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ボクが異世界?で魔王?の嫁?で!  作者: らず&らず
第4章 ハッピー?ニューライフ
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第97話 金ピカは良いやつ?

 石片が敷き詰められた部屋での夕食時の事。

 殺風景な部屋の真ん中に配置されている釜は気味が悪いのでかまどから下ろし、代わりに焚き火を準備してある。

 皆がギルド特製硬パンを齧る中、温かいラビッツ料理を貪る様に食べるルナ。ボクは他人の視線が痛くて食べ物が喉を通らない……


「この金貨で料理を半分譲ってもらえないか? いや、金貨2枚出そう」


 アルバートから突然交渉を持ちかけられる。

 金貨2枚!? 円に直したら200万くらいの価値がこの料理にあると言うのか。

 食べかけのラビッツ香草焼きを片手にルナが固まる、すぐさまスマホでメールを送り始めた。


「ダメやで? ダンジョン内での温かい料理がどれほど価値のあるものか、分からないとは言わせない……んやで?」

「なら金貨3枚だす!」


 また左腕のスマホを見るとルナが目を見開いた。


「金貨は食べれない、おっちゃんもベヒモス袋持ってるなら食べ物ありますよね……やで?」


 凄く、棒読みです。多分メアリー辺りにメールしたのだろう、毟り取る気満々の返答だ。


「僕のベヒモス袋には鋼鉄製の武器と、緊急用に最近話題になっている回復P(小)が五個(中)が二個しか入っていない。食料の類はジューダスに持たせていた」


 また左腕を見るルナは何故か涙目になっていた。


「おい、もう止せ。お前もSランク冒険者なら分かるだろ? 深いダンジョンで食べ物が無くなったらどうなるか……俺は仲間の肉を食べた事がある――もうあんな真似したくないぜ」


 ジークフリードが吐き捨てた言葉には、後悔と嫌悪の念がこもっていた。

 食事の手が止まる皆、特に新人達は口元を抑えて目をそらし、若干顔を青ざめさせている。

 苦い物でも食べたかの様に顔をしかめたジークフリードは、干し肉の塊を齧りながらチラリと横に座るヘラを見た。


「これは愛の証です!」


 何故か左腕の部分鎧を外すと、薄っすら牙の痕が残る二の腕を得意げに見せ付けるヘラ。


「おまえのが愛の証なら、こっちはどうなるのかのう……」


 フォルグレンも左腕の二の腕に薄っすら牙の痕が残っている、少し照れくさそうなのは見なかった事にする。


「特におっさんの肉は食えたものじゃないからな! 筋張っててオークの肉の方が数倍マシだぜ!」

「すまない、僕が悪かった」

「鋼鉄製の武器と交換なら良いで?」


 ルナはもう左腕のスマホを見ていない、よっぽどメアリーのメールが恐ろしかったのか少し涙を流していた。


「好きなだけ持っていってくれ!」

「カナタ、料理全部出して欲しいんやけど良い?」


 上目使いに聞いてくるルナの頭を撫でると、屋台で買った料理を全て取り出し並べていく。

 ルナはしっかり鋼鉄製の武器を回収していた。剣に短剣に斧、槍に杖、大量の鋼鉄矢まであった。


「さっきは変な話をして悪かった。これは僕の奢りだ、皆好きに食べてくれ」

「本当かい? あんた結構良いやつかな!」


 思いがけないアルバートの提案に、一番初めに飛びついたのがオーキッドだった。皆釣られる様に次々料理に手を伸ばしていく。


「ふむ、始めて食べる料理だな? これは何と言うんだ?」

「それはラビッツの串焼きやで? おっちゃん食べた事無いん? こっちのタレを付けても美味しいで?」

「ほぅ、乱雑とした屋台の料理も中々イケルではないか、ジューダスにも食べさせてやりたかったな……」


 アルバートの目の端に灯火の明かりが反射してキラリと光った。ユダが隣から背中を撫でて食事を再開する。


「俺も食事中にする話しじゃなかった。すまなかったな、これは詫びだ」


 ジークフリードがベヒモス袋から出したのは生のアプの実だ。数が多い、一人二個以上ありそうな量だった。


「団長の好物ですものね」

「あたいからはこれを出そうかな!」


 オーキッドがベヒモス袋から取り出した物はラビッツの干物だった。ルナが作っている物に比べて乾燥して少し飴色に輝いている? ルナが飛びついた!


