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ボクが異世界?で魔王?の嫁?で!  作者: らず&らず
第6章 スカイオブプリンセス
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第135話 この世は危ない人だらけ!

「貴女は、だあれ?」

「ミネルヴァ様! この方が……」


 目を取られていた間に二度目の問いを受けていた。

 従者と思われる女性が左腕に装備した緑の宝石で作られたガントレットから、一枚の綺麗な紙を取り出しサマードレスの女性――ミネルヴァへと手渡す。紙を一通り見終わったミネルヴァは楽しそうに笑うとこちらへと視線を戻した。


「あ、カナタです。ボクはカナタ=ラーズグリーズ。今どうやって結界壊したんですか?」

「ん~? エイって?」


 ミネルヴァは右手を前に突き出すとガッツポーズをとり首を傾げた。

 からかわれているのかと思ったが、隣の従者の女性が何も言わずに頷いているところを見ると、本気で言っているらしい。

 試しにミネルヴァの目の前にもう一枚結界を張って様子を見てみる事にする。


「ん? 今のは……貴女面白い事ができるのね?」

「詠唱も動作も――ましてや触媒すら無しで!?」

「あっ」


 普段から無詠唱に慣れていると、いざと言う時ボロが出る。適当詠唱を口ずさむのを忘れてそのまま結界を張ってしまった。

 目の前に現れた新たな結界の表面に手を当てて楽しそうに笑っているミネルヴァ。


「物理攻撃にも、魔法攻撃にも対応する結界……これほどの強度で張ろうと思えば、宮廷魔術士総動員で丸一日の大仕事ね?」


 ミネルヴァは表情一つ崩さず、その丸一日の大仕事を右手の拳一つで破壊する。左目でも見ていたが特に魔法やスキルを使ったような様子は見受けられなかった。そしておかしな事に気が付く。


「あれ? 左目でも見えない……」

「あらら? その瞳……ますます面白いわ♪」


 ミネルヴァのステータスは愚か、名前すら左目には表示されなかった。この反応は愛姉(あいねえ)を左目で見た時に似ている?


「その結界、どれくらい張り続けられるの? あと、物理や魔法に特化した結界も張れるんじゃないかしら?」

「はっ? 物理や魔法に特化した結界? 結界は結界じゃないんですか?」


 初めて聞く話が出てきた。物理特化や魔法特化結界? 先ほどミネルヴァが言っていた物理攻撃にも、魔法攻撃にも対応する結界とは……もしかしてボクの結界はバランスタイプという事?


「教えてあげる、その代わり実戦方式でね?」

「くっ!?」


 まるで用意していたかのようにミネルヴァは言うと、右足を大きく前に出し、勢い良く地面を蹴ると飛び掛ってきた。

 部屋の入り口と中央付近という立ち位置の関係が一瞬で詰められる。大きく振り上げられた右手がゆっくりとボクの左手に装備された盾へと吸い込まれていく。咄嗟に結界を張るも効果は薄く、ガラスを割るような軽い破壊音と共に結界は砕け散る。

 鈍い振動が盾を貫通して左腕に伝わり超硬化をかけた硬皮の盾が破損した事を知る。


「あらら? なかなか良い盾ね。見た目より頑丈、スキル効果かしら?」

「ちょっと! タイムタイム! 教えてくれるって言っといていきなり攻撃!? 物理攻撃に特化ってどうやるの」

「私は魔法を使えないわ。一切、それこそ生活魔法すらね? 意識して夢想しなさい、衝撃を受けても耐え切れる盾を。貴女の結界はそういった部類の物でしょ? エイッ!」


 話しながらも飛んでくるミネルヴァの砲弾のような拳。結界を一撃で粉砕するその物理攻撃力は、生身で受けるとどうなるか……想像したくない。


「イメージ、イメージ、結界はそもそも生活魔法が基。今の完成した結界は万能タイプとしてイメージを固定。物理攻撃に対する対策、壁状では衝撃を受けて割れる……固体? 気体……液体? 粒子の粒……そうか!」


