第18話 鮮血の奴隷商人ギルド!シスター様は過保護
今ボクは奴隷商人ギルドへと向かっている、マリアさんのお話によるとパートナーが居ないソロだと色々危険だと言う事だった。
マリアンさんに聞いてた事ばかりだったので頭の隅に置いておき、今はこれから向かう場所の事を考える。
孤児院の子供達、シャル、ルル、マーニェを見ている感じこの世界の奴隷は期間契約のアルバイトとそんな変わらない気がする、けどそれは偶々良い人の奴隷を見ているだけかもしれない、今から行く奴隷商人ギルドにはもしかしたらゲッソリやせていたり虚ろな目をしていたり片腕がなかったりする奴隷が居る可能性だってある。
そんな奴隷達を見てボクは野菜を手に取る様に選べるのだろうか……
ボクが選ばなかった奴隷はその後どうなってしまうのか……始めは好奇心もあった。
奴隷商人ギルドへ近づくにつれてそれは後悔へと変わって行く。
「顔色が優れませんね、そんなに選ぶ事が苦痛ですか?」
心でも読めるんじゃないだろうか、一言目に一番痛いところを突かれる。
「何故わかったんですか? そんなに顔に出てますか……」
「初めて奴隷を買う者は大抵そうであると言うだけですよ、その気持ちを忘れないようにして買った奴隷を大切にしてあげてくださいね」
「シスターは……マリアさんは奴隷をいっぱい買っていますよね? あの三人以外にも居ましたか?」
奴隷が成長し大人になったらどうなって行くのだろうか、一級奴隷や二級奴隷はその後どう生きて行くのだろうか、そして三級奴隷は……
「あなたが聞きたい事はわかっています、あの子達は半金貨1枚を私に返し終えるまではずっと私の奴隷のままですが、生きると言う選択肢を選ぶ事が出来ました。元三級奴隷ですよあの子達は」
「でも、三級奴隷は国の保護みたいなのを受けれないって……」
今から向かうところは違法奴隷商人ギルドなのかな?
人間の闇を見ちゃうのか……覚悟を決めないと。
「私はとある組織の権力者であり、あの子達が奴隷になった原因と奴隷にした人物には消えてもらいました。私は手の届く範囲の……せめて自分の納める地域だけでも守りたい」
あれ?違った良い方の奴隷商人ギルドかな、安心した。
でも『消えてもらいました』とかやっぱり上に立つ人は違うね……厳格なマリアさんは尊敬できるかもしれない。
「私は不義理が嫌いです、奴隷商人ギルドへは可能な限り三級奴隷をこの町へ連れて来てくれるように頼んで有ります、売り手の情報と共にね……今から向かう奴隷商人ギルドは一番大元ですので色々な女奴隷が居ると思います、お金は気にしなくていいのであなたがパートナーとして、また護衛として一緒に居たい者を選んでくださいね」
あっれ~?何でこんなにしてくれるのか怖いんだけど、マリアさんもうすでにボクの事気が付いてるのかな?
もしかしたらマリアさんはカーナさんの両親の勇者さん達と知り合いなのかもしれない。
昔マリアさんを助けた勇者さん達のおかげでボクも助かるって事かな?カーナさんに感謝。
話ながら歩いていると大きな黒色の屋敷が見えてくる、とうとう着いてしまった。
かなり裏通りを通ったけど普通に大通りに繋がる道も有るみたいだ。
何故裏通りから?っと思っているとそのまま通り過ぎて建物の裏に回り裏門から入る。暗い通路をマリアさんの持つランタンみたいな魔法道具の光に照らされて歩く、どうやらここも不思議空間みたいで歩いても歩いても道の終わりが見えない、これマリアさんとはぐれたら遭難するんじゃないかな。
三〇分以上歩いたと思う、暗い中同じ道をひたすら歩くというのは予想以上に精神をすり減らすようでちょっと涙が出ていた。
目の前にある大きな黒塗りの扉を開けるとそこには……
「「「いらっしゃいませ! 未来の御主人様!」」」
メイド喫茶が広がっていた!
何でだよっとはもう言わない、レベルが上がったのだ。
でも一つ突っ込みたい事は……マリアさんが緩みきった顔で席へ案内されているって事に突っ込みたい!
