表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ボクが異世界?で魔王?の嫁?で!  作者: らず&らず
第5章 カナタズブートキャンプ
173/224

SS 変態と修羅場

 四度目の鐘が鳴った後、燻製の収納はフェリに任せてうちはキャロルと二人で巡回に出る。ついでにブラブラしているカナタを探す。

 匂いを辿るのとスマホのMAPを見るの、どちらが楽かと試しながら探していると変な光景に出くわした。

 黒い大きな建物の前のベンチに座り溜息を吐くカナタ。そのカナタを建物の影から眺めるサーベラス。そのサーベラスを更に別の建物の影から眺める愛桜の木チップを持って来てくれる人。


 うちは愛桜の人に注目する。堂々と通りを歩いてサーベラスの元へと歩いていくその人は、真っ黒な外套を着て大きなタオルを嗅ぎながら鼻の下を伸ばして歩いている。明らかに不審者と一目で分かる怪しい人なのに誰も注意を向けていない。ぶつかりそうになった人も極自然に愛桜の人を回避していた。


「キャロル、あの変な人……大丈夫じゃないとうちは思うんやけど」

「あんな所にサーベラスがいますわ。変な人? 目立つような変な人は……居ませんの」


 うちの野生の感が、あの人は赤い丸と同じで他の人に見えていないと告げる。

 キャロルに位置を教えて見て貰っても見えていない、首をかしげてうちのオデコに手を当てるキャロル。


「熱は……普通? 朝食べた物は同じで……ルナ、何かつまみ食いしました?」

「今日は特に食べてないけど……どうかしたん?」


 後ろで考え込んでしまったキャロルを放置してサーベラスの方へ視線を戻す。

 サーベラスの真後ろに立った愛桜の人は、気が付いていないサーベラスの真横に立ち同じようにカナタの様子を窺っていた。


「あ!? サーベラスの隣にいきなり人が……ルナ?」

「見えるようになった? どうやらうちは新しい力に目覚めたらしいで!」

「しっ……あちらに気が付かれますわ」


 自慢気に言うとキャロルに口を押さえられた。うちはサーベラスと愛桜の人に意識を戻して耳を澄ます。


「……私は井出(いで)(あい)、カナタを守護する者だよ! 慰めてくれた犬君には良いモノをあげよう……」

「サーベラス何か貰うみたいやね。あと、あの人井出(いで)(あい)って名前らしいで?」

「確かラーズグリーズの町の外に住んでた人? 全然聞こえませんわ……」


 サーベラスの首に何かかけた愛桜の人を眺めていると、隣にいたサーベラスが舌を出して尻尾フリフリで飛び跳ね始める。よっぽど嬉しい物を貰ったのか初めて見るほどのはしゃぎ様だった。

