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ボクが異世界?で魔王?の嫁?で!  作者: らず&らず
第7章 カナタ.ワーキング!!
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第164話 酒は身を滅ぼす

 洋館の離れに設置されている物置小屋はラビッツの巣の入り口になっている。

 巣の入り口の隣にできた謎の穴は訓練施設への入り口との事だった。

 洋館の外壁沿いに作られた簡易住居は、新たに雇った元奴隷の者達が住んでいるらしい。

 初めて来た時と比べるとかなり小さくなってしまった洋館の庭の中央には、直径3mはあろうかと言う巨大な輪切り丸太を利用したテーブルが設置されていた。

 テーブルに並べられていく豪華な料理を貪るように食べていくルナの師匠とその連れの女性。


「うんめぇー!? 何だ、こっちのエビは大柄だから味が良くないと思ってたがマジ美味いな!」

「あんた……それ、エッジクロウラーだよ? 良く食べられるねぇ……」

「あん? エッジ――? まぁ、甲殻類は見た目がアレだからな……日本に居た時はエビ見てびびってた外人もいたなぁ。これだけ鮮度が良いのなら刺身で食いたいぜ。醤油とワサビが有ればなぁ」


 ブラウニー達が次々と運んでくる料理は、巨大なエビチリ、ラビッツ料理を主としたオカズ中心の物だ。

 米を一般的に食べる習慣が無いようなので、薄切りした黒パンや田舎パンのような物に挟んで食べている。

 おばちゃんに作り方を習ったのか、透き通った黄金色の出汁とうどんが並んでいるのも見える。


「うんまいね! あんた、こっちのラビッツの干物も美味しいわよ?」

「あぁ、前も言ったけどそれは燻製って食べ物だ。作り方は簡単だが、これほどの物を作るのは素人には無理だな。よっぽど凄い職人を抱えているんだろうな~」

「これうちが作ったんやで! 師匠には特別にコレをあげるで! そっちの人には上げたらダメやで!」

「おう? こ、この燻製はー!! 良く分からんが美味いな」

「あんた……一口だけ交換しない?」

「ダメやで! うちのスペシャルな燻製は食べる人を選ぶんやで!」

「あははっ、お前も嫌われたもんだな~」


 ルナがスペシャルな燻製を綺麗に裂いて師匠にあげている。横から掻っ攫おうとしている大柄な女性を牽制するルナ。

 簡単な事情は聞いて、ルナの牙の件はお礼も言ってある。

 無理やりルナの毛をもふろうとしたのはいただけないが、一度触ってしまうと抗えない魅力的な毛なので、本人の許可が有れば少しくらいもふっても良いとも言ってある。


 洋館よりに少し離れた場所に設置されたテーブルには、ルナのヨダレでベトベトになったアンナと丁度お昼を食べに戻ってきたメアリーとレイチェルが、中央のテーブルと同じメニューの昼食を優雅に取っていた。


「反省の色が見えません」

「ちゃんと反省しています。お腹すいたのでそろそろ……」


 洋館の入り口横にいつの間にか出来ていた井戸の側で正座するボク。

 側にはアウラが立っており、井戸から汲んだ水を時々飲んでは木の根の鞭で膝をペシペシと叩いてくる。シビレが限界を突破しそうなのでそろそろ止めて欲しい。

 井戸の水はただの水のはずなのだが、アウラの頬は少し上気して桃色になっていた。


「アウラってSっぽいよね……」

「ん? 何か言いました?」

「何でも無いであります!」


 小さくお腹が鳴る。テーブルから漂ってくる甘くスパイシーなエビチリの香りが胃を刺激している。


「……だって、仕方が無いと思いますよ? 神殺し特性が触れただけで腕が吹き飛ぶほど危ない物とか知らなかったし! それ以前に何で愛姉(あいねえ)が神属性持ってるの? って話だし――」

「――言いたい事はそれだけですか?」

「すいませんっした!」


 言いたい事を言おうとすると途中でコレだ。

 明らかにアウラは酔っている、この地の地下水にはアルコールでも含まれているのだろうか?