「暗い通路を抜けるとそこはメイド喫茶でした……」
「カナタさん早くお座りになって~」
「ダメだマリアさんが違う人になってるよ」
マリアさんはVIP待遇みたいで豪華なメイド喫茶の1Fフロアを一望できる2Fの席へ案内される、何も言ってないのにお酒とかおつまみ的な物やフルーツの盛り合わせがテーブルに置かれて行く、この場所は何なのかそれを問いたださない事には話しが進まない。
「マリアさんここはどこですか? そしてなんで朝からお酒飲んでるんですか!」
「ここは奴隷商人ギルドらよ~」
ダメだもう既に酔っ払いになり始めている、早々とシステムを聞いて一人で探しに行こう。
「どうやって選んだら良いか教えてください」
「まぁまぁか~なたさんも飲んでよ~」
おかしい、厳格なマリアさんはどこへ……さっきの尊敬を返して!
「代わりに私が説明いたしましょう、マスターはここでだけ外を忘れてストレスも何もかも全部忘れる事ができるのです……そっとしといてあげてください」
執事服のジェントルメンが登場した。マスターって呼んでたけどマリアさんとどういう関係なのかな?
疑る視線に気が付いたのか自己紹介をしてくれる。
「私はしがない奴隷商人ギルドのマスターをしておりまして、常日頃からマリア様には気をかけて頂いております。この異国情緒あふれる酒場もマスターの案を採用いたしましてフレンドリーな奴隷商人を目指しております」
あかん、それはダメなやつの言う事や!絶対自分の趣味やで、思わず大阪弁にもなるっちゅうねん。
「多分自分の息抜きの場所が欲しかっただけだと思いますけど」
横目でマリアさんを見るとメイドさんからアーンしてもらってフルーツを食べている……
「ここの奴隷商人ギルドはご自身の目で確かめていただき別室で候補をまとめて審査していただけるようになっております、勿論おさわりやハラスメント行為は禁止とさせていただいております」
横目でマリアさんを見ると兎獣人さんの耳元を撫でてヘブン状態になっている、どこまで有りなのかわからないところだ。
「とりあえず見て回ってみます」
「そうするのがよろしいかと存じ上げます」
似非ジェントルメンっぽいマスターを置いて歩き回る事にする。
「何か視線が痛いような……」
「よう! 嬢ちゃん珍しい場所で合うな」
オルランドさんがカウンターでお酒を飲んでいた。
「こんな会員制の酒場にどうやって入ったんだ? 今朝ロズマリーが心配そうな顔でギルドホールに突っ立ってたぞ?」
帰ったらまずロズマリーさんに謝らないといけない、それにしてもオルランドさんも奴隷を買いに来たのかと思ったけど違うみたいだ。
「オルランドさんは何故こんなところでお酒飲んでるんですか? まさか奴隷を買いに……」
「勘違いすんじゃねえぞ、オレの嫁が元ここ出身だからよ……引き合わせてくれたここには恩があってだな、お金を落としに来るのは少しでも助けになるかとおもってだな……」
少しシドロモドロになりながら説明してくれる、ここでの売り上げのいくらかはそのまま奴隷の人達のお給料になるみたいだ。
その嫁さんはここで飲んでる事を知っているのだろうか……
「嬢ちゃんこそどうやってここに入ったんだ? 登録前って言ってたし奴隷を買いに来たのか?」
「パートナー兼護衛を任せれる奴隷を探しに来ました……あの方と」
視線をマリアさんの方へ向けるとオルランドさんは嫌な顔をして忠告してくれる。
「アイツは気をつけたほうが良いぜ、昔ロズマリーがな……っとあぶねぇ!」
オルランドさんが座っていたカウンターへアイスピックが飛んできた!
「そんな男を奴隷にするのは許しませんからね」
「いや違うだろ、嬢ちゃん悪いがまた今度な、美人に絡まれるのは良いが酔っ払いに絡まれるのはごめんだ。じゃあなー」
ロズマリーさんの過去が明かされそうになったけど惜しくも阻まれ、そして酔っ払いが絡んでくる。
「選ぶのは必ず女奴隷にしないとだめですよ~? 男なんて周りに寄せ付けたらか~なたちゃんが傷物にされてしまいます、近寄る害獣は消しますよ~」
「わかりました……」
酔っ払いの目は本気だった。
フロアを見渡しても今の境遇を不幸だと思っているような人は居ないみたいで。皆ハキハキとして元気が良い、時折背筋に寒気が走る……すれ違いにこっそりスンスンしてくる獣人さんが多い、気分は猛獣の折の中に入ったウサギさんだよ。
裏口の方が少し騒がしい、ちょっと行って見ようかな?
