幕間 知らぬが仏
カナタ達が町に戻り体を休めている頃。眩い輝きを放つ銀製の調度品が置かれた室内で、身を寄せ合い密談する者達が居た。
一人は明らかに人族とは違う外見、少し黒っぽい鱗が全身を覆っている竜人族の青年。
二人目は眩い輝きを放つ黄金の鎧に身を包んだ人族の青年。
三人目は猫耳と狼尻尾が良く似合う長身の獣人、無骨な皮鎧が何処かミスマッチした美女。
四人目は髭の手入れを欠かせない、この部屋の主。
「先に言わせて貰おう、冒険者ギルド東支部Sランク上級幹部の試験は三人全員合格だ。事前通知無しで申し訳ないがこういう規則なんでな、詳しい事は後でギルドマスターの――エウアの面接時にでも聞いてくれ」
「あー、そう言う事だったのか。してやられたぜ……オーキッドのスパイ疑惑とアルバートの売国疑惑の調査とか言っておきながらなー」
ジークフリードの棒読みの台詞を聞いたヘズは、こめかみに血管を浮かび上がらせる。
「全てが終わった今なら理解出来ます。僕は金と腕っ節だけで成り上がった半端者ですが、心を入れ替えて冒険者ギルド東支部でやり直して行きたいと思います」
ヘズとジークフリードは丁寧口調で話すアルバートを怪訝な瞳で見つめると、すぐに視線をそらし、咳払いを一つして視線をオーキッドへ向ける。
「スパイね~……あたいが本当にスパイなら必要以上の仲間は作らないかな? あたいは助けてもらった恩を、誰かを助ける事でアヤカに返すと心に誓ったんだ。アヤカがこの国を滅ぼすとでも言わない限り裏切る気は無いかな? それよりアルバートなんで剥げたのかな?」
「ちょっ!?」
「ばか! 生え変わりの季節なんだよ!」
オーキッドの視線が髪の無くなったアルバートの頭部へと固定されている。
ジークフリードは適当な事を言って誤魔化そうとしていた。元より毛の生えない竜人族のジークフリードには、頭を丸めたアルバートの気持ちなど分かる筈も無かったからだ。
「これはケジメです。ゲンドゥル子爵家はもう有りませんが、天使教の誘いに乗った兄の罪とその協力者から二人も他国のスパイを借り受けていた自分への罰です。ダンジョンから戻ってみれば、両親と兄が他国と内通していて、騙されてそのまま消えたなど……本来僕の命が有るのが不思議なくらいです」
「あぁ……だからその口調なのか、で? 本当の所どうなってんだ?」
地面に突き立てられた一本の剣の如く背筋を伸ばし、正面を見据えて話すアルバート。その姿を見たジークフリードはヘズが何かしら手を回したと予想していた。
「ご想像にお任せといった所か。罪を被せて消すには惜しい才能だからな」
「頭の毛を剃るのと自分への罰が、どう繋がるかわからないかな?」
「女には分からんだろうな――俺はアルバートの誠意を受け取った。アルバート=ゲンドゥルはもう居ない、ここに居るのはSランク冒険者アルバートだ! 感動した!」
涙を流し力説するヘズを視界に入れたまま、尻尾の毛繕いを始めたオーキッドには正直どうでも良い話しだった。
「アルバートの無実は、あのおっかない副団長女のレポートで証明されたって聞いたけど。あたいはどうしてかな? 働きらしい働きをした覚えが無いし、他の誰かに褒めてもらえるほど戦闘の役に立った覚えも無いかな?」
オーキッドの疑問の答えは、ジークフリードとアルバートにも出せない。二人は理由を聞くべくヘズに視線を向けると言葉を待つ。
「知らん」
「「「はっ?」」」
頬をかきながら一言そう言うと、居心地が悪そうに視線を彷徨わせるヘズ。
ヘズの予想外の答えに、三人は目を真ん丸にして口を大きく開けたまま首を傾げた。
暫しの沈黙の後、答えは予想外の場所からもたらされる事となる。
「自分が決めた。ぬしは真っ白じゃとな――」
「――何故?」