「これは……もぐもぐ、蜜? 塩? ふむふむ?」


 ルナが食べながら首を傾げている、皆も手に取り齧っていた。


「正解は蜜醤油に漬けて干した干物かな! あたいの故郷の特産品さ」


 この流れは……ボクも何か出さないといけない雰囲気がする。スマホの画面を眺めて丁度良い物があったので取り出した。


「デザートまではいかないけど、疲れた体を癒すビックWARビーの加熱蜜結晶~一人二個ずつですよ? ご飯食べ終わった人から取りに来てください」


 全員の目が釘付けになる、魔法の明かりに照らされたその結晶は黄金色に輝く宝石にも見えた。


 食事を終え加熱蜜結晶を食べた者から横になって行く。ここがダンジョンだと言う事を忘れた様にリラックスした新人達はすぐに眠りにつき、始めの見張りを買って出たアンナがラビイチの毛繕いを始める。

 メディアは治療の為、ボクの隣で眠っている。スタンとミンティはヘラの周囲に固まって眠る新人達の中に紛れていた。

 アルバートも何気に人気があるのか、アルフとユノとユピテルのPTを除く男の子全員が近くで眠っている。

 アルフとユノとユピテルのPTは通路へと繋がる扉から一番離れた角に固まって眠っている。

 見張りの件は初めからBランク以上のPTとの事になっているので本当は免除されているが、訓練だと言いPTの男連中五人交代制で見張りをするらしい。

 ボクは三人の成長していく姿を見るのが楽しくもあり誇らしくもあった。


 メディアに飲ませた薬が良かったのか、カナタクッキーをモウモウのミルクで溶かして温めたスープが良かったのか、メディアの吐息は穏やかで顔色もかなり良くなって来た。


「……すまん、カナタ一寸来れるか?」

「はいはい、何ですか?」


 ジークフリードとアルバートとユダが宝箱が有った部屋の前でこちらに手招きしている、表情は暗い。

 皆を起こさない様にそっと立ち上がると歩いて行く。三人が視線を向けているのは木の扉……?


「何とかしてやりたい、このまま放置するのは色々問題があるしな」

「こんな密閉された空間で火を起こす分けには行かない、ユダは浄化の魔法が使えるが数が問題だ」

「あとSPも心もとないかもしれません……」


 ふむ、肉片や内臓ならリバイバルニートの中で散々自分のを見た。軽い気持ちで木の扉を開き中を覗き込む。


「……」

「「「……」」」


 すぐに扉を閉め口元を押さえる、数秒前の自分を殴りたくなった。覗くんじゃなかったと後悔し、部屋の空気を吸い込まなかった事を神に感謝しそうになる。

 中に転がっていた肉片は変色し液化を始めていた。虫が湧いていないのが不思議なくらいだ。


「大丈夫か?」

「ちょっと待って、何とかする」


 浄化なら使える、分解しても良いかもしれない? 元冒険者だとしたら分解はちょっとどうなのかと思う。

 記憶を辿る、【簡易儀式魔法陣】を使った時それらしい効果の魔法陣を見た気がした。

 パラメーターを弄って目的の効果を出すのはまだ無理だ。初めから設定されている魔法陣の一覧を眺める。

 多分、周りから今のボクを見ると、視線を虚空に彷徨わせ、何かを探す危ない人に見えると思われる。


「おい、大丈夫か?」

「静かにしてください、もう少しです」



『聖者の足跡』

 術者が指定した地点から任意の範囲が対象。対象範囲に魔を払い穢れを浄化する聖域を付与する。



 ビンゴ! 名前もそのまま、丁度良さそうな効果を発見した。

 範囲を任意で決められるって事は、よっぽど広げない限りは消費を抑えれるって事だと思う。多分大丈夫だよね? 一応HPMPは確認しておいた方が良さそうだね!


