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ボクが異世界?で魔王?の嫁?で!  作者: らず&らず
第5章 カナタズブートキャンプ
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第113話 それって食材?

 アルバートのかけ声と共に、全員揃ってダンジョンの中へ移動する事になる。

 成長した植物でも膝丈のサイズ、所々に木々が生えた緑の広間に舞い戻ってきた。相変わらずラビッツ一匹すら生えておらず獲物になりそうな生き物も居ない。


 野草や木苺などを採った場所にまた歩いて行くと不思議な事に気が付いた。

 昨日根こそぎ採り尽くしたはずの野草や木苺がまた同じ場所に生えている。

 新人達も首を傾げて昨日と同じ場所から同じ物を収穫していた。


「昨日とは違い、今日は効率良く収集出来るでしょう。自分のPTで満足出来る量を確保出来た者達から集まってください」


 アルバートはそう言うとフラフラと広間を周り始める。

 昨日は皆が採っている植物にしか手を出さなかったので、今日は左目で鑑定しながら色々採ってみるのも良いかもしれない。

 手近な木に生っていた赤紫色の1cm球くらいの木の実を取り左目で見てみる。



『ゴブリンホオズキの実』

 一見ラビッツホオズキの実と似ているが毒を持つ果実。良くゴブリンが間違えて食べてトリップしているのでこの名が付いたと言われている。非常に甘く美味しい。


「あー、そこ。鑑定類のスキルや技能は禁止だ。次やってるの見たらエウアからペナルティだそうだ」

「了解~。エウアがヨダレ垂らしているのでもうやりません!」


 ヤル気の無いジークフリードの注意を受け振り返ると、垂れたヨダレを拭おうともせずにこちらを凝視しているエウアが居た。伸びた牙を隠そうともせず生唾を飲み込むその仕草が何をしたいのかを物語っている。

 一気に左目の優位性が失われてしまった。周りの新人達が選ぶ物と同じ植物なら少なくとも毒に当たる可能性は無いはず?

 適当に同じような野草や木の実や苺に似た木の実を、なるべく手付かずのエリアから採取する。


「うちは気が付いたんやで? ココに生えてる植物はほムグッ?」

「ん? ルナ何か言った?」

「ルナとメアリーは特別観戦席で見ていてもらいましょう。それとその連絡を取るスキルも一時禁止です」


 ルナの口を押さえたアルバートがメアリーの手を取り後ずさっていく。何か大事な事をルナが言いかけた気がするが聞き取る前に連れて行かれてしまった。

 他の者達が手を出していないエリアには、棘の生えた木や足に絡まる蔦などいやらしい植物が多く生えている様で、新人達が近づかない理由も何と無く察する事が出来た。

 棘に毒でも有ったら大変だし、もし魔物が潜んでいたら大問題だ。誰しも怪我はしたくないって事かな?

 青色のアケビの実っぽい果実、白いバナナの様な果実、ちょっと大きめの蜜柑の様な果実もある。


「おっ? 無花果(イチジク)の実だ! これ結構好きなんだよね~」


 その無花果の木は周りにペンペン草っぽい雑草しか生えておらず、一目で分かる場所に生えていた。

 実を収穫していると小さな足音が数人分後ろから近寄ってくるのが分かる。


「カナタ? 知らねえのか? 無花果には非時果(トキジク)って名前の毒を持った種類が有るんだぜ! 間違えて食べたら色々な症状が出てほぼ確実に死ぬから冒険者は食べない方が良いんだぜ!」


 アルフのPTに育成を任せたスタンが後ろに居た。アルフ達は今日休暇の予定とメールで確認済みなので、スタンを講習会に参加させて息抜きするつもりみたいだ。

 自慢気に言うスタンの肩に手を置くと、小さな声で良いアドバイスを送る事にする。


「何気無くジークフリードの仕草を見ていると、ボクが危なそうな植物を採った時だけ口元に手を持って行くのが分かるから、肯いてる時に手に持っている植物は食べれると思う。それと苺の実に似た果実は確か毒を持っている種類は無かったはずだから、迷ったらこんなやつだけ集めたら良いかもね?」