 イメージする物は小さな粒の集合体。粒が密集して幾重にも重なった流動する結界。

 考えは大体合っていたようで、ミネルヴァの拳が結界の中ほどまでめり込んで止まる――そう、一瞬だけ。


「ちょーっと!? 何で貫通してくるの!」

「まだまだ甘いんじゃなくて! 楽しい、楽しいわ♪」


 心の底から楽しそうに笑い、左の拳も使って殴りつけてくるミネルヴァ。

 一瞬でも止めれたと言う事は方向性は間違っていないはず。

 顎を狙って下から振り上げられた拳を回避した瞬間、左手の盾にかすり木っ端微塵に破壊された。


「どうしたの! このままだと、その可愛いお顔に傷が付くわよ?」

「酷い! 顔は普通狙わないでしょ」


 初めは手足を狙っていたミネルヴァの攻撃が、業を煮やしたのか段々と胴体や顔へと集中し始める。


「大丈夫よ? 当てはしないわ……多分ね!」

「ちょー!? 当たったら大穴開きそうなんですが! そこの従者の人、何してるの止めて!」

「あっ、こちらにお構い無く。お茶の用意でもしておくから」


 暢気に部屋の隅で食事の用意をしている従者とオーキッド達。いつの間に戻ったのか、三人は解体の続きを行なっていた。


「あらかた解体は終わったかな! あとそっちのドッペルゲンガーさえ倒せたら終わりかな?」

「引き返している時に偶然会った冒険者ミネルヴァ様です! 現役では数少ないSSランクの冒険者ですよ! 女性冒険者の憧れの的です!」


 やけに興奮気味のチェリーと、やれやれと言った感じに解体を続けるチェスター。

 ミネルヴァの拳が手刀へと変わり、攻撃の速度が確実に上がっていく。


「あっ、今胸元カスッた! 絶対当てない気無いでしょ!」

「早く物理結界を覚える事ね? ほらほら、私は楽しいから、このままでも良いわよ?」


 天使御用達の服があちらこちら破れ始め、扇情的な姿になっていくのを止められない。CNT製の装備は傷一つ綻び一つ無いのでそこは安心できるかも?


「あらら……硬い装備ね? 剥くのは諦めましょう」

「はぁっ!? 今チラッと変な事言わなかった?」


 獲物をいたぶる猫のような気配を纏ったミネルヴァ。ボクは一刻の猶予も無い事を知る。

 イメージするのは攻撃を受けても壊れず、衝撃を流し、耐える盾。


「アテナ、私の攻撃をこれほど耐えた者は初めてよね? 楽しいわ!」

「そうですね、えぇ、これで暫くは大人しくしてください」


 従者――アテナはミネルヴァの問いに投げやり気味に答えると、一人でお茶を飲み始めてしまった。自分用に入れたお茶なのか!

 イメージするんだ――神話に登場するような、最強の盾……女神アテナが所持するアイギスの盾のような絶対の守り。


「あら? あらららら? あらら!」

「一撃弾いた!」


 右拳の一撃を防いだ物理結界は左拳の連撃により砕かれる。

 コツは掴んだしイメージもできた。後はイメージを補完して新たな結界のバリエーションとして記憶するだけだ。


「両足も使わざる終えないわね♪ あぁ楽しい、最高よ貴女!」

「簡便してください! ちょ、今、つま先で脇の下をえぐろうとしませんでした!? あぶっ!」


 両の拳から繰り出される砲弾のような一撃に両足から放たれる大気を裂く鋭い蹴り。結界を張るもすぐに連撃が加えられて砕かれていく。

 まだ足り無い、何か他の要素が……両手両足の攻撃を防ぐには――ん?


「そうか、相手が両手両足を使うなら結界を四枚にすれば良いのか。一撃は弾けるんだから四枚有れば全部弾ける!」

「あらら……?」


 動きを止めたミネルヴァは少し考える素振りを見せると、何故か右手を差し出してきた。


「右手? 何か?」

「右手を出してちょうだい。そして全力で手の平に結界を張るのよ?」

「はぁ……それで?」


 言われた通りに結界を張ると先ほどまでニコニコ笑っていたミネルヴァの目を見る。

 目が笑っていない、先ほどまで全身から発せられていた気配が無くなっていた。

 口元からこぼれ出る息吹がミネルヴァの周囲を別の空間に変えてしまったかのような錯覚すら覚える。


「マジデスカ?」

「はぁぁぁ……」


 逃げようにも、背後を向いた瞬間背中を殴らせそうな気がして動けない。念の為に右手の平に張った結界の強度を上げ、枚数も増やしていく。

 力を溜め終わったのか、息吹を止めて右手を腰の位置で固定したミネルヴァが動き始める。

 動き始めたと思った時には動き終わっていた。


「え?」

「痛ったい!」


 空間を振るわせる鈍い音。

 分厚い金属板を素手で殴ったかのような鈍い音と、拳の骨が砕ける音が同時に聞こえた。

 攻撃のモーションが抜け落ちたかのように右手を突き出した格好で止まるミネルヴァ。

 右手の平に張った結界は最後の一枚を残して砕き尽くされていた。


「手の治療を!」

「あらら~久しぶりに怪我したわ……」


 ニヘラと笑ってアテナに左手を振るミネルヴァ。アテナはそんなミネルヴァを見て苦笑いしていた。

 ミネルヴァは左手で腰のポーチから小瓶を取り出すと砕けた右拳に振りかける。見ているこっちが目を背けたくなるような損傷を負った右手は、一瞬光りを帯びると出血が止まった。


「全治三日って所かしら……まぁ、楽しかったから良いわ」

「何馬鹿言ってるんですか! 右手を貸してください」


 ミネルヴァの右手をひったくるようにして掴むと治療を開始する。

 何故か回復効果が余り発揮されず、いつもより治癒が遅い気が?


