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ボクが異世界?で魔王?の嫁?で!  作者: らず&らず
第6章 スカイオブプリンセス
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第145話 ルナの成長

 それは眩い閃光だった――王都の空を覆うように伸びる網状の雷。


 ルナ達を応援する為に燻製工場の側まで移動していたボクの目には、西の空から伸びる魔法の雷が映っていた。

 魔法が発動した場所はかなり王都の中央付近なのか、この場所からでは確認できない。

 よほどの魔法士が居るのか……それとも都市の防衛機能の一つなのか、ルナ達に危害を加える類の物では無いようなので今は放置しておく事にする。

 雷の網には魔物避けの効果があるのか、巨大フライングラビッツが雷に弱いだけなのか、どちらかは不明だが敵は黒い雲へと逃げていった。


「ルナー!」

「ワン……」

「うち……」

「ごめんなさい……」


 燻製工場の屋根へと降りて来たルナとキャロライン、サーベラスはそのまま空に浮いている。

 目線を合わせようとしないルナと上目ずかいでこちらの様子を窺う様に謝ってくるキャロラインの姿を見て、ルナ達が危うい事をしていた自覚があるのだと判断する。

 空中で伏せの体勢になり泣きそうな顔で鼻先を舐めるサーベラス。


 軽く――触れるだけの平手打ちを二人と一匹に与えて抱き締める。


「「ごめんなさい」やで」

「キュゥン……」

「危ない事をするのなら、もっと皆を頼ってね? ボクが言えた義理じゃないかもだけど……リトルエデンは皆のクランだよ? ボクに内緒でやりたかったとかでも、せめてクラン員に声をかけてバックアップして貰うとか――色々方法はあるからね?」


 背中を撫でながら話しをしていると、一瞬キャロラインが口を開けようとして噤む。


「うちは、うちは寂しかったんやで?」

「えっ?」

「いつも夜はマーガレットがカナタを独占してるし、うちの事抱っこしてくれへんし、知らないモフモフ撫でてるし……」

「ええっ!? ちがっ、あれは――その……ん? 夜はマーガレットが独占??」


 二人をナデナデしているとサーベラスの姿が無い事に気が付く。何か下が騒がしい気がする。


「……下りてきなさい!!」

「あのね、ルナ。夜の事は分からないけど、いつでもボクを誘ってくれたら一緒に買い物もするし、冒険もするし、ナデナデも抱っこも……なんていうか一緒にいるよ?」

「カナタはいくら起こしても、朝起きないで……」

「うっ、それは……善処します」


 少しすねたように言うルナの隣では、キャロラインが笑いを堪えている。


「うちな、明日は一緒に狩りに行きたいねん。今日は、この後フェリと約束があるから無理やけど、カナタとキャロルとサーベラスで狩りに行きたいんやで!」

「オーケー、明日は何とか一度目の鐘で起きれるように頑張るよ……」

「こーらー! 無視しないー!」


 キャロラインがルナの尻尾を見て堪えきれなくなったのか小さく笑っている。

 先ほどからルナの二本の尻尾が高速で左右に揺れていた。


「戻ろっか?」

「うちはお腹空いてきたで!」

「何か先ほどから下がうるさいです」


 キャロラインが先にボクから離れると、何故か下を見てこめかみを押さえている。


「キュ~ン……」

「ん?」


 ルナとボクは離れると下を見る。

 燻製工場の入り口には人だかりができていた。そして何故か燻製工場の庭には、精巧な作りの冒険者の石像が立ち並んでいる。先ほど見た時にはあんな物無かったはずだ。


「しまったで……庭には侵入者対策の罠が敷き詰めてあるで!」

「やっばいね……アレってコカトリスのところで拾った石化罠じゃないの」


 入り口の門の前で尻尾を荒立てているのは犬耳受付嬢――シルキーだった。冒険者を五人ほど引き連れており、そのうちの一人が太い荒縄のような物でサーベラスを捕縛している。


