第102話 お掃除と報酬
荷車の中、外の様子を探り出る機会を窺う。二度目の鐘まではまだ時間があるはずだ。
イライラする、この外に居る大人もそうだし、子供がこんな事をしないと生きて行けない世界に対しても。
仮にも王都と呼ばれている街に、白昼堂々悪事を働くやつらが野放しになっている。その事実はボクをさらにイライラさせた。
荷車の揺れがまた変わった。硬いタイル張りの通路を走っているのか先ほどより大分揺れは小さくなった。
不意に誰にも連絡して居ない事に気が付き焦る。咄嗟にメールで全員に『拉致された。この場所に集合、徹底的に潰す』との文面を送る。
「これで良し……後で皆に怒られる事は避けれそうだ。一人で無茶はしていない、大丈夫、大丈夫なはず?」
言い訳用の理論武装が完了し、胸を撫で下ろす。
荷車の揺れが止まりどこか建物の中に着いた様だ。不意に開く入り口の布、坊主頭のチンピラ風男と目が合う。
「あん?」
「何見てんだよ! 汚らわしい」
生活魔法の放電を連続で使用して、手から青光りする小さな雷を放出する。
「あばばばば!?」
「おいおい、よっぽどの美人で震えたってか?」
少し白い煙を装備から立ち上らせた男は、真後ろにそのまま倒れた。
一回目の使用で大体コツは掴んだ。若干電撃が強すぎたのかHPにダメージが入ってしまった。
「もう少し押さえようかな」
「あん? あぎぎぎぎ」
ばっちりだ。二人目は綺麗に白目を向いてビクンビクン体を痙攣させている。
「敵襲だー! 全員叩き起こせ!」
「あー、わざわざ集めてくれるの? ありがとう~♪」
荷車の外に出る、どうやらココは潰れた酒場か何からしい、なかなか広い部屋だ。
カウンターには酒瓶から直接中身を煽るチンピラが三人、部屋の中央には何の冗談かキングサイズのベットが一つ置かれていた。
テーブルは四個、入り口には用心棒風のサーベルを持った冒険者が一人。室内には先ほど倒した二人以外に椅子に座って酒を飲む者が四、五、六、七人か……チンピラ一二人と用心棒一人、一瞬で倒すならやっぱり電撃かな?
「おいおい、あの馬鹿は何連れて来やがった? 旦那、指の一本や二本は切り落としても良いですが、体には傷付けないでくださいね?」
「分かっている、後で回せよ?」
遠巻きにこちらを囲むチンピラ達、一見中ボス風のチンピラが用心棒に命令をしていた。
「あー、胸糞悪い! そう言うの良いから。取り合えず殺さないけど痛いのは覚悟してね。色々聞きたい事も有るしね? チンピラさん?」
「指の数本で簡便してやろうかと思ったが……舐めるなよ!」
挑発に乗った冒険者がサーベルを片手ににじり寄って来る。重心が全然ブレ無いその動き、そこそこの手練のようだが、何でこんな残念な仕事をしているのか……手伝っている以上容赦はしない。
そっと――誰にも気が付かれない様に、生活魔法で水を作り出し、すぐさま加熱して水蒸気に変えていく。
ジリジリと間合いを詰める冒険者に牽制の意味も含めて武器を取り出し……あれ?
