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ボクが異世界?で魔王?の嫁?で!  作者: らず&らず
第4章 ハッピー?ニューライフ
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第103話 スラム街の洋館

 リトルエデン全員集合で冒険者ギルド前の食堂に向かい、皆でお昼ご飯を食べた。

 店内でオーキッドとファイとティアに遭遇し、あわやアヤカと鉢合わせになりかけ、寸前の所でドッペルリングを貸してギリギリ誤魔化せた。

 何故か一緒に付いて来たオーキッドと姉妹の分もお金を払う事になったけど、今から候補地に案内してくれると言うので、必要経費と思いスマホ(さいふ)を出す。


「何やってるの? もうお会計払ったよ?」

「おぉう……いつの間に。お金ってギルドの資産から?」

「あたり前じゃない、冒険に行かなくても生きていけるくらいには稼げてるから、大丈夫だよ?」

「冒険者としてそれはどうなのかな……」

「冒険者として稼ぎ、店を持ち、店に立てる間は必死で稼ぎ、老後を優雅に過ごす、一般的な商人を目指す冒険者の人生設計かな?」


 お腹いっぱい無料(タダ)飯を食べたオーキッドとファイとティアが、尻尾フリフリで近寄ってきた。


「お姉が目を付けるだけあって、太っ腹だな! 匂いが全然しないけど、逆にそれが良い!」

「ファイはすぐご飯に釣られて……ごちそうさまでした」


 黒耳兎がファイでお姉さん、凹凸は無い。白耳兎がティアで妹さん、なかなかスタイルが良い。体型が逆転している姉妹だね。


「子供は遠慮せずにお腹いっぱい食べないとね? それでオーキッド、場所ってどこ?」

「こっちかな~」


 オーキッド達の後ろに付いて歩く。


「私とロッティはここでお別れですの」

「ん? まだ用事終わってなかったのか、分かった。今夜は合流して一緒に眠れる?」

「私は大丈夫ですよ? でも……」


 恨めしそうにマーガレットを一目見てロッティは溜息を付いた。


「ロッティと私は今夜も用事がありますの……非常~に残念ですわ」


 笑顔でロッティの耳を引っ張り、マーガレットは残念そうに尻尾を垂れたままにした。

 久しぶりの王都なので色々と忙しいのだろう、邪魔するといけないので笑顔で送り出す事にする。


「それじゃあ、何か手伝える事が有ったら声かけてね~」

「ゴクリッ……もう少しの辛抱ですの」

「そうですね……行ってきます~」


 手を振って離れていく二人のボクを見る視線が怖い。

 お店を出る時点で、ドッペルリングで変身したアヤカとフェルティ・アズリー・レオーネ・メリルにミミアインの計五人と一匹も別行動となる。近くに居たらばれそうな件と、情報収集の為――と本人達は言っていた。遊ぶ気満々に見えるのはドッペルリングで変身しているからだろうか?


