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ボクが異世界?で魔王?の嫁?で!  作者: らず&らず
第6章 スカイオブプリンセス
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第142話 ○がヒュンヒュンする話

 いつの間に入ってきたのか、部屋の入り口にはガーベラが立っている。何故か頬に真っ赤な手形がついていて痛々しい――が、顔はにやけていて嬉しそうだった。

 この変態()はどうしてこうなった……初めて見た時はメイドチックな装備の淑女だと思ったのに。


「ガーベラは知ってるの?」

「女冒険者なら常識です。オストモーエアでコレが買える数少ない店ですから」


 ガーベラの手には白い粉の入った小瓶が一個。

 白い粉……見た感じで怪しい薬を思い浮かべてしまうが、一応普通に買えるらしいので違うようだ。


「思い起こせば……カナタ様と初めて出合った時にもコレの材料を採取しに行っている時でしたね」

「それの材料……初めて出合った時の事?」


 初めて出会った場所、それはフォレストウルフの居るあの森。

 ルナが見つけてきたフォレストウルフは強敵だったな……あとは、オーク!?


「どうやらコレが何かお分かりいただけたようですね? たま――」

「オーケー、何か分かったから早くしまって? それで話戻すけどトールがオーク嫌いになった理由って?」

「……昔、街の外の小さな村に住んでいた頃、オークの集団に村を襲われたそうですよ? 男手は狩りに出かけて居なかった隙をつかれたとか。トールには娘が一人居ます――」


 ガーベラは一瞬外の方に視線を送って話し始める。

 衝撃の過去を話し始めたガーベラの話を聞き、苛立ちを押さえるために拳を握り締める。


「そうか……その娘さんの仇を討つ為にか――」

「仇――まぁ、そんな物ですね。そろそろ帰ってくる頃です」

「誰が?」

「あれ? お客さん? まぁ、ガーベラさんまた買いに来てくれたの? ちょっと待ってて、すぐに今週分の材料を抜き取るから」


 両手持ちの籠に山盛りの残飯を持って現れたのは、ドワーフにしては長身で肉付きの良い豊満な体型の女性だった。


「こんにちは、新しいお客さんね? あっ、オーキッド待ちなさい! 試し切りは抜き取ってからにして頂戴!」

「でも抜くと活きが悪く――分かったかな……」


 珍しくオーキッドが素直に話を聞いてこちらに下がってきた。

 入れ替わりでオークの牢屋の前に立った女性は、牢屋の鉄格子からギリギリ手が届かない位置に残飯の入った籠を置き足を踏み鳴らす。


「フゴォー! フゴーゴー!」

「餌が欲しいのなら、どうすれば良いのか分かるわね?」

「フゴッ……」

「な、何で――オークが土下座?」


 細身のオークは土下座して上目遣いに女性を見ている。

 次の瞬間、女性はオークの頭をボールでも蹴るように軽く蹴り飛ばした。


「ああやって上下関係をしっかり教え込めば、オークも大人しいモノですね」

「何でガーベラが頬を染めてるの……」


 何故か頭を蹴り飛ばされて地面に這いつくばっているオークを見て興奮しているガーベラ。

 女性は残飯の入った籠を牢屋の前に置くと、壁際に置かれた木の宝箱へと歩いていく。

 狂ったように残飯を食べ始めるオーク。


「はい、これで五回分ね」

「代金はここに」


 目の前で銀貨と白い粉の取引が終わった。

 銀貨を懐にしまい込むと満足気な顔で鉤爪を右手に装備する女性。


「さっ、次の分の材料を抜くわね」

「カナタ様は見ない方がよろしいかと」

「ん? 何を?」


 牢屋に近づいていく女性とボクとの間に立つガーベラ。オーキッドは何故か耳を塞いで目を瞑っている。

 迂回するように牢屋を見ると、残飯を食べ終わったオークが鉄格子に抱きついて局部を露出させていた。


「き、気持ち悪い……」


 丁度鉄格子からテニスボール代の大きさの○が二個外に出ている。