 うちはちょっと胸がチクリとしてキャロルの手を握る。

 急に手を握られたキャロルは一瞬驚いた顔をして、うちを背後から抱き締めてくれた。


「「あっ」」


 うちとキャロルの声が重なった。愛桜の人が離れて行った後、サーベラスが何も無い空間を足場に家の屋根へと駆け上がった。


「ワン! ワオ~ン!」


 嬉しそうに遠吠えして空を走っていくサーベラスを眺めるうちとキャロル。


「サーベラスは……飛べない事を悩んでたのかも知れませんわ」

「うちはもっとサーベラスの気持ちを考えた方が良かったんやね――」

「あっ、カナタが移動しますわ!」


 うちがしんみりと考え事をしていたら、カナタと愛桜の人が移動を始めた。キャロルに引きずられる様にして後を追う。来た道を戻って東門の方へ向うみたいやね。


「どんどん人気の無い場所に移動しているような気がするで?」

「今思ったんですけど、これカナタにスマホMAPチェックされたら一発で位置がバレルようなきがしますわ……」

「それは無いで? うちはカナタの行動を把握してるけど、カナタはあまりMAP見ないし、少し気配を消すとすぐに見つからなくなるで?」

「強者の余裕と言うわけですの?」


 心配性なキャロルに、安全やと言い聞かせると追跡を続ける。

 忍び足で追う……うち達が辿り着いた場所は、城壁に沿って建てられている怪しい建物だった。

 カナタは何故か黒猫に手を噛まれたまま、怪しい建物へと入っていく。愛桜の人は入り口横の窓から中を覗き込んでいた。


「今気が付きましたけど、これ……ルナと私も十分怪しい人ですわ」

「うちは気配を消してるから問題無いで? キャロルは姿が元に戻ってるけど大丈夫なん?」

「あっ」


 講習会から戻ってずっと元の姿に戻っていたキャロルは、スキルを使って変身し忘れてたようで自分の顔を触って固まっていた。


 不意に背後から近寄ってくる気配を感じてルナスペシャルの準備をする。


「ちょーっと待て! 俺だからな? ルナ、その物騒な爪を引っ込めろ」

「ジークフリード? 何してるんですの?」

「あー? 嬢ちゃんはお初か……いや、待てよ。嬢ちゃんの顔、どこかで見た事があるような……」

「あれやで! ジークフリードは何してるん? 今日はお休みなん? あの大剣貰ってヘラとの仲は大丈夫なん?」


 ジークフリードはキャロルの顔をマジマジと見つめて、一瞬固まると顎に手をやり考え始めた。

 うちは咄嗟に話題を変える方向で上手く話しを持って行く事にする。


「あ、あぁ、それな! カナタが用意してくれた短剣のおかげで命拾いしたぜ! 何せ魔力を使わずに振れば火が出る短剣だからな、炎龍――あの短剣、名前の通り魔力次第では化けるぜ? 全力の俺が振るとこれくらいの火の玉が出るんだぜ!」


 自慢気に言うジークフリードは両手を広げて自分の背の高さほどの円を描く。上手く話しをそらせた様なのでキャロルには帽子を被っていてもらう。


「!?」


 いつの間にかジークフリードの真横に移動していた愛桜の人は、耳元で何かを呟くと一歩離れる。


「どうしたんだ? 額に汗なんかかいて……あ、そうだ。ヘラに買い物頼まれてたの忘れてたぜ――またな」

「また今度~ルナ? どうしたんですの?」


 ジークフリードは突然何か思い出したかのように言うと、愛桜の人が目に見えていないかのように来た道を戻って行った。隣に立った愛桜の人に気が付いていない?

 うちは何か嫌な予感がしたのでジークフリードを見送るフリをしてキャロルの手を振る。

 キャロルには愛桜の人は見えていないみたいやね。


「きゃろる、うち、そろそろお腹すいたで。ちょっとラビッツ串買いに行くで」

「ラビッツ串ならここにありますの」


 目の前少し横に愛桜の人はまだ立っている。ラビッツ串を買いに行くと言って移動しようにも、姿の見えていないキャロルは黒バックからラビッツ串を取り出してしまった。

 一歩、一歩と確かめるようにこちらに近づいてくる愛桜の人。これはまずいかもしれんね。


「いつも愛桜チップのご購入ありがとうルナ? 見えているよね?