「さすがカナタ、頭良いな! 俺達も苺メインで確保するぜ!」

「あとその後ろの子が持っているキノコは多分毒だよ? むしろキノコは素人が手を出せる食べ物じゃないから絶対ダメ!」

「り、了解……キノコなら沢山生えてるんだけどな~」


 残念そうにキノコを見て、すぐに仲間の手からキノコを捨てさせたスタンは、倒れて腐りかけた巨木を指差した。

 一見するとキノコが上に生えた腐った巨木だが、近づき表面の皮を剥ぐと何かの幼虫の巣窟になっている事が分かった。

 幼虫の大群を見て悲鳴を上げるスタンとその仲間達。


「カミキリムシ系の幼虫は確か美味しいし栄養が満点で毒も無いはず?」

「ぐぇっ!? コレ食うの!?」

「炙るか茹でたら結構いけるって聞いた事があるけど……」


 話している間も木屑の隙間から見え隠れする10cmオーバーの真っ白な芋虫。顔が無ければ案外鉢の子より食べやすいかもしれない?


「俺――後で食べてみる。流石に今日もこれだけじゃあ最後まで持たないよ……」

「――アルフ(にい)も言ってたっけ……体で覚えるのが早いって。俺の分も捕っておいてくれ、このスタンロードに超えられない壁は無いぜ!」


 スタンの後ろ、先ほどキノコを採っていた子供が布の巾着袋を背嚢から取り出すと木屑諸共幼虫を回収している。

 よっぽどお腹が空いているのか、見える範囲から幼虫を捕り尽すと木の皮を剥が始め、巨木一本丸ごといくつもりの様だ。

 アルフが言った言葉はこんな時用の言葉じゃない気がする。


「頑張ってね……」


 生唾を飲み込みながら幼虫を捕獲し始めたスタンのPTからそっと離れる。ボクはまだタンパク質は足りていると思うので遠慮する事にした。

 もし本当にお腹が空いたら、黒バックから食べ物を出して食べよう……。


 幸い無花果の木にはかなりの実が生っていたので、お腹が膨れるくらいには食料を確保出来た。

 そのまま人気の無い方向へと歩いていると見覚えのある物体が落ちているのを発見する。

 堅そうな樹皮に覆われた背の高い木の下に落ちていたのは、栗に似たイガイガの実。

 カナタナイフでイガごと真っ二つにしてみると、栗に似た黄色い実が姿を現した。


「これは火を通したら美味しそう! ルナとメアリーの分も確保しないとね~♪」


 地面に落ちているイガイガを手当たり次第切り裂き、中身の栗っぽい実を確保していく。

 五つ目のイガイガを割った瞬間手にグニグニとした奇妙な手応えが返ってきた。


「――ん? もしかして……」


 落ちていた木の枝を使ってイガイガを慎重に開いてみると……巨大なカブトムシの幼虫に似た何かを真っ二つにしていた。

 プンッと匂い立つ洋梨に似た香り、悔しいけど喉がなってしまう。


「これは……匂いだけならねぇ」

「カナタはそれ捕らないのか?」


 不意に声をかけられて振り返ると、モゾモゾ動く背嚢を背負ったスタンが居た。どう見ても捕り過ぎです。

 その様子は鳥肌全開で一歩後ろに下がってしまう程だった。


「実だけ貰うから……」

「結構居るみたいだな~全部回収しようぜ!」


 イガイガを割ると三つに一つは幼虫が巣くっていた。喜びながら真っ二つになった幼虫を回収していくスタン達……。後ろに居たキノコの人が背負う背嚢から汁が漏れ、洋梨の匂いが漂い始める。

 そっとその場を離れたボクはスタン達の姿が見えない場所まで小走りに移動する。


「ヤバイ。お腹が空くと人間ダメになるのかもしれない……」


 飢えた事の無い現代日本人だったボクには理解出来ない。

 休憩がてらに転がる岩に座り周辺を見回していると、立っている時には気付かなかった植物を発見した。

 木の根元に蔦を伸ばして巻きついている植物が! 葉っぱの形はハート型だ。

 でもまだ焦ってはいけない、自然薯に見えて実はドクダミの葉っぱだったなんて事もある。

 唯一ヒビが入って使えなくなった硬皮の盾をスコップ代わりに使い、木の根元の土をそっと退けていくと太く成長した根が見え始めた。


「自然薯キタッ! やった! コレ絶対美味しいやつだ!」


 掘り進むと姿を現していく芋。あまり曲がらず垂直に生えているようだったので、折れるの覚悟で垂直にひっぱっているがなかなか終わりが見えない。気のせいか長過ぎるような?

