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ボクが異世界?で魔王?の嫁?で!  作者: らず&らず
第6章 スカイオブプリンセス
191/224

SS うちが求めるモノ

その頃のルナサイド。

 うちらは一度目の鐘が鳴る前――五時五〇分に燻製工場(教会)へと戻ってきた。

 普通の冒険者は早起きで、この時間になると表通りは狩りへと向う冒険者で溢れている。

 今日はいつも以上に大量の獲物を獲ていたので、うちらの頬は緩みっぱなしやね。


「それじゃあ私はいつも通りにフライングラビッツを卸して来ますね」

「フェリ、またご飯食べに戻る? キャロルもおなかペコペコやと思うで!」

「ちょっと、ルナ――私はそんなにお腹が空いたわけじゃ……ないですわ」


 言葉で否定しても、うちはキャロルのお腹からキューっと可愛い音がなるのを聞き逃さなかった。

 うちらはフライングラビッツ狩りの前に一度朝ご飯は食べていた。でも、育ち盛りのうちらにはまだまだ足りない。

 小さく喉を鳴らしたフェリは迷う素振りを見せたけど、頭を振って獲物が入った黒バックを肩にかける。


「今日の獲物は多いですし、ちょっと寄りたい店もあるので。それに……今朝の分を売ったお金を合わせるとやっと目標額に届きそうなんですよ!」

「あー、フェリが前言ってたやつやね? 何を買うん? うちらにも内緒って言ってたけど」

「ルナ、それはフェリが話すまで待っていようって約束ですわ」


 キャロルの手がうちの尻尾を鷲づかみにする。そのまま引っ張っていこうとするのでうちはフェリに手を振ってキャロルの後を追う。


「ルナ! キャロライン! 今晩。五回目の鐘が鳴る時に教えます! ラビッツうどん屋の地下酒場で待ち合わせしましょう」

「分かったで! 遅れた人は皆に一杯奢りやから、忘れたらダメやで!」

「一番可能性が高いルナがそれを言うんですの?」

「キャロルと一緒に行くから大丈夫やね!」


 自信満々で宣言すると、キャロルは溜息を付いて抱きついてきた。

 最近キャロルは事あるごとに抱きついたりナデナデしてくる。原因はマーガレットの発情とうちの左手の傷やと思う。

 ロッティーにカナタの子供ができたと分かった翌日以降、洋館で眠っているカナタには常にマーガレットがくっ付いていた。

 カナタが寝入るのを見計らって、マーガレットは魔法をかけてケモノのように一晩中やね。

 何でカナタは眠ったまま目を覚まさないか不思議なくらいに、夜のマーガレットは激しかった。

 そっとカナタに手を伸ばしたうちは、マーガレットに左手を本気で噛まれてしまう。

 あの時のマーガレットの目には、飢えにも似た本能的な危機感が宿っていたと思う。


「ルナ? 左手まだ痛むの?」

「大丈夫やで。血はもう出てないし、マーガレットも本気じゃなかった……と、思うで?」


 心配そうにうちの左手を抱きかかえるキャロル。


「ミリーとロニーに頼まれてた燻製の追加も目処がたったし、そろそろ建物の増築も視野に入れないとダメやね……」

「そうね、ミリーとロニーも色々やってるようですの」

「ん?」


 何故か頬を染めてうちの腕にスリスリしてくるキャロル。

 最近はミリーもロニーも夜は自分のお店――『箱庭』の上の部屋で眠っているらしい。

 マーガレットが激し過ぎてカナタの側で眠れない、と言いながらもソワソワした感じで箱庭へと移動するミリーとロニーは、必ずカナタが眠る前にはマーガレットにナニかお願いしていた。

 燻製を箱庭に持って行った時、副店長のアーサが「若さって凄いわね……独り身が寂しくなるわ」と言っていた。アーサはメアリーに借金をして箱庭の隣の建物を買い取り、今はそこに一人で住んでいるらしい。