 その目……珍しいね。ステルスモードの私を見つける事が出来るなんて……先天性の稀少スキル?」

「ルナ? どうかしたんですの?」


 愛桜の人の手がうちの目に伸びてくる。うちは瞬き一つできずに震える事しかできなかった。

 隣で首を傾げたまま肩を叩いてくるキャロルには、まだ愛桜の人の姿が見えていないみたいやね。


「【紅の瞳】? こんなレア中のレアスキル、一体どこで生まれたのかな? このままだと、今後に色々支障が出るよね……ルナ?」

「アレ? あの人はどこに……ルナ?」


 キャロルと愛桜の人が同時に問いかけてくる。

 うちの目の前で広がった愛桜の人の手の平から、人差し指と中指が目の前に伸びてきた瞬間――うちは覚悟を決めた。


「えっ? ルナ! 何でお漏らししてるの!? はっ! まさか見えない人が近くに居るんですの?」

「え? ちょっとどうしたの!」


 察し良くキャロルはうちの状態に気が付いてくれた。目の前で慌てる愛桜の人の手を、キャロルがカナタ槍を振るって払いのけるてくれる。


「アレ? いつの間にかこっちに来てるわ!」

「ちょっと待って! 何か誤解してるから。私はルナに何も危害を加える気は無いんだよ?」


 体が動くようになった。涙がこぼれ出て、うちは思わずキャロルに抱き付いた。


「それ以上近づいたら【EMC】使うから! カナタならすぐに飛んでくるわ!」

「うち、目をくり貫かれると思ったで……」

「ちがっ! 違うんだよ! 感度が良過ぎるみたいだから、スキルに調整を入れようとしただけで、カナタの大事な人に危害を加えるとか無いから!」


 うちとキャロルは抱き合ったままジリジリと後ずさる。もうすぐで建物の影から出て大通りに出れるというところで何かが背中に当たって下がれなくなってしまう。


「落ち着いて話をしようか? 結界張ったから姿も声も、多分そのスキルも外には漏れないんだよ?」

「「!?」」


 そう言ってニヤリと笑う愛桜の人を見たキャロルの反応は早かった。素早くスマホを操作して【EMC】を使い反応が無い事を確認すると、カナタ槍を短く持ち替えて魔法詠唱に入る。