「槍が無い? あぁ、スタンにあげたんだった……」
「貰った!」
飛び掛ってくる冒険者のサーベルを、右手でそっと掴み取ると同時に、周囲に撒いた水蒸気とサーベルに電撃を流し込む。
「「「「「「あばばばば!?」」」」」」
ビクンビクン震えて崩れ落ちるチンピラ達、唯一至近距離でサーベル越しに電撃を受けたはずの冒険者はまだ立ち上がる力が残っている様子だ。
「あれ? おかしいな~結構強いのかな?」
「俺を舐めるなと言ったはずだ! ふごっ?」
轟音と共に壁が壊れ、飛び出してきたモノに冒険者は弾き飛ばされた。
「何事!?」
砂埃が凄い、視界が悪く黒い大きな影が動くのが何とか見えた。
凄くデジャブを感じる、大きな黒い影はゆっくりこちらへと近づいてきた。
「ラビッ?」
「ラビイチが一番乗りか、皆ももうすぐ来るかな?」
砂埃の向こうから歩いて来たのは、思っていた通りラビイチで、尻尾フリフリしながらすり寄って来る。
土で汚れたラビイチに浄化・清掃をかけると吹き飛んだ冒険者を見に行く事にした。
「くそ……何が起こりやがった。足が痛てえ……」
「ハロー。元気にしてる? 無駄な事は話さなくて良いから自分のボスの事喋って欲しいかな? 殺す気は無いけど、考えうる限りの苦痛を与える予定なんでよろしく! あ、あとボクの仲間が来る前に喋った方が良いよ? 容赦のよの字も無い事するかもしれないしね……」
「ラビッ……」
ラビイチを見て固まった冒険者に良く分かるようにユックリ言葉をかける。隣にいたラビイチが両前足で頬を挟み恐怖に怯える振りをする。
ボクにはどう見ても『オレ、お前、丸齧り』と言っている様に見えた。
冒険者の男は武器を放り出し、床を這って逃げ出そうとした。
不意に左手が振るえメールを受信した。件名は『もうすぐ集合時間、遅れたらチュッチュの刑』と書かれている……あれ?
本文を呼んでみると『馬鹿やってないで早く来て、カナタ以外全員揃っているから@念の為にルナとキャロラインとラビイチとサーベラス送ったけど。遅れたら分かってるよね? byメアリー』これは不味い事になった。
「オッサン、早く喋らないと拷問のスペシャリストが来る! 本職の暗殺者を数分でゲロさせたヤバイやつが来るよ! そしてもうボクには時間が無い!」
「あ? 何言って――」
「カナタ~助けに来たでー! うちが一番……じゃなかったんやね」
現れて早々テンション駄々下がりなルナの後を、サーベラスに乗ったキャロラインが追いかけてくる。
「何で、地中に大きな坑道が有りますの……」
「多分それはラビイチが掘って来たやつかな?」
「ワンワン~」
スマホの画面を見ると二度目の鐘――九時まではもう三〇分も残っていない、ここは非情な手段を取るしかない。
「俺達が口を割るとでも思っているのかよ。あまちゃんだな、口を閉じても殺される、話しても殺される。それならば答えは簡単だ――」
「ルナ、今から行なう予定の拷問コースを説明してあげて?」
既に王族専用拷問セットを取り出し、丹念に浄化をかけて準備しているルナに声をかけると、冒険者の正面を譲る。
「アレからキャロラインと話し合ってパワーアップしたんやで? まずは舌を噛み切れないようにゴブリン肉の燻製を口に突っ込む。次に両手両足の爪の間にナイフを刺す。次は刺したナイフを炙ったり冷ましたり電気を流したりして、完全に動かなくなった手足の指から切り落としていく。ちゃんと回復させるから安心してや? 次に――」
小さなナイフを片手に淡々と説明していくルナ。冒険者の顔色が青ざめていくのが分かる。
「――簡便してくれ、俺は雇われただけなんだ! 誰も殺しちゃいねえし、回してもらった女を抱いたのも数回だけだ。知ってる事は全て話すから頼む、命だけは……」
色々な汁を垂れ流しにした冒険者の男は、身を小さく丸め、震えながらそう言った。
非常に残念そうな顔で、用意していた拷問セットを片付けるルナ。最近全力で狩りをしていないので鬱憤が溜まっているのかもしれない……報酬を貰ったら発散に行かないと。
「うちもゴブリン肉の燻製はダメやと思うで? でもソレほど嫌がられると、この塊どうしようか悩むで……」
「ラビッ!?」
「そう、ですわ。ちょっと困った物ですの……」
ルナは絶賛勘違い中だった。目を真ん丸に見開き驚くラビイチは、ルナを二度見する。明らかにキャロラインも動揺している。
「時間が無い、ボスの名前は? 住んでる場所は?」
「本当の名前かは知らねえ、どろ――」
名前を言いかけた冒険者の首から『カチリ』と奇妙な音が聞こえた。
咄嗟に結界を張り両手でルナとキャロラインを抱え後ろに飛ぶ、同時にラビイチも後ろに下がった。
「何も、起きない? 何の音だったのかな?」
「一三回鳴ってたで?」
窓から差し込む明かりが男の影を照らす、地面に広がった黒いシミ。
「死んでますわ……」
「その首の辺りに何かあるかも、ちょっと下がってて」
結界を維持したままそっと近寄る、側にあった椅子の足を手折ると、突っ突き棒にして男の首の辺りを探る。
首には黒い紐の様な物が巻きついていた。左目で見た結果は。
『制約の首飾り』
特定のキーワードを口にすると発動する制約の鎖。
:断首
:自己崩壊
追加ステータスを現す場所には物騒な文字が書かれている。断首は分かるとして自己崩壊?