 大通りを抜けて路地へと入り、ミリーとロニーのお店の前を通った時、お店の前でココと二人の女の子がお話ししているのを発見する。


「ココ~? あまりサボってたら首になるよ?」

「これは警備であります! リトルエデンの皆さんを不埒なやからの魔の手から救うべく――」

「私が頼んだの。商売始めると何かと厄介事が多いし、王都の兵士は暇そうな人が多いみたいだから」


 ココの話しをぶった切ってメアリーが説明してくれた。

 会話を途中で止められたココも雇い主に文句は言えないのか、傍らに立っている女の子とのお話に戻る。


「その、雪は元気? アレから会話とか出来てる?」

「いいえ……殆ど言葉を喋りません。日常生活に支障はありませんし、子供達と仲良くしてくれてるので助かりますが、どうしちゃったんでしょうか?」


 治療したジャンヌが言うには、呪いが急に解けた反動で少し時間を置けば元に戻るそうだ。ボクはジャンヌが解呪スキルを使えるようになっていたとは知らなかった。


「大丈夫やで! うちが獲れ立てのラビッツ近づけたら、一瞬で首折って、毛皮剥がしてお肉にしてくれたで? 防犯対策バッチリやね」

「あの、大変恐縮ですが、生きた魔物を街に入れられると色々問題が……」


 ルナのカミングアウトに驚きつつも自分の仕事を思い出したココは、穏便に事を治める方法を考えてるようだった。ルナは時々突拍子も無い事をしでかす。


「ラビッツでも一応注意しないとダメ、魔物なんだから。普通の人ならMP吸われて貧血みたいになるんだよ?」

「そう、それだよ。街には街のルールがあるんだからね? ルナも、メアリーもちゃんとルールを守ってね?」

「私、関係無いよね……ルナに注意してたのに、何で私にもそんな事言うのかな! カナタ?」


 ジロリとこちらを睨んでくるメアリー。尻尾がピンと立ち、組まれた自分の二の腕をトントンと指先で叩き、苛立ちを体全体で現している。


「日頃の行いやね」

「誰も不幸にならない様に商いしてねって事で、別に怒ってるとかそんなんじゃないから。心配なだけだから!」


 ルナがうんうんと肯きながらキャロラインに引っ張られていった。

 どこに連れて行かれるのかと見ていると、列後方でサーベラスに向い合わせで乗せられ、説教の真っ最中だった。


「まぁ、カナタはいつまでも子供離れ出来ないんだし、仕方ないかな~♪」

「ボクは子供じゃないよ!」

「なら、大人なカナタは……何でも無い」


 意味深な笑みを浮かべたメアリーに、思わず背筋を伸ばし一歩後ろに下がる。


「あの……この前は、ちゃんとお礼も言えず、もうしわけございませんでした」

「助けていただいてありがとうございました!」

「ん? ……大丈夫! 人助けに理由なんて要らないし、困っている人が居たら助けるのが趣味だから」


 声をかけてくる二人の可愛い女の子。一瞬誰だか分からなかった。

 女の子二人組みと言えば、あの部屋で助けた子供だろう。

 銀糸の様なさらさらの髪、透き通る黒曜石の様な黒い瞳、肌の血色も良く、つい先日まで痩せこけて死にかけになっていたとは思えない。天使御用達の服を着ているので、一目でリトルエデンの関係者だと分かる様になっている。

 見間違えるほどに綺麗になった二人に、思わず安堵の笑みが浮かぶ。


「で、メアリーが店員として雇ったの? 装備も一切無いし、体力も戻ってない状態で狩りは、例えラビッツ狩りでも危険だからね。良い判断だと思うし、何か必要な物が有ったら言ってね?」

「はい、ありがとうございます。男手は一緒に掴まっていた冒険者さんが担ってくれているので、必要な物が出た場合はミリー店長とロニー店長にお願いしてみようと思います」


 トコトコと可愛らしく歩いてくると、両腕にそれぞれ抱き付き付いてくる。甘える様にボクに擦り寄る二人。

 メアリーとジャンヌが人員を確保して周っているようなので、今から行くリトルエデン本拠地候補に仮設住宅の建設を検討をしようか。従業員は家族、皆幸せになって欲しい。


「ノーラとグラは、もう家族みたいなものだからゆっくり療養してね? もし狩りに出たい場合はクラン員に付いて行けるようにするから。当分はソロ・ペアでの狩りは禁止、命大事にね?」

「「ありがとうございます♪」」


 もう全力で腕に身体を摺り寄せてくる二人、色々柔らかい感触が両腕を襲う。そしてメアリーがこっちを睨みつけている事に気が付き、そっと両手を上げて二人を振り解いた。

 残念そうな顔でボクを見てくる二人の頭を撫でると、耳元で『あの子は何とか助けるよ』と呟いて離れる。

 涙を流しながら笑顔で微笑む二人に手を振って、少し先で待つオーキッドの後を追う。


「いつの間に名前を……あの子達はダメだからね! 今後は私達を通してから嫁に迎え入れる事!」

「何言ってるの!? 違うよ! 今のは無事に復帰出来ておめでとうって感じの、感動の良い場面だったじゃない!」


 名前はあの部屋でステータスを確認した時見たのを覚えていた。

 女の嫉妬と言うモノは恐ろしい。メアリーに脇を抓られて、ボクは誤解を何とか解こうと必死になる。

 少し路地裏を歩くと道の石タイルが途切れている?