「釈明を求めます! さぁ! 早く下りてきなさい!!」


 ギロリと血走った目でこちらを睨むシルキーを見て、ボクは思わず生唾を飲む。


「アレはヤバイやつやね、カナタ頼むで!」

「私とルナは後ろで話を聞く係りですの」

「おういぇ……」


 ルナとキャロラインを片手お姫様抱っこして入り口まで飛んでいく。


「全て! しかと! この目で見ました! 修繕費と清掃代を請求させていただきます」


 ボク達が門の外まで移動してくると、営業スマイルに戻ったシルキーは言う。

 下からルナ達の戦いを見ていたのでこうなる事は大体予想できていた。

 ルナの飛び回る時に出る衝撃波で一部の建物の屋根が飛んだり壊れたりしているし、巨大フライングラビッツの臓物が王都を生臭い血の色に変えているのも見た。

 予想外と言えば、飛行スキルに関して何も言われない事だ。

 シルキーの後ろで待機している冒険者達も大人しいもので、欠伸をかみ殺しつつ片手を上げて挨拶してくる。

 これはもしや……お金で簡単に解決するパターン?


「――いくらですか?」

「王都の清掃クエストを発注するとして――修繕も依頼という形でこちらに任せてもらえば、半金貨1枚と金貨3枚と言ったところでしょうか」


 とりあえず払え、とでも言いたげなシルキーは小首を傾げて右手を出してくる。

 王都の清掃と建物の屋根の修繕、合わせて半金貨1枚と金貨3枚――合わせて800万円? 破壊の規模の割りに費用がかかりすぎている気がする。


「その依頼って冒険者ギルドはいくら懐に入れるの?」

「……何の事でしょうか?」


 シルキーの笑みにヒビが入る。どうやら予想が当たったらしい。

 冒険者ギルドは今回の件を不問にする代わりにある程度の見返りを求めている。結構派手に戦っていたので目撃者も多い。

 冒険者ギルドと事を荒立てる気も無いので素直に払っておこうかな?


「あ、その……今持ち合わせが無いから洋館に戻ってから――」

「釣りはいらんで、あとコレは個人的に――知り合いに迷惑をかけたお詫びやで?」


 スマホの中にあまり現金がなかったので洋館に戻ろうとすると、ルナがシルキーに無造作に取り出した半金貨2枚を手渡す。ついでとばかりに黒バックから燻製を二つ取り出してシルキーの手に乗せていた。

 ボクが自分の不甲斐なさに心の中で涙した瞬間である。


「ルナ……様。でも、コレは賄賂と受け取られても……」


 シルキーはヨダレを垂らしながらも、背後に居る冒険者の方をチラ見して残念そうに言う。

 一人の冒険者がシルキーの背後から肩に手をかけた。


「俺達の分もあるんだろうな?」

「――全員分あるで?」


 ニヤリと笑ったルナは、黒バックから追加の燻製を取り出すと全員に手渡していく。

 サーベラスが自分の足にひっかかった荒縄を噛み切ってルナの元へと歩いて行った。

 どうやらいつでも逃げる事はできたが、一応こちらの立場というモノがあるので大人しくしていたみたいだ。サーベラス良い子。


「コレも、持って帰ってくださいね?」


 石像となった冒険者を拾い集めてくるキャロラインとサーベラス。


「それならば――仕方ありませんね~♪」

「何この空気感……」


 シルキーはにやけた顔のまま半金貨2枚を大事そうに懐へ入れた。

 放置プレイ中のボクは酷い疎外感を受ける。ボクのクラン員が優秀過ぎて立場が無い件。


「そう落ち込むなよ、今からコレで一杯やりに行くがカナタもどうだ? たまには情報収集も良いだろ」

「ん? 何で名前知ってるの?」


 何故かシルキーの背後に居た冒険者に名前を呼ばれた。結構親しげに話しかけてきたが顔に覚えが無い気がする……?


