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ボクが異世界?で魔王?の嫁?で!  作者: らず&らず
第6章 スカイオブプリンセス
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第147話 異変と動き出した者達

「何!?」

「うぐぅ」


 女冒険者の胸倉を掴んだまま床に転がったため、腕で相手の喉を押さえるような形で馬乗りになってしまった。苦しそうに呻く女の声に思わず手を放してしまう。


 誰かが足にしがみ付いている?

 タックルを受けた下半身に視線を移すと、何故かシルキーが足にむしゃぶりついていた。

 先ほどカウンターの内に戻って行ったはずの他の受付嬢も、5mほど離れた場所でこちらの様子を窺っている。目が爛々と輝いていてヨダレでも垂らしそうな飢えた表情でこちらを見ている。


「アヤカが思うに、カナタの結界解けてない?」

「あっ……えっ? でもそんなに匂う? 『世界に存在する力』が漏れてる? あっ、ちょっと、ダメッ!」


 足にむしゃぶりついていたシルキーが内股に噛み付いた。両手でシルキーの頭を下に押し何とか体勢を整える。

 アヤカに言われて自身の身体を見ると、いつの間にか【ARM力場】スキルで張り巡らせていた結界が消失していた。実感は無いが獣人の鼻に過敏に反応する匂いが大量に漏れている事になる。


「カナタ、うちは大丈夫や――その冒険者に話を聞かないとダメなんやで?」

「ルナ……」


 ルナの尻尾がボクの背を撫でる。

 振り返るともう一人の女冒険者を捕縛したルナが、こちらの女を指差していた。

 喉を押さえて咳き込んでいる女は、逃げようとはしていないので上から退く事にする。


 頭に上っていた血も良い具合に下りて行ったようで、冷静に判断できるようになった……と思う。


「ルナはボクの家族――「嫁やで!」だから……それに毎日浄化に清掃に湯浴みでそこら辺の冒険者よりよっぽど綺麗だから!」


 尻尾をフリフリ回しながらルナが言葉を挟んだ。そして捕縛した女冒険者を体育座りの状態に固定し、足首と手首を縄で固定していた。

 女冒険者は自分の足首を掴むような形で身動き取れなくなったため、羞恥に顔を赤らめてこちらを睨んでいた。

 ルナの行った所業については何も言うつもりは無い、ただ……あの拘束状態のまま後ろに倒せばM字開脚気味に凄い光景が見れそうな気がする。


「こっちは大丈夫そうね。アヤカはそろそろ戻るから、後のところよろしく~」


 アヤカにお尻を叩かれた。考えている事がバレタのか。

 咳払いして冒険者ギルドの奥へと歩いていくアヤカ。


「アレ? そう言えばいつの間にアヤカはこっちに来たの? さっき遅れるって……?」

「ちょっと倉庫に荷物をね? そろそろ戻らないとアンナとマリヤ姉妹が待ってるから。またね?」

「ちょっと厄介な事になってるみたいだから、なるべく早く戻って来てね?」

「フェリの事ならこっちでも探りいれてみるわね」


 アヤカは冒険者ギルドの貸し倉庫を【宝物庫】スキルの移動場所に確保しているようだ。

 事前に行きたい場所を訪れるて移動用の扉を設置する必要があるという点を考慮しても、ほぼ消費無しの制限無しで使えるどこでも扉系スキル【宝物庫】はまさしくチートスキルだ。


「大丈夫やで? 指は二〇本ある。早めに話した方が痛くないし、誰も不幸にならんからな?」

「ルナー!?」


 ちょっと目を放した隙に、ルナは容疑者二人に猿轡を噛ませて拷問の準備を始めていた。受付嬢達はルナの行為を見て見ぬ振りしている。

 どれだけ袖の下を渡せば品行法制なはずの受付嬢達をここまで抱き込めるのだろうか?