「ラビイチ走ってや!」
急にルナが叫ぶと首根っこを掴まれラビイチに騎乗させられる、ほぼ同時に走り出すサーベラス。
一緒にラビイチに乗ったルナがラビイチの掘って来た穴に飛び込むやすぐに通路を塞ぎにかかった。
「ダメだ! 女の子が居る、って。何で?」
「この子とその弟なら保護しましたわ。兎に角逃げますの」
「ワン!」
話しながらも全力で走るラビイチの後を追ってくるサーベラス、いつの間にかキャロラインの前にはあの時の姉が座らされており、弟は中央広場にいるとの事だった。
後ろを振り返るとルナが土壁を出し通路を塞いでいる。土壁はすぐに黒色に染まり、何か液体のような物が滲んでいた。
咄嗟に結界を張ると黒い液体の様な物は見えなくなり、ただ土壁を量産する作業になる。
「あー左目で見て鑑定しとけば良かった! まぁ、後の祭りか……」
「魔物の匂いがしたで?」
「ふむ、どうやらあの紐、魔物の一部で作られたのか、魔物そのモノを呼ぶ為のアイテムだったのか。どちらにしろすぐに冒険者ギルドに報告した方が良いかな? あっ! 時間忘れてた……」
急いでスマホ画面を覗くと八時五六分、九時には二度目の鐘が鳴る、もう間に合わないかもしれない。
「このまま一直線に行くで! ラビイチは走って、うちが掘る!」
「ラビラビー」
「少し左寄りです、そのまま真っ直ぐ、少し右に修正」
頼もしい、スマホのMAPを頼りに一直線に冒険者ギルド東支部へと突っ走るラビイチ。
このまま行けば楽々走って、時間ギリギリ間に合うかもしれない。
そんなボクの淡い期待はルナの一言で打ち破られた。
「そのまま真っ直ぐ上やで!」
「上!? 確かにここが真下だけど待ってー!」
「ラビッ!」
走り出したら急には止まれない、それがラビイチ。
生活魔法で穴を掘りながら進んできた道を埋めるルナ、ひたすら壁に手足をかけて走るラビイチ、サーベラスとキャロラインは壁を三角蹴りの要領で駆け上がっている。
「もう、間に合えば良いよね……」
「第一条件さえクリアすれば問題ありませんの」
スマホの画面には無慈悲にも八時五九分と表示されている。
何か突き破った感じの音と共に明かりが差し込み、すぐにラビイチが飛び出した。
鳴り響く二度目の鐘。ギリギリ間に合った?
「ギリギリセーフ? 黒いレース?」
飛び出したラビイチから振り落とされる様に地面に着地すると、目の前に黒いレースの布切れが……?
