第99話 裏切りと生贄
転移は一瞬で行なわれた。
目の前に広がるのは先ほどまでの倉庫と同じ作りの通路、後ろを振り返ると宝箱が一個ぽつんと置かれている。通路の先には曲がり角が見え、どこかに通じている様だ。
とりあえず角まで行って戻ろう、念の為に玄武の盾を取り出し装備し硬皮の盾を飛ばしていつでも攻撃出来る様にする。
ふと時忘れの盾が有る事思い出し、スマホから木の宝箱を取り出すと中身を漁る。
目当ての盾はかなり太い鮭の骨をベースに鮭の皮を綺麗に張り合わせたような盾で、サイズが小さい割りにそれなりの重量があった。
「これは……武器として使えるんじゃ」
曲がり角まですり足で進むと罠を踏み、壁から尖った杭が一本飛び出てきた。
無論綺麗に回避――など出来るわけも無く、杭は玄武の盾に当たり鈍い音と同時に圧し折れる。
「左手に玄武の盾を持っておいて正解だった。まぁ、普通に当たっても問題なかったかもしれないけど……」
角から曲がった先の通路をこっそり覗く。光りが無くても問題は無い、この眼鏡の【光量調整】スキルが役に立った。
真っ暗に見えて実は薄っすら光る苔が壁に生えているみたいで、行動するのに問題無いくらいの視界を確保出来ている。
角を曲がった先には大きめの倉庫があって宝箱が並んでいた。魔物の気配は無い、これなら問題無いかな?
一〇秒過ぎそうだったので急いで元の宝箱まで戻るとまた蓋を開ける。
「カナタ! 団長の方でも問題が起こりました。後、こちらでも……」
「ただいま~?」
戻ると血相を変えたヘラが待機していた。倉庫になっている部屋には何故か全員一緒に待機している?
隣の部屋に続く扉は一応開いている、オーキッドが何故か扉の1m前で武器を構えていた。
「オーキッドのその武器何? 鉤爪?」
「自慢の一品かな? でも、今はそれどころじゃないかな!」
開いた扉から死に掛けのゴブリンが一匹倉庫に入って来る、目の前で虹色の煙を上げて蒸発していくのは先ほどと同じだった。
「いつまでこの聖域? が持つのか分からない以上、早めに移動した方が良いです」
「そうだね、多分当分切れないと思うけど、この先は安全そうだから全員移動しようか」
先に宝箱に触れると先ほどの通路に移動する、後から続いて皆が移動してきた。
ざっと顔を見るとルナとキャロラインにサーベラス、新人全員に、ヘラとオーキッド……ユダが居ない!?
「ルナとキャロラインとサーベラスは通路の角でその先を見張ってて、敵が来たら戦うより戻ってきてね?」
「了解やで!」
「別に倒してしまっても良い?」
「単品なら倒してOK。ここからはハンドシグナルで行こう、ハンドサインでもどっちでも良いけど」
ルナとキャロラインの指がOKのサインを送って来る、サーベラスも口を閉じ首を上下に動かして了解を表していた。
「ユダはどうしたの? 居ないようだけど」
「ユダさんが壁に消えていきました……その後、外に続く扉が勝手に開いてゴブリンが入ってきたんです!」
「と言う事らしいです、私は宝箱の監視をしていたので見ていません。一番初めに気が付いたオーキッドがその場は凌いで、皆すぐ倉庫に入ったのでそれ以上は……」
獣人の女の子の証言から推測する、ヘラが言うにはオーキッドが一番初めに気が付いたとの事。
オーキッドに視線を向けると、新人の獣人達が怪我を負っていないか確認している所だった。
「オーキッド、大丈夫? 回復ならいつでも――無料でするからすぐ言ってね。部屋で何があったの?」
どうやら怪我は無い様子で、一安心しているオーキッドに問いかける。
「あのユダって女、裏切り者かな! 殺気と嫌な匂いを感じて振り返ると、あの女が隠し扉からどこかに行くのが見えて、追いかけ様としたら何かのスイッチを押して笑ってたんだよ! あのスイッチがゴブリン達を部屋に呼ぶ何かに違いないかな!」