 HP :1783/1783[500+282+1001+☆]

 MP :13830/13830[100+282+1001+☆]


 いつみてもこのMPは凄いと思う、MP切れなんて無かった。


 虚空に浮かぶリストから『聖者の足跡』をクリックすると、目の前に謎の文字と記号で書かれた魔法陣が浮かび上がった。皆には見えてないみたいだ。

 指で魔法陣をなぞると触れた場所が光り始める、どうやら一筆書きの要領らしい。

 あまりにも魔法陣が複雑なので、慎重に指を動かしなぞっていくと、地面が次第に仄かな光を宿し始めた。


「何やってるかまったく分からん」

「右に同じく、この温かな光りは教会で見た事がありますね」

「【神の祝福】? いいえ……どういう事?」


 ユダが食い入る様にこちらを見てくる、片手でなぞるのは時間がかかりそうだったので両手で試す。

 レベルで上がったステータスのおかげか、多少の無茶は問題無く行なえた。

 両手で魔法陣をなぞり終えると目の前に小さな窓が開き、どこかで見た事のあるOK・キャンセルのウィンドウが現れる。詠唱類の言葉も一緒に言っておかないと詮索されそうなので即興で考えようか!


「魔を払い穢れを浄化する聖域をここに! サンクチュアリ!」


 魔法名を言うと同時にOKを指で触れる、足元から広がっていく光の魔法陣が壁を通り越し隣の部屋に入っていったのを感じた。


 HP :1783/1783[500+282+1001+☆]

 MP :13730/13830[100+282+1001+☆]


 HPとMPを確認する、結構簡単な儀式魔法陣だと思ったけどMP100も使っている、普通の人なら年に三回しか使えない感じだ。


「明るいな、それに温かい」

「傷の直りが早くなってやがる!? 嬢ちゃんはこれだけで食っていけそうだな」

「やはり、でも……」


 何故か祈りを捧げだすアルバート、ジークフリードは力がみなぎって来たのかポージングを始め己の肉体を誇示し始めた。

 一人だけ反応がおかしい人が居る、ユダは何かブツブツと独り言を言い、顔面を蒼白にさせフラリと皆が眠る部屋へと戻って行く。


「団長! 何事ですか!」

「惚れるなよ?」


 ユダと入れ替わりに入ってきたヘラが慌てて問いただすと同時に、己の肉体を誇示する団長を見つめ真っ赤にのぼせ上がってしまう。


「隣は確認した。白い灰になって全て浄化されているみたいだ。カナタ、ありがとう」

「いえいえ、人生何事もチャレンジしてみないとね~」


 アルバートがお礼を言って部屋を出て行く。初めは成金貴族のボンボンかと思ったけど、案外良いやつかもしれない。


 真っ赤になったヘラと団長を残して一応穴の方も確認しに行く、視界の端に例の黒い宝箱が映ったので結界を周囲に張り誰も近寄れない様に加工しておく。

 穴の奥まで歩いて行くと張っておいた結界を確認する、異変は無い。

 そっと穴の底を覗き込むと、数えるのも馬鹿らしい数のクレイジーセンティピードが居た。遠距離攻撃出来るのなら結構美味しい狩場になるかもしれない。


「おい、そろそろ眠らないと明日起きれなくなっても知らないぜ?」

「すぐ戻るよ~」


 顔を覗かせたジークフリードに返事をするとメアリーにメールを送る、内容は簡単『戻ったらクリスティナに会いに行く、もしもそっちに来ていたら丁重にお持て成ししててね』これで大丈夫、忘れて街中でばったり出会った日には血の雨が降る。


 ダンジョン内は夜になるとかなり冷え込む、部屋に戻ると焚き火の用意に火を吐き付け薪を追加するジークフリードと目が合う。


「これだけは慣れないぜ。俺には寒すぎる、薪持ってないか?」

「ふむふむ?」


 竜人は変温動物? 爬虫類に近い何かがあるのかもしれない。

 生憎スマホには薪など入っておらず、ルナの荷物に丸太が入っているのを思い出す。


「ちょっと失礼、確かルナの黒バックに丸太が……ルナ、ちょっと丸太一本出して?」

「ん、眠い、一本で良いん?」

「ありがと」


 タイガーベアの毛皮を敷き包まる様に眠るルナの肩を揺すると、閉じた毛皮の隙間から剪定された5mほどの丸太が出てくる。

 ノアの箱舟を作った時の残りらしい、ルナの黒バックは色々入りすぎて他の人が手を突っ込んだら酷い事になりそうだ。

 ルナの頭を撫でると、丸太を片手で持ちジークフリードが座って薪をくべている隣に転がしておく。


「適当に切って使って良いよ?」

「いや、使って良いよと言われても……これ生木だよな? 燃えにくい上に煙で酷い事になるぜ?」


 乾かせば良いのかな?