「魔法を使うと見せかけて! 【糸を紡ぐ三人の乙女(スピン・ア・ヤーン)◇彼方】!」

「「まっぶし!」」


 キャロルは変身スキルに登録したカナタの姿を呼び出したようやね。

 うちはキャロルが急に光ったから目を押さえてうずくまった。何故か愛桜の人も地面に膝を付いている。


「二人とも何してるんですの? 今から魔法でそっちの変態を……?」

「目がー! キャロルがカナタになる瞬間光って目がー! うち前見えへんで!」

「魔力光を直視して目がー! 油断してた。こんなに強い魔力光出せるなんてどんなスキルなんだい!」


 どうやらうちと同じで愛桜の人も行動不能になっているようなので安心する。


「もう少しで目が慣れる、ちょっとそこら辺動かないでね?」

「キャロル! まずいで、相手の方が回復が早いで!」

「ルナは自分に治療を! 変態は束縛しておきますわ!」


 うちは元気の良いキャロルの声を聞いて治療を開始する。両目に手を当てて両手から治療を使うと目を刺すような痛みが急速に引いていくのを感じた。


「大地の精霊よ! 我が手に集いて、かの者を戒め……えっ?」

「ぐっ、お、おも、い。ぎぶ、むり」

「キャロル……何したん?」


 うちは目が回復してきたので薄目で様子を窺う。何故か首を傾げてこちらを見ているキャロルと、巨大な岩の塊に押しつぶされている愛桜の人が視界に映った。

 見た感じ重そうな岩の塊は隣の家の屋根より高さがあった。家の壁などに傷は無く、どうやってこの隙間に持って来たのか謎やね。


「ただ普通に精霊魔法を? 小さき氷の精霊よ! 我が前に現れ、かの者に氷の洗礼を……」

「いやーん!? 痛い! 冷たい、寒い、凍える!」


 殆ど治った目でキャロルの所業を見つめる。

 岩の塊に押しつぶされそうになっている愛桜の人に、氷のつぶてが激しい勢いで降り注いでいた。

 すぐ側の地面に氷の塊がめり込んでいる……かなり痛そうやね。


「なかなか微調整が難しいですわ! 小さき火の精霊よ! 我が前に現れ、かの者を温め……」

「あーん!? 熱っい! 小さい火どころじゃないって! 岩がとろけてる! 背中が燃えてるよ!?」


 岩に押しつぶされて氷のつぶてでボロボロになった愛桜の人に、更なる苦難が訪れている。

 岩の塊の上から落ちてきた無数の火の玉が、岩の塊を溶かしながら愛桜の人の背中へと降り注ぐ。


「漂う水の精霊よ! ちょっと、ほんのちょっとだけ、かの者に降り注ぎ……」

「アッー!? 火傷に水鉄砲が! 痛いどころの話じゃないよ! 背中の皮が剥けるから! 降参だよ!」


 ビクンビクンと怪しい痙攣を繰り返す愛桜の人を見てキャロルは攻撃の手を止める。

 うちはそっとキャロルの背後に回ると、何かあった時に抱えて逃げれるように準備をする。


「あれ? キャロルがキャロルのままやで?」

「ルナ、言葉が変? 姿が変わってないんですの?」


 自分の顔をペタペタ触るキャロルの目の前に右手をかざすと、うちは生活魔法で小さな氷の板を作り出す。


「ルナ……すっごいドヤ顔ですけど、全然反射してないですわ」

「何でや……アヤカはこうやって顔見てたで?」

「多分それはガラスかな? 氷じゃ難しいと思うよ?」

「そうなん? ガラスってどう作るん?」

「それはね――」


 気が付くとうちとキャロルの肩に腕を回すようにして鏡が差し出されていた。この場で動けるのは三人しかいない、うちとキャロルと愛桜の人やね。


「いつの間に、怪我が治ってるわ……」

「動いたら首が飛ぶで、この鏡めっちゃ鋭い感じがするで!」

「えっ!? 違うよ! 私とカナタはラブあんどピースだから! カナタの眷属ならライクあんどピースだよ! ちょっと聞いてる?」


 少し手が滑ればうちとキャロルの首は落ちる。結界を張ろうにも接近され過ぎていてお手上げやね。

 焦った声を上げて言い訳を始めた愛桜の人の言葉は耳に入ってこず、うちの脳裏に昔の光景が思い浮かんできた。

 隣にいるキャロルの指がうちの指と絡まって強く握られる。


「何やってるんですの?」

「「マーガレット!」」

「あっぶな!?」


 何故か結界内に居る筈の無い人物がいた。うちとキャロルは思わず抱きついてしまう。

 首筋ギリギリで差し出されていた鏡は消えて、当面の危機は去ったみたいやね。

 ジロリと背後を睨むと、額から脂汗をかく愛桜の人がいた。


「あれ? 何でルナとキャロラインが居るんですか?」

「話せば長くなるんやで?」

「そこの変態に殺されそうになりましたわ!」

「えぇぇ!? ちが、違うよ?」


 うろたえる愛桜の人をジト目で見つめるマーガレット。うちはロッティの背後に隠れて様子を窺う。


「遊びはもう終わりです。まおうさんは警備に戻ってください」

「分かったけど、誤解は解いていて欲しいんだよ……」


 マーガレットの一声で簡単に撤退していく愛桜の人。


「忘れ物」

「ひゃっ!」


 いきなり振り返るとうちの目の前に指が二本伸びてきた。触れるか触れないかのギリギリまで伸びてきた指からは温かな光りが溢れ出て、うちの目の前が真っ白に光り輝く。


「これでスイッチの切り替えができるはずだよ? それじゃ、またねルナ」

「目がしぱしぱするで!」


 目蓋を開け閉めしていると、先ほどまであちらこちらに映っていた赤い丸が消えたり付いたりする。うちは全身の力を抜いて周囲を見る。


「赤い丸が見えなくなったで! あれ? また見えたで」


 途中から目に力を込めるように周りを見ると、またあの赤い丸が見え始めた。


「ルナ、今度見つけたら見えない振りして魔法当てますわよ!」

「キャロル、怒ったら駄目やで?」


 地面をグリグリと蹴るキャロルは、愛桜の人が居なくなった事で残った岩の破片へ、火の玉を飛ばして八つ当たりしている。


「あれ? もう変身が解けましたの」

「カナタモードは謎やね? 魔法が強くなるけど、うちが見た感じ外見に変化は無かったで?」


 身体に変化が無いか飛び跳ねて確認しているキャロルを置いといて、マーガレットの方へと向き直る。


「今日は帰ってくるん?」

「やっと用事が終わったので戻りますの」

「ふぅー、やっと解放されますよ~」


 右手でお腹を擦りながら言うマーガレット。うちはお腹が空いたのかと思いラビッツの燻製を出す。


「幸せでお腹いっぱいですわ~♪」

「変なマーガレットやね……あれ? ロッティだけ気配が二重になってるで?」

「二重って何ですか!? 身体に悪そうな気がするんですが……」


 注意深く気配を探ると、ロッティのお腹の辺りにもう一つ弱い気配が重なっていた。


「ここら辺から気配がするで?」

「あら? ロッティもオメデタ?」

「え゛、だって、初めの一回しか……?」


 頬がたるみきった笑みを浮かべたマーガレットがロッティの肩を抱き寄せる。お腹を擦ってあげながら額と額をくっつけて仲が良い姉妹みたいやね。


「私と同時くらいかしら♪」

「でも、そんな簡単にできるんですか?」


 マーガレットは弾む声を隠しもせずに歌う様に言うと、ロッティとお互いにお腹を撫で合っている。


「ロッティはオメデタなんやね?」

「私とロッティは先にこうなりましたけど、ルナ達も時が来ればちゃんと愛して貰えますわ~♪」

「ん? ルナ、気配が二重って……ロッティだけ?」


 歌いだしそうなマーガレットの横で話に入ってきたキャロルが問う。うちはさっきからロッティだけと言っているのに何でかな?

