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ボクが異世界?で魔王?の嫁?で!  作者: らず&らず
第6章 スカイオブプリンセス
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第149話 正しい治療法と治療EX

 大声を上げたトールが落ち着くまで数秒を要した。

 ベットの端に腰掛けると銀の水差しに入った液体をコップに注いで飲み干すトール。


「悪い冗談だ。いや……待てよ――レーヴァテインが折れる理由が【絶壁】(それ)か?」

「フェリって子を探さないといけないので、チャッチャと傷を治して帰って良いですか?」

「ぬぅ……」


 トールは右手でこめかみを押さえると苦虫を噛み潰したような顔で唸り声を上げる。


「えっと……野郎――じゃなかった! トールは外に出ていた方が良いんじゃ?」

「構わん。普段、シフの世話を誰がやっていると思っている?」

「侍女?」

「俺とそいつだ」


 トールの指差す方向に視線を向けると、先ほどまで居なかったはずの人物がそこには立っていた。

 奴隷に着せる貫頭衣のような服を着た細身の女性?

 長い耳の先だけ切り取られたようになっている。


「エルフ?」

「俺を狙って現れた元暗殺者だ」

「何ですとー!?」

「声が大きいぞ?」


 闇に溶け込むように背景と一体化していた女性は、足音一つ立てずにシフの側へと歩み寄る。

 気配も無くこの至近距離に居るというのに元暗殺者の女性を警戒しない自分に驚く。


「どうだ? この俺の目すら欺く妙技。良い拾い物をした」

「暗殺者拾っちゃってる!?」

「理由はどうあれ、シフも元は同じような者だぞ? 念の為に言っておくが……シフの事を他人に話せばお前を殺す。お前に係わり合いのある者も全て殺す……分かったな?」


 これは決定事項だ、と一方的に宣言するトール。


「よく分からない……何で隠すの? しきたり、それほど重要なもの? 他の王族を見ている感じ別に――」

「――シフは俺の弱点だ。全てはシフを救うための手段に過ぎん」

「弱点? 救う? 自分で手足を切って首まで刎ねたんじゃないの? おわっ!?」


 瞬きする間に目の前に移動してきた元暗殺者の女性が、黒塗りの短剣で目を突いてきた。

 目蓋越しに感じる短剣の先を右手で掴み取ると一歩後ろに下がる。


「ルゥ止めておけ、どうせ通じん」

「ガチの暗殺者だ……」


 トールが右手をヒラヒラ振ると元暗殺者の女性――ルゥはまたシフの元へと戻っていく。


「ん? 甘い匂い?」


 右手に持った短剣に滴る果汁らしき液体が指を伝って床へと落ちた。

 見た目物騒な暗器に見える黒塗りの短剣は、もしかすると果物ナイフ的な物なのかもしれない。

 指先をペロリと舐めて服の裾で指を拭う。


「存外常識の外に居る者だとは思ったが……本当に人間か?」

「ん? あぁ、目は人間の鍛えられない器官の一つとか言いたいの?」

「気付いてすらないとはな……」


 トールは呆れて声も出ないとばかりにシフの眠るベットの枕元に移動する。


「食ってみろ。美味い筈だ」


 ベットのすぐ側におかれた小さなテーブルには無花果にも似た青色の果実が数個置かれている。トールが投げて寄越した物もその一つだった。


「んぐっ!? ん、美味い!」


 食べようか一瞬迷い左目で見てから食べようと顔の前に持って来た果実を、いつの間に移動したのかルゥが無理やり口に突っ込んで来る。口内に広がるのは甘酸っぱくも舌に残る甘味、無花果よりも酸味が強くアケビのようなプチプチとした種が良い具合に舌を楽しませてくれる。


「品種改良した非時果(トキジク)の実だ。その短剣にも塗ってあるが、先ほどまでこの毒に耐性を持っているのは俺とシフとルゥだけだったのだがな……」

「ブハッ、なんですとー!?」


 思わず噴出した果汁がルゥの顔面を汚すが、本人はしてやったりとした顔でシフの元へと戻っていく。先ほどの突きを止められたのが悔しかったのだろうか? 刺さらなかっただけで普通に目蓋に当たった後に指で摘んだ事は内緒だ。


「もう帰りたい……さっさと治すよ!」


 ベットに眠るシフの側へと歩み寄ると、こちらを警戒するルゥの頭を撫でてシフの足を触る。少し恥ずかしいのか身をよじってルゥの腕にしがみ付こうとしていた。

 反対側のベットの縁に座るトールは、何か有った時すぐに動けるようにこちらに鋭い視線を送って来ている。

 皮膚が癒着したように直っている切断面を手の平で覆うと【治療】スキルを使用する。


「んー反応が無い? いや、薄いのか?」


 足が生えてくる事も無く、膝までの左足には変化は訪れなかった。

 途端トールから殺気にも似た威圧感が発せられ額から汗が一滴落ちる。

 左腕が震えて誰かのメールを受信していた。


「ちょっと仲間から連絡みたい、一瞬手を放すけど絶対治すから大丈夫だよ」


 無言で睨んでくるトールとルゥ。シフは肘までとなった自分の手で左足を撫でていた。


 件名:カナタの大好きな愛姉(あいねえ)だよ!