 丸太の切り口に両手を当て生活魔法の保温を使い温度を無理やり上げていく、次第に枝を落とした場所や樹皮の隙間から湯気が出てきた。


「これでどう? もう少し乾燥させるなら四等分くらいにしてからの方が効率良さそうだけど」

「あー、十分だな。これ余ったら貰って良いか?」

「良いよ、そろそろボクも眠るから。こっちを睨む様に見てるヘラによろしくね……」


 何事も無い、ただ話しただけなのにヘラの目には違った光景に見えたのかもしれない。

 一度ヘラの近くを通ると、すれ違う瞬間例のお酒を取り出しこちらを睨むヘラの腕の中に押し込む。

 カナタ芋のみを使った本格芋焼酎で作り方は何故かアヤカが知っていた。

 アヤカはあちらの世界で密造酒を作っていた疑いがある。自分が楽しむ分には問題無いと言っていたけど、何故かワイン樽一個分作る為の分量を知っていたり謎だ。

 何かに役立つと思い、酒場や宿や食堂に売る為のサンプルを一升瓶に似た細長い壺で二本貰ってきて保管しておいたのが役に立った。


「そこそこキツイお酒だから飲み過ぎない様にね? 丁度良いグラスが一個しかなかったから交互に飲むと良いよ!」


 右頬を引きつらせる様に上げて邪悪な笑みを浮かべたヘラは、酒壺とグラスを大事そうに抱えると焚き火の前を陣取って、眠る準備を始めたジークフリードの懐に滑り込んだ。

 溜息を付きヘラを横に退かそうとしたジークフリードの眼前に酒壺をチラつかせると、早速グラスに一杯注ぎ一口飲み、酒壺に目が釘付けになっているジークフリードに残りを渡した。

 ジークフリードが舐める様にカナタ芋焼酎を飲む姿を眺めながら毛皮を自分ごとかけると、女性としてそれはどうかと思われるほど良い笑顔でこちらに合図を送って来るヘラ。


 幸いな事にお酒を飲み交わすだけで、それ以上の事は行なわない様子だったので助かった。

 あのヘラの事なので、押し倒すかと思いヒヤヒヤしたのは内緒だ。


 ルナとキャロラインが一緒のタイガーベアの毛皮に包まって眠っていたので、隣に腰を下ろすと自分の毛皮を出し包まって眠る準備をする、サーベラスはルナの枕となって横になっている。

 エアコンのリモコンを出して画面を見ると温度が15℃となっており湿度は30%を下回っていた。

 レベルのおかげか少し肌寒い感じがするくらいだけど、皆毛皮に包まって眠っている所を見ると少し温度を上げておいた方が良いかも知れない? +2℃に設定すると毛皮に包まり目を閉じる。


 ダンジョン内で眠るのはこれで三回目だ。帰らずの森と彼方の森は、どちらかと言うとダンジョンって感じがしなかったのでこれが初めてになるかもしれない?

 目を閉じても誰が何処にいるかがスキルのおかげで大体分かる、気配を探りつつ意識を広げる、すると通路の外や穴の底まで気配が探れた。ゲジゲジも夜は眠るみたいで動いていない。


 明日通路の先を探索して出来れば外に出たい、初めの依頼である二日で新人を使える様にするも今回ばかりは無理な気がする。戻ってからジックリ訓練した方が安全だし効率が良いと思う。


 明日のプランを練りつつ念の為に周囲に薄い結界を張り、全身の力を抜く。

 視界の端に光る目が複数見えるのは気のせいだと思いたい。オーキッドの眠る辺りから、様子を窺う様に複数の目がこちらを見ていた。

 同じダンジョンでも仲間が居ると安心出来る。毛皮の隙間から伸びてきたルナの尻尾がボクの足に絡まる、ボクは尻尾を撫でると眠りに付くのだった。

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