「おいおい、もう忘れたのか? 印象が薄かったのか……俺はリック、後ろの二人はザイとハウルだ。これ二回目だからな?」

「「ダンジョンではお世話になりました!」」

「あぁ! オルランドのオマケに付いて来た三人か! オルランドは元気にしてる?」

「あぁ……分かってた。俺達結構影が薄いって、ザイとハウルももっと自分を出していこうぜ!」

「冒険者に口数は必要無い」

「これが全てだと俺は思う」


 ザイとハウルは腰に挿した剣に左手を添えてニヒルな笑みを浮かべる。まったく似合ってない。

 どちらも平民に多い堀深い北欧系の濃い顔なので、正直ボクには同じ装備だと見分けが付かなかった。


「ふむ、流石に今の時間から飲むのは……夜で良い?」

「うちらも今日は夜出かけるで!」

「ふむ、それなら希望者は五度目の鐘がなったら冒険者ギルドの酒場へ集合と言う事で良い?」

「分かったで! フェリの内緒話聞いたら皆で向うから席取っといてな!」

「了解了解、俺達は先に始めとくぜ~」


 燻製を片手に帰っていく冒険者達。

 シルキーは何故か懐に直したはずの半金貨を1枚手にもって考え事をしていた。


「これ、金貨5枚に交換できませんか?」

「え゛マジで?」

「え? ち、ちちち、ちちちち違います!? 横領なんて考えていませんよ! 金貨8枚はギルドの指示だったので、上手く交渉して追加の金貨2枚を獲得したと言う感じにですね……」


 シルキーの質問は唐突で、予備知識無くその質問を聞くと違う意味に捉えられてしまう可能性が高かった。

 どうやら金貨2枚は上手く交渉して得たと、シルキー自身の功績にしたいわけだ。そこに半金貨2枚だと初めから半金貨2枚で依頼が終結したとみられる可能性があるので、半金貨1枚は金貨5枚にばらしたいのだろう。

 なかなか狡賢い子である。今後とも良い関係で付き合って行きたいので、無言で半金貨1枚と金貨5枚を交換する。


「うちはナニも見てないしナニも聞いてないで?」

「同じくですわ」

「ワン!」


 声を揃えて言うルナとキャロラインとサーベラスは、見なかった事にしてこの場から離れようとしている。


「うちら夜までに燻製とか色々準備しないとダメやから、すぐに行くな? カナタ! 明日は引きずってでも狩りに行くから早起きやで!」

「分かったよ。ルナ達はご飯どうするの?」

「カナタと一緒にご飯は名残惜しいけど、燻製工場で昼の賄い食べるから大丈夫やで。また後でな~!」


 駆け足で燻製工場に入っていくルナ、後をキャロラインが追っていく。サーベラスは荒らされた庭の整理を終えると巡回に出て行った。


「それでは、今後ともよろしくお願いしますカナタ様!」

「こ、こちらこそ?」


 背筋を伸ばして敬礼してくるシルキーは、50mほど離れた場所で待っていた冒険者達と合流してギルドへと帰っていった。


「あー! カナター! これ売っといて欲しいんやけど、良い?」

「良いよ~」


 早速巨大フライングラビッツを解体していようで、燻製工場から顔を覗かせたルナは巨大なラビッツの耳を一対持って走り寄ってくる。


「最低でも百倍くらいの値段にはなると思うんやで?」

「ふぅん? 普通のサイズなら一対いくら?」

「今は供給が安定してるから一対で金貨1枚くらいやね」

「金貨1枚か……ん? 普通サイズで金貨1枚なのか……今度フライングラビッツ探そうかな」

「ん? うちらがフライングラビッツ狩ってるからカナタは狩らなくても大丈夫やで?」


 心底不思議そうに首を傾げるルナ。

 クラン的にはそれでありなのかもしれないけど、ボクの懐は寒く、洋館に入れなくなれば風邪をひいてしまいそうだ。


「うん、そうだね。適材適所、こっちは鉱物系で資金を稼げば良いか」

「あっ!」


 突然何か思い出したのかルナが耳と尻尾を立てて抱きついてきた。


「うちにもあの塩とかスパイスが欲しい! 雑貨屋に卸してるやつをまた買いすると、燻製の値段が上がってしまうんやで! うちは大銅貨1枚から上げる気は無いし、働いている皆にちゃんとお給料を支払う義務がある」

