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ボクが異世界?で魔王?の嫁?で!  作者: らず&らず
第6章 スカイオブプリンセス
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第132話 同じ匂いを持つ者

 城での変態三人の所業、色々とめんどくさくなったので、洋館に戻るのには停止飛行を駆使して空を飛ぶ事にする。

 城から一番近い衣類屋で、ディープブラックと呼ばれる黒豹の毛皮を丸ごと加工した外套を買う。

 洋館の食堂に置いてあった新聞モドキには、空飛ぶディープブラックなる魔物が居るとの報告があった。飛行中に目撃されてもこれで多少は誤魔化せるはずだ。


 建物の影から衣類屋の屋根へと登り、周囲を確認した後にディープブラックの外套を着る。準備万端で停止飛行を使い空へと舞い上がると、結界を張り自分の背後に生活魔法で突風を起こす。


「何だ? 突風か!? 俺のパンツが飛んで行った!」


 結界に当たって下に逃げた風が宿の窓を直撃したようで、若い冒険者の声が聞こえてきた。心の中で謝ると更なる加速をおこない洋館を目指す。


「野郎だったし放置だね」


 誰も聞く人は居ないが思わず呟く。

 誰も居ない? 本当に誰も居ないのか?

 停止飛行で急旋回を行い慣性の法則を無視した動きで上空へと舞い上がる。


「誰も……居ないか。居ないよね? MAPも見とこうか……」


 周囲に人の気配は勿論、飛行する魔物や鳥類の姿・気配も無い。念の為にスマホMAPで確認するも、周囲に子機の反応は無く、眼下に広がる街並みに居る街人が小さい点となって表示されていた。

 それにしても先ほど【EMC】を使い緊急招集をかけたわりに皆の反応が無い。一言くらいメールがあっても良いと思って悲しくなってきた。


愛姉(あいねえ)、会いたいよ……」


 小さな声で呟いてみるも、相変わらず周囲に反応は無い。

 演技力が足り無かったのか、それとも本当に居ないのか? マーガレット直伝の嘘泣きも使ってみようかな?


