「止まる時は……途中で減速すれば良いか!」


 スマホMAPを確認すると、もうすぐ王都最西街の端に着くようだった。

 残った圧縮空気を全方面に放出すると力技で停止飛行する。

 体が軋む様に感じるが、気絶しているテミスには何も起こっていないようなので気のせいだろう。

 眼前に広がる大海原。

 陸地から少し離れた位置にいる超巨大戦艦は何故か茜色に燃えていた。


「え、煙突の近くから火が上がってるよ!?」


 どう考えても異常事態が発生しているマグロ漁船を前に、まず速度を殺して止まれるかを心配するのだった。

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