 程よく酔っ払ったかの様なアウラは、ボクの背後に回ると頭の上に豊満な胸を乗せて、上から体重をかけてきた。


「あの……むにゅんなもにゅんな感じで良いんですが、ご飯食べたいです」

「カナタって……美味しそうですね――んふふっ♪」

「ひやっ!? どこに手突っ込んでるんですか!」

「にゅふふ~♪」


 アウラが耳元で囁くと同時に、背中に突っ込まれた右手が背骨に沿うように怪しい動きでナデナデしてくる。

 ダメだこの酔っ払い、早くなんとかしないと。


「愛はこんな可愛いカナタを餌にしてアイツを釣ろうとかする鬼畜なんですよ~」

「ん? そこんとこ詳しく――」

「だぁかぁらー、本来相手の世界に干渉出来るのは一回だけなんですぅー」

「ふむふむ? それで?」

「アイツはどんな裏技を使ったのか、こう何度もカナタにちょっかいをかけてきてぇー」


 アウラは呂律が怪しくなってくるのと同時に、凄く重要に思える話をぽつぽつと漏らし始めた。

 食事中のメアリーとレイチェルがこちらにウインク一つして小さな小瓶を見せてくる。

 どうやらあの二人が井戸に何か盛ったらしい、土の原初精霊のアウラをヘベレケにする劇物をどうやって入手したのかは聞かない方向で行こう……。


「オマケにーこっちは相手の世界に一度も手出し出来ないんですよぉ? 分かりますー?」

「ソレは大変だね……で?」

「ガイア爺は最近連絡が取れないしぃ……ヒック、万全の状態で罠にかけるはずがぁー、知らない女が罠を作動させるしぃ――るなちゃんは私が守る! っぷ、今の似てました? うふふ」

「ん、うん似てる似てる――で?」


 愛姉(あいねえ)はルナに自称神が憑いていた事を知っていた?

 一瞬首を傾げそうになるが肯定しておく。いったい誰に似ていたのだろうか?


「次で最後にするーって息巻いてた愛は冒険者ギルドの門前に埋めてきちゃいました~あはははっ♪」

「それは凄いね……で、次って何?」

「次は……ムニャ、蒼空の海で決着を、付けるってぇ――」

「蒼空の海……? ねぇ、それってどこの事? アレ? 眠っている……」

「あ、んん。愛のばかぁ、クゥ……」


 正座したボクに全身を預けるようにして眠りに落ちたアウラ。

 タイミングを見計らっていたのか、洋館の扉を内側から開きブラウニー達が飛び出てくる。

 まるで家宝を運ぶかのごとく丁寧にアウラを抱え上げるブラウニー達。

 静かに、素早くアウラを抱えたブラウニー達は洋館へと姿を消して行った。


「アウラは何飲んでたんだろう? ん? 酒?」


 井戸の側にかけてあった桶を落として水を汲む。

 汲みあがった桶に入っていた琥珀色の液体はどう見ても水ではない。

 殆ど匂いの無い琥珀色の液体を、ペロリと一舐めしてみると予想通りアルコールの味がした。

 一口分口に含んで舌先で味わっていると左目が鑑定結果を表示してくれる。



『銘酒・彼方の空』

 新鮮な彼方を漬け込んだフレバー焼酎。漬け込む時間によって空・海・陸と三段階の香りの違いを楽しむ事ができる逸品。

 :精霊殺し(芳醇な香りと魔力で狙った精霊もイ・チ・コ・ロ♪)

 :魔力増強



「ブバッ! ゲホッ、ゴホッ――な、ななな、何でやねん!?」


 いつの間にか焼酎の原料にされていたらしい。全く記憶が無いので眠っている間にだろうか?

 左目に表示される鑑定結果を見て思わず口の中身を吐き出すと、どういう事なのかと小瓶の持ち主を見る。

 メアリーは激しく首を振りながら洋館の窓を指差している。

 指差された窓を見てみるとブラウニーの姿が……?