 マーガレットのお腹を撫でる手が止まり、隣にいたロッティは目が真っ白になっている。


「そうやで? ロッティはオメデタなんやね。マーガレットは太り過ぎやと思うで?」

「「え゛?」」


 笑顔のまま固まったマーガレットと、目が白目になっているロッティが同時に聞き返してきた。


「大丈夫ですよ! 大丈夫ですよ! 大丈夫ですよ!」

「うふふふふっ、うふっ、ふふふ……」


 壊れたように大丈夫ですよ、と繰り返すロッティ。そのロッティの肩にはマーガレットの手が乗っており、逃がさない、とばかりに掴んでいる。

 一頻り笑うとロッティの背中を撫でて大きく深呼吸するマーガレット。

 僅か数分の間にロッティの目の下には真っ黒なクマが現れる。


「カナタを貸すのは数日という約束ですの♪ 二日も数日も一緒ですわよね?」

「一緒です! 一緒ですよ! 手を放してください!」


 マーガレットがロッティに言い聞かせるように何度も何度もそう言っていた。

 うちは怪しい家の前に止まった馬車へとロッティを引きずりながら乗り込んでいくマーガレットを見送る。


「うち……何かまずい事言った?」

「最悪の事態だけは、未然に防げたと思いますわ……」

「あっ、カナタが出てきたで」


 建物の影から馬車に乗り込むカナタを見送る。マーガレットを止めれるのはカナタだけやね。


「戻りましょう」

「カナタは数日帰って来ないみたいやね。戻ってきたらビックリさせれるように何か凄い事するで!」

「漠然過ぎてどう言って良いかわかりませんわ……」


 カナタが戻ってきたら驚くような何かをしたい。うちはそう思って色々考える事にする。

 溜息を吐きながらもキャロルはうちの手を握ってくれた。もうすぐ五回目の鐘が鳴る。

 うちはフライングラビッツの売り上げを取りに行っているフェリが、大金を抱えて戻ってくる前に燻製工場に戻る事にした。




 ――∵――∴――∵――∴――∵―― 




「クォーーン」


 カナタは夜になっても洋館に戻ってこなかった。

 晩御飯を食べている時に、ロッティからメールで数日クリスティナの家に泊まるから、と全員に連絡があった。

 皆寝静まった夜、カナタが眠っていた場所には毛皮に包まったロッティの姿があった。

 うちが寝顔を見ると、クマは無くなっていて幸せそうな顔でスヤスヤと眠っていた。その隣で眠っていたはずのマーガレットの姿は見えない。


「クォォーーン」


 建物の真上から鳴き声が聞こえてくる。


「キャロル――起きてる?」

「聞かなかった事にしてあげるんですの」


 うちがキャロルに声をかけると、あちらこちらで寝返りを打つ気配がした。


「クォォォーーン……」


 一際大きな鳴き声が聞こえて皆は静まり返る。

 数分経ったころ、部屋の扉が開いて大きな欠伸をしながらマーガレットが戻ってきた。

 先ほど寝返りを打っていた皆は完全に気配を消して寝た振りをしている。


 静かに歩いてロッティの側まで歩いて来たマーガレットは、ロッティの包まる毛皮の中に滑り込むと静かに寝息を立て始める。うちはそっとその様子を盗み見る。


「大丈夫そうやね」

「「「「……」」」」


 あちらこちらから腕が伸び、握り拳に親指を立てていた。


 うちが見たマーガレットは、ロッティの頭を大事そうに抱えるようにして眠っていた。

次話で幕間を挟んで次章に進みます。

フェルティ・アズリー・レオーネ・メリルの四人が、王都で何をしていたのかと言う話予定です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