 冷静になったボクは見てしまった。入り口から入ってきた事情を知らないであろう中年冒険者と踊り子風の女が、拷問の準備を終えたルナを一目見た瞬間――そっと目をそらして何事も無く酒場へと入っていくのを。

 ルナ……恐ろしい子。


「うちは反省した。前は根回しができてなかった。今はもう大丈夫やね」

「ルナ、どの指からいく?」

「ガルルルゥ!」


 ボクがチンピラに絡まれた時の反省を間違った方向にしたルナは、キャロラインから小さなリングを受け取るとはめる指を選んでいる。

 サーベラスはその横で、三つの頭をもう片方の女に近づけるとヨダレを垂らしながら脅しにかかっていた。

 顔面蒼白でモゴモゴと口を動かす容疑者達。


「この指輪はな、小さ過ぎて指にはめると血が止まるねん……青白くなった指をこのナイフでスパッといくとな? 出血の事をあまり気にせず指を切れるんやで?」

「!? んー! んんー!」


 さすがに脅すのもこれくらいで十分だろう。

 猿轡をそのままに拘束を解き、容疑者の装備しているフード付きローブを剥がす。

 それなりに稼いでいる冒険者なのか、そこら辺の一般的な冒険者より肉付きが良い。しかし童顔にソコソコしか膨らんでいない胸元を見る限りでは、もしかすると年下の可能性すらもある。

 稼げる冒険者ほど食生活が豊かになり、それに伴って体ができていき、さらに稼げるようになる。逆に稼げない冒険者ほど粗食に耐えて日々を細々と過ごし、いつまでも稼げないままというある意味弱肉強食なこの世界では、成長の度合いでその冒険者がどれほどの物なのか分かってしまう。

 中には世渡り上手だったりご飯より研究が好きだったりと例外もあるが、概ね間違っていないと思う。


「ルナ、まどろっこしい事は止めよ? カナタはいつでも出れるように装備を整えてて。

 貴女に質問があるの、嘘はルナが許さないから、分かった?」

「んー! んん」


 メアリーの質問に、壊れた玩具のように首を上下させる容疑者達。

 メアリーは猿轡を取るとフェリの画像をスマホに投影して容疑者二人に見せた。


「この子の名前はフェリ。今、行方が分からなくなってて探してるの。知ってる事が有れば話してね?」

「誰? 綺麗な魔法ね……私達は知らない」

「本当に?」

「用事があってここに来たけど、そんな子は関係無い」


 メアリーは顔を近づけると目を覗きこむようにして再び問う。

 白髪に一房だけねずみ色の髪の女は目をそらす事無くメアリーを見て答える。


「どうやら違うみたい、でも何で逃げようとしたの?」

「それは……」

「おっとゴメンよ、あー、もったいねぇ……こぼれて(・・・・)落ちちまった」


 言いよどむ女を余所に、酒場に入った中年冒険者がジョッキのエールを溢してしまったようだ。

 ふと頭の隅にひっかかった事があった。

 中年冒険者と一緒に入ってきた踊り子風の女はどこへいった?