「ふむふむ、ルナも色々考えれるようになったのか。よし、それならカーナに連絡して大量に送って貰おう。宝石の原石をまた送れば資金はあちらの世界でも確保できると思うしね」

「カナタ大好きやで♪」


 ルナはボクの頬っぺたにキスをすると、尻尾をフリフリしながら巨大フライングラビッツの解体へと戻って行った。

 ルナは皆の真似をして大人びた風を前面に出している、がまだまだ子供だ。

 キャロラインとフェリとサーベラスにはお互いを支えあって成長していって欲しい。




 ――∵――∴――∵――∴――∵―― 




 昼下がりの冒険者ギルドは早朝の喧騒が嘘のように静まり返っていた。暇を持て余した受付嬢は同僚とお喋りしてアンニュイな雰囲気をかもし出している。

 冒険者ギルド東支部は、昼を過ぎた時間帯が一番冒険者の数が少ない。

 理由の一つに冒険者ギルド前にある食堂のご飯が美味しいというのもあるのだろう。

 ギルドに備え付けられている酒場はあくまでお酒を飲む場所だ。料理はいまいちの様で、食べ物類の持込すら許可されていた。

 奥に進んだ場所にある買取カウンターでは、不機嫌そうなスマイルをくれる受付嬢がいた。カウンターに乗り切らないサイズの巨大フライングラビッツの耳を持って来たボクを溜息と共に迎えてくれる。


「……マジで?」

「はい、おおマジです」


 巨大フライングラビッツの耳の売却と、夜まで時間つぶしに簡単な依頼でも受けようと冒険者ギルドに訪れたボクは惨酷な現実――もとい、巨大フライングラビッツの耳の買取値を聞いて固まっていた。


「普通の一〇〇倍くらい大きいよ? これ。本当に金貨1枚? それって同じって事だよね? どうして?」

「耳のサイズが肥大化するにあたって魔力の通り道が細く長くなっているようなので、よっぽど魔力に自身がある者でも浮くほどの力を得るのは難しいかと思われます。こちらが提示した金貨1枚という額は衣類や防具への転用を考えての値段になっております」

「むむむ……普通の耳は発射口が太めの水鉄砲で、力は要らないけど威力が弱い。巨大耳の方は発射口が小さく本体が大きい感じか……水を押す力が必要だけど威力は強力」

「何を言ってるのか分かりませんが、売ります? 売らないのでしたらお引取りを……」

「あ、お手数おかけしました」


 受付嬢の言葉に棘が見え始めたので、慌てて巨大耳を回収して買取カウンターを離れる。

 まさか金額が同じだとは思わなかったので慌ててルナにメールを送ると答えは一瞬で返ってきた。


 件名:耳はカナタにあげるで!


 これではショートメッセージ使った方が良いよね、って感じの本文の無いメールが届いた。


「よし、魔道具を作ろう」


 冒険者ギルドの2Fへ上がる階段の後ろへ回り込み、一応直された資料室の扉を開いて中へと入る。

 普段は新人や初心者冒険者がたむろしている場所のはずが今は誰も居ない。


「このサイズだと……ラビッツ用に作れば良いか!」


 裁断するにもカナタナイフだけしかないので不安だ。丸のまま魔道具に加工する案で行く事にする。

 床に清掃・浄化をかけて場所を確保すると【魔道具作成】スキルを使う準備を始める。


「まてよ……いきなり本番は難易度高いし、屑石が結構あったはずだからそっちを加工して肩慣らししようかな?」


 準備に三〇分くらいかかったが、ここまで誰一人として覗きに来る者は居ない。よっぽど資料室は使われていないのだろう。


「ふんふふ~♪ ふんふふ~♪」


 それからボクは、五度目の鐘がなるまでひたすら屑石を魔道具に変える実験を繰り返した。

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