 右手を大きく振りかぶる女性。


「ピギィィィッ!!」

「アッー!」


 嬉しそうな悲鳴を上げて牢屋の中に倒れるオーク。

 女性の右手に装備された鉤爪の先には、抜き取られた○がぶら下がっていた。

 全身から血の気が引いて思わず下腹部を押さえるも、そこにはナニも無い。

 また頬を染めて見ているのかと、チラリとガーベラの顔を盗み見る。


「何で……真顔なの?」

「アレが無いのでどんな痛みなのか、分かりません」


 ちょっと残念そうな顔で言うガーネットにボクは戦慄を覚えた。


「試し切りはまた今度で、ちょっと外にでようかな」

「そうしますか」


 目を瞑ったままのオーキッドに手を引かれて部屋から出る。


「遅かったな。どうだ切れ味は?」

「丁度ジェシーが来てたかな」

「そうか、今日だったか。で、さっきの鋼材の話だが……どれくらいの量があるんだ?」


 先ほどの女性はジェシーと言う人らしい。トールは話題に触れようとせずに商談に戻る。


「ジェシーさんは……まさかトールの娘さん?」

「そうだ。母親はもう居ない」

「あ、すいませんでした……」


 トールは顎の髭を器用に三つ編みにしながら首を傾げる。


「何で謝るんだ?」

「いえ、その……先ほどガーベラから村での事を聞いたので――すいません」

「そうか……だが、あいつの母親は流行病で亡くなった。昔の事は関係無いが?」

「んん?」


 どうにもトールの反応が普通だ。復讐の鬼の様には思えない。

 オーキッドとガーベラの顔を見るとニヤニヤしていた。


「カナタは頭が回りすぎるかな」

「カナタ様の察しが良いのは美徳ですが、早計過ぎます。確かに過去に悲惨な目に会ったかも知れませんが、現役を退いたとは言えジェシーは元冒険者ですよ? それくらい乗り越えています。ただちょっとオークを目の仇にして、良い商売の種にしているだけです」

「この世界の女性は強すぎる……」

「立ち話もなんだ。店の方へ来い」


 話に区切りが付いたと思ったのか、トールは工房から出て隣の建物へと入っていく。

 オーキッドは新作の鉤爪を大事そうに抱えて後を付いて行った。


「それではカナタ様、また後(・・・)で……」

「はい、また後?」


 白い粉が入った瓶を大事そうに抱えたガーベラは洋館の在る方角へと小走りに向っていく。

 洋館に何か用事でもあるのかな?


「カナター! 早く来るかな!」

「はいはい~」


 興奮気味のオーキッドの呼ぶ声が聞こえてきたので急ぐ事にする。


 工房の隣には他の家とほぼ同じ間取りの一軒家が立っている。

 他の木造平屋の家と違うところがあるとすれば、奥行きが倍ほど広いと言う事だろうか。

 入り口の扉にはシュバインハーケンマーケットとミミズがのたくったような文字で書かれている。


「何だろう、シュバイン? ハーケンは鉤爪か、マーケットは市場? 店? シュバイン……」


 現在背負っている黒バックの正式名称はシュヴァルツカイザーバックパックだ……シュバインとちょっと違う。シュヴァルツは皇帝とかそんな意味だった気がする、シュバインとは一体?


「適当に座ると良い」


 扉を開けて店に入ると番台にトールが座り、カウンターの前で腕に新作の鉤爪を装備したオーキッドが目を輝かせてポーズを決めていた。


「コレヤバイかな! 欲しい――けどお金が無いかな……チラッ」

「俺の最高傑作だからな、高いぞ。それより先に商談だ……チラッ」


 何故か話しながらもこちらをチラチラ見てくるオーキッド。トールもオーキッドに何か吹き込まれたのかチラチラ見てくるが、少し恥ずかしそうに視線を彷徨わせていた。


「なかなか良い鋼材のようですから、そこそこ良い値で買い取って欲しいんですが。いくらが相場なのか分かりません」

「そうだな、正直鋼材の相場なんて有って無いようなものだ。理由はドワーフ族は自前で材料を用意するのが当たり前だからだ。人間の鍛冶屋には売れるかもしれんが、市場にはコレほどの鋼材は滅多に出ないのう」