 視線をギルド内に巡らせると、入り口付近の依頼書を確認する踊り子風の女と目があう。

 ニコリを笑って会釈してくるので頭を下げて視線を容疑者へと戻す。


「え、あ、そんな……こぼれて――落ちる?」

「ん? こぼれて落ちる? 変な表現だね……」


 何故か容疑者の女は視線を彷徨わせ始める。顔色が悪かったので頬に右手を当てて治療を施すと幾分かは落ち着きを取り戻した。


こぼれて(・・・・)落ちたのならしかたないわね……この依頼、明日にでも受けようかしら」


 踊り子風の女の言葉がやけに響く。


「あ……」


 頬に当てたボクの手に抱き締めるように両手を絡めてくる女。


「【魂盗人(ソウルスティーラー)】あぁぁぁぁぁ!? バケモノ!!」

「え?」


 右手を抱き締めていた女の腕にはまった銀色の腕輪が破裂した。唐突に、何の前触れもなく。

 腕輪と共に四方に散った女の腕を惚けた顔で見る皆。

 バケモノと叫ぶと意識を失い痙攣し始めた女を治療して地面に寝かせる。

 隣にいた相方を見ると、青白いを通り越し幽鬼の如く顔色を変えた女がぶつぶつと呟いていた。


「そんな――【魂盗人(ソウルスティーラー)】が壊れるなんて……」

「お話し、聞かせてくれるよね?」

「ひぃっ!?」


 左肩に手を置いて問いかけただけなのに、床に水溜りを作って後ずさる女。

 寝かせた方の女の場所まで水溜りが広がりそうだったので、ルナに合図を出して運んで貰う。


「おい、何が何だかわからねぇが、原因はあの女じゃねぇのか?」

「それは……どういう意味?」


 酒場に居た中年冒険者がジョッキ片手に近寄ってきた。ルナの顔見知りらしく片手で挨拶をして声をかけてくる。


「一緒にギルドに入って、酒場で酒をこぼすだけで大銀貨をくれるってさっきの女がなぁ」

「サーベラスー!!」

「ワンッ!」


 先ほどあった違和感、何故同じフレーズの言葉を立て続きに耳にしたのか?

 ルナがサーベラスの名前を大声で呼ぶと、サーベラスは先ほどの踊り古風の女を追って走っていく。

 何かの合図だったようで、その合図に従って魔道具を使用した女の腕が破裂した。


「意味が分からない、フェリとは関係無い? どういう事だ?」

「カナタ、何かされたみたいだけど異常無い?」


 心配そうに匂いを嗅いで来るメアリーとルナ。

 身体中手で押さえてみても痛みは無く、特に脱力や思考が鈍るなどの症状も無い。

 ステータスを確認してみるとMPが少し減っているくらいだった。



 レベル:1283[564+18+701]☆☆☆☆

 HP :2347/2347[500+564+1283+☆]

 MP :37940/38940[100+564+1283+☆×2]