 仮にも神代の時代の剣の名を冠する武器だから、通常の方法では治らないよ。


「ふむ、仮にも……? 通常の方法では治らないのか。ちょっと痛いけど我慢してね?」

「ンッ!」

「おい、何をする!?」


 黒バックから取り出したカナタナイフでシフの足の癒着面を切り取る。トールが咄嗟に手を伸ばし、ルゥがシフを抱えて逃げようとしたが、左手でシフの右太股を固定していたので連れて行かれる事は無かった。

 切断面は切れた事を忘れていたかのようにゆっくりと血が滲み、ぽつぽつと血の玉が浮かび始める。

 浄化と解毒と消毒を行いつつ【治療】スキルを行使する。


「ま、まさか……」

「ふむ、傷口に毒でも溜まっていたかのような反応だね」


 傷口から肉が盛り上がり、次第に膝の先へと伸びていくのを見守る。

 呆然とした顔でその様子を見守るトールとルゥ。シフは口をポカンと開けて自分の右太股を擦っていた。同時に左足の治療も行っていく。

 五分もしないうちに、赤子の肌の様に生まれたばかりのもちもち触感を持つ足が綺麗に生え揃った。


「次は両手ね? あ、首にも傷が?」

「それはいい、喋れない方が都合が良い事が多いからな」


 恐る恐る両足を動かすシフの頭を撫でたトールは、ルゥに何か合図を送るとシフの首周りの傷に指を這わせる。

 不意に震える左手。画面を表示させると愛姉(あいねえ)からのメールだった。


 件名:えっ? ええっ!?

 カナタは今ナニをしたか分かってる? 神話を元に再現された事象を打ち消したんだよ?

 リバイバルニートを使うとか思ってた愛姉(あいねえ)はまだまだカナタの事を分かってあげられてないと反省するよ……。


「リバイバルニートで治せるのか……」


 愛姉(あいねえ)のメールに書かれていた通りに、スマホからリバイバルニートを取り出すとシフの両肘を覆う様に取り付かせる。


「もう何も言わんが……大丈夫なんだろうな?」

「頭が吹っ飛んでも治せるレベルの回復力があるから平気平気~」

「いや……まぁ、良い」


 リバイバルニートに浸かった肘から小さな泡と共に肉が盛り上がっていく。

 こそば痒いのか身をよじって吐息を漏らすシフ。上気した様に赤くなった頬、時々漏らす吐息は何か艶かしい雰囲気を醸し出していた。


「言葉も出んとはこの事だな……」

「普通に喋ってるし……」


 両手が綺麗に再生されると、リバイバルニートはスマホの中に自分から戻って行った。

 両手を握っては開いて感触を確かめていたシフは、不意にベットの上に立ち上がりバランスを崩してトールに抱き付いた。


「まだ無理をするな。手が赤くなっているではないか」


 トールの頬を撫でたシフの手の平には、薄っすらと赤く内出血の痕のようなものが現れている。

 見た目は普通に治っている両手もまだ完全に元に戻ってはいないと言う事かな?