牙を覗かせ、凄い剣幕になりまくし立てるオーキッド。余程PTメンバーが危険に晒された事に怒りを覚えているのだろう、この調子じゃ冷静な判断以前に皆の士気にも影響が出る可能性がある。
「とりあえず今は落ち着いて行こう、ユダは壁の中に消えた。今後ユダは敵もしくは敵勢力と見て行動しよう。とりあえず朝ご飯もろくに食べてないから頭が回らないと思うし、これ皆で食べてね?」
「この甘い匂いは――焼き芋かな!?」
何故焼き芋の事を知っているのか謎だけど、カナタスイートポテトと加熱蜜結晶を一人一個ずつ回るように手渡していく。
「ヘラ、団長に連絡して。ユダが裏切り――もしくは元から敵勢力の者かもしれない、あとアルバートも一応警戒していた方が良いとね」
「もぐもぐ、了解。もうこれだけ色々見せられた後じゃ、このマジックアイテムの事くらいばれても問題無いですよね。あと団長の方はヤバイ敵を事前に発見したので、現在道を戻っている途中です」
ジークフリードが戻っている途中なら都合が良い、ヤバイ敵は気になるけど事前に見つけたのなら大丈夫かな?
ヘラはボクを引っ張って角の近くにまで移動すると、耳に付けている六角形のイヤリングの中心を人差し指で軽く三回叩き、何かの反応を待っていた。
「あー、団長、ユダが罠を作動させ行方をくらましました。皆は無事ですが、敵は一人ではないとカナタが断定、一応アルバートも容疑者です、警戒お願いします。もしかすると消えたジューダス以下従者も怪しいかもしれません。落ちた穴の底には新人を含め誰一人の装備品すら落ちて居ませんでした。オーバー」
トランシーバー型? そんなマジックアイテムもあったのか……
「それって遠距離でも使えるの?」
「一目でどんなマジックアイテムか見抜くんですか……流石と言ったところです。残念ながら同じダンジョン内なら消費無しに大抵何処でも連絡出来ますが、外で使う分には魔力が足りず精々一つの街の中で使えるかどうかです」
つまりダンジョンから漏れ出る魔力を吸い取って燃料にしているのかな? 街で使えないのは痛いけどダンジョンでそれだけ使えるなら十分過ぎる性能だと思う、正直スマホが無かったら欲しかったくらいだ。
それにしてもジューダス以下従者の事はすっかり忘れていた。
ユダが裏切り者なら死んだと思われていたジューダスも姿を消しただけの可能性がある。
でも……それならあのアルバートの涙は?
「そっちだけ情報公開するのは不公平だと思うから言うけど、このスマホも同じような機能が付いていたりする。こっちは何処でもいける代わりに本体が個別認証式で、本人以外一時的に利用権を与えられた者にしか使えないけどね~」
「知ってますよ? ルナが自慢していました」
「な、なんだってー!!」
角で見張りをして居るルナを見る。何故か耳を両手で隠しサーベラスの下に隠れるルナを見つけた。
「はぁ……まぁ良いか、盗まれる事も無いし。うちのクラン員を狙って敵対する者が出てきたら――見せしめに血祭りに上げるしね」
不意に角から光りが見えた。こちらにだけ見えるようにサーベラスが火を吹いていた。
キャロラインからは敵が二匹、こちらに近づいてくるとサインが送られてくる。
「音を立てずに行くよ」
完全に音を立てないように【停止飛行】で地面から少し浮き角へ向う、曲がり角ではルナが爪を伸ばし振り下ろす仕草をしていた。一気に飛び出すサーベラスとキャロライン。
「物音は聞こえなかった。なるべく静かに突っ込むよ!」
背後を振り返り言うと、そこには既にオーキッドの姿は無い。
咄嗟に飛び出しルナ達の後を追う、倉庫自体は同じ配置で宝箱の個数は五個一番右が黒色の宝箱で良いのかな?