「ルナも私も何も知らない。ブラウニー達が用意してくれた小瓶だよ?」

「いや、待てよ……普通アルコール漬けにされたらすぐ起きるよね、つまり……彼方という名前の果実か何かがあるのか!!」


 頬が熱い、多分顔面真っ赤になっていると思う。

 こちらの様子に気が付いたのかメアリーが慌てて近寄ってくる。

 ルナはお腹いっぱい食べたのか、お皿に一通り食べ物を乗せて持って来てくれた。

 途中飲み物を運ぶ元奴隷の女の子とすれ違ったが、両前足でお皿を持って後ろ足立ちで歩く狼というシュールな光景を見ても、ここの住人は眉すら動かさない。

 何事にもすぐに順応していくのは人間の強みだと思う。


「うち知ってるで?」

「お、彼方って果実見た事ある?」


 ルナの持ってきてくれたお皿からサンドイッチを一つ取りカナタミルクで流し込むように食べる。


「時々、ブラウニー達が夜中に部屋に入って来て――カナタを樽に突っ込んでたで?」

「ブボッ! ゴホッ、ゲホッ――ルナ!? 見てたのならどうして止めてくれなかったの?」

「うちも別の樽に入れてもらったけど、暖かくてポカポカして良い感じやったで!」

「あ……ルナ、お前もか――」


 尻尾フリフリでニコニコと話すルナ。

 どうやらボクは魔力増強効果目的で樽に詰められている事があるらしい。

 この洋館のどこかにルナラベルのお酒も眠っているのだろう。


「……眠って居る時ナニしても起きないカナタが悪いんだよ」

「ん? メアリー?」

「うちがちゃんと浄化と清掃の魔法を教えたんやで! 安心してや!」

「おぅいぇ。朝起きても気付かないわけだ……後処理まできちんとされていたのか」


 自信満々のルナの頭を撫でて食事を再開する。

 ブラウニー達の所業に思う事もあったが、対策を打つと洋館に住めなくなりそうな気がするので聞かなかった事にした。


「このエビチリ美味いな~。ここら辺って内陸部だと思ったんだけど海と繋がる川でもあるのかな?」

「うち思ったんやけど、さっきの人も樽に入ってるんかな?」

「んぐっ!? 鼻からエビが出るかと思ったよ!」


 ルナの呟きに反応して口の中の物を噴出しそうになったが、何とか飲み込むことに成功する。

 思い返してみればアウラを運ぶブラウニー達は、凄く嬉しそうでニコニコ笑顔だったような気がする。


「……実害は無さそうだし、多分大丈夫? 酒風呂とか有ったはずだし、精霊を漬け込んだお酒と聞くと魔薬物っぽさ半端ないけど」


 食事を終えて一息付いていると、お腹いっぱいご飯を食べて、ついでに余った物をお土産に包んで貰っているルナの師匠と目が合った。

 すぐに目をそらしてモジモジするおっさん。正直背筋がむず痒くなる。


「おっちゃん気持ち悪いで?」

「おおっと、誰も言えない事をサラッと言っちゃうルナ凄い!?」

「おっちゃん傷つくは……」

「あ、念の為に言っときますけど、ルナに手を出したら殺しますから」

「ひぇっ!? 殺気、それもガチの殺気が!?」


 念には念を、ルナの師匠の目を覗きこむように見て釘を刺しておく。


「俺にはこいつが居るからな! ロリコンじゃないしな……」

「あんた、私なら一人くらいモフモフな妾を許すわよ?」

「いや、これ以上尻に敷かれるのはゴメンだぜ……」


 ルナの師匠の連れと言っていた大柄な女性がフードを取り払って姿を見せた。

 背が高いとは思っていたがこうやって目の前で見るとかなりの迫力がある、2m超えているかもしれない。

 細めの手足がすらっとしていて、雪原を思わせる真っ白の毛皮から除く手足や首元にはキラキラと輝く白っぽい鱗が生えている。髪の毛は白く、鼻が高い露系の美少女と言った感じの女性だ。

 何より驚いたのはこめかみの少し上辺りに生えている小さな角と、毛皮から覗く短めの尻尾と白い翼だ。


「竜人! でも、ジークとはまた違う感じな……別の種族?」

「へぇ、ジークフリードの事を知っているのね。私はジルコーニャ、所属は皇龍帝国ミドガルズオルム」

「あ、ボクはカナタ。彼方=田中=ラーズグリーズ、所属はヘラクトス王国になるのかな?」

「あー何だ、自己紹介するのとか恥ずかしいな。俺は――」

「うちの師匠やで! ルナスペシャルを教えて貰ったんやで! 師匠にはまた次の必殺技教えて貰うんやで!」

「おい、ちょっと待て! 真面目なお話し中だ、ちょ」


 ルナに引きずっていかれるおっちゃんを見送ってジルコーニャに向き直る。


「改めて御礼を言わせてください、ルナの牙を抜いてもらってありがとうございました」

「え、いや、そんな事は、ないんんですます!?」


 正面を向き合って見上げるようにお礼を言うと、何故か赤面して白い肌を朱にそめたジルコーニャはシドロモドロになって変な言葉使いになった。

 反応に困ったので見上げていると何故か頭をナデナデされる。

 ジークフリードと違って、体のあちらこちらに鱗は見られるが尻尾と角が生えているくらいでほぼ人間の女性と変わらない外見。背が高いのに細身なので綺麗と言うよりカッコイイと思ってしまう。