 芋の長さが2mを超えたと思った瞬間ヤツが出た。


「カナタ~その芋齧ってる太いのも貰って良いか?」

「ココで折るから先は好きにして良いよ……」


 芋の先に齧りついて居た芋虫は、クリーム色で太さが成人男性の腕くらいある30cmほどの幼虫で凄く良い匂いがした。

 思わず生唾を飲み込みそうになり、『飲み込んだら負けかな?』と思い唾を吐く。


「隊長! こんなの居ました!」


 汁の滴る背嚢を背負った子供が両手に抱えて持って来たのは、30cmは有ろうかという大きさの黒い昆虫だった。黒いカメムシのようなG虫のような外見に水かきが付いた両手……巨大タガメっぽい何かである。


「タガメって確か食べれるんだっけ? まぁ……最悪【解毒】使うからチャレンジしてみれば?」

「ヒヤッホゥー! 今日はお腹いっぱいご飯が食べれるぜ!」


 もう投げやり気味にそう言い、ボクは来た道を戻り始める。

 両手を上げて飛び上がり喜ぶスタン達。あまり跳ねると背嚢から幼虫が顔を出しそうだよ……。


 他のPTの新人達はもう既に収穫を終えて、ルナとメアリーとジークフリードが鉄板の準備をしているのを眺めていた。エウアは壁に背を預けて居眠りしている。


「やっと戻りましたか。各PT収穫した物をこのテーブルに置き代表者を一人立ててください」

「アレ? ルナとメアリーがそっちに居るって事はボク一人だよね?」

「そうですが何か?」


 清々しいまでの笑顔で言うアルバート。毒見と言う意味での代表者を立てるなら、匂いと野生の感が鋭いルナが一番適任だと言うのに。


「実の所、この広間に生えている植物の殆どには毒があります。今日体調が悪い者は多分食中毒か中毒症状ですね」


 笑顔でサラリと怖い事を言うアルバート。

 何と無く予想はしていた。新人達がどよめく中冷静に周囲のPTの収穫物を確認する。

 唯一鑑定出来たゴブリンホオズキの実を殆どのPTが採取していた。つまり今朝皆の元気が無かったのは、お腹が空いたという理由以外にも毒による中毒症状が出ていた事になる。


「ちなみに、ここに生えている殆どの毒草は【毒耐性:F】を得る事で無毒化可能です。

 なお、ダンジョンを除く自然界で一番強力な毒性を持つ植物でも【毒耐性:D】で無毒化可能なので覚えておいてください。

 この広場に生えている植物の中で、一番強い毒を持つ物はそのDクラスになるので間違っても食べない様にしてください。幸い昨日は食べた者は居なかった様なので今日も安心だと思いますが……」

「危な過ぎるだろ……」

「まぁまぁスタン、ちゃんと解毒スキルとか持ってる人が一緒に居るんだよ――多分?」


 アルバートの説明を受けて青ざめた顔になったスタン。洋梨の匂いを振りまいているキノコの人も一緒に震えていた。


「あぁ、解毒スキルなどあまり持っている者が居ないので……今回有りませんよ?」

「なんですとー!?」

「安心するのじゃ! エウア特製解毒薬を準備しているのじゃ。一部を除く毒なら何とかなるからのう……」

「除かれた一部が怖いんですがっ!?」


 至急メールをマリヤに送ると解毒薬について聞いてみる。返事は簡単に一行で返ってきた。



『【毒耐性:E】に相当する毒までしか解毒薬は作れない。それ以上は材料が希少です』



 よし、解毒スキルの出番が来たかもしれない。あのゴブリンホオズキを食べた人は後で解毒してあげよう。

 意を決してテーブルに収穫物を置き、アルバートとジークフリードの審査を受ける。

 何も言われずただ二人で肯き有っていただけなので、毒草は無かったのかな?

 他のPTのテーブルを周るアルバートとジークフリードは、一目見ただけですぐに評価を付け、テーブルに解毒薬を置くと次のテーブルへと進む。

 大抵人数分の解毒薬が置かれているので毒草が混じっているみたいだ。

 意外な事に解毒薬が置かれていないテーブルは二つあった。一つはボクの居るテーブルで、もう一つは何とスタン達の居るテーブルだ。


「ほほぅ……カナタの後を付いて回っていたと思ってはいたが、なかなか良い物捕ってるじゃねえか」

「同じ場所に居たカナタが何故収穫していないかが気になりますが、満点ですね」

「え? 全部毒無しですか? やったぜー!!」


 無邪気にはしゃぐスタン達のPTのテーブルは地獄絵図になっている。

 テーブルから逃げ出そうとするカミキリムシっぽい幼虫の大群、真っ二つになって蠢く幼虫の山、巨大タガメが口を伸ばして洋梨の香りがする幼虫の体液を啜っている。申し訳程度に置かれた折れた自然薯にも巨大なクリーム色の芋虫がセットになっていた。