「右から黒、普通二個、赤二個やで!」
「了解、結界で黒色は封じ込める。一応味方が来る事を考えて広めに結界張るから、目に見えない壁に当たったら近寄らないでね?」
少し大きめの声で言うと全員肯いた。
ルナが倒したのは杖を持ったゴブリンで、胴体から首がサヨナラしていた。
隣の部屋へと続く木の扉と鉄の扉がある、まだ扉は開けずに周囲を警戒しつつ構えるオーキッドとルナ。
キャロラインとサーベラスは一緒にミミックの処理をしている。
キャロラインがミミックをアウラ縄で結び、サーベラスが丸齧りして空いた穴から中身を外に出していた。
木の宝箱だからこそ出来る力技かな? サーベラスの顎なら胴鉄銀金辺りの宝箱でも齧れそうな気がするけど。
ヘラが宝箱の中身を確認している。普通の宝箱にはイデアロジックと冒険者リングが入っていたみたいだ。
「先に聖域を張る、完成するまでに敵が来たらよろしく!」
倉庫の中央で【簡易儀式魔法陣】聖者の足跡を発動する。二回目なので前回の経験を生かし両手で素早く魔法陣を完成させていく。
魔法陣が完成する間際、鉄の扉が突然開き全身鎧を装備したゴブリンが倉庫に入ってきた。
『ゴブリンナイトLv58』
「そいつ結構強いかも、レベル58ゴブナイト」
「あたいが殺る」
ロングソードを振りかぶりこちらに突撃してくる敵をオーキッドが鉤爪二個で牽制する、力量が分かるのか動きを止めて剣を構え直すゴブリンナイト。
オーキッドが右にフェイントをかけ左から鋭い鉤爪付き猫パンチを放ち、ゴブリンナイトが両手で構えた剣に阻まれた。
瞬間――尻尾で何かを敵に投げつけるオーキッド。投げた物は白い灰?
「いまかな!」
「え?」
「ギギェー」
オーキッドの声と同時に獣人達が一斉に鋼鉄の矢をゴブリンナイトへと投げつける、半数は上手く刺さらず地面に落ちたが、半分は見事に鎧に覆われていない敵の顔面へと突き刺さった。
動きを止めて矢を抜こうとするゴブリンナイトは、オーキッドが振るった鉤爪で首を四枚に下ろされて絶命した。
「なかなかのコンビネーション……てっきりオーキッドがタイマンするのかと思ってたよ?」
「そんなの馬鹿がすることだよ、それより聖域まだかな?」
鉄の扉からは次のゴブリンナイトが顔を覗かせようとしていた。
咄嗟に完成した魔法陣のOKをクリックするとついでに詠唱しておく事にする。
「魔を払い穢れを浄化する聖域をここに! サンクチュアリ!」
「「「「「「ギギァゴー!!」」」」」」
一斉に聞こえるゴブリンの物を思われる悲鳴、木の扉が開き、虹色の煙と出しながらのたうつホブゴブリンが飛び出てくる、その口には人間の物と思われる足が咥えられていた。
すぐさま振るわれた鉤爪にホブゴブリンは煙となって消えていく。
「クソ! ヘラだけ来て! 他の者はオーキッドと一緒に鉄の扉を攻略! 多分そっちは敵しか居ない、サーベラスも二人をよろしく!」
指示を出し、時忘れの盾を右手で持つと木の扉の中へと突入する。
隣の部屋はジークフリードが言っていた通り食料庫なのか、壁には鎖で吊るされた人間が数名、部屋の中央に置かれている長い机には四肢を欠損した人間が胴体に枷をはめられて繋がれていた。全員男だ。
視界に残る敵は二匹、虹色の煙を上げて地面に伏しているのはホブゴブリンと牙が長い変なゴブリン!?