「買い取っていただけないんですか?」

「そうとは言っとらん」


 トールは一度言葉を止めてチラリとオーキッドに目線を一瞬送る、見られたオーキッドも瞬きで返した。

 何かこの二人はグルになっている気がする。この鋼材の売り上げを持って帰らないと洋館に入れない可能性があるはずなのに、何故かオーキッドは……?


「そこでだ。こちらからの提案だが、鋼材は必要になった分だけ取りに行かせて貰う。鋼材から作り上げた物が売れたら半額そちらに渡す、どうだ? 悪い話じゃないはずだ」

「ふむふむ……」


 トールの話は悪い提案ではない。完成した品の半額と言う事は、素材として売るよりかなり高い額が入って来る事になる。

 あちらの世界での計算になるが、大まかに商品の値段の一割から高くて五割前後が商品原価となる。

 日用品に関して言えば一割を下回る原価の商品もざらにあった。千円のシャンプーが原価10円だったり、歯ブラシが数円だったりと、聞いただけではボッタクリかよと突っ込みたくなるレベルの物に溢れている。

 実際は仕入れた後の保管や販売の手間、必要な人件費など色々な雑費が付いて来るので何とも言えない。


 例外はどこにでもあるように、一部はボッタクリだとボクが思っている物もあった。

 宝石商を商っていたあちらの世界での母――(はるか)さんに付いて海外に商談に行った時は驚いた。正直開いた口が閉じなかったほどだ。

 普通は商談に子供など連れて来ないが、長い付き合いの商談相手らしく相手も孫を連れて来ていた。

 かなり歳の行った老夫婦で、かなりフレンドリーな感じで接してくれたが商談に入ると一転、眼光鋭い老獪な魔物へと変貌した。

 次々繰り広げられる商談は、命のやり取りでもしているかのように、互いの顔を歪めては嬉々とした表情へと変えていく。全体を通して(はるか)さんが顔を歪めている事が多く、子供心に心配していたが、最後に現金で宝石の原石を買い取る段階で思わず声を上げた。

 ダイヤも含めた色取り取りの石ころ――宝石の原石が数十点、頑丈なアタッシュケースに入った札束数個で取引されていた。

 ボクが上げた声を聞いた老夫婦は大声で笑いながら言った『この原石を全て一人で加工・販売すれば億万長者だ』と、苦笑いした(はるか)さんに頭を撫でられて呆然としたのを覚えている。