 今、箱庭にはノーラとグラとミリーとロニーが住んでいる事になる。あと、ミミアインやね。


「そう言えば、カナタは最近抱っこもナデナデもしてくれへん……」


 腕にスリスリしてくるキャロルに抱きついて尻尾で背中をトントンする。キャロルは寂しがり屋さんやから、うちが一緒に居ないといけない。


「ルナ……皆大人になっていくの、ルナはカナタの嫁だけど……私はルナの嫁だからね。私を抱いて良いのはルナだけだからね!」

「ん? キャロルはカナタに抱っこして貰いたくないん?」

「ん、まぁ……ルナはまだまだ子供って事ですわね」

「キャロルは何言ってるん?」


 追加の朝ご飯を食べに洋館に戻ると、庭でサーベラスがニヤニヤしながら巡回に出るところに遭遇した。

 前回空を駆けるサーベラスを目撃してから、早朝の狩りにサーベラスも参加すると思っていたうちは、ニヤニヤするだけでいつも通りに振舞うサーベラスを見て怪訝に思い首を傾げた。


「ルナ、サーベラスが見せてくれる時まで絶対こちらから話を振ったらダメですわ」

「わ、分かってるで?」

「ワン~ワンワン~♪」

「「……」」


 誰が見ても一目で浮かれていると分かるサーベラスは、右前足と右後ろ足が同時に前に出て、次は左前足と左後ろ足が前に出る不思議な歩き方で巡回に向かって行く。

 サーベラスは冒険者ギルド前で皆に毛を梳いて貰っているみたいなので、日に日に毛並みが良くなっている。最近サーベラスファンクラブが発足されたとアヤカが言っていた。

 サーベラスの毛はオークやゴブリン避けになるらしく、売る目的で近寄ってきた者達は全てそのファンクラブの会員に袋叩きにされて、半裸で冒険者ギルド前に晒されているらしい。


「今日の分の燻製準備を終えたらちょっとお散歩に行くで」

「特に予定もないですし、どこへお散歩行きますの?」


 キャロルは溜息を付きつつもうちの手を握ってくれた。

 行き先は少し遠くに見える城――昨日カナタは帰ってこなかったのでクリスティナの所に居るみたいやね。


「あのお城の上部に小さな森が有るみたいやで? ちょっとお散歩がてらに見に行きたいな~」

「森? ……ここからじゃ何も見えませんの。多分カナタは城に居ますわね」

「!? お散歩にいくだけやで! カナタの様子を見に行きたいとかじゃない、うちは大人やから、抱っこして貰えなくても大丈夫なんやで!」


 うちはお散歩に行きたいだけ、そう言ってもキャロルは信じてくれなかった。うちの頭をナデナデすると武器防具を黒バックから取り出し戦闘準備を始めるキャロル。


「はいはい、今朝はあれだけフェイクラビッツを狩ったから、準備は万全にしていきますわよ」

「……最近、キャロルの話し方ってクリスティナに似てきたと思うで?」

「世界で一番尊敬する姉ですの♪」


 嬉しそうに頬を赤く染めるキャロルに手伝って貰って装備を万全に整える。

 うちは右手にカナタナイフと同じ材質の爪が付いた手袋をはめる。カナタ特製のうち専用武器やね。

 カナタが作った嫁専用装備――CNT製の防具を装備して、いつも通り黒っぽい冒険者スタイルの装備になるとディープブラックの毛皮を上に羽織る。


「キャロル、しっかり肩をつかむんやで!」

「居眠りしても落ちない自信がありますの」


 手近な建物の屋根に上りスキル【滑空】を使用して空へと飛び上がる。尻尾が増えてからうちの飛行性能はさらに磨きがかかってきた。素早く上空へと飛び上がるとキャロルがしがみ付くのを待って城へと向う。