『ホブゴブリンLv48』
『ゴブリンロード(下級吸血鬼)Lv78』
下級吸血鬼!? 何かヤバイ敵が出てきた。
ヘラに片手で静止を呼びかけると、敵の周囲に結界を張り安全を確保する。
「一応結界で捕縛した。聖域の影響で煙出てるから多分ほっといたら死ぬけど、ヘラはローヴァンパイアって知ってる?」
「成り立て、もしくはそこまでしか成長する才能が無かった吸血鬼です」
視線を敵に固定したまま隣に並んだヘラへと質問する、答えはすぐに返ってきた。
「ならもしかして、ここに掴まっている人間って吸血鬼化するとか?」
長い机に並べられた人間は、切り取られた四肢の根元を太い蔓の様な植物で結ばれて止血してあった。
「冒険者リングで名前の参照をして、ステータス異常に生贄が表示されればなります……」
「見るからこっちの敵を監視してて」
非常事態なので左目で見る、壁に鎖で吊るされた者はHPが減っているだけのただの人間だった。
状態異状は麻痺と昏睡、聖域の効果かHPが回復していく途中のようだ。
問題は机に繋がれた人間だ。HPは一割残っているかどうか、状態異状は瀕死と麻痺と狂乱と昏睡と精神汚染……これは難しい気がしてきた。
「壁の人は大丈夫、多分すぐに元気になる。机の方は瀕死と麻痺と狂乱と昏睡と精神汚染、無理そうな気がする。あと、今気が付いたけど、傷口や切断面から血が全然出ていない、鉄臭い匂いも殆ど無い? 見た目グロイのに吐き気がマシだ……」
「そろそろ燃え尽きる様です、何か言っているみたいですけど? 結界を解除して聞きます?」
「こんな事したのに、聞き入れてもらえると思っているのかな? 苦悶の表情を見る限り聖域は魔物に猛毒の様に作用するみたいだし、このまま苦痛を味わってもらおうか」
吐き気がする、反吐が出る、魔物とはそもそもが違った生き物。植物性の魔物ならともかく人肉を食べるやつはダメだ。
ガルワンの様に知性も理性もある魔物ならともかく、明らかな敵を従魔にする価値は無い。
燃え尽きた魔物の結界を解除して辺りを探ってみると、壁の一部がスライドして奥へと続く扉を発見する。厳重に鍵をかけられた鉄色の扉だ。
鍵は燃え尽きた魔物の灰の中に埋もれていた。
「鍵付きの扉がある、まだ奥にも何か居る?」
「こちらは任せてください……カナタは奥の部屋を、多分そのローヴァンパイアの贄が閉じ込めれているはずです。主が死んだので、もし吸血鬼化が進んでいても少しなら何とか戻せると思います。……人間のステータスが表示されなければ手遅れです」
「そっちもよろしく、先に回復させていこうか?」
「……後でお願いします」
かなり暗い顔のヘラに追い出される様にして鉄の扉の前へ移動する、鍵を開けて中から何が出てきても良いように盾を構えて扉を開ける。
扉の先で目にしたのは、一瞬思考を停止させるほど胸糞悪い光景だった。
「下種が……」
扉の中は一〇畳くらいの空間で、壁に鎖で繋がれた少女が二人。部屋中央に配置された鉄のベットには、全身いたる所に噛み痕と思われる二つの小さな傷が付いた少女が一人横たわっていた。
少女達は皆銀髪でこちらを見る瞳には怯えの色が見て取れる、頬がコケ顔色は真っ青で、その痩せた身体を覆う物は何一つ身に付けておらず、ただ小さな声で『助けて』と言葉を漏らしていた。
殴る蹴る乱暴するなどの行為を受けた形跡が無いのだけが、唯一の救いだと思うくらい酷い有様だ。
壁に繋がれている少女達には、特に危険なステータス異常も見受けられない。
問題はこの鉄のベットに横たわった少女だ。
手足に枷がはめられていて動けないのか目線だけをこちらに向けてくる、その瞳には光りが無い。
『ソフィア(吸血鬼の贄)Lv5』
左目で見ると魔物と同じ表示がされる。人間を左目で見た場合、名前・種族・年齢・性別・属性の項目は最低限表示されるはずなのに……