三人は入り口横に置かれた銀製の姿見から、黒銀の髪を持つ青白い肌の人形みたいな少女が出てくるのを目撃する。
一人、ニンニクを齧るヘズは『プライバシーなんて有ったものじゃないぜ……』と一人肩を落とすのだった。
「紹介は必要か?」
少女は膝から腰・胸・肩のラインを通るように両手で自らの身体を撫で、髪をそのまま後ろに広げると、明らかに見る者を意識したポージングを決める。
「「「滅相も無い!」」」
突然現れた自身の力量を遥かに凌駕する相手、三人に緊張が走る。
「分かってるともうが、こいつがロリ婆真祖のエウアだ。あとで個人面談があるからな」
自分を魅せるポーズを決め、三人を圧倒したと勘違いしたままのエウアは、気分を良くして更に過激はポーズを取ろうとしてヘズに冷や水をかけられる。
「ばらすのが早いぞ? そんなだから女房に逃げられるのじゃ」
「関係無いだろが! はぁ……報告が終わるまでは静かにお願いします」
オモチャに興味を失った子供の様に、エウアは四人の間を堂々と通り抜け机の上に座るとニンニクを齧り始めた。
ヘズは溜息を吐くと、エウアなど居ない者として話しを再開させる。
「と、言う事だ。オーキッドは晴れて王都冒険者ギルド東支部Sランク冒険者兼、幹部と言う事だぜ? 稀に見る大躍進だなおい。その歳でSランクにまで上り詰め、運良く幹部になれたんだ。暫くはクランの事に専念しても良いんじゃないか? そろそろスラム街から出て行って欲しいんだが……」
「あのスラム街……欲しい、と言ったら怒るかな?」
一瞬怒鳴ろうと思い口を開きかけたヘズは、頭の隅に引っ掛かりを覚えて言葉を止める。
このタイミングで、オーキッドの処遇を全て丸投げ出きる人物に一人心当たりがあったからだ。
「あーあぁ、それなんだが。実はあの場所を譲る先約があるんだ。本当に申し訳ないな~♪ 直接交渉してどうにかしてくれないか? 勿論、決まった事にこちらが後からとやかく言うつもりは無い、だから是非是非」
「アンタずる賢いって良く言われないかい? でも、あたいはそう言うの嫌いじゃないかな」
下種な笑みを浮かべるヘズと笑顔だけなら満点のオーキッドの取引は、当事者の居ないこの場で終結される。
取り残された感が強い残りの二人はこの後飲みに行く酒場の相談をし、机に座ったエウアはギルド職員リストから次の獲物を物色するのだった。
「おっと、本題を忘れる所だったのう」
エウアが突然、机から飛び降りると全員の顔を見回し、一人肯くと詰問を開始する。
「あの娘はどうじゃった? マリア=ラーズグリーズの娘じゃ、気付いていると思うが……あやつは勇者じゃぞ?」
エウアの突然の暴露。女の勇者がどれほど価値を持つ者なのか、ここに居る者達が知らないはずも無い。
女勇者の産む子供は必ず勇者の素質を受け継ぎ生まれてくる、神の祝福を受け素質を開花させる男勇者の子供と違い、そこに神の介入は必要無い。
己が系譜に勇者の血を引き入れる、その為ならどんな悪行にも手を染める……何でもする権力者はいくらでも居る。
「あー、興味がねえ……とは言わないぜ? 実際あの娘の素質には目を見張る物がある。鍛冶に魔法に――多分あの従魔もテイムしたやつだな、これだけでトリプルジョブだ。極め付けがあの盾を操るスキル……舞い盾のロッズに弟子は居たか?」
「うむぅ……」
難しい顔で考え込むヘズ。記憶が正しければロッズは【絶壁】と呼ばれる冒険者を弟子に取り、己が技術を伝授したという噂が立っていた。
「舞い盾か……ロッズの弟子は一人、【絶壁】と呼ばれる化け物が一人居る、が……ドラゴンが避けて通るくらいガチムチで、筋肉隆々のおっさんだと言う噂だが?」
「僕は長身の美丈夫だと聞きましたが?」
「あたいは絶世の美人さんって聞いたかな?」