「温かい光り……。様子見だけのつもりが、なかなか楽しかったわ。さすがクリスティナが見込んだだけの事はあるわね。うん、勿体無いくらいよね?」

「止めておきましょうミネルヴァ様。クリスティナ様のレベル上げを手伝った貴女なら、その結果がどうなるか分かりますよね?」

「あのー? クリスの知り合い? アタッ?」


 お話し中の二人の間に顔を出すと何故か右頬を殴られてしまった。痛くも無いが反射的に言葉が出てしまう。


「今渾身の力を込めて殴ってみたのだけど……物理耐性系のスキルか特性持ちね? 普通なら首が飛んでるわよ?」

「キャー!? この人危ないよ! オーキッド、何で人を援軍に連れて来るの!」

「このお茶美味しいかな~」


 しれっと人を殺せる攻撃をしかけてくるミネルヴァから離れると、暢気にお茶を飲むオーキッドの元へと走り寄る。


「あ、追加の依頼が入ったかな?」


 オーキッドは懐から青白いベリルのネックレスを取り出すと耳元に近づけて小さく頷いている。

 こちらには一切聞こえて来ないが、誰かの話を聞いているかのように時々相槌を打っていた。


「サマードレスかそれに類する系装備で、長い黒髪に黒瞳で、真っ白な肌を持つ冒険者を確保して帰れってエウアが言ってるかな?」

「う~ん……その冒険者知ってる気がするんだけど? ねぇ、ミネルヴァ?」

「チッ……エウアは仕事がお早い事で」


 立ち上がり手を払うミネルヴァ。素直に帰ってくれるようなので一安心してオーキッドが手渡してくれたお茶を飲む。


「さぁ、アテナ。逃げるわよ!」

「ブウッ! 今の話の流れは一緒に戻って万々歳って感じじゃなかったの!?」

「お茶は美味しいけど……汚いかな」


 思わず噴出したお茶がオーキッドの顔面を直撃する。ペロリと顔を舐めたオーキッドは小さなタオルをベヒモス袋から取り出すと顔を拭いていた。

 逃げられる気がしたので、一息にミネルヴァとの距離を詰めて捕まえる。


「良い動きじゃない。今放してくれると良い事教えてあげるわよ?」

「報酬は金貨1枚らしいかな! 今日はもう戻っても大丈夫……かな!」


 一瞬オーキッドが遠い目をしたが、ここまでに回収した魔物の討伐部位や素材が有れば、ブラウニーも洋館に入れてくれるはず。ミネルヴァのサマードレスの肩を掴む手に力を込める。


「とりあえず戻りましょう。チェリーもチェスターもお疲れモードだと思うので、狩りがしたいのなら後日に好きなだけどうぞ!」

「はぁ……楽しくないわね」

「痛っ、いたた!? ナニしてるの? 痛い!」


 溜息を吐いたミネルヴァは、両手両足を使ってボクの体をホールドしてきた。体に吸い付くようにピッタリくっ付いたミネルヴァが少し動くと全身に激痛が走る。


「物理耐性持ちの弱点~♪ 超近距離からの間接部への攻撃が有効。放してくれないのならこのまま戻るまで絞め続けるわ!」

「あーっ! 腕がもげるよ! 股関節が外れる! 助けてオーキッドー!!」


 コブラツイストを貰っているような体勢になり、股関節がキリキリと広がっていく感じを味わう。

 久しく忘れていた痛覚が全身を襲い、涙が勝手に溢れて逃げ惑う。


「振り解けない! ちょっとごめんなさい、もう放します! 放しますから放してよー!!」

「チェリー、見ちゃダメだ」

「大丈夫、チェスター。ミネルヴァ様は破天荒って噂を聞いてるから」

「そろそろご飯を出して欲しいかな? とりあえずご飯を食べてから考えれば良いかな!」


 暢気に話し合う皆を余所に、ボクの目の前はチカチカと点滅して意識が薄れていく。


「気絶しようとしたって無駄よ?」

「ギャーーーッ!?」


 右肩が一回転したかと思うほどの力が加えられて意識がはっきりとしてくる。

 楽しそうに技をかけてくるミネルヴァは絶対Sの人だと思った。

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