「もう大丈夫だから、助け出すから落ち着いて聞いて。浄化清掃して治療を行なうね? これ食べて楽にしてて」
怯える少女二人には浄化と清掃をかけ治療を施す。少しでも安心させる為に甘味――加熱蜜結晶を食べさせようとしたが、顎がガクガクと震えて上手く口を開ける事が出来ないみたいだ。
「むぐっ!? ん……」
仕方ないので自らの口に含み少し溶かしてから、無理やり口移しで食べさせる事にした。
閉じた口を舌で割って入り、舌の上へ直接加熱蜜結晶を乗せると、間違えて飲み込まないように少しずつ溶かして味わわせる。同時に背中を撫でながらタイガーベアの毛皮を出し身を包む。
二人とも毛皮に包まった状態でしばし待ってもらう事にする。
甘味が効いたのか落ち着きを取り戻した二人は、頬を朱に染めたまま眠りに就いた。
次はソフィアの番だ……
「声は聞こえてるよね? 聞こえていたら瞬きして」
弱々しいながらもちゃんと反応を返してくれる。少し開いた口の中に若干伸び気味の犬歯が見えた。
「今自分に起こっている変化が分かる?」
ゆっくりと瞬きする少女、瞳に薄っすらと涙が滲む。
「選択肢は二つ、生きるか……」
二つ目の選択肢を告げる事は出来なかった。もしかすると何とかなるかもしれない、その思いが口に出す事を躊躇わせる。
ヘラの言った事を思い出すと、少女はもう手遅れだ。
吸血鬼の眷属へと変貌を遂げようとしている、主が居ないのに眷族化が進行していると言う事は、新たな吸血鬼が生まれようとしているのかもしれない。
「い……き、たい……」
「分かった。後はボクが全て何とかする、少しの間だけ眠っていてね?」
涙を流し生きたいと願う少女。その枯れた喉から発せられた願い、それを無碍にする事など出来るはずが無い。
幸い真祖の知り合いが王都に居るので何とかなるかもしれない。
ソフィアをスマホに収納すると少女二人を抱え部屋の外に出る。
「遅かったですね……生き残りは二人だけですか?」
「生きてる人間は……この二人だけだった。そっちはどう?」
ヘラは長い机の上に固定された人間の胸に、青光りするナイフを突き立て止めをさしていた。
「壊れていました。もう治療しても人間として生きて行く事は不可能なほどに……」
「でも、人を殺すと冒険者リングが黒く……!」
ヘラの指にはまった冒険者リングは黒く変わらずそのままだった。
「創世神イデア=イクス様がこの行いを悪としなかったのです。このナイフは唯一冒険者ギルドで誰でも買える魔法道具、慈悲の涙Aランク以上の冒険者には携帯が義務付けられています」
「そのナイフに伝う青い液体が苦痛を和らげる何かしらの薬ってわけか……」
ナイフを抜き取ると刃には血が付いておらず青色の液体が滴っていた。
「壁に繋がれた人に治療を施したらすぐに次の部屋に行く、隣の部屋もそろそろ片付いてるはずだからオーキッドにもそう伝えといて。もう手加減しないから以降の魔物は全てボク一人で殲滅する……」
「……お気をつけて、すぐに後を追います」
「ごめん、ちょっと苛立ってた」
ボクの顔を見るヘラの目には驚きと怯えの色があった。
苛立つ気持ちを無理やり落ち着けて、壁に繋がれた人を解放すると治療をかけ倉庫に戻る。
「サーベラスはオーキッド達に付いててあげて、ルナとキャロラインはボクが宝箱に触れて五秒後に来て」
「「サーイエッサー!」」
「ワンッ!」
隣の部屋の掃除が終わったのか、積まれた冒険者の遺品を回収している二人に声をかけるとサーベラスを残る新人達の護衛に付ける。
行き掛けの駄賃に、何故か一匹角に残されていたミミックを素手で引き裂いて、一番右の宝箱に触れる。
この騒動を引き起こした原因にもしアルバートのPTが関与しているのなら……ボクは穏便に事を終える気は無い。