「そうじゃのう……ギリギリセーフじゃ。後で覚えておれよ?」
「おーいぇー……」
眼前に広がる黒いレースの森。教壇のような場所に四つん這いでこけているエウアの真後ろに着地したらしい。エウアの服装はいつも通りの黒いフリフリメイド服だ。
「すげぇな……誰にも出来ない事をやりやがった!」
笑いながら手を叩きこちらを指差してくるジークフリード。隣に座るオーキッドは大欠伸したままこちらに尻尾を振っている、その隣に座るアルバートは何故か剥げていた……?
取り合えず先にこの姉の方を片付けよう。
キャロラインに小さな声で耳打ちすると『ジャンヌに任せる』と伝える。
「弟共々下働きから始めてもらいますわ」
着々と進む教会改造計画、ジャンヌが張り切っているらしい。
詳細はまだ聞かされていないけど、新人冒険者を鍛えてクランの下位構成員として迎え入れるとか?
「時間ギリギリに入り口以外から乱入しておいて、なおかつお喋りじゃと……」
「あ、すいません。お話し続けてください」
何度か魔法をかけられている気がする、無意識にレジストしているようだ。
「絶対吸ってやるからのう……」
残念そうに地団駄を踏み、こちらを無視してお話しの続きに戻ったエウア。
物騒な捨て台詞が気になるが、今は席に座って話しを聞こう。
「こっちこっち、カナタ遅いよ?」
「ごめんごめん、ちょっと予想外の事件に巻き込まれてて。あれ? ルナが居ない」
「ルナならキャロラインと一緒に、サーベラスに乗って出て行ったよ?」
「まぁ、話と報酬貰うだけだし良いか」
退屈なお話があまり好きじゃないルナは、さっさと退散してしまった。
急に騒がしくなる部屋の外。鎧を着込んだ兵士が慌てて扉から入って来ると、エウアに一言何か伝えて出て行った。
何故かこちらをチラ見して悪い大人の笑みを浮かべたエウア。
遅れて入って来たヘズの顔色が悪いのと関係あるのかな?
「大まかな説明は既にして有るので省く、各自規定の半銀貨1枚を受け取るのじゃ」
「半銀貨1枚? アレだけ死に掛けて大変な目にあって、他国のスパイを捕まえた功績分加算とかないの?」
半銀貨1枚――円換算で大体5万円くらいだけど、死に掛けて二日拘束された割に安い気がする?
周りを見渡すと皆首を傾げてこちらの様子を窺っている。どうやらおかしいと思ったのはボクだけのようだ。
「はぁ……冒険者ギルドから出される依頼には報酬制度があるのじゃ。一日で終わる採取依頼は最低半銅貨1枚に採取物の買取金額。採取難易度や必要日数が増える場合、ベースの半銅貨1枚はランクに応じて大銅貨・銀貨・半銀貨と増えていく。
探索系の依頼はベースが銀貨1枚から、今回の依頼は二日かけて初心者向けのダンジョンへの遠征、尚且つSランク冒険者三名とその仲間の護衛兼先生が同行する。
事前に受けた依頼の内容が現地に行って見ると変わっていた。それは良くある事じゃ、ギルドとしては最大限報酬を上げてベースが半銀貨1枚、異論はあるかのう?」
「話の腰を折ってすいません、続けてください」
めんどくさいと顔に書いてあるエウアの説明を聞き終わり、報酬には続きがあると気が付いたので大人しくする。
エウアが指を鳴らすと、大きめの袋を持ったムキムキ筋肉の男達が部屋へと入ってきた。
「続いて貢献度や活躍した者に対する報酬を渡す。そこのギリギリに来たお嬢ちゃんの為に先に言っておくが、今回は個別PT生産は無しじゃ。ベース報酬のアップで分かっていると思うが、今回の依頼はこちらの見積もりが甘かったと言える。すまんかった」
ギルドマスターの素直な謝罪、話を聞く冒険者にどよめきが起こる。
「ロリ婆の謝罪を聞くのは何年振りか、ここに居る者は得したな。ガハッハッハッ」
遅れて来たヘズの顔色が良くなっている。元気に笑うヘズの姿を見たエウアが舌打ちをし、こちらを睨みつけてきた。睨まれる覚えが無いのに何で!?