「あー、その噂なら聞いた事あるが……眉唾ものだぜ? そもそも舞い盾を習得できるはずが無い、アレはロッズただ一人が使えるユニークスキルだ。それに俺はボンキュッボンの竜人族って聞いたな~」
皆の聞いた噂がそれぞれ違う人なのか、そもそもそんな人物は存在しないのかはここに居る四人には分からない。暫しの沈黙が続いた。
「次は僕の所見を述べさせてもらっても宜しいですか?」
「うむ、なかなかその頭似合っておるぞ?」
アルバートが沈黙を破り申し出ると同時に、エウアがその頭を撫で始める。余程触り心地が良いモノなのか、小さい少女の手は話す間も止める気な無いようだ。
「実力――この場合ステータス的な強さの事を言うと、Bランクに収まっている事が不思議なくらいです。ただ、経験値――この場合経験から来る総合的な評価は、良くてE……もしかするとそこらの新人の方がまだマシかもしれませんね。もしかすると初心者講習すら受けてない可能性があります。どこの冒険者ギルドがランクアップ申請を通したんですか?」
「マリア=ラーズグリーズが治める東に有る町じゃ、身内贔屓が過ぎるのう……」
やれやれと言った感じに溜息を吐き、アルバートの頭から手を放すと書類を書き始めたエウア。手に持った書類には秋の特別初心者講習会と書かれていた。
「一般常識はこれで叩き込む、ジークフリード、アルバート、オーキッドの三人には講師として参加してもらうぞ?」
エウアの提案に嫌な顔をして一歩下がったジークフリード、その背後にはヘズが構えていた。
「おっと、別にヘラに頼んでも良いんだぜ? お前が『特別報酬は胸のデカイ冒険者を紹介してくれ』とか言っていた事を、ついうっかり話してしまうかもしれんがな!」
両手を上げて降参の意を表したジークフリードから、エウアとヘズの視線はアルバートとオーキッドへと向う。
「僕にはそもそも断る権利がありません」
「あたいもお金が欲しいし参加しようかな」
「満場一致と言う事じゃな! ヘズ、折角手配じゃ! 特別を付けたからには――いつもより豪華にいくぞ!」
「ロリ婆の特別は辛いぞ~。何と言っても特別しんどいと評判の、気まぐれ講習会だからな」
Sランク冒険者三人はヘズの言葉を受け、両の肩を落とし首を軽く振りながら自分を納得させる様に書類へサインしていく。
「そうじゃ、オーキッドの意見を聞いてないのう。あの娘を観察していたようじゃが……面白い事でも見つけたかのう?」
詰問を受けたオーキッドは一瞬ジークフリードとアルバートに視線を送ると、瞬き一つで合図を送る。
「非常に優しい子かな? その反面、敵になった者に容赦が無さそうに見える」
「見えるとな? 見えるだけと言う事は、敵にも甘いおこちゃまか?」
「あの子は……」
エウアの茶化した言い方に眉を潜めたオーキッドだったが、急に真剣な表情になると言葉を続ける。
「あの子は、世の中の人を敵と味方とそれ以外の三種類に分類するタイプかな? お話しして、一緒にご飯を食べたくらいで味方に分類するのはどうかと思うけど。多分、今牢屋に入れられているユダの処遇も温情を求めてくると思うかな?」
「マリアの娘にしては優しい子じゃのう……世の中その三種類で十分じゃないのかのぅ?」
エウアにはオーキッドの言いたい事が分からなかった。ジークフリードとアルバートは何か思うところが有るのか肯き、ヘズはそれ以外に何があるのか考えて固まっている。
「大穴に落ちた時の事、暗闇の中で半竜化したジークフリードを見ても眉一つ動かさないどころか、他人を心配しだすほど、度胸がある? 違うかな。あの子の中では姿形はあまり重要視されていない『ジークフリードだから大丈夫』、これが会って一日も経たない相手に対する評価。ここまで人を信用出来るのはおかしいかな?