愛姉(あいねえ)、ぎゅってして欲しいのに……」

「カナタ……もう離さない。私が守るよ?」


 ホロリと涙を流して呟くと、変態が一匹釣れた。

 背後から前に回された両手はしっかりお腹の前でクロスしてボクを抱き締めている。


「つ~かまえた!」

「!? 痛い! 親指が曲がらない方向に曲がってるよ!?」


 とりあえず親指を曲がらない方向へと捻りながら愛姉(あいねえ)の束縛から逃げる。


「何で前に渡したスマホ子機がMAPに表示されないの? ずっと隠れてボクをストーカーしてたの?」

「位置情報の表示をOFFにすれば表示されないよ? そして、全ては愛だよ」


 スマホを操作してみると位置情報のON・OFFという項目を発見する。考えてみれば当たり前だ。

 画面を見て操作している隙に愛姉(あいねえ)はスルリと親指を抜いて一歩下がっていく。


「むむ~、心配なのは分かったけど……アウラは知ってるの?」

「ぎくりっ! 一応知ってるよ! 本当だよ?」


 目をそらしてしどろもどろに答える愛姉(あいねえ)は胡散臭い。


「はぁ……まぁ良いよ。さっきはその、何と言うか……ありがと。それだけ! ボクが心配なのは分かるけど、アウラや他の嫁達の事もちゃんと見てあげてね!」

「あ、カナタ! ちょっと待って――」


 初めはストーキングについて問い詰めようと思っていた。

 お礼を言った瞬間の愛姉(あいねえ)の笑顔を見ると、急に恥ずかしくなり逃げるようにして飛び出してしまう。


 全力で飛ぶと結界の周りに氷が付き始めたので、途中から速度を落として洋館の庭へとゆっくり下りていく。

 洋館の入り口には、何故か扉の前をウロウロするオーキッドが居た。時折、扉に手を伸ばしては引っ込めている。明らかに不審な動きだ。

 そっと近寄ろうと背後から忍び寄るも一瞬で気がつかれてしまった。

 振り向いたオーキッドと目が合うと、何故か尻尾を振りながらこちらに近寄ってくる。


「どうしたの?」

「何でも無いかな~? さ、中へ中へ」


 オーキッドに押されるまま扉の前へと移動すると、取っ手を握って扉を引っ張り開ける。

 開いた扉の隙間から赤黒く光る丸い目が八個こちらを見ていた。


「ひゃっ!?」


 思わず手を離すと扉は閉まってしまう。改めて取っ手を引いても開く気配が無い扉。


「やっぱりかな……」

「扉が開かなくなったんだけど、どういう事?」


 背後でオーキッドが呟いたので、この現状を理解していると判断して聞いてみる。


「これは……洋館への貢献度が底に付いたのかもしれないかな?」

「何それ? ボクは結構洋館へと貢献してると思うんだけど?」


 オーキッドの言う事が本当なら、魔力を提供しているボクが入れないはずが無い。

 丁度喉が渇いたのでブラウニーにドリンクでも頼んでみようかな?


「あー、ブラウニーさん? 喉が渇いたのでモウモウのミルクとか欲しいかな~」

「あ、開いたかな」


 扉が開くとブラウニーの手が外へと伸ばされ、手に持ったコップを二つ渡してきた。

 コップを手に取ると閉まる扉……コップには水が注がれていた。


「んむ、美味しい真水かな?」

「んん、美味しい――水だね……」


 オーキッドと二人、洋館の前で真水を飲む。ボクの肩をポンポンと軽く叩いて、首を左右に振るオーキッド。


「どうしてこうなった……何かの間違いじゃ!」

「現実はここにあるかな? 皆が戻ってくる前に何とかしないと、大変な事になるかな……」


 オーキッドは空になったコップを二つとも扉の前に置くと、頭を抱えて呟いた。

 洋館を根城にする有力クランの盟主二人が洋館から締め出されるの図、を脳裏に描き二人で顔を強張らせた。


「良く考えたらボク……冒険者ギルドに全然顔出してない」

「あたいはずっとクラン員を募集していただけかな?」


 お互い思い当たる節を言葉に出すと小さく頷く。


「言いたく無い事なんだけど、オーキッドはクラン員を際限無く募集して、どんどん洋館に負担をかけてるんじゃない?」

「カナタはゴロゴロしてるばかりで、全然依頼受けに行ってないかな?」


 オーキッドとボクは、お互い思う事は飲み込んで軽く肩を叩き合う。


「冒険をしよう! 依頼を受けるよ!」

「方針が決まれば後は行動するのみかな!」


 決意を新たに、ガッチリと手を握り合って二人頷きあう。

 突然大きな音と共に洋館の扉が開きオーキッドの装備一式と、予備に作って置いてあった黒バックが一つと布の背嚢が二つ、まとめて外に投げ出された。開いた扉の隙間から見えるブラウニーの目は十六個に増えていた。


「よし! 冒険者ギルドまで競争だよ~」

「負けないかな~」


 震えて尻尾を丸めたオーキッドと二人、全力で冒険者ギルドへと疾走する事となった。




 ――∵――∴――∵――∴――∵―― 




 有名なギリシャ風神殿造りの入り口を抜けると、真新しい扉がボクとオーキッドを迎えてくれる。

 扉を新調したのか、優しい木の香りがして心が落ち着いてきた。

 冒険者ギルドへと二人で入ると、何故か中に居る冒険者達の視線がこちらに突き刺さってくる。目を合わせようとすると目をそらされる。


「何か分からないけど、今グットラックって言われたかな?」

「嫌な予感がする、でも背に腹は変えられないよ?」


 ビクビクするオーキッドの手を引っ張り依頼の張られている板を確認する。

 張られている依頼書が少ない気がする? 何故か張られているのは日数がかかる遠方への護衛系の依頼ばかりだ。


「あー、まずいかもしれないかな……」

「何で遠方への依頼ばっかりなのかな?」

「カナタ、もうすぐ冬が来るかな……」


 冬が来るのと依頼が減るのの因果関係が分からない、単純に考えると寒くなり外に出たくなくなると言う事?