 最近、キャロルは絶対に落ちないコツを見つけたのか、うちの背中にピッタリと張り付いてくる。

 落ちないのは良いけど、尻尾の上辺りに腰を押し付けてくるので飛んでいる間ムズムズする時がある。

 風系統の生活魔法を二本の尻尾で制御しているので、時々尻尾がキャロルのお尻に当たっている為か、身動ぎしている。

 時々、キャロルの息遣いが荒い気がするけど本人は「大丈夫だから」と言ってさらにくっ付いてくる。首筋に温かい息を吐きかけるのは、背中がビクッとするので止めて欲しい。




 ――∵――∴――∵――∴――∵―― 




 気配を殺して城の中を覗きこんだうちの目には、モフモフの生き物をナデナデするカナタの姿が映った。胸の辺りがモヤモヤする。

 いつの間にか愛桜のチップを持って来てくれる人も隣の窓から城の中を覗きこんでいた。

 物欲しげに自分の人差し指を口に咥える愛桜の人は、うちらの事など眼中に無いほど城の中を凝視している。


「あっ! 窓の外にこちらを覗き見る変態が!」


 ガーベラが適当な窓を指差し叫んだ。

 一瞬気がつかれたのかと思い焦って窓から身を放すと、同じく慌てて隠れた愛桜の人と目が合う。


「ルナ? 気がつかれたわけじゃないみたい……何で、何も無い空間を見つめて驚いてるんですの?」

「何でも無いで?」


 目が合った愛桜の人は少し驚いた風に目をパチクリさせて人差し指を口の前に立てて頷いた。

 どうやらキャロルの目にはこの人は見えていないらしい。よほどの隠蔽スキルか気配遮断能力を持っているとうちは推測した。


 うちは何も言わずに、そっと窓から離れて空へと飛び上がる。

 遠くに見える黒い雷雲――いつも巨大フライングラビッツはあの雲の中から現れる。


「キャロル……うちらがあの巨大フライングラビッツ狩ったら、カナタは抱っこしてくれるかな?」

「そう……ですわね。そろそろあの鳴き声も耳障りになってきましたの」


 苦笑いしたキャロルは背中を人差し指でトントンしてくる。

 何かと思い振り返るとキャロルが教会の屋根を指差し口の前で人差し指を立てていた。

 直接見る事はせずに視界の端で教会の屋根を見ると、キャロルを乗せる用の鞍を装備して戦闘体勢で隠れているサーベラスを見つける。


「どうやら考えている事は同じみたいですの。一番良い登場場面を隠れて窺っていますわ」

「いざという時はサーベラスを呼ぶで?」


 小さく頷くキャロル。うちはもう一度だけ城を見る。

 愛桜の人がこちらに向って握り拳から親指と立てて微笑んでいた。


「行くで!」


 滑空速度を最低にまで落として浮いていたうちは、滑空速度を最高まで上げて下からの上昇気流を作り出す。一瞬で黒い雷雲の側まで近づくと近くを飛んでいたフライングラビッツを右手で捕まえて上下に揺する。