「か~なたちゃん~わたしも行きます~」
酔っ払いも付いてきた。
馬車が2台並んで通れそうな裏口では卸の奴隷商人とここの奴隷商人が言い争っている、運んでる奴隷の事でトラブルが合ったみたいだ。
「どうした! 奴隷の事でトラブルなら私が聞こう、何が合ったんです」
ちょっとカッコイイ酔っ払い、左手にワインみたいなお酒を持ってなかったらもっと良いのに。
「それが運んでいた三級奴隷をここに下ろせないと言い出しまして……」
「何……? 事と次第では私が介入する事になるぞ!」
マリアさんが左手のグラスを置いて両手を腰のレイピアの柄にかける、両手でレイピア使うのか!
「しかたないんでっさ、この獣人はブラドール伯爵様の目に留まっちまいやして……連れて行かないとあっしの首が飛ぶ事になるんでっさ」
馬車の荷台から中に乗っている奴隷が一人だと確認できた。
暗くて良く見えない明かりをつけようか。
「『光よ』怖くないから出ておいで」
毛皮に包まって震えていたのはボクが想像していた酷い奴隷そのものだった。
手足は痩せ余分な脂肪がまったく付いておらず、不健康を通り越して死の影が見え隠れする、わずかに膨らむ胸で女の子だと言う事が確認できる。
喉には少し古い傷だがケモノに抉られたような爪の後が痛ましく残っており、言葉を喋れそうに無い。
顔を見ると思わず悲鳴が出そうになる、あるべき場所にあるべき物が無い……両の眼が抉り取られており目蓋がわずかに残るそこが眼である事を思わせる、猫耳は半ばでちぎれて傷口が黒くなっている。
ボクが近寄ると鼻をスンスンさせてこちらに這い寄って来る、思わず抱き寄せて治療を使おうとすると背後から尋常じゃない殺気を込めたマリアさんの声が響く。
「もう一度言ってみなさい! 誰の目に留まったと言った……」
「ブラドール伯爵様でさぁ、簡便してくだせえ……もともとその子供は『妖精の悪戯』でダンジョン『深き森の深遠』中層で冒険者が発見して売りに来た物を引き取っただけで、その冒険者がブラドール伯爵様への伝が合ったみたいでっさ」
「この子の傷は誰が……? まさかその冒険者じゃないよね」
「初めからと言っておりました! 簡便してくだせえ」
今ならまだ助けれる、治療を使おうとすると凍りついたマリアさんの声が背中に刺さる。
「カナタどきなさい……」
「嫌です、マリアさん何をしようとしてるんですか!」
振り向くとマリアさんが二本のレイピアを構えている、まさか……
「楽にしてあげるのです、その傷じゃもう助かりません。ましてやブラドール伯爵の所へ連れて行くなど言語道断です……ここで楽にしてあげるのがその子にとっても幸せになるはずです」
「イヤです! ボクはこの子に決めました。誰が何を言おうとこの子にします!」
「ぁぅ」
言葉にならない声を上げて首筋をペロペロ舐めてくる、絶対守ってあげるからね!
「あなたにふさわしいパートナーは先ほどのフロアに居ます、どのみち助かりもしない子をパートナーに選んでも後で悲しむ事になるのですよ……」
「いいえ、この子はボクが助けます、マリアンさんは言いました。『手を差し伸べるすべがあるならそうするべきだ』とマリアさんも言いましたよね? 『私の手の届く範囲を守りたい』とボクの手の届く範囲はここです!」
話を終えてすぐに治療するから待っていてね、背中を撫でると力を振り絞って首にしがみついてくる。
「あーもう! カナタその子供は『妖精の悪戯』なんですよ、可哀想だけど助かったとしても生きていくのはつらい事なんです」
「『妖精の悪戯』だろうと何だろうと関係ありません!」
「そこまで言うのなら良いでしょう……その代わり私はお金を出しませんからね! ほら無理でしょう? どうやってその子を守る気ですか! あなたにはまだ無理なんです今日の事は忘れていつか力を持った時、その時に助けれる者を助けてあげてください」
優しく微笑みながら背後にレイピアを隠したマリアさんが近づいてくる、ボクはこの子を連れて後ずさる。
「お金ならすぐ作ります、イデアロジックが四個あるしロズマリーさんの部屋にはラビッツブレードや魔晶の欠片だってあります、売れる物を全部売ったらお金を用意できます!」
勝ちを確信した瞬間首筋に痛みが?熱い!