 オーキッドの反応や周りの冒険者の様子を窺うとそうでも無いような、他に何か理由がありそうだ。


「まぁ、(じゃ)の道は(へび)と言う言葉があってね? 依頼が無いのなら依頼を斡旋して貰えば良いじゃない~♪」

「大丈夫かな……」


 オーキッドにスマホから出したカナタクッキー(わいろ)の詰め合わせをチラ見させて、二人でカウンターへ向う。依頼が少なく人もまばらな為、並ばずにカウンターを利用できるのは良いが、渡す相手次第で印象はプラスにもマイナスにもなる。ここは性格を理解できている見知った相手を選ぶのがセオリーと言うものだろう。


「シルキ~♪ ちょっとお願いがあるんだけど?」

「もうしわけございませんが、現在依頼を斡旋する事はできません」


 いきなり先手を打たれた。依頼の張られている板の前で騒いでいたので聞かれていたのだろう、即答である。カナタクッキー(わいろ)の詰め合わせをチラ見させても首を横に振るだけで進展は無かった。


「むむむ~……ん?」

「本当にもうしわけございません。またのご利用をお待ちしております」


 残念そうに頭を下げてくる犬耳受付嬢のシルキーは、小さなメモ用紙のような物を丸めて握らせてくれた。

 もしやと思い、オーキッドと二人椅子に座りメモ用紙を広げて見る。


「後でください。って書いてあるかな?」

「「「「「シールーキー!」」」」」

「キャー! ちょっとした出来心なんです、後で貰って皆さんに分けるつもりだったんです! 本当です!」


 シルキーがカウンターから飛び出し逃走を図るも、他の受付嬢に捕まってロープで椅子に縛り上げられていた。冒険者達もマッタリムードでその光景を酒の肴に酒を飲み、何事かと階段を下りてきた2Fの受付嬢も縛られたシルキーの姿を見ると納得したように頷いて戻って行った。

 シルキーの代わりにカウンターへと立った猫耳の受付嬢は、差し出したカナタクッキー(わいろ)の詰め合わせを両手で大事そうに包み持つと、苦渋の選択をしたかのように泣きそうになりながら付き返してくる。


「これを、貰う事はできません……あの子達が稼いだお金で買った物ですよね? 盟主として恥ずかしくないんですか?」

「え? 何の事?」


 猫耳受付嬢の頬を伝う一筋の涙。貰い泣きする他の受付嬢まで出てくると、冒険者達から非難するような視線を貰い始める。

 話が見えない、隣で首を傾げるオーキッドと二人途方に暮れる。


「カナタ様とオーキッド様は! クラン員の方々に過度とも言えるペースでの依頼を日々受けさせ、その上がりを半分徴収して私腹を肥やしていると噂になってますよ!