「ラビィィィ!」

「うちはここに居る! 今日は逃げも隠れもせえへんで!」

「ルナ……口調が戻ってますわ」


 悲痛な叫び声を上げるフライングラビッツをそのまま左手に持ち変えると、さらに大声を上げて挑発をする。背中に感じるキャロルの鼓動が早くなっていく。

 不意にキャロルが体を左に移動して重心をずらす。うちは合わせてそちらに進行方向を変えて飛行を開始する。


「ラァァァァビィィィィ!」

「ラビィ!」


 先ほどまで居た場所に巨大フライングラビッツが突っ込んできた。キャロルのおかげで余裕を持って敵を迎える事ができた。


「ラビョッ」

「ラァァァビィィィ!!」


 誘いだす事に成功したので、もうこのフライングラビッツに用は無い。

 うちは手早くフライングラビッツの首を捻ると黒バックに収納する。背後から目の色が赤くなった巨大フライングラビッツが猛スピードで追って来るのをチラリと確認する。


「うちは! うちはお前を狩ってカナタに褒めて貰うんや!」


 全力で飛びながら背後の様子を探る。

 どうやら相手の方が速度は上らしい。アレだけの巨体やのに不思議やね。

 周囲に張った風避けの結界をより小さく、体に密着するように形を変えて張りなおす。同時に生活魔法で水を作り出し結界の外へと送り出す。

 狙い通り高速で飛び回るうちの後ろに流れた30cm球の水の塊は、ツララのように尖った天然の槍となって敵に襲い掛かる。

 ツララを避けるために巨大な耳を羽ばたかせた巨大フライングラビッツとの距離が少し開いた。


「散弾いきますの! 水よ、水よ、生命の雫よ、集まり、集い、世界を覆え!」


 キャロルの詠唱に答える様に、飛翔するうちらの周りに握り拳大の水球が次々と生まれていく。

 高速で飛び回るうちらに合わせるように水球は次々姿を変え、氷の刃となって後方にいる敵へと襲い掛かる。


「キャロル!? それは!」

「いつまでもルナのオマケで居られるほど、私も……サーベラスも弱くありませんの!」

「ラビィィィィ!」


 キャロルの散弾を体に浴びながらも、うちらへと一心不乱に突っ込んでくる巨大フライングラビッツ。

 やはり相手の方が早いようで、うちとキャロルの攻撃を避けながらも確実に距離を詰めてくる。

 右手に装備したクローを一目見てキャロルに声をかける。


「このままやと目立つし、うちらが不利や。タイミングを見てうちがこれで攻撃する、キャロルは防御に集中しててな」

「無理そうならすぐに洋館に向って飛んでね? 強力な結界があるあの場所なら敵も近寄れないと思うから……」

「大丈夫やで、それと――キャロルも口調が戻ってるで」

「ばか……」


 クスッと小さく笑い背中に顔を埋めたキャロル。

 うちはキャロルに防御用の結界を任せると風魔法を制御している尻尾に力を込める。

 狙うは敵の鼻っ面、間違えても売り物になるフライングラビッツの耳を傷つける事はできない。あのサイズの耳なら通常の百倍くらいの価値が付く可能性がある。


「しっかり掴まってるんやで!」


 返事を聞く事をせずに強烈な突風を作り出し、正面斜め下から自分に当たるように吹きつける。

 超高速の宙返り――視界に王都の青空が広がり次の瞬間には敵の姿が一瞬で眼下に移動する。

 狙う鼻っ面へと全力の引っ掻きを行うべく右手を振り下ろす。不意に消える敵の巨体。


「敵の姿が消えたで!?」

「ルナ! うぇぇぇぇ!!」


 キャロルの絶叫で上を向いたうちの目には、巨大フライングラビッツの足の裏が映っていた。

 鈍い衝撃音と結界にヒビが入る嫌な音が聞こえ、地面が視界いっぱいに近づいてくる。

 瞬時に真下からの突風を起こそうと尻尾を垂直に立てて魔法を使おうとする。


「真下はダメ! 斜め下、後ろから全力で突風! 高度を取るのは私に任せて!」

「了解やで!」


 キャロルの指示に従い後方斜め下からの突風で落下方向を無理やりに変える。先ほどまで居た場所を巨大フライングラビッツの飛び蹴りが襲う。落下速度はさほど変わらず斜め下へと落ちていくうちら。