「あー、これは一位と二位に甲乙付け難いな……」

「実食が終わってからで良いのでは?」


 何やら怪しい相談中の禿と竜人。時折心配そうな目でこちらを見てくるルナとメアリーの視線を受けて嫌な予感が加速する。

 アルバートとジークフリードに頭を撫でられたスタンは、感無量と言った感じに背筋を伸ばし、地獄絵図の前で誇らしげに立っていた。


「あー、煮炊きに焼き? 好きな調理法で収穫した獲物を味わってくれ」

「僕達も食事にしましょうか? エウア様はご自身で調達なさってください」

「夜まで我慢するかのう……」


 鉄板の端で焼かれ始めるラビッツステーキと巨大なエビ、付け合せの野菜に載せられたバターの香りが鼻腔をくすぐり、盛大に皆の腹を鳴らす。アルバートとジークフリードは自前の食材を調理し、エウアはこちらを見て『がまん、がまん……』と呟いている。

 新人達は解毒薬片手に収穫した獲物を食べ始め、鉄板の中央ではスタン達のPTが幼虫の炒め物を作り始めていた。


「今日は食事が終わった者達から休息に入れ。明日の朝アルバートから今日の収穫についての評価が出るからな?」

「それと食べ終わってまだ物足りない者は、スタンのPTから情報を仕入れて同じ獲物を狩りに行くのも良いですよ」


 今日の残りの予定を言いながら、優雅に食事を楽しむアルバートとジークフリード。新人達はヨダレを垂らしながらそちらを見ないように努力している。


「何だコレ! うんめー!! 見た目ヤバイけどこの幼虫最高に美味いぜ!」


 スタン達のPTが幼虫の炒め物を貪り食う様を眺める新人達。一瞬講師二人の居る鉄板の端に視線を送るも、諦める様に肯きスタン達の元へ近寄って行った。


「カナタ頑張ってな?」

「ルナと一緒に応援してるから……」

「ん? ありがとう?」


 何故かルナとメアリーに励まされながら調理を開始する。

 青色のアケビの実、白いバナナ、ちょっと大きめの蜜柑、無花果、果実系は生のまま食べるとして他をどうしようか?

 自然薯はカナタナイフで千切りにして、黒バックに収納していた醤油を垂らして食べるとして、問題はこの栗っぽいやつだ。

 よくよく見てみるとイガイガの部分と中の実が一体化している。栗のように分離できないのでイガイガから完全に実だけを取り除くか、イガイガを丸ごと炙るしかない。


「火中の栗を拾うって言葉もあるし、丸焼きで良いかな?」

「「!?」」


 鉄板の下で燃え盛っている木炭の中にイガイガを放り込むと、何故か講師二人が全力で逃げ出したのでイガイガには結界を張っておく。

 熱さえ通せば問題無いので、上手く調整して結界蒸し焼きにする予定だ。


 丸太の輪切りに座り鉄板の下を眺めていると、火薬が爆発したかのような乾いた炸裂音が聞こえて鉄板が少し宙に浮いた。


「鉄板の下からヘンな音がしたぜっ!? 爆発!?」

「気のせいだよ、多分……ちょっとチビッタ剣借りるよ?」

「良いけど、今じゃ焚火を突く用にしか使ってないぜ?」

「それなら好都合だよ~♪」


 口から幼虫の頭が見えたまま首を傾げるスタン。借りた剣で燃え盛る木炭の中から結界を穿り出す。

 結界の内面にはイガイガから発射されたような棘が山の様に刺さっていた。幸い結界を貫通するほどの威力は無かったようなので、中心部に残された栗っぽい実を回収して棘は燃やしてしまう。


「ふむふむ、果実も自然薯も栗も美味しい! 後でルナとメアリーにも分けてあげないと。特にこの無花果の甘さ! やっぱり無花果は美味しいね~♪」


 遠くでこちらの様子を窺っている講師二人に手を振る。ボクはお腹いっぱい食事をしてテントに戻るのだった。

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