「今回は異例の全員――満場一致で貢献度報酬はカナタ、お前が総取りで良いらしいぞ? 得したのう――」
「――ちょっと待って! 意味がわからない、その男達が持っている物やイデアロジックとかいっぱいあったやつ、全部貰って良いの? 何で?」
「イデアロジックは別じゃぞ?」
再び周りを見渡すと皆首を傾げてこちらの様子を窺っている。どうやらおかしいと思ったのはボクだけのようだ……どう考えても総取りは多すぎる気がする!?
「自分が何をしたか理解していないようじゃのう……面倒な説明はカナタが来る前に終わっておる。古代翠龍を退けて、全員無事に連れ帰った。この事実だけでAランク昇格の申請を勝手に通してしまうくらいの価値があるぞ? 素直に受け取るんじゃ」
「はぁ……本当に貰って良いの?」
三度周りを見回すと、皆うなずき手を叩いて『ありがとう!』の連呼である。
貰い過ぎて悪い気がするけど、ここで貰わないと話しが進まなさそうなので大人しくする。
「もし……貰い過ぎて悪いと思うのなら。新しくリトルエデンの本拠地となる土地に、借り宿でも建ててこいつらの面倒を見てやると良いぞ?」
「……何その具体的な案!? そして何その眼差し!?」
嫌な予感がする。四度目の見回しは、半涙目でこちらを見る新人冒険者達と、何故か便乗するオーキッドの熱い視線の集中砲火を受ける。
どうする……某CMのチワワの様に『クゥ~ン』と鳴いてる獣人も居る。
チョンチョンと肩を突かれ隣を見ると、メアリーが何故か握り拳に親指を立てて踏ん反り返っていた。
「土地の場所は、オーキッドの意見を参考にもう決めておいたから!」
「あ、そうなんですか……分かりました。メアリーにはかなわないな~あはは……」
オーキッドはメアリーを抱き込んでいた様で、満点の笑顔でこちらに尻尾を振ってきた。
「次に、活躍した者に渡す報酬じゃが……カナタは別として、ジークフリード。お前が選ばれておる、好きなイデアロジックを一つ選ぶが良いぞ?」
淡々と進行を進めるエウア。
お盆に載せられたイデアロジックは八個。【隠蔽】【忍び歩き】【抜き足】【差し足】【忍び足】【視線感知】【植物知識】【詩文】のスキルが覚えれる。
ジークフリードが選ぶのは……?
「あー、んー、そうだな、盗賊シリーズがコンプリートされてるのが羨ましいが……【詩文】を貰うか」
ジークフリードは散々悩み、【隠蔽】と【詩文】を両手に持ち、最後は諦めたと言った雰囲気で【詩文】を取った。【隠蔽】が欲しいボクとしてはドキドキの展開だった。
「ヘラ、お前が使っとけ。多分それが一番クランの為になる……」
「ありがとうございます団長~♪」
人目をはばからずチュッチュするヘラに呆れる皆。
「次はアルバートじゃ、オーキッドも一つ選べるぞ?」
「ボクは【隠蔽】をいただきます」
躊躇う事無く【隠蔽】を選ぶアルバート。分かっていたけど人気が高いスキルみたいだ。
少し残念な気持ちが無くも無いけど、あの頭を見ると何も言えなくなる。
だって、はげ――じゃなくて……多分自分で剃ったのだろう、ツルッツルなのにイケメンである。
「あたいは……カナタに譲ろうかな? 今後仲良くお付き合いしていく予定だから、引越しのご挨拶代わりかな?」
「はぁ……多分何言ってもオーキッドは付いてくるんですよね? ボクを追って来てもアヤカには合えませんよ?」
ドキドキである。アヤカに何と言って謝れば良いのか、今のボクには分からない。
オーキッドが付いて来る以上、アヤカの身が心配だ。
尻尾フリフリのオーキッドは満足そうに微笑むとヘズの顔を見た。
アイコンタクトをしているオーキッドとヘズ。どう見ても黒幕はヘズか……許すまじ。
「残りはカナタが持って行くと良いぞ? 遺品は冒険者リング一つで十分じゃしのう……」
「壊れたり使えなくなった装備系って処分するんですよね? 換金出来なかった物を貰いたいんですが」
「変なやつじゃのう……鋳潰して防具に直すにも、新しく買った方が安く付くぞ?」
普通に鋳潰したら燃料費その他もろもろで高く付くのは分かっていた。
ボクには廃装備を再利用するスキルが有るし問題無い。【分解】で素材に変えて【冶金】でインゴットに戻すコンボは最強!