「風よ、風よ、我らを包む優しき風よ、轟き叫べ!」

「え゛!?」


 真下から爆音と共に空気の塊がうちらに直撃した。上手い具合に斜め下へと落ちていたので前方に放り出される形でぶっ飛ばされるうちら。

 背後で空気の塊の直撃を受けた巨大フライングラビッツがゲロを吐きながら天へと飛ばされていた。王都へと降り注ぐゲロの雨。


「さっき敵が消えたように見えたで……」

「ルナの攻撃があたる直前に前方に転がるようにして逆宙返りして、こちらの背後を取ったみたい。速度で負けてるから危なかったわ」


 うちは頭の中で考える。先ほど行った宙返りを敵は見ただけで逆宙返りにして返してきた。

 うちらは空で生きている魔物を舐め過ぎていた。首筋に冷たい汗が滑り落ちる。


「次! また来る!」

「了解やで!」


 再び背後を敵に取られたままの空中戦が開始された。


「ルナ……もう一度同じ方法で行くよ」

「!? 今のはどうあがいても通じないやつやで?」

「次はもっと早くやるの。それと……宙返りの一番高い位置でサーベラスを呼んで、今にも飛び出しそうにこちらを見てるから」


 キャロルの指差した方向には教会の屋根がある。遠目に映るのはこちらを見てタイミングを計っているように空中を前足でかいているサーベラスの姿。


「あと……次は宙返りの頂点までの加速は私がやるから、その後はお願い!」

「? 分かったで!」


 背後からゴクリッとキャロルの生唾を飲む音が聞こえる。


「ラビラビィィィィ!」


 巨大フライングラビッツは目を灼熱の赤に変えて大きな口からヨダレを垂らしながら追いかけてくる。

 再び高度を取ったうちはキャロルの操る風に乗って高速の宙返りを行う。

 背中に感じていたキャロルの鼓動が消え今までに無いほどの加速がうちを襲う。

 再び眼前に広がる王都の空には、先ほどとは違うモノが映っていた。

 空には両手を広げて舞うキャロルの姿があった。


「キャァァーロォォールゥゥゥー!」

「サーベラスを、そしてそのまま行ってー!!」

「――ワンワンー!!」


 遠くから聞こえるサーベラスの遠吠え、空へと落ちていくキャロルの願い。

 結界を張ったとしても命の危険があるほどの高度に放り出されてもなおキャロルは願った。

 うちは全身全霊を右手に込めてサーベラスを呼ぶ。


「【一匹(ワン)(ワン)戦い(ウォー)】!!」

「ワン~♪」


 上空に放り出されるようにして召喚されたサーベラスは、その背に装備した鞍にキャロルを乗せて空を駆ける。

 急激な上下運動と空を駆けるサーベラスの揺れに耐えられなかったのかキャロルは虹色の雫を空へと振りまいていた。


 急激な加速の中、引き伸ばされたように感じる僅かな時間。

 眼下に迫った敵の鼻っ面へと右腕を伸ばす。


「ま、た、消え、た。まだや!」


 再び上に回ってきた敵を睨み付けると、歯を食いしばり再び宙返りを行う。

 突風を制御し続けている尻尾に痛みが走るのも構わず、防御に回す結界も前方に展開して矢尻のように鋭い形へと変化させていく。


「くぅぅぅっ、体が、壊れる! まだやぁぁぁ!」


 うちの動きを詠んでいたかのように、敵も巨大な耳を使い逆宙返りをして再び上空へと飛び上がった。

 加速に耐え切れずに風を制御する尻尾に激痛が走る――涙が出そうになるがここで負ける分けにはいかない!


「るなぁぁぁ! 負けるなぁぁぁーー!!」


 幻聴かと思った――うちの耳にカナタの声が聞こえてくる。

 不意に体が軽くなり、お腹の底から力が沸き出てくるような不思議な感覚が体を優しく包み込む。


「がぁぁぁっー!」


 空気の壁をぶち抜く衝撃を結界に感じ、右手を伸ばす。

 目の前には衝撃を受けて怯んだ巨大フライングラビッツの顔があった。


「うちの勝ちやぁぁぁー!」


 振り下ろした右手は恐ろしい程軽い抵抗を切り裂き、巨大フライングラビッツの体を両断した。王都に降り注ぐ血と臓物の雨。


 視界には二つに分かれた巨大フライングラビッツを回収するキャロルとサーベラスの姿が映っている。


「これで……うちは抱っこして貰える」


 全身の力を抜いて滑空速度を落とす。

 丁度日陰に入ったのか眩しい太陽の日差しが陰る。


「ひかげ?」


 キャロルとサーベラスは獲物を回収した姿のまま、空を向いて大口を開けて固まっていた。

 うちもその視線の先を見て大口を開けて固まる事となった。


 王都の空に浮かぶ黒い雷雲から、先ほどと同じサイズの巨大フライングラビッツが次々と顔を覗かせている。

 全ての固体はうちを見て目を真紅に染めていた。


「これは……無理かもしらんね」

「キャン!」


 キャロルを乗せたサーベラスがうちを咥えて空を走る。

 目指すは洋館――ラビッツ達の巣穴。


「「「「「ラァァァビィィィ!!」」」」」


 次々と鳴き声を上げる巨大フライングラビッツ達。

 最後にカナタに会いたいとうちは願い、悪足掻きと思いつつも結界に全身全霊の力を込める。


 一匹の巨大フライングラビッツがこちらを目指して落ちて来る。

 次の瞬間――空を覆い尽くす閃光を見た。

ガーベラは気をそらすために適当言っただけで、ルナや愛の姿を見たわけではありません。

なお、愛はカナタの周りにいつも居ます。


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