 後になって六十万円の宝石の指輪が原価二万~四万ほどなどや、宝石商に入るお金はそれほど多い物では無いと聞いてションボリしたものだ。


「カナターカナタ! 考え事は後にして欲しいかな!」

「ん、ごめんごめん。かなり良い条件だと思うよ? でも、それだと洋館に戻れない可能性が……その鉤爪をすぐ売れる宛てでもあるの?」

「無いがのう……チラッ」


 ここまで来れば誰にでも分かる事だった。仕切りにカウンターの側に立つオーキッドを見るトール、瞬きして返すオーキッド。

 オーキッドは鉤爪が欲しい、トールは即金で払うのを避けて確実な儲けが欲しい、二人の利害が一致したのだろう。

 勝手に話を進める二人に少しイジワルしてみたくなった。


「それなら……とりあえずその一個分の支払いだけでお願いします。他の分は色々見て回ってから考えさせて貰いますから」

「「え゛」」


 固まる二人、目線が縦横無尽に彷徨っている。


「さぁ、オーキッドも早くそれ外して返して? 売り物らしいし、凄く高いんだってね? 今日の稼ぎに困ってるボク達が手にできる物じゃないっぽいよ」

「ちょっとまて、こいつの売値の半額はさすがに今手元には……」

「カナタ~少し考えて欲しいかな」



 鉤爪をカウンターに置き左手にすがり付いてくるオーキッドと、カウンターでこちらを拝んでくるトール。


「キューン、キューン、ピスー」


 オーキッドが尻尾を太股に絡ませて切ない声で鳴いている。

 左手を抱えるようにしてピッタリくっ付いてくるので体温や鼓動までボクの体に伝わってきた。


「ちょ、オーキッド近い、というか誤解されるから離れて! もう、分かったよ」


 今日のオーキッドはいつも着ている無骨な皮鎧を着ていない、以外と胸がある事と体温が高い事に驚きつつも溜息を吐いた。


「オーキッドはトールとどんな条件で取引したの?」

「上手く取引できたら、あの鉤爪を売れるまで貸してくれるらしいかな!」

「お、オーキッド! 手前!」


 オーキッドが指差す先には今日作ったばかりの新作鉤爪がある。まさかの裏切りにトールは声を上げて頭を抱えた。


「なら簡単な話だね、あの鉤爪はボクが先に貰う。代わりに初回の鋼材で作られた物の売り上げは全部トールの物で良いよ? 二つ目以降は初めの取引内容通り半分で、これならトールが良い物を作ればすぐに売れるしお互い損しないと思うな~」

「面白い、確かにこの鉤爪の材料はまだ買い取ってもいない鋼材だ。その取引受けた!」


 トールから鉤爪受け取り右手で握手をする、取引成立だ。

 尻尾を全力で左右に振るオーキッドに鉤爪を渡すと、すぐに腕に装備して跳ね回っていた。


「これは良いモノかな! 最高かな! カナタは世界でアヤカの次に愛してるかな!!」

「アヤカの評価高いんだね」

「よし、俺は早速次の武器や防具の作成に入る。あの扉を通れる許可書をくれ」

「許可書……そんな物無いけど、アレは自発的に扉守ってるのかな? メアリーが何か知ってるか……」


 スマホ画面を呼び出しメアリーにメールを送ると一瞬で返事が返ってきた。『すぐに送る、あと洋館に早く戻って来て』との事だ。

 スマホ画面を呼び出していた左手が震えると、赤木製の盾のペンダントが送られてくる。


「盾に肉球のペンダント……リトルエデンのシンボルかな?」

「何で疑問系なんだ?」


 簡単に模造出来るような気がして表面を撫でていると、ペンダントから小さいブラウニーが顔を出した。

 無言で見つめ合う事数秒、何も無かったようにペンダントに戻っていくブラウニー。


「こうやって生息域を増やしているのか……」

「何だ? 何かあったのか?」

「いや、何でも無いですよ?」


 トールにはブラウニーが見えていないようなので何も言わなくても良いだろう。

 そっとペンダントを渡すと一時帰宅の準備をする。


「オーキッド、何かメアリーが呼んでるから戻るよ? 洋館に早く戻って来てってメールが来た」

「了解かな! どこでも、どこまでも付いて行くかな~♪」


 狼尻尾の振りに連動して猫耳がピコピコ動くオーキッド。凄く可愛いと思います。


「それではまた! 売り上げはオーキッド経由か洋館に居るこの服を着た誰かに渡して貰えればありがたいです」

「分かった。また何か良い鋼材があったら持って来ると良い」


 上機嫌なトールは、お土産に手作りの小型バックラーを持たせてくれた。

 半分遊びで作ったらしい小型バックラーを見たボクは、ブラウニー達が赤木の棍棒を持っていたのを思い出す。


「これは……オーキッド、暫く追い出されなくなるかもしれないよ」

「それは……何でも協力するかな!」


 ボクとオーキッドはニヤニヤと笑みを溢しながら洋館へと戻る道を歩いていく。

異世界モノの小説で登場する精力剤、製作工程は謎に満ちています。

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