「ガブチョガブチョ」
「えっ、熱い? ゲホッ」
首筋に噛み付かれていた!喉から血がこみ上げてくる、でもそんな事より脳裏に浮かぶ文字に驚き確認する。
EXS【眷属化】を受けました。対抗します。
【生存の心得F】失敗【生活魔法】失敗【治療E】回復しました【解体E】失敗【生存本能】失敗【第六感】失敗【魔力の源泉】空の魔水晶があるので魔力を補充します【生存戦略】失敗【生存闘争】成功
【生存闘争】により対抗可能なスキルをコピーします。
最重要候補:EXS【眷属化】をコピーします。YES
EXS【眷属化】を獲得しました。前提スキルは未獲得です。EXS【眷属化】PS発動します。
EXS【眷属化】を打ち消しました。
何故かそうしないとダメな気がして口に貯まった血を口移しで飲ませる。
EXS【眷属化】AS発動します。成功しました。
対象:ルナ=フェンリルを眷属に迎え入れました。
「もう大丈夫です、マリアさん、ん!」
ルナの顔が合った場所をレイピアが通り過ぎた。とっさに抱き寄せて運よく回避する。
不味い、マリアさんから離れないとルナが殺される!
「どきなさいカナタそいつ殺せない」
「落ち着いてください! ほら怪我はもう治ってるでしょ? 違うんです眷属化を受けただけで」
ヤバイ、マリアさんの目が凍りついたままルナしか見ていない、逃げながらルナの傷を治療するしかない、このままだといずれ追いつかれる。
「私のかーな……に何をしたの! 【スピアニードル】」
突き刺してきたレイピアが回転して壁に丸い穴が開いた!
「もうルナはボクの眷属です! これ以上攻撃するならマリアさんを嫌いになりますよ!」
適当に言ったその言葉が劇的な変化を与える、マリアさんが崩れ落ち『私は、ただ守りたくて……』とつぶやいている。
そろそろルナの怪我も簡単には治ったはず、目と喉は時間をかけないとダメかもしれないけど動けるくらいには治りそうだ。
「わかりました……その子の代金は私が立て替えておきます、そこの商人これを」
肩を落としたマリアさんは、ルナをつれてきた商人へ半金貨を1枚投げる。
「ブラドール伯爵へはマリア=ラーズグリーズの目に留まって遊び壊されたと言っておきなさい、対応は私がします……」
「ありっした!」
奴隷商人は馬車を置いてそのまま走って行ってしまった。
力なく歩くマリアさんの後を追おうとしたその時、マリアさんがいきなりレイピアをボクの右手めがけて突きこんで来る!
「ガァーウ」
「ふん、ちゃんと主人を守ろうとするのですね……合格です、もう何も言いません。」
ルナがレイピアを素手で弾きマリアさんとボクの間に立つ、ロズマリーさんと同じ様な狼の尻尾を逆立てている、ん、狼の尻尾……猫獣人なのに尻尾が狼ってこれどういうことかな?
「マリアさんありがとうございました」
「礼にはおよびません、あなたがあんなに頑固だったとは思いませんでした」
「あの……」
「何ですか? お金の事ならきちんと払ってもらいますからね、あなたの意見を押し通したんですから当然です」
「それは勿論払います! 」
ルナの手を引いて歩き先ほどの席まで戻り座らせる、席に着くとルナがおつまみに置かれていたラビッツの丸焼きとフルーツの匂いにヨダレを垂らしていたので席の前にお皿ごと移動させる。
「食べて良いよ」
「あっ、そんな物を急に……」
ルナは素手で鷲づかみにして食べ始めた。マリアさんが何か言いかけたけど先に聞きたい事がある。
「『妖精の悪戯』って何ですか?」
「そんな事も知らなかったんですか!」
マリアさんがテーブルに突っ伏して両手を上げている、色々な事があったけど多分この選択は間違ってないと思う。
ルナはボクの眷属で一緒に生きて行く相棒だ。
神のおつかいを達成した後は何とかして一緒に過ごせる様にしてもらおう。
いや……そもそもおつかいの達成だけがゴールじゃない気がする、まだ見ぬ魔王と怪しいガイア、何が正しくて何が間違っているのかそれを見極めないといけない。