「以上で報酬の分配を終わりじゃ。普段はカウンターで受け取れるので、今回みたいな別室は稀じゃから覚えておくと良いぞ?」
報酬を持って来たムキムキ筋肉の男達が部屋から出て行くと同時に、エウアが終了宣言を出す。
それぞれ雑談を始めたり次の依頼について相談を始める新人達の前で、突然『忘れる所じゃった』とエウアが皆を引き止めた。
「ここに居る者は全員参加で、秋の特別初心者講習会をおこなう。日程はそうじゃのう……明後日で良いかの?」
「皆大変だね~」
「何を言っておるのじゃ? カナタも参加強制に決まっておるぞ?」
真顔でそう言ったエウアの言葉が信じられずに、Sランク冒険者達の顔を見る。全員首を横に振っていた。
正直ばっくれたい、今更初心者講習会とかBランク冒険者のする事じゃないよね?
「あと、カナタはAランクに昇格させておいた。Aランクからは、ギルドからの依頼を理由も無く拒否すれば、罰金や罰則が付いてくるから気を付けるんじゃぞ?」
「Aランク!? 申告した覚えなんて無いんだけど……」
「カナタ? さっきエウアさんが『素直に受け取るんじゃ』って言った時拒否しなかったよね? その時Aランクの申請が通ったんだと思うよ?」
メアリーの横槍が見事にボクを貫いた。今思い返せば、Aランク昇格の申請を勝手に通すとエウアは言っていた。拒否しなかったボクの落ち度なのかな?
「ランクが上がって良い事尽くめ~」
「了解……参加する方向で調整します、リトルエデン全員でね!」
「えっ!? 私やルナは、大丈夫だと思うよ?」
「お店を持っているミリーやロニーと違い参加出来る人は全員参加ね♪」
今日のメアリーはボクに厳し過ぎる、たまには反撃したって良いじゃない。
溜息を吐き渋々肯くメアリー。
「カナタは早く子離れしないと、笑われちゃうよ?」
「え!?」
全然違う意味に取られていた事に気が付いたが、後の祭りである。
こっちを指差し笑うジークフリードに、何故かヤル気満々にこちらを見ているアルバート、オーキッドも『忙しくなるよ~』と元気いっぱいに部屋を出て行った。
「もう後の祭りか……。よし、メアリー。噂になっているリトルエデンの本拠地を構える土地でも見に行こうか?」
「メールで全員に通達出しておいたから、直ぐに集まると思う」
メアリーと手を繋いで部屋を出る。直後にエウアが『やんちゃも程ほどにのう……』と呟き隣を走り抜けていく。
すれ違い際に『今夜会いたい』と書いた羊皮紙を丸めて渡す。怪訝な顔でこちらを一目見てエウアは仕事に戻っていった。
「もうバレタのか……ギルドの情報網恐るべし」
「何の事?」
廃装備の山を回収すると、皆の集合場所となっている冒険者前の食堂へと足を向ける。
どんな土地かは見てみないと分からないけど、なるべく広くて従魔がウロウロしても迷惑がかからない場所だと良いな~。