 私、二人がそんな人じゃないと分かってます! 分かってますけど……働いてください。

 二人は依頼実績が無さ過ぎます。それこそ、このままではランクの降格すら話が出る可能性が有るほどに……」

「「!?」」


 涙を流して熱弁する猫耳受付嬢の前で、オーキッドと二人顔を見合わせた。お互い頬が引きつりあがって半泣き顔になっている。

 静かに頷くとオーキッドも小さく頷き返してくれた。


「ボク達に依頼をください、できるだけ実績になるような、もし良かったら儲かるような……」

「冬虫が降り始める前に終わるような、多少厄介でも良い……もう後が無いかな」


 二人で頭を下げるとカウンターを見たまま固まる。下げたままの視線に一枚の依頼書が入り込んできた。


「そう言ってくれると思ってました。エウア様の言う通りですね♪」

「「??」」


 カウンターの脇に置いておいたカナタクッキー(わいろ)の詰め合わせを回収する手が見えたので、二人揃って頭を上げると笑顔の受付嬢達が目に入る。

 一人一枚ずつクッキーを籠から取り隣の受付嬢に渡していく様子を眺めながら考えを整理する。


「エウアが……何か言った?」


 縛られたシルキーは最後に周ってきた籠からラスト一枚のクッキーを取ると笑顔で頷いた。きつく縛られているように見えたロープは、背後で結び目を緩めてあったらしくスルリと立ち上がるシルキー。


「寒いので誰も依頼を受けてくれなくて助かりました。アルバート様とジークフリード様からもカナタ様へよろしくと承っております」

「え? あの二人にも話が行っていた依頼?」


 嫌な予感がし始めたので、後ろに下がろうとしていたオーキッドの手を強く握ると話を促す。


「ダンジョン『愚者の王墓』調査依頼です♪ 一時封鎖していたダンジョンを再解放する為の調査を依頼いたします。ついでなのでこちらが指定する冒険者の指導もお願いしますね?」

「指導……ちょっと用事を思い出したかな」

「ヘイッ! ウェイト、待って! オーキッドは連名で強制参加らしいよ?」


 話を聞き終わると逃げる準備を始めていたオーキッドは、依頼書に初めからサインされている自分の名前を見て肩を落としていた。


「これって――」

「拒否権は有りません♪ エウア様から直々に依頼を出された物なので、強制依頼と受け取って貰っても構いませんね」


 冒険者ギルド内の酒場からはこちらを指差し笑っている冒険者達が居る。

 何か、舐められている気がするのは気のせいだろうか?

 受付嬢達は概ね同情の目でこちらを見ていたが、シルキーは楽しそうに笑っていた。


「はぁ……んん。分かったけど、ちゃんとした報酬が出る依頼なんだよね? こっちは今日帰れるかの瀬戸際だからそこら辺ちゃんとして貰わないと、ねぇ? オーキッド」

「なるようになるしかない……かな?」


 溜息を吐いてオーキッドの肩を叩くと、依頼書を手に取り報酬の確認を行う。こちらの様子に首を傾げながらも猫耳受付嬢はもう一枚の依頼書を重ねるように渡してくれた。


「相場がわかんない、オーキッド見て?」

「ん~この時期に出る依頼としては破格だと思うかな?」


 二枚目の依頼書には、冒険者ギルドの素材庫から一定量の素材を持ち出す権利と半銀貨2枚を報酬として支給するとの旨が書いてある。


「まぁ、いっちょやってみますか!」

「がんばるかな!」

「それでは、一緒に調査に向う冒険者達とはダンジョン前で合流してください。時間は丁度三度目の鐘がなる頃ですので、遅れること無きようお願いいたします」

「「「「「行ってらっしゃいませ」」」」」


 受付嬢一同が一斉に頭を下げて送り出してくれる。

 初めは何のコスプレかと思っていたが、メイド服を着ているだけあってキビキビとした動作で本物のメイドさんみたいだ。

 本物のメイドさんを見た事が無いボクが言うのもなんだけど、何と無く頑張らないといけない気がしてきた。


「よっし! 時間までに用意を……ん!? オーキッドは準備万端だけど、ボクは着の身着のままだったよ! 一式スマホに入ってるとは言え、ちょっと暖かいご飯を買出しにいこうか?」

「カナタの奢りかな!?」

「OKOK、食べる物をケチるようになったらお終いだよ! 買出しして急いで集合地点に向おうか~」

「了解かな!」


 オーキッドがボクの右手を握り締めたまま全力で走り始め、二人で大通りを疾走して食べ物屋台を目指すのだった。


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