「ふむ……MPが1000減っているくらいで特に問題は無いんだけど?」

「「「「「問題大有りです!?」」」」」



 周囲に待機していた受付嬢達が大声を上げて騒ぎ始める。


「ん? 少しくらい減ってもすぐに回復するし大丈夫だよ?」

「「「「「あっ」」」」」


 ルナとメアリーはもちろん、うちのクラン員達が揃ってしまったという表情になる。

 一瞬、何故? と考えてすぐに自分が犯した間違いに気が付いてしまった。

 この世界の住人は一日1MPしか回復しないらしい、それとMPがそれほど多くないと言う事も。

 この世界に来てすぐ頃にロズマリーさんから聞いた話がレベル62でMP63だ。

 どう誤魔化そうか考えていると、受付嬢達がなにやら書類を用意している事に気が付く。

 ほどなくして、特級紙で作られた書類と持ち運びが便利そうなバーコードリーダーのような機械を持ったマリヤ=ベリルがこちらへ歩いて来た。


「おめでとうございます♪」

「何の事? 何この書類……!?」


 書類を受け取る瞬間、円卓の腕輪にバーコードリーダーを近づけてピッと何かをスキャンしていったマリヤ=ベリル。

 何をされたか問いただす前に、書類に目を通したボクは絶句する。


「Sランク冒険者認定書? ははっ、冗談だよね? ボク何もしてないし、それにSランクって移動制限や緊急依頼の強制参加があったような……」

「こんな緊急時なので簡易書類でもうしわけございませんが、おめでとうございます♪ エウア様はこちらで言い包め――きっと理解してくださるはずです」


 受付嬢一同スカートの端を持って綺麗なお辞儀してくれる。

 全然嬉しくない上に嬉しくない、制限がかかるランクとか正直簡便してもらいたいくらいだ。


「要りません」

「無理です」

「この紙燃やしたら無かった事にできませんか?」

「ダメです、それに特級紙は燃えませんよ?」


 試しに紙の端っこを生活魔法の種火で炙ってみる……燃えない。


「う、受付嬢にランク認定権限――それもSランク認定なんてできるはずが! ほらっ、あれだ……そうだ! 試験とか色々あるんじゃ!」

「ギルドマスター不在中の緊急案件対処マニュアル第三章二項が、この場合は適応されるので心配しないでください」


 マリヤ=ベリルがカウンターに置いた本は厚さ20cmはあろうかという大全書だった。


「必要でしたらご確認いただけますが?」

「アレだ。ルナも何か言ってあげてよ! 今はそれどころじゃないし、フェリの命が危ない可能性もあるんだよ!」


 困った時のルナ頼み。それにぐずぐずしている暇が無いのは本当だ。誘拐の目的が分からない以上早く動かないとフェリの身が危ない。


「Sランク冒険者が使用できる権限全てを使ってフェリを探すんやで」

「そうそう、色々権限は貰えるはず……って!?」


 思わずルナの顔を二度見した。メアリーに肩をポンポンと叩かれて振り返ると首を横に振っていた。


「それでは、Sランク冒険者の権限全てを使っての情報収集ですね。承りました!」


 元気良くはきはきと仕事へ戻って行く受付嬢達を眺めて溜息を一つ吐く。


「はぁ……最悪ブッチすれば良いか」

「あの……そんな不穏な事、ここで言うのは止めてもらえます? 一応、MP1000を少しくらいと称するバケモノ級――失礼、Sランク級の冒険者の首に縄をかけておくと言う名目なので」


 まだ足にしがみ付いているシルキーを見る。


「何か色々酷い事言ってるけど、そろそろ放して仕事に戻ろうね?」

「ふぁい」


 名残惜しそうに足を離すとカウンターの内に戻っていくシルキー。

 噛まれた内股はメアリーが入念に浄化をかけていた。


「有力情報だ!!」


 大して時間も経っていないはずなのにもう戻ってきた冒険者がいる。手には絵の描かれた木紙が握られていた。

 飛びつくようにして木紙を奪い取ったルナがボクの目の前でそれを広げる。


「中々上手い絵だね。この女の子がフェリ? 馬車にのって南へ?」

「南やね……」

「メアリー!!」

「放してや! うちは先に行く!」


 絵を見たルナが走り出す前にクラン員達が総出でルナを引き止める。

 まだ方角が分かっただけで、どこに居るのかも分からない状態だ。先走ってルナにもしもの事があった日には助け出したフェリがどんな顔をするか分からない。


「まだだよ? 方角が分かっただけ、それにここの冒険者は優秀だからすぐに他の情報も入って来るはず」


 クラン員全員が抱きついているのにルナの足は止まらない。引きずって歩くルナを言い宥めると情報を持って来てくれた冒険者を指差す。

 我に返ったルナは黒バックから燻製を取り出すと男に手渡していた。


「情報源は?」

「ラビイチだな。親父、コレを預かっておいてくれ! 俺はもうひとっ走り南方面を探してくるぜ」

「ラビイチ!? 今すぐ呼んで情報を――」

「ラビイチ様なら先ほど出て行かれましたよ?」

「なんだって……? さっきまでラビイチ居た?」


 シルキーが指差した先は依頼書を張る板が並ぶエリアだ。

 先ほど張られた緊急依頼の書類が1枚破り取られている。


「緊急時なので従魔の方でも受けてOKと言ったら、目の色変えて依頼を受注していきました」

「何でだー!? まぁ、あのラビイチならありえるか……」


 時々魔物討伐の戦利品と思われる素材やアイテムを抱えて戻るラビッツ達が、街の外や内で目撃されているのは知っていた。


「ラビイチ様がカナタ様の代理で依頼を受ける許可を求めていましたが、許可を出しておきましょうか?」

「ん? あぁ、良いよ。特に問題無いと思う」

「かしこまりました。それでは引き続き捜索を続けます」


 苛立つルナを宥めるキャロライン。メアリーとレイチェルは倒れたままの二人を監視している。

 不意に震える左手。スマホにメールが届いていた。

 件名を読んだ瞬間思わず声が出る。


「箱庭に襲撃!? あ、大丈夫っぽい」


 飛び出しかけたクラン員全員が一歩足を出して脱力する。


「アーサが事前に気付いて店内で迎え撃とうとしたところ、ミミアインが全部処理したみたい」

「今オストモーエアで何が起こってるの……?」


 メアリーの呟きに答えることができる者は居ない。

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