まだ明確に敵と判断された人を見ていないからこれ以上は分からないけど……間違い無く言える事が一つあるかな。あの子と小さな楽園に敵対するのはダメ。王様でも街娘でもそこら辺に歩いている子供でも、あの子の中では同じそれ以外の人と言う評価かな?」
「何と無く分かったが……具体的にカナタのクラン員を拉致するような輩が出た場合、オーキッドはどうなると考えているんだ?」
オーキッドの説明を受けても釈然としないヘズは、具体的な例を上げて予想を聞く事にした。
「良くて――半殺しの上、絶対服従を誓わされて、死ぬ事すら許されずに罪を償う事になるかな?」
「穏やかじゃねえな……」
「悪くて……人質の身に何かあったり、傷物にされた日には――王都から関係者全員が消える事になるかな?」
「殺されて死体も残さず処分されるって事か? そんな事する様に見えないぜ?」
ジークフリードの何気ない言葉。オーキッドはアヤカと言う転生者を知っている、だから言える事があった。
「そんな甘い事じゃないかな? 多分、あたいにも想像も出来ない方法で、死ぬ事も許されずに壊れる事も許さずに……これ以上は言わなくても良いかな? あの子は勇者の域を超えている」
オーキッドの言った『勇者の域を超えている』と言う言葉、それがもたらす答え。
ヘズとエウアの表情に緊張が走る、無意識に髭を撫でるヘズ。
「あの歳で、勇者を超える……何の冗談だ。英雄が生まれるような事が有る訳が無い」
ヘズの漏らした言葉をしっかり聞き止めたSランク冒険者三人は、己が内でその意味を考える。
英雄、それは勇者が時を経て成長・進化を繰り返し辿り着く終着点。
そこまで至った者が求めるモノは何か? ソレは生物の本能。
古い文献では、かつて英雄となった勇者は帰還を求め、世界の半分を犠牲にその扉を開いたを言われている。
「一度だけ、聞いた事がある。俺の国に伝わる古い文献の話だ。一万年以上も昔、この地に降り立った勇者は全ての悪を滅ぼした後、この地に国を作ったとか言うやつだ。話しの最後は大地を二つに割り、生き物が住んでいない方を犠牲に思い人が居る世界に戻ろうとしたらしい」
「戻れたのかな?」
オーキッドの質問に首を横に振るジークフリード。
続きを引き継ぐようにエウアが話しの続きを語り始める。
「その世界までは届かなかったそうじゃ。いつか『時の彼方に居る、愛しの者に届け』と文献に記されておった」
「竜人族の国の宝物殿にある文献なんだがな……いつ忍び込んだんだよ」
ジーっとエウアを疑惑の目で見るジークフリード。つい口が滑ったエウアは口笛を吹きながら鏡の中へと消えていった。
「王都冒険者ギルドに取り込むのは止めておいた方が良さそうか……」
「おいおい、ヘズの旦那。マリアの機嫌を損ねてまで取り込みに走るほど、使える人材とは思えないぜ? まだまだ子供だ。旦那が嫁にしたいとでも言うのなら……俺は全力で王都から逃げるからな」
ヘズの漏らした一言を邪推したジークフリードは、冗談交じりで言葉を返す。
次の瞬間、胃を押さえたヘズの姿を見ると自分が何を言ったのか思い直す。
「冗談だぜ、どうやらカナタには嫁が沢山居るらしいからな~」
もう話す事は無い、とジークフリードも背を向け扉の外に出て行こうとする。
「一番重要な事を忘れていると思うかな?」
「「「ん?」」」
真剣なオーキッドの言葉に、残された三人は背を伸ばし話しを聞く体勢を直した。
「報酬は人数割りで良いのかな? あと、イデアロジックは冒険者ギルドが買い上げてくれるのかな?」
生唾を飲み、目をキラキラと輝かせたオーキッドの質問に脱力する三人。
出自の良いアルバートに、会計一切をヘラに任せて居るジークフリード。この二人はお金の事など頭から抜けていたが、オーキッドには大切なクラン員を養っていく義務がある。
目頭を押さえて右手をオーキッドに向けたヘズは、指先だけでコイコイをすると、オーキッドを側に呼び寄せた。