「あ、ついでに足の具合はどう? 手足で治し方違って見た目が変わっちゃったけど……」


 両足は赤子の様な柔肌になっている。

 ベットの縁を持ってゆっくり立ち上がったシフは、自分の枕を片手で支えるとトールに向けて蹴り飛ばした。


「ぬぉぉぉぉ――」

「「!?」」


 布を蹴ったにしては大きな音と共に蹴りだされた枕は、トールのどてっぱらに当たるとそのままトールの巨体を窓の外へと追いやってしまった。呆然と自分の足を見るシフ。

 静かな時が流れ、シフが嗚咽を上げ始めた事にトールは窓を這い上がってきた。


「ど、どういう事だ!」

「シフちゃんぱわーUP?」

「ぱわーUP? ではない! どう考えてもおかしいぞ!」


 トールに抱きついて泣きじゃくるシフを見ていると、自分が悪い事をした気がして若干滅入る。

 抱き付かれているトールを見ている限り両手は普通に再生されたようだ。両足は謎の強化が施されたようで【治療】スキルの新たな可能性を垣間見る。


「もうよい、俺はこの程度で死なん。今は休め」


 トールは子供をあやすようにシフを落ち着かせるとベットに寝かしつけた。こちらを一睨みして窓を指さすトール。


「そういえば、聞いていなかったな。何故ここに来た?」


 帰って良さそうなのでそーっと窓枠に上って外へと出ようとすると、背後からトールの声がかかった。


「冒険者ミネルヴァが……ここにフェリが居るって言ったから?」

「ミネルヴァか――あの女狐め……あの女には気をつけろ」

「了解? 夜分お騒がせしました」


 トールの忠告を聞くと、窓枠を蹴って夜空へと飛び上がる。

 フェリはいったいどこに居るのか? 先ほどまで忘れていた焦りが再び胸を焦がす。


「ん? またメール?」


 左手が震えて再びメールの着信をお知らせしてくれる。

 腕に表示した画面を見てボクは数秒思考が停止した。


 件名:ラビイチ@冒険者始めました

 フェリを無事に確保、至急応援求む。


「何ですとー!?」

「居たぞ! あそこに飛んでいる!? やつが賊だ! もっと魔法士を連れて来い! 大至急だ!」

「やっば!」


 大声を上げてしまい警備の兵に見つかった。次々飛んでくる矢と火の魔法を避ける振りしつつ結界で弾くと疾走する。

 ラビイチが送ってきたメールにはMAP情報が付いており、わりとこの近くの巨大な建物にマーキングされていた。


「フェリをラビイチが確保? 確保したのに至急応援を求むって何だ!」


 MAPに表示されているクラン員のマーカーが凄まじいスピードでラビイチの元へと向っていくのが分かった。


「これはルナか、急がないと暴走するかもしれない! 悪いけど付き合ってる暇無いからさようなら~」

「何だ! 何か振ってくるぞ!? これは……石? 爆発するぞ!!」


 巨大フライングラビッツの耳を加工する前準備で作った炸裂石が役に立つ時が来た。

 一通り炸裂石を放り投げるとマーキングされた建物へと一直線に向う。




 ――∵――∴――∵――∴――∵―― 



 アラビアンナイトに出てくるような丸く中心が尖ったスライム型の屋根を持つ宮殿。

 壁は真っ白で汚れ一つ無く、広い庭には巨大な噴水や馬小屋が設けられ集荷場の様な場所もあった。

 いたる所で篝火が焚かれ、槍や剣を持った兵士が入り口を封鎖している。

 物々しいまでに警戒されたその宮殿の入り口には、うちのクラン員達が盾を構えて隊形を組んでいる。

 ラビイチがマーキングした建物の上空に辿り着いたボクは、眼下に繰り広げられている攻防に戸惑いを隠せないでいた。


「フェリを隠してるのは分かってるんやで! 早くそこを退いて、うちらを中に入れてんか!」

「ダメだダメだダメだ! この商会をどこの誰の商会と心得る! 商業ギルドに名を轟かせている、どろ――」

「ラビィッー!」

「うちんとこのラビイチの声やで!」

「何故中に魔物が!? おい待て! これ以上先には通さんぞ!」

「ルナ、一応待って! あくまでここは大手南商業ギルドの商館だから。無理やり通ると後でマズイ事になるから」

「分かったで……カナタ(・・・)が来るまでは待機するで!」


 一瞬ルナとメアリーが瞬きで合図をし合っていた。そっとその場を離れるサーベラス。

 どうやらあの宮殿の警備兵に阻まれて中に入る事もできない状態らしい。

 ラビイチなら強行突破できそうな気もするがどうしたのだろうか?

 震える左腕、メールを受信した。


 件名:うちらが囮になる、カナタは上から進入してや!


 ルナのちゃんとしたメールの使い方を教えた方が良いのだろうか?

 警備兵に見つからないように宮殿の屋根へと取り付くと周囲の気配を窺う事にする。

 人の気配が少ない? 皆眠っているのか。


 屋根に隠れるようにして宮殿の奥へと向う。

 時折巡回する兵士を見かけるが今の所見つかりそうにはなっていない。

 古い井戸の蓋が開いているのを発見して何気無く中を覗きこむ。

 暗い井戸の底に真っ赤な目が四つ浮かび上がっている。


「「ラビッ?」」

「ラビニとラビサンか、心臓が止まると思った」


 どうやら退路は確保しているようで、古井戸の底に横穴が開けられていた。

 どうやらラビイチは一人らしい、ラビニとラビサンが指差す方角にある建物は……?

 一際目立つ3F建ての礼拝堂?


「隙を見てルナ達に撤退の合図をお願いね。それじゃあ、また後で」

「「ラビッシュ!」」


 気配を消して古井戸に潜むラビッツ達に別れを告げると巨大な礼拝堂へと向う。

 何故商業ギルドの商会施設内に礼拝堂が有るのかが不思議だ。


「礼拝堂……何か嫌な予感がする。まさかね……」


 磨かれた白大理石の様な石材で作られた礼拝堂の天辺には、三対の羽を持つ天使の像が置かれていた。

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