「ここは……スラム街? メアリー、本当にあの場所に?」

「えっ? スラム街?」

「うちは初めて来たで」

「ジャンヌは私と一緒に何回か来たよね?」


 スラム街、名前を聞いて想像する風景と大分違う。浮浪者が道端に居て、ゴミや色々な物が道に転がっていて、柄の悪い連中がウロウロしている場所だと思っていた。

 スラム街の入り口――こちらとあちらを繋ぐ場所は、道の石タイルが剥がされており、明確にここからはスラム街ですよ、と誰の目にも分かるように区別されている。

 スラム街に隣り合う建物は堅牢な石造りで、どこかの商会の倉庫となっているようだ。


 スラム街に足を踏み入れると、王都の街並みとは違い、木造平屋立ての家が立ち並び、様々な人種の老若男女が道を行き来する光景が目に入って来る。

 道を通る人は、一〇人に一人くらいが普通の人間で、残り九人は獣人や、フードを被ってまったく姿が分からない様にして歩く謎の人だ。

 道端で広げられた布に商品が並び、怒声にもに似た商人の呼び込みと、若い冒険者の値切り交渉をする声が聞こえてくる。


「何て言うか、雑多な感じ? 坩堝(るつぼ)ってこう言う感じなのかな?」

「ここはまだ安全なエリアだけど、一番奥まで行くと危険かな? ここに住んでる者は、納税してないからね~。揉め事があっても国の兵士が来るのは時間がかかるかな」


 道端で梨に良く似た果実を売る子供が居る、オーキッドは銅貨を1枚渡すと梨を二つ取って一つを投げて寄越した。

 腰に付けた袋から布切れを出し表面を拭うと丸齧りし始めるオーキッド。

 一応甘い匂いがするし果実みたいなので、食べろと言う事だよね?


「なんじゃこりゃ!?」

「うちも食べるで~」


 一口齧るとコリッという硬い食感と共に、何の味もしない硬い梨の実が口内に転がり込んでくる。美味しいとか不味いとかそんなレベルの話しじゃない、味がしないのだ。食感だけは梨だった。

 ボクの食べかけの梨を齧ったルナも無言になり、梨を咀嚼する音だけが聞こえてくる。



『用梨の実』

 非常に硬く味も無いので滅多に食べる者は居ない果実。凍らせると若干甘くなる。



「それがここでの一般的な果実かな? どんな痩せた土地でも育つ木で、皆家の裏で育てているかな~」


 それだけ言うと、無言になり先に進んでいくオーキッド。

 返答を待つような事はしない、ただ事実確認をおこなっている様な淡々とした物言いだった。


「次はこれ、一般的な昼食かな? 人数が多いと家で作るより安いかな……」


 お次は玄関の入り口横にカウンターが設置された平屋で、木の椀の様な器に白い餅のような塊が数個浮いている薄いスープだ。

 オーキッドは銅貨を1枚カウンターに置くと勝手に椀を取り、皆に配っていく。


「勝手に取って良いの? 銅貨1枚で何個まで?」

「銅貨1枚で何個でもかな。他人はダメだけど」


 カウンターの奥からこちらを睨むおばちゃんと目が合う。軽く会釈をし、スプーンやフォークがついていないスープをそのまま啜る。

 味が……薄い塩味? 餅のような物体は小麦粉をお湯で練った水団のような食感でこれも素材の味しかし無い。


「あまり美味しくないで……」


 無言で椀の中身を平らげる皆。ルナが漏らした一言に全員同意したいと思っているだろうが、お店の人が見ている以上ここではコメントを控える。

 オーキッドは水が貯めてある樽に器を沈めるとスタスタと歩いて行く。


「何と無く趣旨が分かって来た」

「現状の確認だね、期待されているのは今後の対策かな?」


 メアリーの言葉が耳に入ったのか、オーキッドは尻尾フリフリである。

 言葉以上に語る獣人の尻尾は可愛いと思います。


「ここが共同の水場かな。ルールは、汚さない・壊さない・入らない。守らないと、いくらここが安全なエリアと言っても身の保障はしないかな? 最近水量が減ってきてるからそろそろ地下水も危ないかな……」


 大きめの井戸に、縄を引っ張るタイプの組み上げ用桶が三個置かれている。滑車車など付いていない、桶に縄が結び付けてあるので、自力で桶を引き上げて水を汲むのだろう。


「これ子供じゃ無理くない? 手押しポンプ系は無理にしても、滑車車くらいつけたら楽になるのに……」


 無言で桶を手に取り、井戸へと投げ入れると縄を引っ張り上げるオーキッド。

 一気に組み上げられた地下水は若干濁りがあった。

 そのまま手渡される桶に、思わずオーキッドの顔を見る。飲めとは言わないよね……?