「必殺やで! にゃるーぐらんどー!」

「違う違う、ニャ・ル・グランドだ」

「にゃーるーぐらんどー!」


 沈黙の中ルナとおっちゃんの必殺技練習の声が聞こえてくる。

 ナデナデされるままで間が持たなかったので、気になっていた事を聞いてみる事にした。


「あの……ジルコーニャさんは竜人族なんですよね? 何で見た目が人間っぽい、というか――」

「あぁ、良いよ、言いたい事は分かるわ。初めて見た人は大抵そう思うって分かってる」


 赤面して頭をナデナデしてくれていたジルコーニャは近くにあった椅子に座ると目線の位置を合わせて話し始める。


「竜人族の男は筋肉&竜骨でガタイの良い者が多いのよ? 女は短い尻尾と小さな翼がある程度、稀に先祖返りで力を持った女も生まれるけど……大抵そう言った女は巫女として国に尽くし、一生お国から出して貰えないわね」

「ふむふむ、と言う事はジルコーニャさんはジークと同じ種族なんですか?」

「まぁね。目を見ればすぐに分かるわよ?」


 視線を合わせたまま顔を寄せてくるジルコーニャ。言われたとおり目を覗きこむと、黒い瞳の奥に真っ白に揺らぐ炎のような物が見える事に気が付く。


「見えたようね。一般的にこの色で部族分けされてるって事。私は白竜一派って感じね」

「ふむ……ジークは黒竜一派?」

「そうそう、そんな感じね。カナタはジークフリードの妹に会った事無いの?」

「え? ジークって妹居たの? ……あっ」


 不意に思い出されるジークフリードとの会話。

 王都のどこかに在る魔法士の育成学校のような所に居ると言う妹の話。絶対に厄介事だと思い、思わず話を止めて聞かなかった事にした案件だ。


「あの子が先祖返り――力だけなら龍人族にも引けを取らない今世最強の巫女よ」

「あ、あぁ……フラグが立った気がする」


 フラグって、と首を傾げているジルコーニャの前で、言い様の無い不安感が胸に湧き上がってくるのを感じた。


「るにゃーぐらんど!」

「違うって言ってるだろ!? ニャ・ル・グランドだ!」

「お姉さんもま~ぜ~て~♪」

「い、要らんで! うちは師匠と必殺技の特訓してるだけなんやで!」


 ジルコーニャを見た瞬間逃げ腰になるルナ。

 両手を怪しく動かすジルコーニャから逃げるように走り出したルナを追うおっちゃん。


「待てって! 発音は正確にだな――」

「こんといてや! うちはモフモフじゃないでー!!」

「可愛いワンコちゃん~♪」

「嫌やで! 【偉大なる月の疾走(ルナ・グランド)】!」


 追いかけられている間に必殺技を習得したのか、閃光を放ちながら走り回るルナ。


「うっを、まっぶし!? 一日で覚えるとか、どんだけー!」

「あぁーん目が!?」


 砲弾の如く空気を切り裂いて突っ込んでくるルナを見てふと思う。


「あ、コレまずいんじゃ」


 後方には洋館の壁、前方には閃光を放ち泣きながら突っ込んでくるルナ。

 結界にぶつからないように最低限の防御だけを残しルナを受け止める準備をする。


「カナター♪」


 ルナを受け止めると同時に景色が前方へと流れていく。そしてルナの口からアルコールの匂いを検知した。

 時間が長く、遅く感じられる事の数秒。ボクは後頭部に張った結界が洋館の壁をぶち抜いた音を聞く。

 今度は完全に壁を抜けた様で、物置小屋のような場所が目に入った。

 壁際に置かれている物が赤木の棍棒で無ければ良かったな。


「……怒」

「ぶ、ブラウニーが喋った!」


 見なくても分かるほど怒りをあらわにしたブラウニーと目が合う。

 ルナをこっそりと壁の穴から逃がすと土下座して嵐が過ぎ去るのを待つ事にする。


 この日――覚えている限りでは、人生で初めてアルコール100%の酒風呂に()かる事となった。

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