「大事な話の後だ、自重してくれ。報酬は規定通り払われるが、量が多いのと貢献度による分配がある。明後日、二度目の鐘が鳴る頃に冒険者ギルドに集合と解散時に伝えたはずだが?」
「あたい、古代翠龍の衝撃が大き過ぎてすっかり忘れてたかな……」
「は? ちょっと待て! ヘラの書いたジークフリード武勇伝にあった古代翠龍は……緑竜とか翠竜じゃなく――本当に本物の?」
ヘズの表情に緊張が走る。
それもそのはず、ヘラが提出した報告書にはジークフリードを美化する傾向が多々あったのである。
己の中で美化され、誇張された表現を用いて書かれたヘラのレポートは、一種の武勇伝として売りに出せばそこそこ良い物語として売れるんじゃないかと毎度ヘズを困らせていた。
「撃退したのか……? いや、逃げ切れたのか?」
「俺とアルバートは殆ど覚えていないぜ。オーキッドは見てたのか?」
顔中に脂汗を滴らせたヘズ。
ジークフリードとアルバートは正直なにが起こったか覚えていない、気が付いたらダンジョンの外に居たのである。
オーキッドの話しに少し興味が湧き話しの続きを促した。
「古代翠龍を使役する強そうな緑の人に、不思議な言葉で話しかけてたかな? 何言ってるかまではさっぱり。その後、瞬きしたらダンジョンの外に全員居たかな?」
「竜言語か? それとも古龍言語? いや、それなら俺が気がつくはずだ――」
「「「――緑の人?」」」
話をしている途中で気が付いた。オーキッドは古代翠龍を使役する緑の人が居たと言っている。三人は自らの知識の中に該当する行為を行なえる生物が居るかどうか考える。
「冗談だよな? 推定レベル5000オーバー、この国の王ですら戦って勝てるか分からないぜ?」
「人間には無理でしょうね、成長限界までレベルを上げた王でも五倍以上開きがあるとなると……」
「まぁ、あたいは今生きている。それで良いと思うかな。アハハ~」
「まぁな、ヘズ?」
「ヘズどうしたんですか?」
軽快に笑うオーキッドを見つめた二人は、今日何度目になるか分からない溜息を吐くと、地面を見つめてブツブツと独り言を言うヘズに視線を移し、声をかける。
「……新人向けのダンジョン『愚者の王墓』に古代翠龍……それを超える存在も……グフッ!」
「「「え?」」」
血反吐を吐き膝から崩れ落ちたヘズを眺める三人。体が痙攣を始めた頃に無言のエウアが戻って来ると、ヘズを医務室に引きずって行った。
「あー、言わなくても分かっていると思うが」
「僕は問題無い、あの事だろ?」
「あたいも言う必要は無いと思うかな?」
室内に残された三人は、一つの隠し事を誰も居ないこの場で確認し合う事にする。
「「「飛行スキル所持者が居る」」」
何も言わず、顔色一つ変えなかったが、ダンジョン攻略中三人はずっと驚愕していた。
人族は飛べない、それが万国共通の見解。
例外が唯一存在するが現実的では無い、フライングラビッツの耳から作られるマジックアイテム。
現在所持者は王一人と言われているフライングラビッツのマジックアイテムは、数秒飛ぶだけで1MP消費するが空を少しだけ飛べると言う物で、非常にMP消費が激しいが誰しも一度は手にしたいと思う至高の品だ。
もし、アイテム無しでも飛ぶ事が出来るスキルがあると分かると、色々問題が多く出て来る事は必死。
「オーキッド、今度会った時にそれとなく注意しておいてくれ」
「あたいも丁度考えていたかな」
「既に新人冒険者には口止め済みです」
「さすがアルバートだな、頼りにしてるぜ!」
三人は拳を重ねて肯き合うと、主の居なくなった部屋から外に出て行った。
誰も居なくなった部屋にいつの間にか一人の少女の姿がある。
少女――エウアは冒険者ギルドの入ってきた新人のリストを放り出し、小さく喉を鳴らす。
「味見してみたいのう……」
一人呟くエウアの瞳は、肉食獣が獲物を見定めた時のソレと同じになっていた。