「それが嫌なら自力で出すしかないかな?」


 オーキッドは新しい桶に生活魔法で水を貯めると一息に飲んだ。

 ボクは渡された桶の中身を排水用の溝に捨てると、元の位置に桶を置く。


 また無言で歩き始めるオーキッドを追う。

 スラム通りを歩く者達は冒険者がメインになり、時々柄の悪い者が混じる程度になる。一般住民は先ほどのエリアに固まっているのだろうか?

 次第に平屋の数が減り、石造りの建物が増えてきた。相変わらず地面は剥き出しになっており時折ラビッツが生えていた。


「四匹目やで~♪」

「ルナの捕獲速度に付いていける者は居ないようですね」

「ジャンヌ、ルナはラビッツに関してなら多分王都で並ぶ者は居ないと思うよ……」


 ジャンヌがルナの動きを真似て、ラビッツを捕獲しようとして失敗する。

 ルナはラビッツが地面から顔を出す以前に動き始めている、顔が出た時にはルナの手の中だ。


「生える瞬間、地面が少し動くんやで?」


 腰に手を当て自慢する様にルナが言うと、皆は地面に目を凝らし始める。

 ラビッツが生えるのを見ていたが、まったく分からなかったので無駄だと思う。

 また暫く無言で歩き、次第に人気の無いエリアへと進むオーキッド。途中から道端に高い塀が見えてくる。


「何かお屋敷があるで?」


 ルナが指刺す方向には古い洋館が見える、黒鉄杉で出来たなかなか大きな屋敷だ。古くていたる所に改修の後が見えるが、雨風を凌ぐには十分過ぎる――もしかしたら快適かもしれない。

 先ほどから見えていた高い塀はこの屋敷を覆う塀だろうか?

 塀が途切れた場所には、壊れて片方の鉄格子の扉が開かなくなった門が現れる。


「ここがあたいらのクラン『林檎の園(アヴァロン)』の元本拠地かな! 今日からは小さな楽園(リトルエデン)の本拠地で、あたいらは庭か離れにでも住まわせて貰えると嬉しいかな?」


 オーキッドが大声で紹介すると、三階建ての屋敷から獣人の冒険者や子供達がわらわらと入り口に集まり、整列していく。軽く数えても百人以上居る気がする……人頭税的な物は払ってないと思われる。

 某CMを思わせるチワワな眼差しで見つめてくるオーキッドのクラン員達。

 離れと呼ばれた建物はどう考えても百人で住むには小さ過ぎる小屋で、良いとこ二〇人も小屋に入れば、寝返りすら打てない寿司詰め状態になるのが容易に想像出来た。


「メアリー、これってもう契約書とか手続き終わってるんだよね?」

「えっ!? 何で分かったの? 同盟申告書も後はサインだけなんだけど……良い?」


 ビクリと肩を震わせたメアリーの頭を撫でる。

 捨て置けなかったと言えば簡単かもしれない、単純に食糧やお金を援助するだけの方が楽なのは事実だ。

 でもそれはダメだと、ここに居る者達の顔を見て思う。

 子供から大人まで、全員力強い冒険者の目をしている。……今はチワワな眼差しだけど。

 オーキッドや彼らには自分達の誇りがあるのだろう、メアリーが同盟の話しを引き受けたのも肯ける。

 メアリーには、ロズマリーとマリアンの教えが根付いている。手を差し伸べられる者を放って置けない優しい娘に育っていた。


「まぁ、王都で始まるボクの伝説(レジェンド)への始まりとしては申し分無いね!」

「「「「「「ありがとうございます!」」」」」」


 カッコつけて言ったボクの言葉は、続く獣人達の大声にかき消される。

 オーキッドもビックリするくらい大声で、獣人達がお礼を言った。

 不意打ちで大声を聞いたルナは、耳を押さえてキャロラインに胸元に突っ伏している。


「とりあえず中を案内して貰おうか? 何処に住むとかは後で決めるとして」

「あたい達自慢の屋敷かな! 勝手に住んでるけど、修繕はあたい達がしたんだよ?」

「この屋敷、誰の持ち物なんでしょうね……」


 自慢げに言うオーキッドに呆れるジャンヌ。

 屋敷の玄関へと向うボク達は、何故か視線を感じて足を止める。


「カナタ、誰か見てるで?」

「まぁ、全員ここに出てきてる分けじゃないでしょ? 炊事・洗濯中とかだと手が放せないし」

「ここに居る皆で全員かな?」

「「「「「「えっ?」」」」」」


 日頃から鍛えられているうちのクラン員達は全員視線を感じていた様子で、オーキッドの言葉を聞くと周囲を警戒し始める。


「何やってるのかな? 早く中を案内するよ~♪」


 庭を突っ切り屋敷玄関へと向ったオーキッドを追う途中、不意にルナが屋敷の三階窓を指差した。


「今、子供が窓からこっちを見てたで?」

「ははは……冗談だよね?」


 視線を向けても窓にはカーテンがかけられており、子供の姿は確認出来なかった。


「私も見ました。子供と言うより……」


 今日は何故か話に乗ってくるジャンヌ。いつもは後ろから周囲を警戒しながらついてくるだけなのに何故?


「あれ? 目の錯覚かな……? メアリー?」


 自動で屋敷内側に向って開かれる扉に何の疑問も抱かないのか、オーキッドは玄関からこちらに手を振っている。


「う~ん、不思議だね?」

「雨が降りそうやね、珍しいで!」


 空を見上げると雨雲が王都の青空を覆い隠していた。

 考えてみるとあの蜂を撃退する時に自力で降らした雨以外に、この世界に来て初めての雨かもしれない。

 小走りに屋敷に入って行く者達を見つめる。


「カナタ~早く入らないと濡れますよ?」

「あれ? ラビッツ達が居ません。さっきまで後ろから付いて来てたのに?」


 アンナがボクを呼び、レッティがラビッツ達を探す。


「「「ラビッラビッ!」」」


 離れの方からラビッツ達の鳴き声が聞こえてきた。

 離れの小屋は入り口が開かれており、尻尾フリフリのラビイチが中から顔を覗かせている。どうやら離れの小屋はラビッツ達の家に決まったようだ。

 普段玄関付近の庭に埋まって眠るラビッツ達が、小屋を気に入るのは不思議な感じがする。


「もう、雨降ってきたから早く~」


 レイチェルがこちらに手を振っている。ボクは急いで屋敷に走り寄ると警戒しながら入り口を通る。


「ふぅ、何も無いよね。そうだよ、居ると思うから見えるんじゃん。皆元気出して行こ~」

「カナタ、何でそんなに元気なの?」

「え? 怖くなんて無いよ? 何言ってるの!」

「匂う、匂うで……」


 訝しげにこちらを見つめるメアリーと、仕切りに匂いを嗅ぎながら周囲を警戒するルナ。この屋敷は何かおかしい。


 ゾロゾロと屋敷内に入って来るオーキッドのクラン員達。屋敷に入った最後の子供が全員居るのを確認すると大声で『全員無事帰還!』と外に向って叫んだ。


 重厚な黒鉄杉で作られた扉が勝手に閉じていく、皆の見ている目の前で。

 何も無かった様に散らばって行く者達、うちのクラン員は首を傾げただけでオーキッドの後を追い始めた。


「置いてかないでー! この屋敷何かおかしいから! 待って、ルナ抱っこしたあげる。サーベラス、背中に乗せて!」


 雨が降り始めた古い洋館の中に木霊する叫び声。昔呼んだ漫画の一ページが頭に甦る。

 山の中、雨に降られて洋館に訪れた若者達を襲う、猟奇殺人的なサスペンスでバイオレンスな話だった。

 皆の後を急いで追うボクの後ろで、洋館の鍵が勝手にかかる重い金属音が聞こえてきた。


「キャァァァァーーー!?」


 まるで……もう二度と外には出さない、と洋館が呟いた様に聞こえた。

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